フェラーリ「F70」登場のカウントダウン?

2007年の「ミッレ・キリ」コンセプト

 今年の初夏あたりから、イタリア・マラネッロのフェラーリ本社周辺でしばしば走行テストが目撃されているミッドシップのプロトタイプ。かなり大げさな偽装が施されているにもかかわらず、自動車メディア関係者からマラネッロ市民たちに至るまで、その正体については、もはや「公然の秘密」のごとくよく知られているようだ。

 現時点での未確認情報では、「F70」と呼ばれている件のプロトタイプ。1984年に登場した「288GTO」を皮切りに、今や伝説と化している「F40」(1987年発表)、「F50」(1995年発表)、そして「エンツォ・フェラーリ」(2002年発表)に続く、フェラーリの限定モデル「スペチアーレ」の最新版とされている。

 「エンツォ・フェラーリ」は2002年春、東京都現代美術館にて開催された「フェラーリ&マセラティ展」にて、「FX」のコードネームとともに現寸大モックアップとしてアナウンスされたのち、同年秋のパリ・サロンにて正式発表されたモデル。それから10年もの歳月を経た今、フェラーリの新型「スペチアーレ」への期待は日に日に高まっているのだが、ようやくマラネッロからのアクションが、かたちになって表れたことになるのだ。

 注目のフェラーリF70、そのパワーユニットは、今年3月のジュネーブ・ショーで発表された「F12ベルリネッタ」の6.3リッターV12エンジンに、電気モーターを組み合わせた「HY-KERSシステム」と呼ばれるハイブリッド・システムを搭載するとされている。つまり、ともに正式発表前ながら、早くも最強のライバルになると目されているポルシェ「918スパイダー」と同じく、ハイブリッドのスーパーカーとなる。これはフェラーリ製市販「ストラダーレ(ロードカー)」としては初のチャレンジである。

 現代F1テクノロジー直系の最先端技術が集結したハイブリッド・システムは、最高出力がエンジンと電気モーターの合計で、少なくとも800PSに達すると言われている。一方で燃料消費量や二酸化炭素排出量は、同等のパフォーマンスを備えたコンベンショナルなガソリン車に対して、約40%も削減できるという。

 しかも、通常のハイブリッド車ではモーターやバッテリーなどの重量物が多いために嵩みがちな車両重量は、エンツォ・フェラーリの公称1255kg(乾燥重量)を100kg下回る1155kgを目標にしているという。これは、サーキット走行専用モデルとして2005年に発表されたFXXの1155kgと同等の数値。これは、カーボンモノコックや軽合金製コンポーネンツの使用範囲拡大など、徹底的な軽量化を図った成果と見られている。

 そして肝心のパフォーマンスは、0-100km/h加速2.5秒以下、マキシマムスピードは400km/hを超えるものとなるとされている。このデータは、先代に当たる「エンツォ」を凌駕するのはもちろんだが、さらに現代スーパーカーの頂点であるブガッティ「ヴェイロン」をも超える動力性能を目指している意思表明にほかならない。

 2007年にフェラーリ本社内フィオラーノ・サーキットで開催された創業60周年記念イベントでは、メディア向けに次期エンツォを示唆した「ミッレ・キリ(Mille Chili=1000kg)」コンセプトを提唱。その名のとおり軽量化を最優先したプロポーザルで、当時のフェラーリのエンジン担当主任設計者に直接聞いたところによると、700PS級のV8ツインターボを想定していたというが、結局はお蔵入りとなった。すなわちF70では軽量化によるエコ性能を棚上げしてでも、当代最新のハイブリッド化によって、さらなるパワーを得ようとしているようなのだ。

 フェラーリがF70のパフォーマンスにこだわるのは、1995年にデビューした「F50」の苦い経験によるものと思われる。F50は1990年代初頭のF1用3.5リッターV12ユニットから派出したノジュラー鋳鉄製ブロックや、これもF1直系のエンジンをシャシー構造材としたものカーボンモノコックを持つなど、あくまで筆者の私見ではあるが、歴代フェラーリ製スペチアーレの中でも特にピュアなモデル。ところが、F1エンジンを流用するために排気量は4.7リッターに制限されてしまい、スペックシート上の性能数値では同時期に登場した「マクラーレンF1」の後塵を喫したことから、今なおその伝説性には若干の陰りが見られるという意見が多勢を占めているのだ。

 またその一方で、積年のライバルであるランボルギーニが、カーボン製モノコックなどほぼエンツォにも匹敵する内容を、量産モデルであるはずの「アヴェンタドール」に盛り込んでしまった今、ここで限定生産のスペチアーレを名乗るには、軽量化だけでは不足であるという判断もなされた……と推測されるのである。

 現時点では発売時期も不明だが、近年のフェラーリ製スペチアーレ発表の通例に従って、まずは2012年末に、これまでのスペチアーレを購入してきた得意客のみを対象とした内見会が開催されると推測されている。その後一般へのコンセプトモデル発表は2013年3月のジュネーブ・モーターショーとなると見られている。

 そしてF70の名前が本当なら、F50の際と同様に2014年ないしは2015年に生産をスタート。2017年のフェラーリ70周年に生産を終了するというスケジュールになるかと思われる。

 同じくデビュー間近とされるポルシェ 918スパイダー、あるいは生産化が正式決定したと言われるジャガー「C-X75」とともに、ハイブリッド・スーパーカーは「三つ巴」、さらにはそれ以上の群雄割拠の時代を迎えつつあるようだ。

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(編集部:田中真一郎 )
2012年 9月 12日