【特別企画】彩速ナビで知るクルマとオーディオの関係(後編)
DSPが理想的リスニング環境を実現する


彩速ナビは高性能・高品位なDSPを搭載し、車内でも本格的なリスニングが可能。ジャンルを問わずあらゆる音楽を楽しむことができる

 クルマをドライブするときに、クルマの中がまったくの無音という人は少ないだろう。FMやCDはもちろん、最近はiPhoneなどスマートフォンをミュージックソースとしている人も多いことと思う。しかしクルマの中で本当によい音で音楽を聞くことは難しい。お金をかけて高性能なシステムをインストールすれば音はよくなるらしいことは分かっていても、なかなか手が出せないのが普通だろう。そこで、前編に引き続きミドルクラスの価格帯でありながら、オーディオ性能に優れたケンウッドの彩速ナビを題材にして、デジタルセッティングで音をよくするDSPについて、その役割とセッティングのコツについて解説したい。

クルマの中に特有の音がある
 あっ、これはカーオーディオの音だ、という特有な音がある。自分のクルマだと慣れてしまい気づかないかもしれないが、初めて乗る知人のクルマなどで否応なく感じてしまうことがよくある。まず、左右のスピーカーがバラバラに聞こえる感じで「方向感」がはっきりとしない。オーディオ的に言うと「定位が定まらない」状態で、不自然でイヤな聞こえ方をする。次に低音のクォリティ。特別な処理をしていないカーオーディオは、大抵、低音が不自然だ。ポンポン、ボコボコと安っぽい音に聞こえたり、逆にまったく低音が不足していたりする。高音がシャカシャカ聞こえることも多いだろう。これはエネルギーバランスがわるい、あるいはピークが生じている状態だ。このような状態だと音楽を聞きたいという気持ちも萎えてしまう。

 カーオーディオをよく知らない人は、よく「所詮カーだから」と一段低くみる傾向もあるが、カーオーディオに真剣に取り組んでいる人はこのような意見に大きく反発をする。丁寧にチューニングされたカーオーディオはホームオーディオをも超えるサウンドクォリティを実現するが、もともとクルマの中が音楽再生にふさわしい場所ではないのは事実で、クルマの中の何が問題なのかを理解したうえでそれを克服することがよい音を得るための第一歩だ。まずはクルマの中の問題点を認識することからすべてが始まる。

狭い空間
 クルマの中というのはとても狭い空間だ。いや、オレのクルマは広いという大型ワンボックスカーであっても室内の横幅は1.2m未満だ。これはたいへん狭い空間で、トイレなどを除けば生活空間としてはほかに例を見ないほど狭い。直感的にあまりにも狭いところでオーディオを聞くのはよくないと感じられるが、それは真理だ。

 クルマの中はさらによくない条件が重なる。車室内は少なくとも肩から上の部分はぐるりと360度ガラス貼りになっている。そして上下の高さ。クルマの中の頭上のクリアランスはほとんどなく、天井はとても低い。本来スピーカーというのはある程度広い空間に音を放出し、部屋の反射、残響という効果を交えて自然な音で聞こえるようにできている。狭くて低くて周りがガラス、このような空間で音楽再生をすることは決して望ましい状態ではない。

スピーカー位置の制約
 カーオーディオは、耳からスピーカーまでの距離がとても短い。右ハンドル車の運転席に座っている場合、右ドアのスピーカーまでの距離は通常1mを切る。ホームでオーディオを聞く場合はスピーカーとの距離はもっと遠く、スピーカーからの直接音と室内に反響した反射音が自然にミックスしたサウンドを聞くことになる。

 クルマの場合は距離の近いスピーカーからの直接音の聴取が主体になる。直接音が主体になるとスピーカーの取付位置、向きが重要になる。スピーカーは中心軸上から外れると音質が劣化するからだ。そのため高音用のツィーターを分離したセパレートタイプのスピーカーでツィーターを直接リスナーに向かい合うようにダッシュボード上に置いたり、専門店では耳の高さに合わせてピラーに埋め込んだりする。

