編集後記(2011年12月3日)

 すでにリポートを掲載していますが、東京モーターショーの一般公開が3日から始まりました。

 私は3日の朝から会場に行ってみたのですが、10時の開場、また嵐のような天候にも関わらず8時すぎの時点ですでに行列ができており、開場後1時間で各ブースにはたくさんの人で賑わっていました。

 前回の東京モーターショーは、いわゆるリーマン・ショック後ということもあり、また海外メーカーの不参加などで来場者数は伸びませんでしたが、今回はかなりの人が見込まれるのではないでしょうか。主催者なわけではないですが、今日を見た限りではかなりの人が見込めると思います。

 数多くの環境対応車が出展される一方で、日産ブースのリーフのレーシング仕様やホンダブースの2ドアスポーツEVのほか、レクサス「LF-A」、AMG各シリーズ、トヨタ「86」&スバル「BRZ」などなど、さまざまなスポーツモデルが注目を浴びている印象を受けました。

 「クルマは乗って楽しくないとね!」。そんな声が聞こえてくるような東京モーターショー、ぜひ会場に足を運んでクルマの今、そしてこれからをご自身の目で確かめてみてはいかがでしょうか。

小林 隆


 今回のモーターショーでもっとも面白かった展示は何か、と聞かれたら、僕はNTNのステア・バイ・ワイヤの参考展示を挙げる(http://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/tms2011/20111203_495626.html)。

 仕組みについてはhttp://www.ntn.co.jp/japan/news/news_files/new_products/news201100020.html>をご参照いただきたいが、つまりこのシステムを使えば、制御プログラム次第では「左にハンドルを切ると右に曲がる」なんていうクルマを作ることもできるわけだ。

 まあこれは極端であまり意味のない応用例だが、上記URLに書かれているとおり、ステア・バイ・ワイヤには「操舵装置のレイアウトの自由度が高まる」とか「自動的に安定した快適な車両挙動を実現(例: 横風による車両のふらつき防止)」なんてメリットがちゃんとある。

 もっとよく読むと「特長」には「トー角制御で操縦安定性の向上と走行抵抗の低減を両立」なんて書いてある。バックアップを含めて2つもモーターを積んだら、メカニカルなステアリング・システムより重くなって燃費が悪くなるのでは?とブースで聞いてみたら、トー角制御で走行抵抗が減るから、むしろ燃費がよくなる可能性が高い、という答えが返ってきた。

 ここで思い出すのは、フォルクスワーゲンの「DSG」を始めとするデュアルクラッチATが「MTよりも燃費がよくて速い=効率がいい」と言われていることだ。さらには、前走車追尾型クルーズ・コントロールや各種自動ブレーキの動作がスムースで、自分なんぞがブレーキやアクセルを操作するよりもずっとうまく、しかも効率よく走ったり止まったりしてくれるという事実だ。僕がドライビングテクニックの向上に関心のないダメドライバーだということを差し引いても、近頃の自動運転デバイスの多くは実にすばらしい仕事をしてくれる。

 ね、「走る」と「止まる」のうえ、「曲がる」まで機械のほうがずっとうまくやってくれて、そのほうが環境へのインパクトも小さくなるわけです。そうなると、人間が運転しないほうがいいというか、むしろ運転するべきではない、という考え方だってありうる。実際、自動運転プロジェクトを進めているグーグルのエリック・シュミット会長は「コンピューターより先に自動車が発明されたのが間違い」(=自動車は自動運転されるべき)と発言している。

 今回のモーターショーは、製品、運用、技術などなど自動車のあらゆる面でさまざまな提案が展示されていて実に面白いので、クルマ好きはぜひ出かけてほしいと思うのだけど、クルマ好きとして、ちょっとシリアスに考えなければならない問題も同時に提示されているように思える。

 クルマ好きは、思いのままにクルマを操ることこそ、クルマの悦びと考えがちだ。だからこそ、MTをはじめとするダイレクトな(あるいはダイレクト感のある)インターフェイスが好まれる。ロータスがATを積む、と聞くと「そんなのロータスじゃない」と言ってみたくなる。

 が、これからは、人間がクルマを操るのは「環境と安全のためによくない反社会的行為」になるかもしれないのだ。クルマに乗ったら、目的地を指定して、あとはおとなしく座っていなければならないかもしれないのだ。SFの中の話と思われていたことが、本当になってしまうかもしれない(技術的にはもう“本当”になっている)。そのとき我々クルマ好きは、まだクルマが好きでいられるだろうか。運転以外にクルマに悦びを見出すとしたら、それは何だろう? そして結局のところ、「クルマってなんだろう?」という問に辿り着くのだ。

田中真一郎


  いよいよ東京モーターショーが開幕しました。報道公開日、一般公開日に行ってみましたが、やはり外国のメーカーが出展していると、文化の違いを感じられて楽しいです。何より、ショーが華やかになっている気がします。

 一般公開日前日にラジオで東京モーターショーの見所をチョロっと話す機会があったのですが、そこで街の声として上がっていたのが、高齢者に優しい自動車。アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故、後進時に子供を巻き込んでしまう事故。そんな事故がありますが、このようなことの起きないクルマはないかというもの。

 近年の自動車は、ヒューマンエラーをなるべく防ぐような機器がついており、この問題を突き詰めると、視力の低下した、聴力の低下した、判断力の低下したお年寄りでも運転できる(運転しなくてよい?)、自動操縦自動車という結論になってきます。

 すでに、飛行機などでは一部にオートパイロットが採り入れられているものの、操縦には人間が関与しています。完全自動操縦となると、問題になるのは、それは果たして自動車なのだろうかということ。確かにタイヤはついているものの、すべてを命令(コマンド)どおりやってくれるのなら、それはロボットと見なされるのではないでしょうか。

 では、ロボットと見なされた場合、事故をどう考えるかが問題になります。完全に事故を起こさない技術が完成しない限り、アシモフのロボット三原則の第1条に反する事態が日常的に出現することは確実。なにがロボットで、なにが人間で、なにがロボットでも人間でもないのかというのは非常に難しく、「事故を起こさない自動車は?」という質問を振られた時点で頭の中が軽くパニックになってしまいました。

 とはいえ、そういうことを考えるほど、現在の技術は進んでおり、東京モーターショーでは、自動操縦車を含むそれらの技術を見ることができます。

 もちろん、スポーツカーやミニバン、軽自動車や巨大な商用車もあるので、それらを目当てに行くのもアリです。ただ、一般公開日で見えたのは、トヨタブースの人気が非常に高いこと。東棟には、通路の左右にブースがあり、お目当てのブースが混んでいたら、とりあえずほかのブースに寄ることができます。しかし、トヨタブースのある西棟の場合は、ダイハツ、トヨタ、レクサス、ジャガー、BMWと一方向に並んでおり、逃げ場がない。結果写真のような、「86(ハチロク)を探せ」という事態が現出していました。

86を探せ

 朝一番は、それほどでもなかったらしいのですが、昼からはものすごい事態になっていました。トヨタのスタッフによると、「86はメガウェブに数多くあるので、ぜひ、そちらを活用していただきたい」とのこと。立体的な東京ビッグサイトを、うまく攻略してみてください。

 なお、東京ビッグサイト近辺の駐車場は実質使い物にならないと思ったほうがよさそうです。ゆりかもめや、りんかい線沿いの駐車場を活用して、パーク&ライドをするのがお勧めです。

谷川 潔