ボルボ、低速自動ブレーキ「シティセーフティ」のデモンストレーション
今秋発売のXC60に標準装備予定

2009年3月2日開催




 ボルボ・カーズ・ジャパンは3月2日、同社の安全装備「シティセーフティ」の体感試乗会を、報道関係者向けに開催した。

試乗会に用意されたXC60英国仕様。シティセーフティーを標準で装備している

低速自動ブレーキ「シティセーフティ」
 シティセーフティは、30km/h以下の低速域での衝突事故に対する安全装備。フロントウインドウ上部のレーザーセンサーで約6m前方を監視し、前車との速度差が大きくなる(=衝突の危険がある)とブレーキを予圧して急ブレーキをかけやすくする。さらにドライバーがブレーキをかけなかった場合は、スロットルを閉じてエンジン出力を下げ、ブレーキをかけて停止する。

 この動作により、自車と前車の速度差が15km/hなら衝突を回避でき、15~30km/hなら衝突ダメージを軽減できる。こうして自車、前車ともに、乗員と車体を保護しようというのがシティセーフティだ。もちろん、自動車の修理費用も減らせる。

 都内の地下駐車場で行われた試乗会には、日本未導入だが欧米ではすでに発売されているミッドサイズSUV「XC60」が用意された。15km/hの速度を維持したまま、ブレーキを踏まずにコース上のダミーに向かっていくと、ダミーの1mほど手前で自動的に急ブレーキがかかり、停止した。

 シティセーフティはあくまでドライバーの安全運転を支援する装備で、自動運転をするためにあるのではない。なので、シティセーフティが作動して停止すると、数秒で自動的にブレーキが解除され、AT車ならクリープで前進する。

指で指しているのがシティセーフティのレーザーセンサー発光部。その上の、レンズが2つ見える部分が受光部。その右に見えるのは車間距離警告やレーンデパーチャーウォーニングなどに使うミリ波レーダーXC60のコクピット。通常のボルボ車と同じ試乗会で用意されたダミー。これに向かって15km/hでノーブレーキで突っ込む
15km/hでブレーキを踏まずにダミーに突っ込んでいくと、衝突する前に自動的にブレーキがかかり、停止する
後方から見た、突っ込む瞬間。衝突前にブレーキがかかっている
シティーセーフティで停止すると、メーターパネルには自動ブレーキがかかったことが表示される
シティーセーフティーのイメージ。レーザーで前車を検知する

コストを抑えて装着車を増やす
 シティセーフティのレーザーセンサーは、自車からのレーザー光が、前車のナンバープレートや金属部分、リアランプのリフレクターなどに反射することで、前車の位置を検知する。

 自動車の前方監視装置には、レーザー以外にもミリ波レーダーやカメラなどがある。レーザーセンサーはミリ波レーダーなどと比べると、コストが安い代わりに雨や雪、日光など外乱の影響を受けやすいと言われている。シティセーフティではこうした弱点を克服すべく改良されているが、影響はゼロではないようだ。

 しかし、たとえば前車の車体後面がすべて土や泥で覆われてしまっているというような極端な状況でない限り、前車がバイクのように小さなものでも、作動してくれると言う。自車のレーザー発光部と受光部が汚れていても使えなくなるが、受発光部ともフロントウインドウのワイパーが拭う範囲内に置かれていて、汚れを防ぐようになっている。

 ボルボがレーザーを採用したのは、コストが安いため、多くの車に装備できるからだ。XC60は、イニシャルコストの安さを利して、シティセーフティを標準で装備している。加えてスイス、イギリス、ノルウェーなど欧州諸国では、シティセーフティ装着車は保険料が最大25%安くなると言う。

シティーセーフティの概要

 

 
シティーセーフティーの紹介ムービー(英語、1分8秒)

国内導入は今のところ未定
 さて試乗会に用意されたXC60は、英国仕様車で、国内ではまだ登録されていない。現時点でシティセーフティは国土交通省の技術指針に完全には合致しておらず、このままで認可されない。そのため、登録するとシティセーフティ機能を使えないようにしなければならない。試乗会の会場が公道と隔離された貸し切りの地下駐車場だったのは、公道を走行できないからだ。

 国内では今秋の発売が予定されているXC60だが、シティセーフティが国内でも使えるかどうかはまだ分からないと言う。問題となっているのは、「ドライバーがシティセーフティに頼り切ってしまうのではないか」という懸念だそうだ。国交省が推進するASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)の理念でもそうだが、ドライバーが何も操作しなくても車が勝手に動いてくれるという状態はかえって危険で、安全装備はあくまでドライバーのサポートのみを行う、というのが国交省の考え方だからだ。

 しかし、記者が体験したシティセーフティは、制動距離が短いこともあって、いかにも急ブレーキという止まり方をするようになっている。乗員がケガをするほど急ではないものの、あまり上手な止まり方をしてくれないので、シティセーフティに常時ブレーキをまかせる気にはなれない。

 ボルボの調査によれば、衝突事故の75%は30km/h以下で発生しているそうだし、日本の交通事故の32%が追突事故で、その障害の92%が軽傷の頸部障害、いわゆるムチ打ちだと言う。安全をトッププライオリティに置くボルボとしては、「シティセーフティを装着できないならXC60も発売したくないくらい」の姿勢で、他地域と同様にシティセーフティの標準装着に取り組んでいる。レーザーセンサーの特性や、シティセーフティが完璧に事故を防ぐわけではないことなどをユーザーに理解してもらう必要があるが、渋滞の中などで冷やっとした経験を思い出せば、シティセーフティのような装備が標準で搭載されているのは有益だろう。

シティーセーフティは30km/h以下の領域を受け持ち、それ以上の速度域ではオプションの安全装備が働く。衝突事故の大半は30km/h以下なので、この速度域での安全装備を標準で持つことには大きな意義がある

(編集部:田中真一郎)
2009年 3月 3日