22c Works、RX-7生誕30周年記念ミーティングを開催
開発主査とユーザーが、マニアックな質疑応答

9月23日開催
会場:マツダ本社

  昨年、ロータリーエンジン搭載車市販40周年を記念するイベントが、世界で唯一自動車用ロータリーエンジンを生産し続けているマツダの主催により、数回行われた。しかし、軽量・コンパクトを武器にロータリーエンジンをスポーツカーの心臓として世界中に認知させた車である「サバンナRX-7」(RX-7)が、今年30周年を迎えたことは案外認知されていない。 

  アメリカ市場では今でも根強いファンに支えられており、年に1度、RX-7を核としたロータリーエンジン搭載車のお祭である「Seven Stock」が開催され、世界中から熱狂的な“ロータリー・フリーク”が集う。特に2007年は、ロータリーエンジン市販40周年、Seven Stock 10周年が重なり、北米マツダ本社前を歴代のRX-7と多くのロータリーエンジン搭載車両が埋め尽くした。

  しかしながら、海の向こうでは多くのファンがいるロータリーエンジンも、日本では変わりモノ好きな少数のみに愛好される特殊な内燃機関であることを否めない。

  世に送り出したマツダでさえも、既に販売が終了しているRX-7のイベント開催に予算を捻出することは難しいようで、ロータリーエンジン40周年であった昨年に比して、RX-7生誕30周年である今年は、スポーツカーに関するイベントは開催されていなかった。

  「RX-7の30歳の誕生パーティーを」、「日本でもSeven Stockを」。そんなロータリー・フリークの声の高まりを受け、広島在住の男性が発起人となり、RX-7生誕30周年をお祝いするミーティングが23日に開催された。

  本レポートでは当日の模様をお届けする。

RX-7ユーザーのコミュニティがイベントを企画

ミーティングはマツダ本社前の駐車場で開催された
  RX-7とロータリーエンジンが好きであれば誰でも参加できるインターネット上のコミュニテイ「22C Works」(http://www.22cworks.com/)でも、昨年からRX-7生誕30周年記念行事の開催を望む声が大きくなっていたが、前述のようにマツダ側での予定は組まれていなかった。ちなみに「22C」とは、初代RX-7の型名「SA22C」からとられている。

  そもそも22C Worksは、RX-7を自分の好きなように仕立てることが大好きな人間が集うコミュニティ。思い通りにならない車を自分たちの手で思い通りにしてしまう集団だったので「マツダがしないなら、自分たちでやってしまおう」という話になるのは当然のことである。

  そこで、22C Worksがマツダ本社と折衝し、ミーティング会場として広島の本社前駐車場を借り、RX-7やロードスターの開発主査である貴島孝雄氏と山本修弘氏(両氏とも現在はマツダのプログラム開発推進本部主査)をゲストとした、マツダミュージアムの見学ツアーを行うこととなった。

  RX-7やロータリーエンジン好きだけでなく、日本のスポーツカーやレースが好きな方が見たらうらやましくなるようなゲストを招いたこのイベントは、22C Worksのミーティング名称にのっとり「逢引きスペシャル in 広島」と名付けられ、22C Worksの掲示板とSA22Cメーリングリストのみで情報を発信し、参加者を集った。 

  その結果、東は東京、西は福岡から合計20台の初代サバンナRX-7と、2代目サバンナRX-7はもちろん、サバンナクーペ、2代目と3代目のコスモ、RX-8などの歴代ロータリーエンジン搭載車に加え、マツダの軽3輪トラックK360やシャンテなど30台が集まった。

マツダ本社に設けられたマツダミュージアムを貴島・山本両氏とともに見学した

スポーツカーにはミステリアスな部分が必要

質疑にこたえる貴島氏(左)と山本氏

  ミーティングでは、貴島・山本両氏への質疑応答が行われた。内容はサスペンションロッドの設計や車高設定などマニアックなものだったが、それに対し貴島氏が図を描いて返答していた。

  RX-7のステアリング特性について貴島氏は「初代RX-7はテールハッピーとアメリカで言われたが、それはオーバーステア傾向のために“旋回性能が高い”というよい意味と、“スピンしやすい”という悪い意味があった。しかし、世に送り出して30年が過ぎた今、私は初代RX-7が一番たのしいとあらためて思っている」と語った。

  ロードスターにロータリーエンジンを搭載しない理由については「パワーが上がると、ブレーキをはじめすべてのパーツを、パワーに見合ったものに変更しなくてはいけない。実験ではロードスターにロータリーエンジンを載せたりもしたが、商品としてお客様に届けられるものではない」と明かした。

  貴島氏に「スポーツカーに求められることは何か?」をお聞きしたところ、「視点によって変わるが、まずスタイリング。そして、いくらパワーがあっても、乗って楽しくない車はスポーツカーだとは思わない。加速感や旋回Gの高さ、滑ったときにコントロールしやすいこともスポーツカーにとって重要なファクター。サーキットでのラップタイムも速いが、峠などの一般道でもたのしめるセッティングもスポーツカーとして大切なこと。インフォメーションがキチっとあることは、危険予知にもつながる」とのお考えをご返答いただいた。

