僕は一度だけ他社に流れたことがあったものの、それを除けばプライベートではサイバーナビばかりを選んできた。毎年のように増えていく派手な機能というよりも、地図の縮尺ごとによく考えられた色分け、多彩な検索機能、渋滞予測など基本的な部分での使いやすさに惚れ込んでいたからだ。

このところ車の買い換えをしていないため、最新機種を導入してはいないが、もし車を買い換えた時に2DINスペースがあったなら、おそらくサイバーナビを再び導入するだろう。同じように、よい体験を得たナビメーカーの製品を使い続けたいという気持ちは誰にでもあると思う。

しかし、そんなお気に入りのサイバーナビだが、ひとつだけ不満に感じているところがあった。それは音質。現在筆者が使用しているのは2006年モデルと古いHDD内蔵のサイバーナビ。当時は内蔵HDD容量が増加、iPod接続機能と内蔵HDDへのリッピングの両面で音楽再生をサポートしていた時期だ。

ところが、パイオニアに限らず当時のAV一体型カーナビのオーディオ機能はいかにもオマケでしかなく、極めて音質がわるかった。これに耐えることができず、筆者は1DINタイプのAV機能を持たないカーナビを選び、高音質設計のディスプレイ&DVDプレーヤー付きAVヘッドユニットを組み合わせてインストールした。

ディスプレイ付きの高音質AVヘッドユニット「AVH-P90DVA」(写真左)とAV機能を持たないナビユニット「AVIC-H009」(写真右)を組み合わせて使っている

だが、現在はそうした逃げ道も限られている。市場にあるのはAV一体型のカーナビばかりで、音質重視のAVシステムと単体カーナビという組み合わせは選べない。

今やシステムの中心はカーナビだ。音楽媒体もCDからファイルへとその中心が変化し、映像と音楽の再生機能を掛け持ちするカーナビこそが、カーエンターテインメントの中心となっている。

ならば、カーエンターテインメントなりに音質に配慮して欲しい……と思うのだが、本当の意味でオーディオ好きが満足する音を出すサイバーナビは存在しなかった。

少々、イントロが長くなったが、こうした想いを受け止めてくれる製品が2017年モデルのサイバーナビ「AVIC-901系」として登場したという。機能面は評価の高いサイバーナビの最新機種だけに、注目はどこまで音質が向上したのか? サイバーナビが開発されているパイオニア・川越事業所で、その音質を確認した。

ハイレゾにも対応し、音質に徹底的にこだわったという2017年モデルのサイバーナビ(写真はAVIC-CZ901)

圧倒的なS/Nがもたらす段違いの情報量

川越事業所を訪問した筆者が通されたのは、パイオニア系オーディオブランドとして最高峰の「TAD」が設置されている部屋。旧パイオニア目黒本社のメイン試聴室をコンパクトにしたような、無垢の木材と音調素材を組み合わせた音楽堂のような造りの試聴室である。

通されたのは普段パイオニアが音質評価を行っているという試聴室。サイバーナビの音の評価もここで行われたという

そこに鎮座するのはTAD-R1。ベリリウム合金を用いたダイアフラムをツイーターだけでなく、同軸設計となるスコーカー(中域担当ユニット)にまで用いるスーパーハイエンドのスピーカーである。 25cm径のウーファーをダブルで搭載するこのスピーカーは、大径スピーカーとしては長いストロークも併せ持ち、その実力を発揮させるのに大電流を供給できるアンプが必要なのはもちろんだが、アンプのドライブ能力がなければちゃんとした音を出すことさえままならない。

このホーム用ハイエンドスピーカーを使って、サイバーナビの新旧聴き比べを行うという。当然ながら、サイバーナビを音楽ソースユニットとした上で、TAD製のホーム向けパワーアンプを経由してスピーカーを駆動しているのだろう……と想像しながら試聴していたのだが、いやいや、これはTAD製パワーアンプ音ではない。おかしいな? と思っていると、カーナビ内蔵のアナログアンプから直接鳴らしているという。

