鈴鹿サーキット改修工事見学会リポート コンセプトは「安心・安全でワクワクする世界有数のサーキット」 |
2009年10月に再びF1グランプリが開催される鈴鹿サーキット。F1グランプリに関しては、すでに観戦チケットの概要も発表され、3月29日からはそのチケットの販売も始まる予定だ。そこで気になるのが、春のシーズン開幕に向けて行われている鈴鹿サーキットの大規模改修工事だろう。先日、改修工事の見学会が開催されたので、その様子をお伝えする。
2009年10月に開催されるF1グランプリの観戦席配置図と、鈴鹿サーキットのコース図 |
まず最初に鈴鹿サーキットの歴史を振り返ってみたい。鈴鹿サーキットは国内初の国際レーシングコースとして1961年6月に着工、1962年9月に完成している。その年の11月にオープニングレースとして第1回全日本選手権ロードレースを、翌1963年5月には第1回日本グランプリ自動車レースを開催している。
以前は西コース奥のスプーンカーブを立ち上がるとバックストレート、130R、最終コーナー、グランドスタンド前、1コーナーと極めて長い高速区間が続いていたが、1982年のJAFグランプリ・レースの最終コーナーで多重事故が起こったこともあり、安全性向上のため翌年コースレイアウトを変更、最終コーナーの手前にシケインが設置された。
その後、1984年に視界向上とランオフエリア拡大のためにスプーンカーブをイン側に移動。スプーンカーブは90R-70Rから60R-60Rへと全体的に小さくなった。1985年には第1~第3コーナーを100R、70R、60Rの複合コーナーから100R、60Rの2つの複合コーナーへと変更し現在の第1~第2コーナーの形状となっている。
完成以来初の大規模改修は、鈴鹿サーキットで初めてF1グランプリが開催された1987年に実施された。コースではデグナーカーブが80Rの単独コーナーから15Rと137mのストレート、25Rの複合コーナーとなりランオフエリアを確保。S字、ヘアピンでもランオフエリアを広げている。F1開催にあたり、ピット、コントロールタワーも大改修が行われた。ピットロードの走行レーンおよびタイヤ交換などを行う作業エリアが10mから18mに、ピットの全長が186mから229mに、コントロールタワーの面積は6倍、医務室、ドライバーズサロン、ヘリポートなども新設された。ピットの奥行きも6mから12mと広げられ、2階部分にテント状の屋根が設置されホスピタリティ(もてなし)エリアが用意された。
2001年には中規模な改修を行っている。S1席シートの変更、S2席の増設、ピットの増設、チームスイートの増設に加え、安全対策としてS字コーナーの2つ目をイン側へ移動しランオフエリアを拡大した。2002年にはダンロップコーナーもイン側に移動し、2003年には130Rを85R、340Rの複合コーナーへとコースレイアウトを変更、ランオフエリアを拡大している。
1987年のF1開催時は最終コーナーからメインストレートにしかなかった常設観戦席を、2コーナー(E席、F席)、S字(G席)、ヘアピン(H席)と増設し、2005年には新グランドスタンド(V席)が完成した。
ちなみに筆者が初めて鈴鹿サーキットを訪れたのは1983年だ。ちょうどシケインが新設された年だ。手元にサーキットを走るマシンの写真は多数あるが、サーキットの景色を撮ったものはほとんどない。数少ない写真で当時の雰囲気を見ていただきたい。
当時を振り返ると観戦スタンドがほとんどなく、2コーナー付近も粘土質の斜面だった。雨が降ると滑りやすく、転倒・滑落して泥だらけになる客を多数見かけた。コースが近かったので、レースの撮影はしやすかったのを覚えている。S字やダンロップはコースから数mの場所まで近付くことができ、望遠レンズがなくても撮影できるほどだった。
1987年から20年、鈴鹿サーキットでのF1開催は2006年で一旦終止符を打った。改装された富士スピードウェイや、新設された上海インターナショナル・サーキットと比べると設備の老朽化は否めない。そのため、鈴鹿サーキットでは2009年のF1開催に向け、1987年の改修を大幅に上回る、過去最大の改修が行われることになった。
改修のコンセプトに「見る人・走る人・運営する人にとって、安心・安全でワクワクする世界有数のサーキット」を掲げ、「全てのお客様の安全性・快適性・利便性を向上し、これからもご満足いただき、ご支持いただける鈴鹿サーキットを目指す」と言う。