22C Worksのメンバーが乗る初代RX-7の写真が記念品として贈られた

  さらに「ミステリアスな部分を持っていない自動車は、スポーツカーとしての魅力を持っていないと思う。ロータリーエンジンは特に、あんなに小さいのにパワーがある。それだけでもスポーツカー向きなエンジンだと考えている」とし、「スポーツカーは芸術品ではないので、飾っておくものではない。運転がたのしいという要素を持ち、日常の中に非日常的をもたらすようなイメージが必要なのだと思う。デミオもビアンテも、乗ってたのしい車だが、マツダのコンセプトでもある“zoom zoom”の先端にいるのはやはりスポーツカー。また、スポーツカーを作り続けているからこそこういうコンセプトを提唱できる」とも述べた。

  一方、「マツダにとって、ロータリーエンジン車とロードスターの2つは非常に重要なものなので、これからも続けていく」と力強く語った山本氏は「(たとえばロータリーエンジンなら)ペリフェラルポート・サイドポートといった吸気方法にはこだわっていない。どういう性能のエンジンを作らなくてはいけないか、そのときにどのような手段をとってどのようなスペックを得ようとしているのか、が大切なポイントである」と、現在のスポーツカーのエンジンについて話した。

元プロダクトプランナーとの懇親会も

ミーティング後は中央森林公園に移動

  ミーティング後、マツダ本社から30kmほど離れた中央森林公園までのミニツーリングとバーベキューが行われた。

  こちらには、マツダでRX-7(初代のSA22Cと2代目のFC3S)のプロダクトプランナーを努められた須藤將氏と、ロータリーエンジン搭載レーシングカー「Mazda 787B」がル・マンで優勝した際に、マツダスピード技術部長だった松浦国男氏がゲストとして参加。お二方は、RX-7を世に出し、世界の桧舞台で活躍させた中心人物である。

  マツダ本社前の駐車場に初代サバンナRX-7が並んだ光景を見た須藤氏は「感無量。30年前にメーカーから世に送り出した車がオーナーに今でも愛されている。送り出した側からすれば、こんなにうれしいことはない」と、とてもうれしそうに語った。

  「オーナーズクラブがイベントを行いたいと申し入れても、今までマツダには対応する部署がなかった。今回からは明確に対応部署を定めることとなった。組織としての受け入れ体制ができたのだから前に進んだことになる」という須藤氏は、今回のミーティング開催についてマツダ本社を説得するにあたり、多大な影響力を発揮した。

  松浦氏は「懐かしいよ、30年前にタイムスリップしたみたいだ。もう2度とみられないのかもしれないな」と言い、「オーナーズクラブの対応についてマツダが組織的に動けるようになったことで、今からのスタートなのだと思う」と語った。

マツダへの期待

中央森林公園には松浦氏(左)と須藤氏が参加

  参加者の多くは、最初は自分たちの愛好する車の開発に携わった人を前にして緊張していたが、やがて自然と頬が緩み、そして談笑するに至った。須藤氏のRX-7開発現場での苦労話や、松浦氏のレースシーンでの思い出話など、今まではメディアに出てこなかった部分を当事者から直接聞くことができるのだから、話を聞くことができた方はうれしさでいっぱいだっただろう。

  最後に、ミーティングの発起人である22C Worksのつね氏に、RX-7ユーザーを代表して、今後のマツダに期待していることを語ってもらった。

  「マツダに期待している事は、私個人としてはRX-7の復活よりも、操る事をたのしめるコンパクトなロータリー車の復活ですね。マツダ車は、移動手段としての車というよりも、運転をたのしめる車が多いと思います。車は今、家電製品のようになっていて、機能は充実はしても面白味のないものになっていってる気がします。たのしいと思えるものでない限り、若者は興味を持たないんじゃないかと思います。味気のない冷蔵庫や洗濯機なら、選択基準は価格のみになりますよね。そんな物に金を掛けるなら、相手とのやりとりをたのしめる携帯電話の方が重要になるのも当然かと思います」、「ロードスターがあるから、このクラスにロータリーエンジン搭載車を発売できないなんて思ってるのなら、それは間違いですよね。ロータリーとレシプロは全く違うってのを一番知っているのはマツダだと思います。私の思いとしてはRX-01(ロータリーエンジン搭載スポーツカーのコンセプトモデル。1995年発表)の市販化、それとスポーツカーメーカーなのだから、レース部門の復活も望みます」。

  これからもひとつの文化の継承として、日本からスポーツカーが世界に羽ばたくことを切に願って止まない。

URL
マツダ株式会社
http://www.mazda.co.jp/
22C Works
http://www.22cworks.com/
マツダミュージアム
http://www.mazda.co.jp/philosophy/museum/

(酒井 利)
2008年9月24日