評価に用いるのはホームオーディオの中でもスーパーハイエンド、1本350万円するTAD-R1だ

これほどのスピーカーをカーナビの内蔵アンプで鳴らすとは、なんと無謀なことをするものかと思いながらも、サイバーナビ2016年モデルとの比較試聴を開始。すると1曲目からその差は歴然、それ以降の試聴が必要ないのではと思えるほど、圧倒的に音質が上がっていたのだ。

パイオニアが用意していた課題曲、最初は96kHz/24bitのSHANTI・ラビンユー。低域成分が目立たない楽曲だけに、勝負どころは伸びやかなヴォーカルの表現力となるが、そもそも勝負にならない。

サラッと描かれる音像、その表情は乏しく抑揚も少ない。2016年モデルの音は、SHANTIが描き出そうとする情景の一部しか表現できない。音像の周り、スッと拡がる風合いが感じられないからだ。当然ながら、音場を埋める空気感を望むことはできない。

聴き比べればその差は歴然。ハイレゾの魅力を表現できているのが2017年モデルだ

「ハイレゾオーディオ」のハイレゾたるゆえんは、そうした音場や音像を表現する情報量の多さにある。その点、2016年モデルの音はハイレゾ再生機としての評価以前に、情報がノイズに埋もれてリスナーに届かないという印象だ。

そしてこれが2017年モデルになると、しっかりと耳に届いてくる。聞こえていなかった音、感じられなかった雰囲気が耳に届くようになるのだ。

一方、パイオニアが独自に録音、長年、評価に使っているというジャズドラムのハイレゾトラックでは、中低域のハイスピードな立ち上がりを感じた。さすがに最低域は(接続するスピーカーのサイズ面で)完全に駆動しきることは難しいが、ミッドバスから上の帯域が同時に立ち上がってくるキックドラムの気持ちよさに、生真面目な音作りがもたらしたであろう素性のよさを感じた。

見た目、フロントフェイスは同じ。カーナビとしても基本プラットフォームは同じとのことだが、音質に関しては比較が無意味と思えるほど圧倒的な違いがある。試聴室というS/Nのよい環境だからこそわかる微妙な違いではない。そう感じながら、続いてはデモカーとしてセットアップされているトヨタ86のコクピットへと向かった。

外観的にはほとんど変わらない2016年モデルと2017年モデルだが、こと音に関するポテンシャルの差は大きい

パイオニアが長年評価用に用いているジャズドラムのトラックでも試聴

デモカーの86で本領

試聴室は最高峰のスピーカーと素晴らしい試聴環境だが、一方でカーナビ内蔵アンプには酷な条件でもある。一方の車室内ではどのような音を聞かせてくれるのだろうか?

デモカーの86で試聴する。話を伺ったのはパイオニア株式会社 市販事業部 事業企画部 市販企画部 マルチメディア企画1課 主事 橋本岳樹氏

2017年モデルのサイバーナビが内蔵するアンプは、アナログの50W×4ch構成とのことだが、デモカーではその4chをフロントスピーカーとリアスピーカーに振り分けるのではなく、サイバーナビが内蔵するデジタルチャンネルディバイダーで帯域分割して、フロントのツイーターとウーファーをそれぞれ独立してパワーアンプで駆動する、いわゆるマルチアンプ仕様になっている。外部パワーアンプは用いず、使用するスピーカーユニットもミドルクラスと言えるパイオニアVシリーズを駆動していた。

デモカーのシステムとしては、ハイエンドパーツを奢りまくったものではなく、カーナビを中心としたシステムとも価格バランスの取れた、控えめなシステム構成と言えるだろう。

