NEXCO中日本、ETCレーンの速度抑制策を解説
バーを開くタイミングを遅らせて速度低下、安全性の向上を実証

 

速度抑制策が実施されている北陸自動車道敦賀IC(インターチェンジ)


 NEXCO中日本(中日本高速道路)は11月5日、ETCレーンのバーが開くタイミングを遅らせて通過速度を抑制する効果について、報道関係者向け説明会を開催した。

ETCレーンでの速度超過は危険
 現在、ETCレーンでは20km/h以下での通過が呼びかけられている。20km/hは、ETCバーが開かずバーに衝突した場合に、重大な被害を車両に与えずに済み、かつノンストップで料金を支払えるETCのメリットを生かせる速度として決められている。

 しかし、ETC利用率が高くなるにしたがって、これよりも高い速度、とくに40km/h以上の、異常に高いスピードで通過する車両が増えてきた。NEXCO中日本が管轄する名古屋料金所では、40km/h以上の速度で通過する車両の割合が2007年9月に33.7%に及んでいる。しかも2008年9月には35.9%にまで増えた。この間、ETC装着車が増えていることを考えれば、台数ベースでの増加率はさらに高くなることが推察される。このため高速通過中に、ハンドル操作を誤ってレーンの壁に激突したり、ETCレーンに停止した車両に追突したりといった事故が起きている。

 また、開閉バーへの接触事故も多く、ETCレーンの速度抑制実験を行った北陸3県では、1日に平均26.3件の事故が起きていた(2007年9月)。

 

ETCレーンでは20km/hでの通過が呼びかけられているETC利用率の増加とともにETCレーンでのリスクも高まった
 
ETCレーンでの事故の例(提供:NEXCO中日本)

 バーが開かずに接触する原因は、ETC車載器にETCカードを挿入していなかったためバーが開かなかったことと、ETC未装着車がETCレーンに誤進入したことが、それぞれ約40%を占める。次いでETCカードの有効期限切れで、これが6~7%となる。ETCのエラーで開かない場合もあるが、これは0.005~0.01%と言う。

 いつくかの料金所では、ETCレーンの手前でETCカードが挿入されているかどうかを判定し、挿入されていない場合に車載器がドライバーに通知する「お知らせアンテナ」が用意されているが、まだない料金所もある。さらに、一部のお知らせアンテナでは、カードの有効期限切れまでは通知してくれないので、ドライバー側でETCカードをきちんと管理できていないと、バーへの接触やETCレーンでの停止は起こりうる。

 NEXCO中日本は、こうした高速でのETCレーン通過による重大事故の増加を懸念しており、通過速度を下げることが必要と判断。速度抑制策を打ち出した。

バーが開くタイミングを遅らせて抑制
 具体的には、ETCレーンで車載器がアンテナとの通信を正常に終えてから、バーが開くまでの時間を遅らせる。これまでは正常通信が終了するとすぐにバーを開いていたが、タイミングを遅らせることでドライバーは速度を落とさざるを得ないことになる。

 

ETCレーンの構造。ETC車線表示板とアンテナ(路側無線装置)が付いたゲートをガントリーと呼ぶ。ガントリーのアンテナとETC車載器が通信し、問題がなければバー(発進制御機)が開く敦賀ICのガントリー。ETCレーンの内側(未通過側)から見ている
ガントリーに付けられたアンテナ敦賀ICのETCレーンのバー
今回、NEXCO中日本が打ち出した速度抑制策は「ETCの通信終了後からバーが開くまでの時間を延ばす」というもの。なかなかバーが開かないので、ドライバーは速度を落とさざるをえない

  20km/hまで速度を落とさせるのが目的なので、開くタイミングを遅らせる時間は料金所やETCレーンによって異なるが、おおむね出口レーンは約0.5秒、入口レーンは約0.8秒~1秒とのこと。入口レーンのほうがより遅くなっているのは、出口よりも入口のほうが、アンテナからバーまでの距離が長いから。ETCでは車種を判定する必要があり、車両の全長でも判定している。最長で約14mあるトラックなどの全長を計測するため、入口レーンでは17mほどの距離が設けられるのだ。

 

これまでも速度抑制策を施してきたが、効果が持続しなかった
 これまでも同社では、標識、ポストコーン、LED表示板、ハンプ、薄層塗装など、主に視覚に訴える速度抑制を対策してきた。また、速度超過が著しい車両には警告文を送付するといったことも行っている。

 これらの対策は一時的には効果があるものの、ドライバーが慣れてくると無視するようになり、効果が続かないのが問題だった。バーが開くのが遅れれれば視覚だけでなく、物理的にも速度抑制が可能だし、開く時間を早くしなければ効果が持続する。バーの開閉タイミング変更は、速度抑制の決め手となる対策といえる。

 速度抑制策が実施されている敦賀ICと、まだ実施されていない東名高速道路の東名川崎ICのETCレーンを実際に通過してみた映像を掲載するので、比較してみてほしい。どちらも20km/hで通過しているが、敦賀ICのほうが、車両がより奥まで行かないとバーが開かないのが分かるはずだ。

