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なぜ、Epson Modulo NSX-GTは1レース限りのデザイン変更を行なったのか?
SUPER GT最終戦をTRUMEカラーで出走した理由
2017年11月14日 16:49
- 2017年11月12日 決勝
ツインリンクもてぎで11月11日~12日に開催されたSUPER GT最終戦において、EPSON NAKAJIMA RACINGが率いる「Epson Modulo NSX-GT」は、同レース限定で「TRUME(トゥルーム)」カラーリングにデザインを変更。黒を基調とした新たなデザインを施したEpson Modulo NSX-GTが登場した。
TRUMEは、Epson Modulo NSX-GTをサポートしているエプソンが発売したアナログウオッチの新ブランドで、2017年9月から販売を開始したばかりだ。
スペシャルカラーリングの理由をエプソン&EPSON NAKAJIMA RACINGに聞く
エプソン販売 広域・量販営業本部WP推進担当の中野雅陽副本部長は、「ウオッチとモータースポーツには『先端技術』『機能美』といった点で、高い親和性がある。今回はTRUMEの発売を記念して、レーシングカーのカラーリングとデザインをTRUMEのカラーである黒を基調としたものに変更した」とし、「エプソンが、TRUMEという新たに高級時計ビジネスを開始しているという認知度を高める狙いがあった。
また、エプソンブルーを基調とした車体カラーからの変更で話題づくりができると考えた。11月2日に、車体デザインをTRUMEを基調としたものに変更することを発表して以降、SNSなどでこの話題が取り上げられており、その点では手応えを感じている。クルマが好きな人たちと、TRUMEのターゲットが近いことを感じている」とする。
エプソンでは、タイでの第7戦が終了した直後の10月上旬に、TRUMEデザインに変更することをEPSON NAKAJIMA RACINGに提案。それから具体的にデザインを変更する企画がスタートし、わずか1カ月でデザイン変更を行なった。
レーシングカーへのカラーリングは、エプソンが発売しているエコソルベントインクを搭載した高画質大判インクジェットプリンタ「SC-S80650」で印刷したインクジェット出力シートを使い、これを車体に貼り付けているという。
本来ならば、塗装をはがしてその上にシートを貼るという手法が採られるが、第7戦終了から最終戦までに時間がなかったことから、重量増にはなるものの、印刷したシートを直接貼り付けることにした。
11月5日までに印刷をすべて完了し、6日および7日の2日間を使って、専門業者により車体に印刷シートの貼り付けを行ない、11月11日の予選を迎えた。
中嶋企画のプロジェクトコーディネーターである平野亮氏は、「作業時間が少なかったことから、印刷シートによる若干の重量増は仕方がないと判断したが、基本的には1枚のシートにすべてを印刷するために、シートの上にシートを重ねるということがなく、その分、重量増の影響は最低限に抑えられると判断した。とくに、スポイラー部分は、レギュレーションの関係で、シートを重ね合わせて、段差をつけて色数を増やすことができない。エプソンのプリンタで出力すれば、1枚のシートに複数の色やロゴを印刷できることから、段差を生まずに多くの色や文字を使用することができるメリットがある」とする。
さらに、耐久性については、「これまでの車体でも、一部に印刷したシートを使ってきた経緯があり、シーズンを通じて利用できるという耐久性は実証済みである。雨で水が染み込み、印刷シートが浮くといったこともない。また、車体の前方には保護材を塗って傷が付かないようにしていたが、今回は保護材を塗っていない。1レースであればその程度の耐久性はあると判断している」と語った。
エプソンがメインスポンサーとなった2004年以降、中嶋総監督率いる同チームで黒を基調としたデザインを採用したのは、今回が初めてとなる。