ドアスピーカーの位置はとても低く、リスニングポジションから大きく離れている少しでも条件をよくするためにツィーターをピラーに埋め込む

 さらに左右のスピーカーまでの距離が大きく異なる。ステレオというのは左右のスピーカーから均等の距離で聞くのがベストだ。クルマの中ではシフトレバーが一番よい音を聞いているというのは、ジョークのようであるが一方で真実も表している。

ドアの形状、容量の問題
 カーオーディオのメインのスピーカーは、フロントのドアスピーカーだ。スピーカーには、ユニット後方の音が前に出てこないように密閉する「エンクロージャー」、つまりスピーカーボックスにあたるものが必要になる。エンクロージャーは頑丈で共振したりせず、固有の音を発しないことが求められる。

 クルマの場合ドアがエンクロージャーとなるが、当然のことながらスピーカーのエンクロージャーとしてはふさわしい形状、材質、容積は備えていない。薄い鉄板や複雑な形状、数多く空いてる穴は、オーディオ再生にとってはふさわしくない。カーオーディオの音質改善のためによく行われる「デッドニング」というのは、鉄板が振動して音がビンビンに響く「ライブ」な状態を、制振処理をして響きの少ない「デッド」な状態にすることだ。デッドニングをすることで余計な音は出なくなるが、その代わりに音楽再生の大切なものがデッド~死んでしまうこともありうる。

デジタル技術で問題を克服する
 車室内の様々な音響的な問題を解決する方法の1つが、「DSP」(デジタル・シグナル・プロセッサー)によるチューニングだ。DSPとはデジタルで信号処理を行うチップで、オーディオに限らずデジタルの世界ではポピュラーな技術で幅広く使われている。DSPにより音質に影響する様々な要素を細かく自在に調整することで、取り付け、インストールといった物理的作業だけでは難しい問題も解決をすることが可能となる。

 DSPは以前よりカーオーディオやカーナビにも数多く組み込まれているが、その機能やその取り扱い方が話題になることはあまりない。オーディオ専門店のインストーラーを除けば、実際にうまく使いこなしている人もそう多くないかもしれない。たぶん難しくてよく分からないといった事情もあるだろう。あまり人も教えてくれないし、取り扱い説明書も通りいっぺんの説明でとっつきにくい。最近はコストダウンのためにDSPの搭載が省略されるケースも多い。

 そのような中で、ケンウッドの彩速ナビは全モデルにDSPが搭載されている。2012年モデルでは内部構成が一新され、音質的にも大幅に向上した。また操作メニューが全面的に見直され、シンプルで扱いやすい操作体系に改められた。AVナビのナビゲーション機能やメディア対応力が話題になることは多いが、DSPの調整内容に関してあまり話題になることはない。しかし少しでも車内の音環境をよくしたいという人のために、彩速ナビを題材にしてDSPのセッティングにチャレンジしてみよう。調整に関する考え方は共通なので他メーカのAVナビでもDSPが搭載されていれば応用可能だ。

ケンウッドの彩速ナビ「MDV-737DT」彩速ナビの「サウンド設定」画面。必要な項目が分かりやすく整理されている

 いろいろいじっても調子がわるくなることはないので思う存分使ってみよう。どうしてもうまくいかなければリセットで初期状態に戻せる。販売店に調整してもらったデータが失われるのが不安であれば要所で携帯などで写真を記録しておけば安心だ。

タイムアラインメント調整にチャレンジ
 まずはDSPを使った機能の1つ、タイムアラインメントにチャレンジしてみよう。メーカによって呼び方が異なるが、デジタルメモリーを使って、リスニングポジションから近いスピーカーの信号にディレイ(遅れ)を与えることで、仮想的に左右のスピーカーを等距離に置いたのと同じような効果をもたらす仕組みは共通だ。左右のスピーカーの距離の違いによる音質への影響はクルマの中での音質阻害要因の中でも特に大きいものだ。これを解消できれば改善効果は大きい。