 

 
速度抑制策が実施されていない東名川崎ICのETCレーンを通過するところ

速度抑制策が実施されている敦賀ICのETCレーンを通過するところ。東名川崎ICと比較すると、バーがなかなか開かないが、20km/hで走行していればバーにぶつかる恐怖は感じない

北陸3県で効果を実証
 NEXCO中日本では、2007年11月5日から北陸自動車道・敦賀料金所のETCレーンでバーが開くタイミングを遅くし、この速度抑制策の施行を開始した。これによりETCレーンの平均通過速度が約1km/h低下したため2008年3月3日からは金沢西、立山でも実施。2008年4月7日からは富山・石川・福井の北陸3県にある全料金所(30カ所)に試行を拡大した。この地域が実証に選ばれたのは、NEXCO中日本が管轄する地域でも、比較的交通量が少なく、試行しやすかったためだ。

 試行地域が拡大するごとに平均速度は低下し、3県全体で試行を開始すると、約2km/h低下。敦賀での開始から総計すると、約5km/h低下させることに成功した。また、40km/h以上で通過する車両の割合が、敦賀料金所では11.5%から3.9%に、北陸3県全体では14.4%から2.2%に、それぞれ約66%、約85%も減少した。また北陸3県でのバーへの接触事故は2007年9月の26.3件/日から、2008年9月には19.9件/日へ、約24%減少した。

 対策を実施する料金所が増え、対策についての周知が進むと、速度抑制効果が周辺の料金所に波及する現象も見られた。

 

敦賀料金所で速度抑制策を実施すると、40km/h以上で通過した車両が減った北陸3県でも敦賀同様に、40km/h以上で通過した車両が減少
バーへの接触事故も減った北陸3県でのETCレーン通過速度の平均は、実施地域を拡大するごとに下がっていった
 

 

敦賀ICでの速度抑制策の告知。本線上でも氷雪注意の掲示などと一緒に、告知している
 もうひとつ、NEXCO中日本自身が予期しなかった効果として、料金所内の通行がよりスムーズになったことがあると言う。超過速度でETCレーンから出る車両が多かったころは、料金所内の車に速度差があり、それがかえって通行の障害となっていた。速度抑制対策により、ほとんどの車の速度が20km/h前後に揃うと、車の流れが整然としたと言う。

 単純に考えると、ETCレーンの通過速度が遅くなると、通過できる車の量が減り、障害になるのではないかと思ってしまうが、NEXCO中日本によれば「1本のETCレーンは、20km/hの通過速度で、1時間に800台を通せるようになっており、料金所の通行量を考慮し、余裕を持たせてレーンを設けている」とのことで、通行量が減る心配はないそうだ。

 問題があるとすれば、施行後にバーが開くタイミングが遅くなったことが周知されないため、ほとんどの通行者に知られるようになるまでは、一時的に事故が増えること。これについては、広報活動などで周知を進めるほか、本線やETCレーン前でバーが開くタイミングが遅いことを告知し、できるだけ事故を防いでいくとしている。

中日本から全国へ広がる抑制策
 この結果を受け、NEXCO中日本では同社が管轄する全料金所、つまり1都11県の226の料金所のETCレーンに、速度抑制策を拡大すると決定。11月25日から順次施行されることになった。開始の時期は地域によって異なり、次のようになっている。

 

11月25日
東名高速(静岡県内)、中央道(東京都、神奈川県、山梨県、長野県内)、長野道、中部横断道、八王子バイパス(BP)、圏央道、東富士五湖道路
12月1日
中央道(愛知県、岐阜県内)、東海北陸道(愛知県、岐阜県内)、東名阪道(高針JCT~名古屋西JCT)、伊勢道、紀勢道、伊勢湾岸道、東海環状道
12月4日
東名高速(神奈川県内)
12月8日
東名高速(愛知県内)、名神高速、北陸道(滋賀県内)、東名阪道(名古屋西JCT~亀山IC)
12月12日
西湘BP、箱根新道、小田原厚木道路、新湘南BP、西富士道路

 

対策開始スケジュールのプロット図(提供:NEXCO中日本)
 

  NEXCO中日本が開発し、口火を切ったこの対策は、NEXCO東日本などほかの会社でも採用され、試行されている。NEXCO西日本は中日本に続いて、同社の全域に対策を拡大すると発表している。まだ採用発表がない会社からもNEXCO中日本への問い合わせは来ているそうで、日本のほとんどのETCレーンで、バーが開くタイミングが遅くなるのも、そう遠い日ではないようだ。

 

URL
中日本高速道路株式会社
http://www.c-nexco.co.jp/
ニュースリリース
http://www.c-nexco.co.jp/info/charge/081021102630_2.html

 

【2008年10月22日】NEXCO中日本、速度抑制対策を全ETCレーンに拡大
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20081022_37972.html

 

(編集部:田中真一郎)
2008年11月19日