【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第15回:クルマもドライバーもコンディションが命! を改めて知った第2戦岡山

睡眠不足でもサーキットに着けば元気がでーる!

今回のレースは東京から約700km離れた岡山国際サーキットで開催。自走で岡山入りしてすぐに走行という強行スケジュールの今回。寝不足も寝不足、そりゃあ野菜ジュースで栄養補給、フルーツコンニャクで整腸作用も期待するってもんです

 レースウイークの木曜日21時。熱心なチームであれば練習走行を終え、翌日のためにミーティングを行い、酒でも酌み交わしているくらいの時間帯だろう。けれどもこちらはまだ東京にある自宅デスク前。ようやく急かされた原稿が終わり、ホッと一息ついたところである。時はゴールデンウイーク前。すべてが前倒しで行われるこの時期のレースはかなりキツイ。だが、荷物をまとめて出発! 目指すは東京から西へおよそ700km先の岡山国際サーキットだ。

 しかし、そう簡単に出発できるわけじゃなかった。今回は予算の関係でメカニックをお願いすることができなかったため、すべてを1人で行う。前戦のツインリンクもてぎで巻き込まれてクラッシュしたのだから、それも仕方なし。修理代を捻出するにはコレしかない。よって、86の中はフロアジャッキにリジッドトラック4本、タイヤ4本にオイル等々……。まあ、とにかくギュウギュウにすべてを押し込んだ状態にある。そこにレーシングギアをはじめとする着替えをさらに入れなければならないのだ。この知恵の輪状態の我が愛車。結局は旅行用バック2つに分けて隙間に入れ込むことでようやく積み込み完了。いつもよりかなり後下がりになった86は、時間帯もあってか、夜逃げをするかのように怪しい。

 22時過ぎにやっとのことで東名高速に乗り、海老名SA(サービスエリア)で牛丼を食らい、御在所SAで給油した以外はノンストップ。ただひたすら淡々と巡航して岡山国際サーキットの入り口に辿り着いたのは翌朝5時のこと。閉まっているゲートの最前列にクルマを置き、狭苦しいバケットシートの中でようやく眠りにつく。起床してから20時間、ハッキリいって限界である。

 だが、眠りが深くなってきた1時間後、守衛さんに「ゲートを開けるから起きてね~!」と声をかけられるのだ。どう返答したかも覚えていないくらい。身体はダルく、頭はクラクラきたことだけはハッキリしている。しかし、ピットへと到着すれば何故か元気になってくるから面白い。これからサーキットを走れるというニンジンがぶら下がっているからか、妙なハイテンションで走行準備をはじめている自分がいるのだ。こんな状況で原稿を書けといわれたなら速攻で寝てしまいそうなのに、サーキットにいると元気が出てくるのだから不思議だ。

佐々木雅弘選手に教えを乞うも……

 1年ぶりに走る岡山国際サーキットは、やはり難しい。昨年も攻略し切れずにここを後にしただけに、今回はできるだけ練習したいと、30分の走行券を4枚も用意した。実際に走れば昨年のことは忘れているし、どう走っていいか戸惑うばかり。近くにいたレーシングドライバーの佐々木雅弘選手に、僕を引っ張りながら走行して欲しいと頼んでみた。ちなみに佐々木選手は以前からレッスンプロも行っており、今回はクラブマンシリーズのドライバーのクルマを練習時間に乗り、そのデータを弟子に展開している。次戦からはプロクラスに86でエントリーすることが決定している86のスペシャリストだ。そんな彼が乗るクルマにもブリヂストン「POTENZA RE-71R」が装着されており、状況としてはイーブンのはず。どこまでついていけるか? コースインから気合いがみなぎる。

 だが、しかし、けれども! インラップでその差はみるみる開き、追いつくことなんてできやしない。佐々木選手が最終コーナー近くでペースを落として待っていてくれるくらい離されている。アタックラップはできるだけその走りをコピーしようと心掛けるが、その差は開くばかり。あっという間に見えなくなってしまった。実は佐々木選手、そのアタックラップでプロクラスのタイムであっても十分な1分51秒台前半を叩き出したというのだ。コチラは54秒台に入れるのがやっと。どうりで視界から消えるわけだ。