車両設定メニューで車種を選ぶとおおよそのタイムアラインメント値がセットされる

 彩速ナビには、クルマのタイプ別の代表的なタイムアラインメント値が登録されたプリセットメニューが用意されている。「車両設定」メニューを開いて該当する車種を選べば、およそ近いレベルでの設定は完了する。しかし車種による細かい位置の違いや、リスナーの体格やシートポジションなどによる違いもある。彩速ナビには2cmステップで精密に調整できるとても優秀な機能が備わっているので、せっかくならカスタム調整でベストな状態にチャレンジしてみたい。プリセット設定よりは確実によい結果が得られるはずだ。

 調整に先立って最初に「フロント右座席」か「フロント左座席」のいずれかのポジションを選ぶ。「全座席」と「フロント両座席」は左右のタイムアラインメントは適用されていない状態だ。ここで注意すべき点はタイムアラインメントのベストポジションは常に1個所しかないということだ。運転席がベストな状態の時は助手席のタイムアラインメントは合っていない。ホームオーディオでもベストなステレオ再生ができるリスニングポジションは左右のスピーカーから等距離のライン上だけだ。

 続いて、複数のスピーカーから音が出ていると調整しにくいので、前後の音量バランスを調整するフェーダーを前方にいっぱいに動かしてリアスピーカーの音を止め、サブウーファーが装着されていれば一時的にそれも止め、左右のフロントスピーカーだけから音が出るようにする。

 そしてメジャーを使用してリスニングポジションとスピーカーまでの距離を測って数値を入れる。具体的には右の耳と右のドアスピーカー、左の耳と左のドアスピーカーの距離を計測する。ドアスピーカーのどこを計ればよいか迷うが、絶対的な距離ではなく右と左の「距離差」が分かればよいので、右と左を同じ場所で計ればよい。

SHANTIの「Romance with me」はボーカルがハッキリとセンターに定位する。バックの音質もひじょうにすばらしく、サウンドチューニングには最適なアルバムだ

 数値の入力ができたら自分の耳で音を確認する。ボーカルがはっきりとセンターにいる楽曲を用意する。たとえば女性シンガー SHANTIの「Romance with me」(SAVOI/日本コロンビア 2011.11)では澄み切った美しいボーカルがきれいにセンターに定位する。実際に音を出しながら、たとえば左の数値は固定して右の数値を少し前後させて音が正面に来るように微調整をする。

 慣れないうちはどこがベストの状態なのかよく分からないかもしれない。そのような場合は練習も含めて次のような方法を採るとよい。まず左右とも同じ数値を入れる。たとえば左スピーカーまでの距離が140cmであれば右にも140cmを入れる。左右同じ数字が入っているということはタイムアラインメントがまったく効いていないのと同じ状態だ。

 この状態で音を出しながら、右ハンドル車であれば右のスピーカーの距離の数字を徐々に小さくしていく。右のスピーカーの方が距離が近いからだ。ボーカルの位置がスーっと動いていくのが実感できるはずだ。そしてちょうど目の前でストップさせればよい。 「全座席」(タイムアラインメントがかかっていない状態)と切り替えるとその効果が分かるはずだ。

タイムアラインメントの調整前には必ずポジションをセレクトし、そのポジションに対して設定を行うスピーカーのボタンでセレクトして距離をセットする。レベル調整で個々のスピーカーのゲインを1dBステップで調整できるメニューは秀逸

