高橋敏也の日産「エクストレイル ハイブリッド」に乗ってみた!(後編)

そもそも「エクストレイル」のようなSUVは、ドライバーに夢を見させてくれる。エクストレイルに乗ったら、あそこに行こう、ここに行こうといった具合に。もちろんセダンでもワゴンでも、新しいクルマに乗る、乗りたいというのはそういうことだと思う。SUVの場合はオフロードでも余裕の走りができる分、その夢の範囲が広いということだろうか。

さらにそのSUVがエコなハイブリッドだったらどうだろう? 省燃費が家計に優しいというリアルなメリットだけでなく、エコな分だけ気分もよくなるのではないだろうか。夢が広がる走りをエコで。「エクストレイル ハイブリッド」は、まさにそれを具現化したものである。SUVとしてベストセラーであるエクストレイルに「インテリジェントデュアルクラッチコントロール」を搭載して、できあがったハイブリッドモデル。前編では実際にそのエクストレイル ハイブリッドを走らせた感想を書いた。

その際、いくつか気になることが出てきた。まず一つは「このクルマ、EV走行(電気を使ったモーターだけの走行)が長いのでは」ということ。そしてもう一つは、段差のない滑らかな加速減速が特徴であるはずのCVTなのに、段階的な加速を感じさせるステップ制御に関して。もちろんハイブリッドカーとなれば、バッテリーも気になるところだ。ちなみにエクストレイル ハイブリッドはリチウムイオンバッテリーを車体後部に搭載している。

そういったことを開発に携わった人に聞けるというのは、そうそうないので実に楽しみである。しかしその前に、前編では触れられなかったエクストレイル ハイブリッドのディテールに関して見ていきたい。

薄くて小さいリチウムイオンバッテリー

エクストレイル ハイブリッドのエンジンルームを見ていて気がついたのは、普通のガソリン車にはあるものが「ない」ということだ。そう、このクルマのエンジン/モータールームには12Vバッテリーが見あたらないのである。もしかしてリチウムイオンバッテリーがその役割を兼ねているのかとも考えたが、そんなことはなかった。ちゃんと12Vバッテリーは存在していたのだが、なんとそれは車両の後方、リチウムイオンバッテリーの隣にあったのだ。この理由に関しては、ちゃんと開発した人に聞いてある。

エンジンルームというかモーターも入っているルームをじっくり観察する
「ここにリチウムイオンバッテリーがあります!」と指差す先にはバッテリーを支え、保護するブラケットが
発見! 12Vバッテリー!

リチウムイオンバッテリー、そして12Vバッテリーを見ていた時、スタッフの人が面白いことを言っていた。どうもバッテリーを保護、固定するためのブラケットなどが、車体剛性の向上に一役買っているというのだ。最初から意図してそうしたのか、結果的にそうなったのかは分からないが、いわゆるフレーム強化のようになっているらしい。これに関しても後で聞いてみよう。

さて、前回も触れたことだがエクストレイル ハイブリッドは、リチウムイオンバッテリーを搭載しているにも関わらず荷室に余裕がある。ほぼフルフラットにできるし、ガソリン車と使い勝手に大きな差はないはずだ。さらに後席に注目。バッテリーがシート下に潜り込んでいるのだが、後席にはかなり余裕がある。私は決して小さくない体格だが、後席にゆったり座ることができる。これならロングドライブだったとしても、後席で疲れるということはなさそうだ。まあ、仕方のないこととは思うが、ハイブリッド化したために3列シートの設定はなくなったのだけど。

余裕があるように見える後席だが、実際に確かめてみないと……
おっさん、エクストレイル ハイブリッドの後席でくつろぐの巻。足にも余裕がある

このほか気になったところと言えば、ハイブリッド化に伴って空力特性がよくなったことだろうか。クルマの空力特性は、想像以上に燃費へ影響する。エクストレイル ハイブリッドも「ハイブリッド=良好な燃費」をとことんまで追求しているのだ。それも、外観で違いのわかるエアロパーツ的なものではなく、アンダーに秘密があった。いわゆるクルマの腹に、いくつか追加の空力パーツが取り付けられていたのだ(言われるまでまったく分からなかったけど)。