86に装着されていたのはトヨタ車に多い200mmワイドタイプのAVIC-CW901だ

AピラーとドアにきれいにインストールされたカスタムフィットスピーカーのTS-V173S

ところが、中高域の品位はTADシステムの方が上なれど、システム全体のバランスはデモカーの方が数段上。想定以上に大きなスピーカーユニットを動かす環境では非力に感じられた内蔵アンプだが、さすがに車載スピーカーをマルチアンプ駆動する環境では、軽々とユニットを駆動し、その実力をいかんなく発揮してくれた。

前述したジャズドラムのトラックでは、さらにハイスピードな音を堪能できる上、低域に大きな音が入った後も息切れして音が濁ることもない。同時期にリリースされた新型アンプ(PRS-D800)を接続すれば、さらに高みを目指す事もできよう。

しかし、内蔵アンプとミドルクラスのスピーカーでも、ハイレゾ音楽ソースの特徴である音場密度の濃さ、シャープさと柔らかさを描き分けるボキャブラリーの豊富さをたっぷり堪能できる。そのよさはS/Nのよさに尽きるが、当然ながら車内という環境は音響的なS/Nがわるすぎる。エンジン音をはじめ、細かな情報をマスクする要素が多いからだ。いくら電気的なS/Nをよくしたところで、たいしたことはなさそうだが、実際に聴いているとやはり圧倒的な違いとなって顕れる。

環境的に恵まれないはずの車内においてもハイレゾならではの空気感を見事に表現していた

シェルビー・リンの名盤「Just A little Lovin’」をかけてみると、静寂の中に突如立ち上がるキックドラムのドッシリとした音、そこから続くエレキベースを弾く指の感触、シェルビーの息づかいまで感じられ、ややウェットに仕上げられた音場の空気が車内の空間を支配する。

2016年モデルのサイバーナビと聴き比べるまでもない。“カーナビレベルでちょっといい音”どころではないからだ。これならば、音にうるさいユーザーでも充分に満足できるはずだ。試聴の後、パイオニアのサイバーナビ開発陣に取材をしたのだが、最初に尋ねたのは「元々、パイオニアは高音質を知り、高音質に仕上げるノウハウを持つ会社。やればできたのに、なぜ今までできなかったの?」という質問だ。

徹底した調整機能で理想的な音作りが可能に

4chの出力で前後スピーカーを鳴らすスタンダードモードに加えて、86デモカーの様にフロントのツイーターとウーファーを独立してコントロールするネットワークモードを選ぶことができる。

さらに2017年モデルからは、より細かなセッティングが可能なマスターコントロールモードを搭載。マスターコントロールモードでは、イコライザーは31バンドのグラフィックイコライザーを3ch分独立して設定可能。つまりネットワークモードであれば、左/右/サブウーファーでそれぞれ独立して調整ができる。

また、タイムアライメントもよりきめ細かく0.35cm刻みで調整ができる。クロスオーバーネットワークは、ハイ/ミッド/サブウーファー(ネットワークモードの場合)で調整でき、スピーカー出力レベルの調整や、ツイーター領域の音域だけゲインを調整できるツイーターゲインも持つ。

加えて、付属のスマートコマンダーやスマホアプリでもセッティングの操作ができるようになった。これは画面に手を伸ばすことなく、リスニングポジションをキープしたままの調整を可能にするためだ。こうした複雑なセッティングデータは内蔵の2つのメモリーに記録できるほか、SDカードを使って外部に書き出すことも可能になっている。

2017年モデルから追加されたマスターコントロールモード

タイムアライメント調整はなんと0.35cm刻み。ネットワークモードならツイーターとウーファーを独立して調整できる

スピーカー出力レベルもそれぞれ調整可能

パッシブネットワークを使った場合でもツイーターの音域だけをゲイン調整できる

クロスオーバーネットワークもセッティングの幅は広い

31バンドのグラフィックイコライザー。ネットワークモードなら左右とサブウーファーでそれぞれ個別に調整が可能

スマホアプリやコマンダーを使うことでリスニングポジションをキープしたまま調整可能

決め細やかなセッティングデータは書き出してバックアップすることも

「ハイレゾ化」をきっかけに根本的な音質改革

冒頭の話ともつながるが、その昔、カーナビは道案内をする機材だった。“だった”というのは、複合機器化が進み、現在はカーエンターテインメントの主役としての役割も担いようになってきたからだ。