 とても細かいことだが重要なポイントがある。距離が遠いスピーカーは遠い分だけごくわずか音量が小さくなるはずだ。この音量差はタイムアラインメント調整では補正されないのだが、彩速ナビでは専用のレベル補正メニューで1dB単位の細かいステップで-8dBまでゲインを調整することができる。普通は右のスピーカーの音量を1~2dB程度下げると丁度よくバランスするはずだ。これはプロフェッショナルレベルの技法で、通常はマルチチャンネルデバイダーの左右独立設定で調整するが、彩速ナビでは専用メニューでカンタンに補正ができるようになっている。

 また、彩速ナビは一度手動で数値をセットすると、「初期値に戻す」ボタンを押さない限りタイムアラインメントデータは消えないようになっている。後から誤って車種別設定をセットしてしまい、入力したデータが書き換わってしまったという失敗がない。ユーザーのことを考えた作りになっている。

なぜタイムアラインメント調整が重要なのか
 カーオーディオ特有の概念として「前方定位」という言葉がある。文字どおり楽器やボーカルが前方に定位して、目の前にサウンドステージが広がる状態を言うが、カーオーディオの場合、何もしなければ前方定位はしない。どのようクルマにどのようなインストールをしてもスピーカーの左右の条件が異なるので、前方にサウンドステージが出現することはないのである。ホームオーディオは何もしなくても前方定位だ。左右のスピーカーのセンターライン上で聞くと自然に前方に音が定位する。当たり前のことなのでホームオーディオの世界では前方定位という言葉は普通使われない。

 前方定位を実現させるための技術がタイムアラインメントなのである。タイムアラインメントにより、左右不均等だったスピーカーの距離を仮想的に矯正し、音を前方に定位させようとする。そのこと自体は正しいが、実はタイムアラインメントの意義それだけではない。

 左右のスピーカーとの距離が異なり、音の到達時間に差があると、左右の音の波(空気の粗密波)が相互に影響してお互いの信号を打ち消しあったり、重なったりする。お互いの信号が打ち消し合ってしまうということは、周波数特性に大きなへこみ(ディップ)ができて、平坦でなくなることを意味する。原音に忠実な再生をするためには周波数特性はできるだけ平坦なことが望ましいので、これはよくない状態だ。

 このようなディップを補正するためにイコライザーによる調整が行われるが、打ち消しあってレベルが低下してしまったディップはそうカンタンには持ち上がらない。しかしタイムアラインメントが合っていれば、左右の打ち消し合いはなくなり周波数特性はフラットに近づく。結果としてイコライザーの調整も最小限で済む。

 DSPによるタイムアラインメントはエネルギーバランスをフラットに近づけ車室内特有の問題を解決できる可能性を持っている。したがってすべての調整に先立って、まずタイムアラインメントの設定をキチンとやるのが調整のセオリーだ。後のイコライザー調整を最小限で済ますことが可能で、音質に対する悪影響を最小限にすることができるのだ。

ハイパスフィルターの重要性
 カーオーディオ特有で、かつ重要なチューニング項目が「ハイパスフィルター(HPF)」だ。

 フロントドアはスピーカーのエンクロージャーとしては完璧でなく、結果として低域が充分にコントロールできない。密閉度が低いため振動板のストロークが過大となり「底付き」を起こしてビビッたり、一生懸命振動しても音が出ないカラ振りのような状態で効率を損ねたりする。

 そこでドアスピーカーに低い領域の低音が入ることを防ぎ、全体の特性をよくしようというのがハイパスフィルターの役割りだ。低音専用のサブウーファーを装着している場合は、低音が過剰となるので、ハイパスフィルターによってダブルで出る低音をカットすることで低音の質感を高めることができる。DSPによるハイパスフィルターはすべての処理がデジタルで行われ周波数やスロープをきめ細かく設定できる上に、音質の劣化がほとんどないのが特徴だ。

