イベントレポート 東京オートサロン 2023
水素エンジンハチロクと電気じどう車ハチロク、トヨタが2台のAE86をカーボンニュートラル化 エンジン音のある水素と6速MT搭載BEVの楽しさを提案
2023年1月13日 09:30
トヨタ自動車は1月13日、「東京オートサロン2023」(幕張メッセ:1月13日〜15日開催)で2台のカーボンニュートラル化したAE86(ハチロク)を世界初公開。1台は水素燃焼エンジンを搭載するAE86、もう1台はバッテリEVとなったAE86で、すでに販売されているクルマにおけるカーボンニュートラルの可能性を問いかけた。
AE86といえば、トヨタの誇る高出力型ツインカムDOHC 16バルブ4気筒「4A-GEU型」エンジンを搭載したFR駆動のライトウェイトスポーツカー。多くのクルマ好きに支持され、カローラ レビン、スプリンター トレノといった車名とともにAE86やハチロクと型式名で呼ばれるなど、ドリフト、峠ブームを本格化させたクルマとして今でも高い人気を誇っている。
トヨタはそのハチロクをカーボンニュートラル化。ハチロクのような既存のエンジン車においてもカーボンニュートラル化はできることを具体的に示した。
水素4A-GEUは青ヘッド、1トンを切る995kgの車重を実現した水素自動車ハチロク
水素エンジン(実験用)と書かれたトレノのボンネット内に収まっているのは、水素燃焼エンジン化された4A-GEU型エンジン。ガソリンエンジンである4A-GEUからインジェクションを水素対応のものにコンバート。水素は浸食性がガソリンより高いので、燃料まわりを水素対応のものに。また、プラグも水素対応に変更してあるとのこと。逆に言えば、そのくらいの変更で名機と呼ばれるスポーツエンジンの水素対応を成し遂げている。
現在、トヨタはGRヤリスのエンジンである G16E-GTS型エンジンを水素燃焼化してGRカローラに搭載しスーパー耐久に参戦しているが、そもそも水素燃焼化できた大きな理由として直噴であること、過給器が搭載されていることを挙げていた。
ところがご存じのように4A-GEU型エンジンは燃料コントロールがアバウトなポート噴射、さらに自然吸気を代表するエンジンだ。それを水素燃焼化するのだから、トヨタの水素燃料コントロール技術はスーパー耐久参戦以降、相当高いところまで進歩していたことになる。
ただ、4A-GEUのよさである自然吸気を活かして水素化しているので、現時点ではあまりパワーが出ない仕様となっている。なぜならばガソリンの理論空燃比は14.7であるのに対して、水素の理論空燃比は34.3。この空燃比をストイキオメトリといい、ストイキと略されている(論文などでは、λ[ラムダ]として表記される)が、4A-GEUはガソリンのストイキを狙って作られているために水素燃料に対しては圧倒的に吸気できる空気量が少なく、14.7の空気量に対して、34.3を狙って動作させるためには少しの水素しか吐出できない。しかもポート噴射という精密な燃料コントロールの難しい形式のため、ガソリン車の半分の馬力にも到達していないという。
ちなみにこの4A-GEUにはT-VISユニットも付いていたが、こちらは稼働しておらずオープンで動いているとのこと。水素燃料タンクは新型「MIRAI(ミライ)」のものを2本使用。燃料供給口もミライのものを流用しており、市販車クオリティで燃料まわりは作られていた。
この水素AE86の車重は水素タンクなどにより、ベース車の940kgから995kgへと55kgアップ。開発を担当した高橋部長は「なんとか1トンは切りたかった」といい、ライトウェイトFRカーとして仕上がっている。
この水素4A-GEUを搭載したハチロクのすごいのは、エンジンが本当に水素で燃焼するほか、クルマも動くこと。先述のように、水素とガソリンのストイキの違い、直噴とポート噴射、過給と自然吸気というトヨタがこの2年間で蓄えた水素直噴のノウハウを越えて、旧来のポート噴射のガソリンエンジンを水素コンバージョンできている。
高橋部長によると、過給にすればもっと馬力は出しやすいがハチロクの4A-Gではなにか違うかなとのこと。その言葉のウラには過給タイプの4A-GTELUを搭載したクルマがあるのかもしれないが、より難しいことにチャレンジし、とにもかくにも実動しているトヨタの技術には驚きだ。
スーパー耐久では液化水素へのチャレンジが始まるトヨタの水素技術だが、記者が2年見てきた以上の深さで進化しているのかもしれないと思わされた水素4A-GEU型の登場だ。
既存の部品を活かす形で電動化した電気じどう車ハチロク
一方、バッテリEV化されたハチロクは、カローラ レビンの姿をまとっていた。心臓部となるモーターやバッテリは、トヨタのピックアップトラック「タンドラ」のハイブリッドモーターと、「プリウスPHV」のバッテリを使用。さらにGR86の6速マニュアルトランスミッションを組み合わせている。
オリジナルのマニュアルトランスミッションを使わなかったのは、トルク容量的に厳しかったため。タンドラのハイブリッドモーター後部にはドグクラッチがあり、そのドグクラッチとGR86のマニュアルトランスミッションを接続するお釜だけ作ってあるとのことだ。
パワートレーン系が電気になった場合、エンジンと異なりコンプレッサーなどを不要とできる(余分なパワーを使いたくないため)。しかし、この電気じどう車ハチロクにはコンプレッサーが取り付けてあり、マスターバックも空気を利用するタイプ(電子マスターバックではない)だった。
この点について確認すると、マスターバックの互換性の観点よりも、モーターまわりの冷却のためとのこと。電機部品は熱が高くなると、抵抗値などが高くなり効率も悪化する。最悪は熱暴走なのだが、そういったトラブルを防ぐためなのだろう。
現車をなるべく活かしたままというコンセプトでバッテリEV化されたハチロクレビンだが、車内にはロールケージが入っていた。自動車研究家の山本シンヤ氏がそこについて質問すると、開発者からは「今回目標としたのはドーナツターンができるクルマ」とのことで、そのための補強という。さらに、ベースとなった現車にもともとロールケージが入っていたので、「まあそれをそのままにして」とのことだった。
バッテリEVであれば、通常はモーターのみでクルマを動かすトルクを発生できるため、わざわざマニュアルトランスミッションを搭載する必要はない。この点については、モーター駆動のクルマによる運転の楽しさを確認&追求していきたいからとのこと。バッテリEVによる走りの楽しさなどの研究にも使われていくようだ。
すでに見えているメリットとしては、モーター駆動のためエンストがないこと。内燃機関エンジンと違って、モーターはすぐに駆動することができ、エンストという現象が起きない。そのため、クラッチ操作などは容易になっているらしい。記者自身、モーターとマニュアルクラッチ&ミッションを持つ乗り物に乗ったことがないので未知の世界の話になってしまうが、足でボリューム操作をしているようなバッテリEVと異なり、マニュアルトランスミッションがあることで、歯を食いしばりつつパワーを絞り出す内燃機関のようなフィーリングを感じられるのだろうか? 電気じどう車ハチロクは、ただのEVコンバージョンではなく、新しい乗り物を目指しているように見えた。