BMW「6シリーズ」にまつわる話

 現代のプレミアムブランドでは、ボディバリエーションの拡大が必須条件となっているようだ。これまでならば基本のサルーンとそれをベースとするワゴン、それにクーペ版でもあれば充分に「豊富なボディタイプ」と謳うこともできたのだが、ニーズの多様化が進んだ近頃では、そのセオリーも通用しなくなってきているという。

 中でも近年の各メーカーが熱心に取り組んできたのが、4ドアサルーンながら流麗なスタイリングを与えられた「4ドアクーペ」である。2005年に初代C219系が登場し、2011年には2代目C218系に進化しているメルセデス・ベンツ「CLS」がパイオニアとなったと言われるこのカテゴリーでは、その後ポルシェ「パナメーラ」が2009年にデビューしたほか、アウディも「A5/S5スポーツバック」「A7/S7スポーツバック」を設定してきた。パナメーラとスポーツバック勢は、実用的な5枚目のドア(テールゲート)は持つものの、4ドアクーペの一種として分類されるだろう。

 一方、英国ジャガーは基幹サルーンモデルである「XF」や「XJ」を、思い切ったクーペ風スタイルとしたことで、世界の高級車デザイントレンドの中でも独自の存在感をアピールすることに成功してきたのだ。

メルセデス・ベンツ「CLS シューティングブレーク」

 そしてこの次に「来る」と言われている潮流が、上記の4ドアクーペをベースとしたスポーティかつ流麗なワゴン、「シューティングブレーク」である。既に今年3月のジュネーヴ・ショーでワールドプレミアを果たしたジャガー「XF スポーツブレーク」、あるいは先日英国ブルックランズ・サーキット旧跡にて発表されたメルセデス・ベンツ「CLS シューティングブレーク」など、その流行を先取りするかのごときスタイリッシュなワゴンたちが、続々と誕生しつつあるのは、既にご存じに違いない。

 元来「シューティングブレーク」とは、イギリス上流階級から流行した狩猟用のエステートワゴンである。昔からロールス・ロイスやアストンマーティンなどの超高級車をベースに、乗員用キャビンの後方に、猟犬やライフル銃などを載せたいと考える顧客からオーダーを受けた老舗コーチビルダーがボディ後半部を改装したもので、特に欧米では通常の高級サルーン以上にプレステージの高い車と見なされてきた。

 その伝統的「シューティングブレーク」に現代的な解釈がなされ、クーペスタイルを持つスタイリッシュなエステートワゴンとして、今新たな流行となろうとしている。そしてこの新しいムーブメントに、どうやらBMW「6シリーズ」も乗ろうとしているようなのだ。

BMW「6シリーズ グランクーペ」

 現行型6シリーズと言えば、2010年11月に、まずはカブリオレから先行デビュー。次いで伝統の2ドアクーペが追加発売され、さらに4ドアクーペの「グランクーペ」も、このほど日本市場に正式リリースされたばかりである。

 しかし6シリーズの攻勢は、これだけでは留まらないらしいという。今月上旬あたりから、ヨーロッパのスクープ系自動車メディアでは、6シリーズ・グランクーペをベースとしたスタイリッシュなエステートワゴン「グランツーリング」が開発されているという観測がインターネットなどを中心に語られているのである。

 現時点では、新グランクーペの画像を処理したと思しきCGレンダリングが、6シリーズ「グランツーリング」のスタイリングを推測する唯一の手段だが、あくまで筆者の私見ながら昨今の「シューティングブレーク」たちの中でも出色の美しさに見受けられる。

 1970~80年代の初代E24系時代には「世界一美しいクーペ」とも称された6シリーズ。その名跡を継承しつつ、新たな誕生が目されている「グランツーリング」が、果たして「世界一美しいワゴン」と呼ばれることになるのか、今から楽しみなところである。

 ところでBMWと言えば、かねてから締結されていたトヨタ自動車との提携関係を強化するという発表を先月末に行ったばかり。車両の電動化技術や軽量化技術などで共同研究を始めるほか、スポーツカーも共同で開発するという。

 特に注目したいのはスポーツカーについてだが、具体的な車名として消息筋の噂に上っているのが、少々気の早い話ではあるが次期6シリーズと、復活が噂される新型トヨタ「スープラ」、あるいは次期レクサス「SC」の基本コンポーネンツが共用される? という話である。

 つまり6シリーズというモデルは、これまでのBMWのイメージリーダー的位置づけから一歩踏み出し、BMWグループにとって現在のラインナップ戦略でも大きなウェイトを占めることになった。さらに言うなら、将来の自動車産業界におけるイニシアチブをも左右しかねない、重要なモデルになろうとしているのだ。

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(武田公実 )
2012年 7月 25日