アンダー、サイドに取り付けられた空力パーツ
アンダー、リヤに取り付けられた空力パーツ。これだけでも燃費に大きな違いが出る

ほかにもハイブリッド専用の低転がり抵抗タイヤを履いていたりと、ガソリン車と比較して細かな違いはある。しかし、基本的に見た目はエクストレイルであり、堂々とした四輪駆動のSUVだ。ではそのシステムに関して、そして私が持ったいくつかの疑問に関して、エクストレイル ハイブリッドを開発した人に聞いてみよう。

ハイブリッドに装着される低燃費タイヤ
ハイブリッドやエクストレイルとは関係ない話なのだけど、どうしても紹介したかったのがこれ。USBポート発見! 携帯が充電できる!
さらにハイブリッドとは関係ないのだが、私にとって羨ましくて仕方ないのがナビのアラウンドビューモニター。欲しい!

作った人に聞くのが一番早い!

エクストレイル ハイブリッドの試乗を終えた我々を待っていたのは、開発に携わった人へのインタビュー。私の相手をしてくれたのは、第二開発部の車両開発主管をされている東倉さん、第二開発部で車両運動性能開発グループに所属する田淵さんである。私は主に東倉さんからお話をうかがった。

日産自動車 第二製品開発部、車両開発主査、東倉伸介さん
日産自動車 PV第二製品開発部、車両運動性能開発グループ、田淵貴博介さん

まず真っ先に聞いたのが、リチウムイオンバッテリーに関して。エクストレイル ハイブリッドでリチウムイオンバッテリーを採用した理由である。

「一番は高効率であることですね、リチウムイオンバッテリーはエネルギー密度が高いんです。「リーフ」や、「フーガ ハイブリッド」、「スカイライン ハイブリッド」などですでに使っています。そもそも日産自動車は、リチウムイオンの開発を30年前からやっていて、もともとリチウムイオンバッテリーには強みを持っています。ちなみにエクストレイル ハイブリッドだと、バッテリーのみの重量は40kgぐらいですが、そのバッテリーを保持するためのブラケットなどでさらに重量が増しています」

ここでやや話がそれる。というか私がそらした訳だが、試乗エリアに展示してあったエクストレイル ハイブリッドを見学していた際、スタッフさんから「バッテリーのためのブラケットなどのお陰で、車体の剛性が上がった」と聞いた。この点に関しても聞いてみた。

「そのとおりです。バッテリーを支えるブラケットがフレームに直結していて、ちょうど横木を通したような形になりました。その結果、フレームを強化した形になったんですね。車両後方から見て、バッテリーの奥にも溶接ポイントがいくつかあって、そちらも結果的には剛性アップにつながっています。これらは、フレーム剛性をアップするのを狙って作った訳ではありませんが、バッテリーをしっかり守ってくれています」

さすがはハイブリッドといったところか、バッテリーの話はまだ続く。エクストレイル ハイブリッドは車両後部、ちょうど後席の下あたりに平らに延ばしたような形でリチウムイオンバッテリーが収まっている。面白いのはその隣に、通常の12Vバッテリーが収まっていることだ。普通なら前部、エンジンルームに収まっている12Vバッテリーを後部に移動させた理由は?

「12Vバッテリーはリチウムイオンバッテリーといろいろやり取りをしているので、それをやりやすい位置に持ってきました。エクストレイル ハイブリッドにはオルタネーター(発電機)がありません。通常のクルマでは、オルタネーターで12Vバッテリーに充電しますが、それがないのでリチウムイオンバッテリーから12Vバッテリーへ電源を供給しているのです」

ハイブリッドである前にエクストレイルであるというこだわり

さて、話をバッテリーからエクストレイルそのものに戻そう。そもそもエクストレイルは、SUVというカテゴリーを代表するクルマの一つ。ハイブリッド化するにあたって、SUVを意識した点はあるのだろうか?