今回の見学会で、鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドの土橋哲社長は、ホンダのF1撤退のニュースが流れる中「サーキット運営にもっと力を入れ、レースを通して明るい話題を届けたい」と挨拶をした。続いて鈴鹿サーキットの樽井良司総支配人より改修工事の詳細説明が行われ、その後グランドスタンド、最終コーナー、観覧車、逆バンク、ピットエンドで実際に工事の様子を確認することができた。
鈴鹿サーキットの樽井良司総支配人 |
今回の改修は大きく3つに分けられる。
・観戦・イベントエリアの快適性向上
・レーシングコースのさらなる安全性向上
・パドック・ピットエリアの利便性・快適性向上
まずはグランドスタンドの大改修だ。従来のS1、S2、A、V席がV席に統一され席数は現状1万908席を1万2830席に、約1900席の増加となる。車いす席を増設し59席に、グランドスタンド上段には個室タイプの観覧室を35室設置する。さらにグランドスタンドに飲食エリアを用意し、大型ビジョンも2基から3基となる。
最終コーナーからメインストレート方面を撮影。巨大化したメインスタンドとピットビルが向かいあっている |
各スタンドも大幅に変更されている。東コースではS字のGスタンドが撤去され、Dスタンドとして生まれ変わる。従来は斜面に丸太を設置した階段状の観戦席だった逆バンク~ダンロップもコンクリート製のスタンド化の工事が進んでいる。130Rも同様に丸太の階段席からコンクリート製のスタンドが新設されている。
ダンロップコーナーの観戦席も従来の丸太の土手からコンクリート製に変わる | |
観覧車からは西コース130Rの観戦席がコンクリート製になる様子が見える | シケインのスタンド(旧Cスタンド)付近も工事が進んでいる |
ピットロードエンドに高さ27.5mのリーダータワーを新設。グランドスタンドはもちろん、2コーナーのスタンドからも視認することが可能だ。最新のLEDパネルで順位の表示以外にも、広告塔としてスポンサーロゴをフルカラーで表示することも可能となる。
グランドスタンド裏のグランプリスクウエアも大きく拡張される。従来はゲート左に建物があり、その後ろに回り込むようなスペースとなっていたが、改修後は広大なフラットスペースを用意することで、より充実したイベントスペースとして利用可能となる。
最終コーナーから逆バンク、ダンロップ方面に抜けるトンネルも一新される。従来は最終コーナーのトンネルを抜け、一旦外に出て、再びダンロップコーナーの下を抜ける形状になっていたが、今回の改修で1本の長いトンネルに変更される。最終コーナー側の入り口を見ると、車用の大きめのトンネルが1つ、歩行者用の小さめのトンネルが2つとなっている。F1グランプリや8時間耐久レースなどビッグレース開催時にあった渋滞の解消が期待できそうだ。ただ、通り抜ける時間がやや長くなりそうなのが少々気になるところ。
観戦エリア全体では、飲食店の充実。トイレはベビーカーのまま入れるベビーベッド常備の多目的トイレを設置し、女性トイレにはパウダーコーナーも用意される。喫煙所の設置も進め、分煙の強化も行われる。
すでに完成してる施設としては、正面駐車場奥のゴルフ練習場を1400台収容の駐車スペースに改修(2008年3月より)、グランドスタンド裏から1コーナー方面への通路を立体交差化(2008年7月より)がある。
レーシングコースに目を移そう。レーシングカーの性能向上と安全は相反する部分がある。安全性を向上させるためにレギュレーション変更によるマシン速度の低下とコースの安全性向上は不可欠であろう。鈴鹿サーキットも1983年のシケイン設置以降、幾度となく改修は行われてきた。例えば初期のスプーンコーナーはランオフエリアがガードレールまで数mしかなく、コースアウト即クラッシュの危険性があった。今回は安全性の向上を図るため1コーナーイン側、逆バンクイン側、最終コーナーアウト側のランオフエリアを拡幅、2コーナーアウト側を従来のグラベル(砂利)のみから近年のサーキットで採用が進む、舗装とグラベルが組み合わさったランオフエリアに変更される。
逆バンクの工事風景。手前のコンクリート壁と土手下のコンクリート壁間がサービスロードになると思われる |
観客にはあまり関係ないが、1コーナーからダンロップまでサービスロードも新設される。ランオフエリアと観戦席の間に通路を設けることで、スムーズな保安救急活動を可能とし、加えて取材メディアの移動、撮影エリアとしても利用される。
今回の改修でもっとも大きく変化するのはピット、パドック周辺だ。まず目を引くのは3階建てに生まれ変わるピットビルだ。全体を約100m延長し、全長340mと東京タワーの高さ並みになる。ピットボックス数は48。1ピットの面積も約86m2から約109m2に拡大される。間仕切りが可動式となっていて、F1開催時は437m2、12チーム分のピットとして使用することが可能だ。インフラ面でもサインエリアとピットガレージ、チームオフィス間でLAN環境が構築される。