写真は多重撮影による重ね撮りをしたものだが、ハイパスフィルターの調整画面30Hzから250Hzまで、スロープも-6から-24dB/octまで選ぶことができる

イコライザー
 イコライザーは最もポピュラーな調整手段で、オーディオのチューニングの基本でもある。ダイレクトに音の変化を体感できるので、調整していてもとても楽しい。本来はイコライザーというのはイコールにする、つまり車室内で生じたエネルギーバランス(周波数特性)の余計な凸凹を補正して、元の音と同じようにフラットにするための機能であったが、より積極的に各周波数帯域を強調することで魅力的な音を作り出すことも可能だ。

イコライザー調整画面。13バンド±9dB 1dBステップの本格的なものだ

 彩速ナビにはDSPによる13バンドのグラフィックイコライザーが搭載されている。1dBステップ±9dBの調整幅を持ちプロフェッショナルレベルの繊細な調整が可能だ。信号はすべてデジタルで処理されるので音質劣化やひずみ、ノイズが発生することはない。あらかじめ6つのメーカープリセット値が入っているので、切り替えながら音の変化を楽しむのも1つの方法だが、せっかくの高機能イコライザーなのでもう一歩踏み込んで積極的な活用をしてみたい。

 イコライザーの調整が上手くできるようになるには経験が必要だが、各帯域を順番にめいっぱい上げ下げしてみて音の変化を体感しながら、さまざまな音楽で調整を試みるのが経験値を上げる近道だ。イコライザー調整には決まったルールはない。自分流のやり方で、できるだけ自然に、音楽が楽しく聞こえるように心がけてセッティングを行えばよい。

 ここではどの周波数をどうするという説明はあえてしないが、調整のためのヒントがいくつかある。デジタルで調整するメリットは調整結果をメモリーして瞬時に切替られることにある。この時、たくさんの選択肢を作らす、1対1で比較する。二者択一でよい方を残し、次に新しいパターンと比較する。イコライザーに限らずチューニングで重要なのは、パッと聞いた最初の印象がとても大事で、難しい顔をして長い間クルマにこもっても、よい結果は得られることはない。何がよい音か分からなくなってしまったら、いったん外に出て気分と耳をリフレッシュしてまたやり直すのがよい。

 彩速ナビのイコライザーには6つのプリセットと4つのユーザーメモリーが用意されている。6つのプリセットにも自分で作ったパターンをメモリーできるので、実質的にはメモリーが10個あることになる。プリセットパターン呼び出して微調整して改良したのを上書きするというやり方もスマートだ。呼び出したユーザーメモリーを別のメモリーに保存、つまりコピーすることもカンタンにできる。コピーはいくつでも可能だ。ハイエンドオーディオでもここまでフレキシブルに対応できるモデルはない。実に優れた機能で、ぜひ使いこなしたいものだ。

6つのプリセット(Naturalはフラット)と4つのユーザーメモリーボタンが用意されている調整結果は10カ所いずれにも自由に保存できる

彩速ナビ「クロスオーバー調整メニュー」を活用する
 彩速ナビにはAVナビとは思えないレベルの多才なスピーカー調整メニューがある。それが「クロスオーバー調整メニュー」で、グラフィカルな画面で確認をしながら調整が可能だ。

 このメニューではフロントスピーカー、リアスピーカー、サブウーファーそれぞれに細かくフィルター調整ができる。サブウーファーでは30Hzから220Hzまでの10~20Hzステップ、レベルは1dB単位、スロープは-24dB/octとかなり本格的だ。ナビ画面でここまで細かく調整できるモデルは数少ない。もちろんサブウーファーにもタイムアラインメントがかけられるので、フロントスピーカーから自然に鳴っているようにチューニングすることも可能だ。パワードサブウーファーを接続する場合も、彩速ナビ側で調整する方がよい。手元で細かく調整できるのみならず、デジタル処理なのでサブウーファー付属のアナログフィルターよりも音質的にも有利だ。

サブウーファーの設定も範囲が広く自在にできる。左が周波数。右がスロープの変化(多重露出による重ね撮り)