その中心、軸足はあくまでもカーナビであり、その基本性能や使いやすさで選ぶべきだろう。音がよいからといって、カーナビとして使いにくいのでは、車内での体験の質が下がってしまう。カーナビの質を高く保ちつつ、エンターテインメントの質を高める努力は、これまでも様々な形で行われてきた。

その一環として取り組んだのが「ハイレゾ対応」である。

画面左下にある「Hi-Res」のアイコンがハイレゾの印

現在、世の中に存在するD/Aコンバーターはすべてハイレゾを再生可能だが、カーオーディオにはタイムアライメント調整やイコライジング、デジタルチャンネルディバイダーなどのために高性能のDSP(デジタルシグナルプロセッサー)が必要だ。

限られたスペース内に機能を詰め込んだカーナビの場合、オーディオ回路に割けるリソースが少なく、従来は内部処理24ビット/48kHzまでしか対応できていなかった。2017年モデルのサイバーナビはこの部分を改善し、32bit/96kHz精度のオーディオ処理を実現させた。

それだけならば遅れていたハイレゾ市場への参入を果たした……というだけだ。しかし、スペックだけをハイレゾにするだけならば、単に能力が高いDSPを投入すればいいだけだが、それだけでは「ハイレゾ音楽ソースを活かす」ことにはならない。実際にハイレゾ音楽を再生したとき、そのよさが明確に感じられなければ……、というのがパイオニア開発陣の考えだった。

そこでハイレゾ品質とCD品質で再生比較を繰り返し解析していったところ、ハイレゾ化することにより可聴帯域の音質が高まることがわかった。ハイレゾというと、よく説明で聞かせられるのは、「ずっと高い周波数まで再生可能になる」という話だが、15kHzを越えてくるとほとんど耳では聞こえなくなる。ならばハイレゾでもCD品質でも変わらない。

しかし、実際に調べてみると、CD品質では明確なひずみが発生しており、特に1kHz~4kHzあたりの帯域のひずみが音質にあたえる影響が大きいことがわかった。ただし、ひずみが目立つのは-70dB以下の音圧領域。もちろん、周波数特性の伸びも高音質化につながっているのだろうが、聴感上の“よい音”にはサンプリングレートの低さに起因するひずみ(量子化ひずみ)の多寡が関係しているとパイオニアは気付いた。

実際に調べてみると、2015年モデルのサイバーナビでは量子化ひずみが再現できるほどアンプ部のS/Nがよくなかった。つまり、オーディオ回路のノイズによってハイレゾ音源が本来持っているニュアンスがマスク(目隠し)されていたのだ。これでは、音質の善しあしは判別できない。

2016年モデルではアンプ改善も行っていたが、「ハイレゾ対応」と言えるほどではなく、2017年モデルではじめてハイレゾ対応を堂々とうたえる……すなわち、ハイレゾ音源だけが持ちうる細かな情報を表現できるS/Nのよいアンプ特性を、カーナビというノイズ環境のわるいシステムの中で実現した。

そのために、オーディオ部とデジタル処理部を完全に分離。通常、音声信号処理を行うDSPとD/Aコンバーターは同じ基板上に配置するが、DSPをカーナビの心臓部があるデジタル基板に移植し、そこから最短距離でデジタル信号をオーディオ部へとつなぐ構成とした。もちろん、両基板の間には輻射波を遮断するシールドを設けている。その結果、アンプ出力のS/Nがよいのはもちろん、外部パワーアンプを接続する際のプリアウトはオーディオ専用機器と言っていいほどのS/Nとなった。