レースを管理するコントロールタワーはピットビルの最終コーナー側に位置し、面積を約2倍に拡大、最新の監視カメラシステムの導入により安全、確実なレース運営が可能となる。メディカルセンターも現状の1コーナー側から最終コーナー側へ移動しコントロールタワーおよび救急ヘリポートと隣接することで迅速な対応を可能とする。取材陣が利用するメディアセンターも最終コーナー側に設置される。従来の約1.3倍の広さとなり400名分のワーキングデスクを用意、電源や有線LANアウトレットも配備される。
ピットビルの2階は食事をしながらレース観戦できるガラス張りのホスピタリティルームが11室用意される。従来は屋根だけだったので、とても豪華になった。メインストレート側には各部屋100席の屋外テラス席も用意される。3階にも開放的なホスピタリティブースが設置される。
ホスピタリティの完成イメージ図 |
ピット裏のパドックエリアで目を引くのは新築されるセンターハウスだ。2階建て、延べ床面積2414m2のセンターハウスには、1階に食事のできるパドックカフェ(名称募集中)、2階はパーティやイベントに利用できるエントランスホールとなっている。
そのほかでは、レースの参加チームが利用するチームオフィスが現状の42室から53室へと増設され、サーキット走行の参加者が利用するSMSC(鈴鹿モータースポーツクラブ)オフィスも新築される。山田池の埋め立てにより駐車スペースも約100台増えることとなる。
2006年のF1グランプリ。ダンロップコーナーの土手から東コースを撮影。逆バンクの内側には大きな池があった |
ピットへ向かう通路も改修が進んでいる。徒歩でピットへ向かう関係者は、従来メインスタンド観戦席の真ん中の階段を下りて地下道を抜けて行ったが、今年からはエスカレーター、エレベーター付きのパドックトンネルを利用することになる。Vスタンド中央の切れ目部分では、幅4mに拡張されたトンネルの工事が進んでいる。
スタンド側からパドック側を撮影。スロープ部分にエスカレーターが設置される |
今回見学した東コースは、いたるところで工事が行われ、まさに生まれ変わるサーキットと言っても過言ではない。見る人・走る人・運営する人にとって、安心・安全でワクワクする世界有数のサーキットへと変貌する鈴鹿サーキットを垣間見ることができた。春には全貌が明らかになるので、機会があれば続報をお届けしたいと思っている。
改修工事完了後、4月12日には新しくなった鈴鹿サーキットのお披露目となるイベント「START SUZUKA オープニングサンクスデー」が開催され、F1マシンのデモランなどが予定されている。そして4月18日、19日には新生鈴鹿サーキットのオープニングレース「ケーヒン 鈴鹿2&4レース オープニングスペシャル」が開催され、国内4輪レースの最高峰SUPER GTと、国内2輪レースの最高峰JSB1000の初の共演が行われる。7月には「コカ・コーラ ゼロ鈴鹿8時間耐久ロードレース、そして10月には3年ぶりに「2009 FIA F1 世界選手権シリーズ フジテレビ 日本グランプリレース」が開催される。
筆者は1981年に初めてサーキットを訪れたときのワクワク感を今でも憶えている。以来28年間、欠かすことなくサーキットへ足を運んでいる。レーシングマシンのエキゾーストノートは生でしか味わえない魅力がある。是非、生まれ変わった鈴鹿サーキットで、生のレース観戦を楽しんでいただきたい。
■URL
株式会社モビリティランド
http://www.mobilityland.co.jp/
鈴鹿サーキット
http://www.mobilityland.co.jp/suzuka/
2009春 鈴鹿サーキットリニューアル!!
http://www.mobilityland.co.jp/circuit_s/
新パドックレストラン ネーミング募集(1月20日まで)
http://www.mobilityland.co.jp/circuit_s/naming.html
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【2008年11月6日】2009年F1日本グランプリ開催概要発表
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20081106_38057.html
(奥川浩彦)
2009年1月19日