「駆動特性、とくにハイブリッドの駆動特性という点では、特にSUV向けという訳ではありません。エクストレイル ハイブリッドについて言えば、まず何より“エクストレイルである”という点を大事にしています。それは何かというと“SUV”ということです。“シーンを選ばない走破性、走行性”、ここは絶対に犠牲にしないぞと。そうなると地上高、すなわちクリアランスを確保し、なおかつSUVなのでトランクスルーにする。結果としてバッテリーはどうしても小さく、薄くなってきます。SUVとしての使い道を確保した上で、小型なバッテリーでいかにハイブリッド性能を引き出すかをトータルで考えたのが、エクストレイル ハイブリッドなのです」

「小さく、薄いバッテリー」という話が出てきたところで、どうしても聞かねばならないポイントが一つ。そう、エクストレイル ハイブリッドがテンパータイヤをあえて搭載している点だ。開発側でもテンパータイヤをやめて、そのスペースにバッテリーを入れたいという話はでなかったのだろうか? この質問に東倉さん、苦笑いも混ぜつつ答えてくれた。

「そうした意見はたくさんありました(笑)。ですがオフロードを走れる、走る可能性のあるクルマにテンパータイヤは必須です。なのでエクストレイル ハイブリッドのバッテリーは、フーガ ハイブリッドやスカイライン ハイブリッドと比較すると小さい、総合的に見て約半分ぐらいと表現できます。ちなみに、バッテリーのサイズはコスト(車両価格)にも反映されます。バッテリーのコストというのは、セル数を増やせば増やすほど増えますから」

四輪駆動とハイブリッドの相性とは?

話がどうしてもバッテリーやモーターに向かうのは、ハイブリッドならではといったところか。が、話をエクストレイルそのものに戻して、四輪駆動とハイブリッドの相性について聞いてみた。

「開発側から言わせてもらうと、四輪駆動だからやりやすいということはあまりないですね。四輪駆動ということで自由度と言うか変数が増えますから、それだけ大変なことが多いという感じです。エクストレイルのハイブリッドシステムは、1モーター、2クラッチで、インテリジェントデュアルクラッチコントロールと呼ばれるシステムになっています。構造的にはエンジン、モーター、トランスミッション、その間に2つのクラッチということで構造的にはシンプルなんですね。実は、構造がシンプルなだけに制御が大変なんです。とくにクラッチを掴む制御が大変です。例えば同じアクセル操作でズーッと加速していく時に、EV走行からエンジンが始動する際には変数が5つあります。エンジン、クラッチ1、モーター、クラッチ2、トランスミッション、一つのシーンを実現するのに幅の広い、言うことを聞きにくい5つの変数をコントロールしなくてはいけない。これが一番大変ですね」

展示してあったハイブリッドシステムを食い入るように見つめるおっさん
ちょうど車両前方から見た状態がこれ。左からエンジン、クラッチ、モーター、クラッチ、CVTという具合になる

CVTなのにATのような変速をするワケは?

では、エクストレイルがCVT、無段変速機を採用していることはハイブリッド化に影響しているのだろうか?

「CVTということで楽になった部分もあります。動作点(変速)が飛ばないという点では、制御が楽な部分もあります。一方で無限に動作点が動く、なかなか先読みの難しい部分もあるんです」

ここでほかのライターさんからも質問があったのだが、それは同時に私が知りたいポイントの一つでもあった。そう、エクストレイル ハイブリッドはステップ制御という機能を持っていて、CVTという無段変速機を採用しているのにも関わらず、段階的な変速をしているような雰囲気を出しているのだ。それはあたかもオートマのような印象をドライバーに与える。

「確かにエクストレイル ハイブリッドではステップ制御といって、ちょっと有段変速みたいな雰囲気を出しています。加速感、ダイレクトフィールをドライバーにより強く感じてもらうには、このステップ制御というのが一番いいと思うのです。ギア比を一瞬固定しているように見せている訳ですね」

ちなみに、エクストレイルをハイブリッド化するにあたり、足回りなどにも変化があったのだろうか? この質問には田淵さんが答えてくれた。

「ガソリン車と変えています。やはり、バッテリーなどもあってハイブリッドは全体で約130kg重くなっていますから、サスペンションのチューニングはやっています。バッテリー、モーターインバーター、マウントなどの分ですね。ちなみに空力パーツの追加で10mm程度、最低地上高も下がっています」

ガソリン車と比較して重量は走りに影響しているのだろうか?