ナビ関連とオーディオ関連の回路を独立させた2階建て構造。デジタル系ノイズはシャシーに逃がし、また電磁波ノイズ放射を抑えるため全面シールドを採用

つまり、ハイレゾ化に際して「ハイレゾのよさを引き出すにはS/Nの改善が不可欠」と目標を定め、それを実現するために技術を注いだのだ。内部基板設計からD/Aコンバーターの選択(アナログ部の回路規模が大きくなる電流出力型のバーブラウン製ハイエンドDACを採用)、メカニカル設計から冷却設計、カロッツェリアXで鍛えたサウンドマスタークロック回路など、ありとあらゆるノウハウが詰まっているのはそのため。一部は同じ事業所にあるTAD部隊のアドバイスも仰いでいるという。

細かな改善努力は山のように伺ったが、そのひとつひとつを紹介していると、あっという間に誌面が尽きてしまう。ひとつ言えるのは、呆れるほど……同じメーカーの同シリーズ製品とはとても思えないほど、音質がよくなっているということだ。

カロッツェリアx「RS-P90x」を上回るS/N比-123dBという高性能DACを採用

マスタークロックもカロッツェリアxゆずり

徹底的にこだわった音質セッティングを可能にするフルタイム52bit高性能トリプルコア浮動小数点プロセッサ

I/V変換回路のオペアンプには新日本無線社製「NJM8901E」を採用

アナログボリュームでの音質劣化を防ぐため採用したパイオニア専用の高性能電子ボリューム

ホームオーディオで培った経験をもとに開発したオーディオ電源用のフルカスタムコンデンサー

そのためにシステム全体のハードウェア構成が大幅に変わった。見た目は似ていても、モデルチェンジの度合い……ハードウェアの差分は、フルモデルチェンジ並。機能や新しい技術を用いたからと言って音の質がよくなるわけではないが、明確な目標をもって取り組んだからこその成果だろう。

従来のハイレゾコンバートとは違う「マスターサウンドリバイブ」

2017年モデルのサイバーナビは音の質感までこだわって作られているため、たとえCD品質でもそのよさは充分に味わうことができる。個人的には高域よりも低域のひずみ感、スピード感の改善が際立って感じられたが、2017モデルのテーマである「ハイレゾに対応するための徹底したS/N改善」を活かすために、もうひとつソフトウェア面での工夫もされていた。

それが「マスターサウンドリバイブ」という技術だ。この技術はCD品質やMP3/AACなどの圧縮音楽をハイレゾ品質までコンバート(アップサンプリング)し、その際に量子化ノイズをカット。さらに倍音情報を付加することで、ハイレゾらしい柔らかさや音場を埋める空気感を引き出すと言う。

こうした“失われている情報を付加”したり“量子化ノイズを低減”する技術は、デジタルオーディオの世界では繰り返し提案、使われてきた。イマドキの話で言うならば、ハイレゾ化コンバート技術を持たないオーディオメーカーはいないというほど、当たり前な機能なのだが、実際に聞いた感触は少しばかり違う。

さすがに本物のハイレゾに比べると、詳細なディテールを描く部分では輪郭線が太く感じるところもあるが、演奏のニュアンスや音場再現の細やかさ……つまり、情報量の多さとして感じられる要素が、ことごとくハイレゾっぽい。滑らかになるだけでなく、明らかに聞こえていなかった音、気配が感じられるようになる。

「マスターサウンドリバイブ」を切り替えて聴き比べてみると、明らかに、それでいて自然にハイレゾっぽさ、情報量の多さが実感できる

パイオニアによると、マスターサウンドリバイブの技術は特許出願中とのことで「詳細は明かせない」と言う。

一般にアップサンプリングでは、音と音の間の数値を補完するため、前後の情報を参考に“それらしい値”を設定していく。しかし、それでは本当の意味でS/Nを改善することはできない。“それらしい値”を決めるには、何がそれらしいかという基準が必要であり、多くの場合、その基準はサイン波などを元にした波形から類推される。