 実によく分かっていると思わせるユニークな設定が「ツィーターレベル」調整だ。スピーカー調整メニューに入ると「ツィーター口径」という見慣れない設定項目があり、Large/Midium/Smallの3種類が選べるようになっている。ここを選択しただけでは何の変化も起きないが、次のレベル調整画面の、フロントスピーカーの「ツィーターレベル」ターンオーバー周波数に連動している。Largeだと最も低い800Hzから上のレベルを水平に下げることができる。写真で分かるようにツィーター再生領域全体を下げることができる。ツィーターがうるさいと感じられる状況はよくあるが、一般的にはイコライザーやトーンコントロールを使用する。しかしイコライザーの場合は選択した周波数の比較的狭い範囲しか調整できず、トーンコントロールの場合は全体がダラ下がりになってしまう。彩速ナビのツィーターレベル調整はDSPの特性を最大限に活用したユニークなもので、ツィーター再生帯域全体を下げることで、あたかも「アッテネーター(減衰器)」を入れたような自然にコントロールが可能となる。

右下段の「ツィーター口径」をLarge/ Medium/ Smallから選ぶがそれだけでは何も変化しない右下の「ツィーターレベル」を下げるとツィーター領域全体のレベルが下がる。ツイーターのアッテネーターのように使える優れた調整項目でユニークだ「ツイーター口径」でターンオーバー周波数が変化する。左からLarge/Medium /Small(多重露出による重ね撮り)
リアスピーカーの音量をフェーダーでコントロールする。サウンド調整を始める前にはこの画面で左右前後の結線に誤りがないかも確認できる

リアスピーカーの考え方
 取り扱いに悩むのがリアスピーカーの扱いだ。リアドアに装着するリアスピーカーは、後部座席の乗員のためのものでフロント席のリスナーには本来は不要な存在だ。特にホームオーディオに近い前方定位を重視する場合は、定位感を阻害する邪魔な存在であるとも考えられる。後席にリスナーがいない場合はフェーダーでリアスピーカーは完全に絞ってしまう、というのはひとつの方法だが、邪魔にならない程度に薄く鳴らしておくと全体的に豊かに聞こえるという効果を好む人もいる。フェーダーを絞りきった状態から音を聞きながら少しずつ音量を上げ、全体のバランスを崩さずに音場が豊かになるところで止める、というのが1つの使い方だ。

確実な調整のために
 最後に、サウンド調整をする際の約束事をいくつか。まずバランス/フェーダーを左右前後に動かして音が正しく出ているか、結線に誤りがないかを確かめる。次にラウドネス、トーンコントロール、ローブースト、あるいはメーカー固有の音質補正機能は調整の間は一度オフにする。基本をキチンとセットすることを優先させ、うまくいった後にこのような機能を楽しむのが正解だ。そして調整には音のよい音楽CDを。自分が心から好きなCD、このCDをどうしてもよい音で聞きたいというディスクを探し出すこと。それこそが調整技術を高める近道だ。

 クルマの中でよい音を聞きたい。この願望を実現してくれるものの1つがDSPだ。上手に使いこなして素晴らしいサウンドを手に入れて頂きたいと願っている。

「オーディオ効果」ボタンを押すと様々な効果が出てきて楽しいが、サウンドセッティング中はオフにするのが基本「オーディオ効果」の続き。「リアライザー」は音の鮮度を高める効果が有効でハイファイリスニングにもおすすめできる


三宅 健
オーディオ専門メーカーに27年間勤務。カーナビや車載CDデッキの登場当初から、カーエレクトロニクス一筋に関わり続け、ハイエンドオーディオ販売の責任者として、販売店への技術講習や数々のイベントを主催。2009年に退職後は、フリーのオーディオアドバイザーとしてメーカーへのコンサルタント業務や販売店スタッフへの技術教育、執筆活動などを行っている。クルマと音楽とオーディオを愛する、カーエレクトロニクス業界の生き字引的な人物。