 差をまざまざと見せつけられたことで色々と考え込んでしまった。ドライビングだけでなく、クルマのセッティングもまた、大幅に変更する必要も見えてきた。フラフラの身体にムチを打ち、走行するたびにリセッティング。みるみるうちにクルマの動きが向上して行くから面白い。新たなコースにすべてを合わせようと努力している時間帯は嫌いじゃない。チャレンジしがいのある、いいひと時だ。この充実の時間帯があったからこそ、ほとんど寝ていないような状況でも何とか乗り切れたのかもしれない。ただ、宿に入ってインカービデオをチェックしていると、1周の間に集中力が切れているポイントがあることが分かってきた。やはり睡眠は大切。皆様、決してこんな無謀な走りはやめましょう! ハッキリ言ってお金とガソリンと時間の無駄であります。

第2戦岡山国際サーキットのフリー走行時の様子

今季初の入賞も

 ひと晩休息をとって迎えた予選。ようやく身体はスッキリして、これなら集中力を高めて走ることができそうだ。さらに追い風となる援軍もやってきた。僕と同じように、金曜日の夜に仕事を終えて、夜通し走って駆け付けてくれた大学時代の友人Mである。昔は同じクルマに乗って、あーでもないこーでもないとイジったり走ったり、学んだり(?)。20年は同じようなことをしてともに過ごしている、かなり気のいい奴だ。そんな彼に1週間ほど前、「岡山は1人なんだよね」とこぼしたのである。すると「行ってやるよ、岡山」という有り難いひと言が。彼もまたオッサンまっしぐらだというのに、しんどい思いをしてボランティアで岡山まで来てくれるなんて……Mよ、ありがとう! 次も頼むわ(笑)。

予算の都合上、今回はメカニックを雇うことが叶わず、すべて1人でこなすことに……
そんなとき、20年来の友人Mが助け舟を出してくれることに。ありがとうMよ!

 こうしてピットにサポートがつき、サインボードも出る状況がようやくできた。ぼっちレーシングは終了である。ならば、前日にやった失敗をできるだけ出さないようにと心がけ、いよいよアタック! だが、いつもの通り理想通りにはいかない。タイヤが一番オイシイ状況で、リアタイヤの空転をきっかけにレブリミットが500rpm落ちる制御がまたもや入ってしまった。練習しすぎがわるかったのか、LSDは早くも効きが落ちていることは明らか。悪循環ここに極まれりである。結果は予選6番手。あとは決勝で頑張るしかない。

 とはいえ、決勝レースもそう簡単にはいかなかった。スタートではストール気味になって後のクルマに並ばれ、裏ストレートでアッサリと抜かれる始末。その後はフライングしたクルマがあり、さらには接触してオレンジディスクが提示されたクルマありと大波乱。また、目の前を走るクルマは最終コーナー脱出時にコースアウトしそうになり、目の前で派手にふらつくことも。まるで前回のレースがフラッシュバックするかのような出来事に、かなりアクセルを抜いてそれを回避してしまった。

 結果、巻き込まれることはなかったが、そこでもまた遅れてしまう。さらにツキがないのが、その際にふらついたクルマがまき散らしたコース脇の石がフロントガラスにヒット! ガラスには4カ所もヒビが入ってしまった……。またもや修理代が気になりながらの走行だ。もーっ!

 そんなこんなで2台に抜かれたのに、2台がペナルティで強制的にピットインとなったため、結果は予選と変わらず6位。ひとまず入賞でよかったが、内容としては最悪だ。レース運びはかなりヘタだし、予選アタックだってもっとまとめられるところはある。さらにいえばクルマだってタイヤだって煮詰めることができそうな部分が多く感じられる。

 今回は東京から岡山まで新品タイヤを装着して、何台かの車両がやっているようにタイヤを減らしてみようと努力した。ブロックのたわみをなくし、よりグリップするように狙ってみたのだ。だが、たった700kmの走行では他のような摩耗肌にはならなかった。というか、ほとんど摩耗していなかった。かといってサーキットでガンガン走るとあのようには減らないし……。どうやるんだろ、アレ? タイヤの加工はNGだって規則書に書いてあったし……。ひょっとしたら岡山までくの走行ルートを、最後に中国道としたことがわるかったのかも! というわけで、帰りは山陽道を選んで帰路についたのでありました。あ、それとも中央道かも。あそこには大根おろしのような路面があったような、なかったような……。次回までにタイヤが減らすことができそうな路面を探してリベンジ!?

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。