「重量がある分、力学的な問題としてやはりガソリン車と比較すると、軽快さが打ち消される部分があるんです。できるだけそれが出ないようにするために苦労しました」

EV走行で粘る気がする

ここで東倉さんに、前編で気になっていたもう一つのポイントを尋ねてみる。そう、私が感じたのはエクストレイル ハイブリッド、EV走行、すなわち電気だけで走っている時間が長いのではないかということだ。

「一つの方向性として、EV走行が長い方が燃費はよくなりますから、可能であればそうしようということです。しかし、パワートレインにとって一番効率のいいところを引き出すようにした結果、EV走行が長いように感じるシステムになったということですね」

要するに、ハイブリッドシステムの効率を追求した結果として、EV走行が長く感じられる設定となったということ。別にEV走行を長くしようとしたのではなく、システムの効率を上げた結果ということだ。ちなみにエクストレイルのハイブリッドシステムは、本当に隙あらばEV走行に入る。例えば高速道路で定速走行をしている最中でも、条件によってはEV走行、電気だけで走るとのこと。

もっと聞きたいことはあったのだが、ここでインタビューはタイムアップ。最後にエクストレイルの三代目は、設計段階からハイブリッドを意識していたのかどうかを尋ねてみた。

「正直、ゼロではないです。うちのハイブリッドシステム、1モーター2クラッチのシステムは、モーターとトランスミッションの部分はそっくりそのまま、トルクコンバーターのCVTを載せられるようになっていて、逆にユニットの開発を担当する側は、コンベンショナル(従来のガソリン車)なものに置き換えられるようにハイブリッドシステムを作っています。なので、開発時にハイブリッドを意識していたかどうかということに関しては、あまり気にしなくてよかったですね。一方、ハイブリッドにした時はバッテリーをどこに置くのかが問題になります。前にはもう置くところがないのでリアに置く。バッテリーをリアに置くスペースを考えなくちゃいけないし、バッテリーを後ろに置いたら、そのバッテリーと前にあるモーターを強電ケーブルでつながなくちゃいけない訳ですが、そのケーブルをどこへ安全に通すか? そういったことは最初の時点で、少し考えていました。でも少しですよ(笑)」

今回試乗したエクストレイル ハイブリッド、エクストレイルとしては三代目であり、2013年に登場したガソリン車がベースとなっている。2013年と言えば、ハイブリッドカーがすでに普及期に入っていた。エクストレイルがハイブリッドを意識していたのは、当然と言えるかも知れない。

しかし、エクストレイル ハイブリッドでもっとも重要なことは「SUVとしてのエクストレイル」ありきということだ。ハイブリッド化されたからといって、SUVらしさを失うこと、エクストレイルらしさを失うことがあってはならない。これを大前提として開発されたのがエクストレイル ハイブリッドなのである。なので、エクストレイルを愛車にしている人が乗り換える対象として考えてもいいし、燃費のいいSUVを探している人にとってのいい候補にもなってくれるだろう。

私にとって一番印象に残ったのは、やはりエクストレイル ハイブリッドがテンパータイヤを装備していることだった。東倉さんじゃないが「オフロードを走れる、走る可能性のあるクルマにテンパータイヤは必須」と私も思う。そしてそれは、SUVにとっても必須と言っていいと思うのだ。テンパータイヤのスペースをバッテリーで使えれば……というのは選択肢として「ない」。それがSUVであり、エクストレイル ハイブリッドなのだと思う。

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