EPSON NAKAJIMA RACINGの中嶋悟総監督は、予選14位、決勝10位の結果になったことから、「デザインよりも、速さで注目を集めたかった」とジョークを飛ばしながら、「いつもは白とブルーのカラーのクルマが通ると、うちのクルマが通ったと分かるが、見逃してしまうこともあり、注視しておかなくてはならない点に気をつけた」とコメント。「最初に提案を受けたときは驚き、ほかの多くのスポンサーの方々にご理解をいただけるかどうかという点でも不安はあった。また、変更するための作業時間が少なく、ギリギリになることも不安ではあった。だが、クルマのスピードへの影響はなく、話題を集めた点ではメリットがあったと思う。テレビでも映し出されるシーンが多かった。今後もエプソンのスポンサードには期待したい」(中嶋総監督)とした。
エプソンから車体カラーリング変更の提案を受けてから、中嶋総監督自らがスポンサー各社に連絡を取り、最終戦に限り、車体カラーが黒を基調にしたものに変更することを知らせて了解をとったほか、自らが新たなデザインにおいてスポンサーロゴの位置を決めたという。
今シーズンのEpson Modulo NSX-GTは、4年目となるベルトラン・バゲット選手と、今シーズンにチームに移籍してきた松浦孝亮選手のペアで参戦。シーズン序盤は苦しい結果が続いたが、第6戦の「インターナショナル鈴鹿1000km」において優勝。底力を見せつけた。
時計をたくさん持っているという松浦選手は、カラーリングの変更について、「インディカーでは、1戦ごとにデザインを変えるということもあるが、SUPER GTでは、1戦だけのスペシャルカラーは初めての試みだろう。面白いと思う。エプソンがTRUMEという時計を投入する上で、インパクトがあったのではないか。エプソンのTRUMEに対する意気込みを感じた」とし、また、バゲット選手は、「NAKAJIMA RACINGは青白のカラーが伝統であるが、黒という新たな色にするのは気持ちがリフレッシュされ、わるいものではない。注目を集めたという点では効果があった」と述べた。
また、シーズン初戦からチームに帯同しているレースクィーンの秋月清華さんは、「TRUME仕様にカラーリングチェンジされた64号車は、いつもの爽やかカラーのサムライ的なクールさとはまた違い、重厚さを感じられるかっこよさがあった。走る姿はとても新鮮で、時計が大きく施されたデザインも印象に残るものだった」とし、同じく、あやきいくさんは、「普段の爽やかな印象の64号車とはガラリと雰囲気が変わり、カッコいいワイルドな印象を受けた。TRUMEの時計が大きくデザインされているのが印象的で、思わず写真を撮ってみたくなる、おしゃれで、カッコいいカラーリングだと感じた」とコメントした。
今回のエプソンからの提案で、1レース限定でのカラーリング変更を行なったが、この実績はコストや時間が許せば、SUPER GTにおいてもシーズン中に頻繁なカラーリング変更が可能であることを示したものたといえそうだ。エプソンでは、来シーズン以降、ほかのチームにもカラーリング変更の提案を行なうチャンスができたとしている。
Epson Modulo NSX-GTは、第7戦までは白とエプソンブルーを組み合わせたデザインで参戦していたが、これはシーズン前に行なわれた「エプソン・ナカジマレーシング カラーリングコンテスト」による一般公募で選ばれたもの。同コンテストはレーシングカー部門とチームウェア部門で募集が行なわれ、195通の応募があった。レーシングカーには田嶋孝光氏のデザインが採用されていた。
中嶋総監督はシーズン開始前に、「このデザインのマシンで、しばらく遠のいている表彰台に上がれるよう精一杯戦っていく」とコメントしていたが、まさに第6戦で宣言どおりの優勝を果たした。
なお、今シーズンのドライバーやチームメカニックたちが着用するチームウェアは、同コンテストでグランプリに輝いた森美乃さんによるもので、チームメカニックなどは最終戦もこのウェアを着用。だが、ドライバーのレーシングスーツは、レーシングカーの色にあわせて、黒を基調としたTRUMEロゴが入ったものに変更した。
予選終了後には、中嶋総監督とドライバーのベルトラン・バゲット選手、松浦孝亮選手にTRUMEが贈呈された。これは第6戦鈴鹿での優勝を祝したもので、贈呈式では、エプソン販売 販売推進本部長の小川浩司取締役、エプソン販売 広域・量販営業本部WP推進担当の中野雅陽副本部長が参加し、3人に直接TRUMEを手渡した。