しかしマスターサウンドリバイブでは、そうした一般的な補完処理や、そこから発展させたものではなく、新しい発想で音声データからひずみの発生を検出。ハイレゾデータ上においてひずみが最小になるように補正する。

つまり従来の補完処理では推測だったものを、デジタルデータを観測した上でひずまない値に正しく補正するのだそうだ。

普通のCDや圧縮音源をハイレゾ品質にコンバートする「マスターサウンドリバイブ」

CD音源や圧縮音源から倍音再現と量子化ノイズの除去の2つの方向で情報量をハイレゾ音源相当まで拡張する

独自の研究により自然な高域成分を復元する、高精度倍音復元技術を開発

CD音源再生時に発生する量子化ノイズは、元の信号から分離してから量子化ノイズのみを除去。これにより除去能力を高めるとともに元信号を壊す可能性も排除できる

ハイレゾブームのオーディオ業界だが、実際に聴かれる音楽はほとんどがCD品質か、それに近い圧縮音源だ。そうしたいつもの音楽を聴くための技術としては実に上手に作り込まれている。

マスターサウンドリバイブのオン/オフを切り替えながら、サンプルで用意された中島美嘉の「雪の華」を聴いてみた。オフ時にもよい音はするが、オンにすることで音の芯を感じた直後、それが音場全体に拡がっていくニュアンスが丁寧に描かれるようになる。さらには、ヴォーカリストが表現しようとする細かな表情がより際だってくる。

今さらハイレゾコンバート? と思うなかれ。音質で勝負してきたパイオニアが、自信を持つだけの事はある素晴らしい効果をもたらしてくれる。

今後は音質を考えたプラットフォームに

ご存知のように、カーナビは毎年ハードウェアの設計を一新するのではなく、刷新と熟成を繰り返しながら進化してきた。実は昨年モデルで、ハードウェア、OSともに大幅刷新されたサイバーナビだったのだが、今回登場した2017年モデル サイバーナビのように、刷新したプラットフォームに(音質改善のためとはいえ)さらに大幅に手を入れた例は、過去、少なくともパイオニア製ナビにはなかった。

しかし、今回はハイレゾ対応という大きなテーマがあり、そのためにオーディオ設計を根本から追い込むチャンスがあった。設計チームはカーオーディオ上位モデルのDEH-P01シリーズ並べて聴き比べても、満足してもらえる音にすることが目標だったという。その目標はある意味、達成されているように感じた。

そのために2年連続フルモデルチェンジとも言える開発を行ったのだが、今後は音楽ストリーミング配信サービスもさらに普及や利便性向上が進み、カーナビ側のエンターテインメント機能に求められる要素、期待も大きくなっていくだろう。

そうした事を鑑みて、今後のプラットフォームは“音質も追い込む”ことを前提に、トップカーオーディオメーカーならではの電気設計、機構設計をしていくという。2017年モデルのサイバーナビのレベルを今後も維持していくのであれば、もう「音質さえよければサイバーナビがいいのに……」というエクスキューズはなくなるだろう。

今回お話を伺ったサイバーナビ開発陣。筆者と橋本氏を中心に向かって左が、今回のサイバーナビ開発の中心となったパイオニア株式会社 市販事業部 商品開発部 第2設計部 2課の主事 郷 建彦氏(右)と副主事 原 大介氏(左)。向かって右が、主に「マスターサウンドリバイブ」を開発した同社 技術開発部 先行開発部 オーディオ技術部 2課の主事 長谷川 真氏(右)と主事 岡本旬平氏(左)。このほかにもカーナビの枠を越えて、ハイエンドホームオーディオの数多く担当してきたエンジニアの協力など、パイオニアの総力をあげて仕上げたという。それも納得と思えるほどに2017年モデルのサイバーナビの音質は確かなものだった