エプソン販売の小川取締役は、「第6戦の優勝から2カ月ほど遅くなったが、そのお祝いとしてTRUMEを贈呈する。おめでとうございます」と挨拶して、最初に中嶋総監督に贈呈した。中嶋総監督にはシンブルなデザインのTR-MB8003が、バゲット選手には、リミテッドモデルとなるTR-MB8004が、松浦選手には、赤をポイントにしたTR-MB8002がそれぞれ贈られた。
エプソン製品を活用するEPSON NAKAJIMA RACING
ツインリンクもてぎのパドックに設けられたEPSON NAKAJIMA RACINGのピット内では、エプソン製品が数多く利用されていた。
ピットでは、大容量インクタンクモデル「EW-M770T」によって、100枚以上の必要書類などを印刷していたほか、エプソンダイレクトのPCやディスプレイなどを使用。ネットワーク接続して、車載映像やセンサーから収集したデータ、公式データなどをディスプレイに表示。レース状況を分析して、レーシングカーが狙い通りの動きをしているかどうかを確認したり、指示を送ったりしていた。
「印刷した書類は、ピット内で利用するレースに関わるデータのほか、GTAに提出する書類など多岐に渡る。また、ピット内では3台のノートPCを設置し、3台のディスプレイを通じて各種データや映像を表示。ピットウォールスタンドではスペースが小さいため、小型PCを用いて8台のディスプレイに情報を表示している。ノートPCにそれぞれ情報を表示していては、ノートPCをのぞき込まなくてはならないという面倒さがあり、誰もが情報一覧できるディスプレイを多用している」(中嶋企画・平野氏)という。
また、ピット内のパーティションに利用されるテントシートへの直接印刷や、看板などに使われるロゴの印刷も、エプソンの昇華転写型プリンタが使われたという。
ユニークなのは、ピットの作業スペースの両側に設置したウォールだ。このウォールにはヘルメットなどの備品や工具などが効率的に収納されている一方、埋め込んだディスプレイに各種情報を表示。また、前方では高画質大判インクジェットプリンタ「SC-S80650」で印刷したEPSONのロゴなどを、アクリル板に貼り付け外からも目立つようにした。ウォールの中には電飾が入っており、暗くなるとピット内を照らす構造となっているため、遠くから見てもピット内が明るく、さらにエプソンのロゴが光の中に浮き上がるような演出を実現した。
最終戦では新たに黒を基調とした「TRUME」の製品とロゴを印刷し、これを貼りつけたアクリル板を採用。TRUMEをイメージした通りの高級感を持たせた形での演出が可能になった。
「ピットを訪れた他のチームからは、『この時計はどこで買えるのか』という問い合わせもあったほど、評判は上々」(中嶋企画・平野氏)だという。
また、このウォールはピット内の作業でも効果を発揮している。
「スーパーフォーミュラではタイヤが剥き出しになっているため、上方向からの明かりだけで作業ができるが、SUPER GTはカウルの下にタイヤがあるため、上方向の明かりだけでは作業がしにくい。ウォールの横方向からの明かりがタイヤまわりの作業を行ないやすくしている」(同)という。
エプソンのプリンタによる印刷を活用しながら、外に向けた演出と、作業における実用性を両立することが可能になっているというわけだ。
一方で、ピットに隣接するホスピタリティテントでは2台のプロジェクターが設置され、テントで囲まれたトラックの白い壁にレースの映像などを表示。高輝度であるエプソンのプロジェクターの特徴を生かして、レースの状況などを確認できるようにした。
さらにピットウォークの際に、公式SNSアカウントに登録した人を対象に、Epson Modulo NSX-GTのTRUMEデザインのオリジナルステッカーを特別にプレゼントしたが、これもエプソンの産業用デジタルラベル印刷機「SurePress L-4033AW」で印刷したものだった。
EPSON NAKAJIMA RACINGでは、単にエプソンの資金的スポンサードを受けるだけでなく、エプソンの技術や製品を活用したさまざまな取り組みが行なわれており、それがチームの活動を支えているとも言えるだろう。