新しく生まれ変わった鈴鹿サーキットを見てきました
鈴鹿サーキット改修工事完了見学会リポート

改修が完了し、生まれ変わった鈴鹿サーキット

2009年4月9日開催



 2007年末から始まり、2008年秋から本格工事に入っていた鈴鹿サーキットの改修工事が完了し、9日報道陣に公開された。改修ポイントの詳細は1月に行われた改修工事見学会リポートで紹介したので、今回は完成した様子を写真を中心に見ていきたい。

新生鈴鹿サーキットではグランドスタンドが増設されたのが目を引く10月に開催されるF1グランプリの観戦席配置図とコース図

 冒頭の挨拶に立ったのは鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドの野口専務。野口専務は「まさしくNEW鈴鹿サーキットと呼ぶに相応しい進化を遂げることができた。レースを観戦される方、レースに参加される方、レースの運営にたずさわる方々、すべてのお客様に安全、安心、快適性を提供できるように改修工事を進めることができた。」と語った。

改修工事完了見学会において冒頭の挨拶を行うモビリティランドの野口専務改修工事の詳細な説明は、鈴鹿サーキットの樽井総支配人から行われた見学会の司会を担当したのは、サーキットで実況でもおなじみのピエール北川氏

 200億円を投じたと言われる今回の改修内容は大きく3つに分けられる。
・観戦・イベントエリアの快適性向上
・レーシングコースのさらなる安全性向上
・パドック・ピットエリアの利便性・快適性向上

大きく変わったグランドスタンド
 まずは観戦される方が気になるスタンドから見ていこう。今回の改修の目玉と言えるのがグランドスタンドの増設だ。シート数は1900席増えて1万2830席となったが、それ以上にクオリティの向上が大きい。また、グランドスタンド裏の飲食エリアの充実も、実際にレースが開催されたらチェックしておきたいポイントとなるだろう。

改修工事が終わり、その全貌を現した巨大なグランドスタンド
左がグランドスタンド、右がピットビル

 東コースの各スタンドも大きく一新された。S字から逆バンクにかけてDスタンド、ダンロップコーナーにはEスタンドが新設された。シケインは、従来は下段部分だけ常設スタンドで、F1開催時などでは上部に仮設スタンドが用意されたが、今回の改修で上段部分も常設スタンドとして新装した。

 最終コーナー付近から逆バンク方面に抜けるトンネルにも、改修の様子を確認することができる。最終コーナー側のトンネルは3つに分かれ、車両用が1つ、観客用は2つ用意され一方通行となった。途中部分は吹き抜けとなっていて、再び2つのトンネルで逆バンク方面に抜けることができる。従来はかなり急な階段を上ってダンロップ観覧席に出る構造で渋滞の原因となっていたが、改修により逆バンク方面へスロープ状に抜ける構造に変わり渋滞の緩和が期待できそうだ。

 グランドスタンドに用意された3台の大型ビジョンにプチサプライズがあった。3台ある大型ビジョンのセンターの1台には、背面にも表示スペースが用意されている。やや小さくはなるが、S字、逆バンクの席から見ることができそうだ。F1開催時には各所にビジョンが設置されるが、このビジョンは常設なので国内レース開催時の情報提供にも期待したい。

サーキットの玄関、新設されたGPエントランスグランドスタンド裏に設置された案内板新装されたDスタンド(S字側)
新装されたDスタンド(S字から逆バンへ向かう部分)新装されたDスタンド(逆バンク側)逆バンクからダンロップへ向かう部分は工事最終段階
ダンロップのデグナー側のEスタンドシケインのQスタンド逆バンク方面へのトンネル。トンネル部分は一方通行となった
トンネル出口は従来の階段がなくなりそのまま逆バンク方面に抜けやすくなった3台設置された大型ビジョンのセンター1台は背面にも表示可能。S字方面からも見られる

 そのほかにも、グランドスタンド裏のイベントスペース「GPスクエア」は1万m2と広大なスペースが用意されたり、トイレなどの充実、高さ27.5mのリーダータワーが新設されるなどリニューアルされたポイントは多い。また、1コーナーゲートの運用開始、スプーンゲートの新設など観客の動線もより快適になることが期待できる。

ランオフエリアが変更されたレーシングコース
 次はレーシングコースの改修を見てみよう。1コーナーイン側、逆バンクイン側、最終コーナーアウト側のランオフエリアも拡幅されているが、今回最も目を引くのが2コーナーアウト側の改修だ。従来はコースを外れるとすぐにグラベル(砂利)で、フォーミュラーカーではコースアウトで即リタイヤとなるケースが多かった。海外のサーキットではコースアウトして、ランオフエリアの舗装部分から戻って来るシーンを見た方も多いだろう。今回の改修で2コーナーアウト側は人工芝、舗装部分、グラベルと3重になり、少々のコースアウトであれば、タイムは落ちるが即リタイヤとはならない。筆者が思い出すのは1990年の鈴鹿F1。セナとプロストが1コーナーでクラッシュ、リタイヤの後、コースに落ちた砂にのってトップのベルガーがここでコースアウト。きっとアウト側に舗装部分があればリタイヤせずに走れたのだろう。とはいえ、もしベルガーがリタイヤしなければ、鈴木亜久里の日本人初の表彰台もなかったので、結果は微妙なところだ。

1コーナーを立ち上がったアウト側の縁石からランオフエリアに舗装部を新設舗装部分は2コーナーの立ち上がりまで続く。コースとの境界は人工芝ストレートエンドのアウト側はグラベル(砂利)
2コーナーからS字方面。ドライバーが見る景色も様変わりした

より安全にレースを行うためサポート施設も改修
 最後はパドック・ピットエリアなど、レースに参加する人、運営する人に係わる改修を見てみたい。今回の改修で最も大きく変化した部分はここだろう。観客には直接的な関係はなさそうにも思えるが、この部分の改修がなければF1の開催も実現しなかったと思われるし、安全にレース運営が行われる体制が整わなければ、観客がよいレースを楽しむこともできない。

 目を引くのは何と言っても3階建て、全長340mのピットビルだ。3基用意された大型ビジョンもグランドスタンドの観戦客にはうれしい。滅多に見ることのできない内部を見ていこう。新設されたコントロールルームにはマルチスクリーンが用意されている。このシステムはソニーブロードバンドソリューションが、HD監視カメラを核としたコース監視および、放送システムとして納入したものだ。

3階建てとなったピットビル。大型ビジョンは3基となった

 39台の旋回型ハイビジョンカメラをコース全域に配置している。8×4の32台のモニターは各コーナーを、その下段の7台がスタート部分を映し出している。実際に東コースを見ると、スタート地点、1コーナー正面、1コーナーアウト側、2コーナー、S字入り口、S字1つ目、S字2つ目、逆バンク正面、逆バンクからダンロップへの上り、ダンロップ(ショートカット付近)と死角がない。一度ここでレース観戦をしてみたいものだ。ここで集中的にレースをコントロールし、状況を敏速かつ的確に確認することで、効率的なレース運営が可能となる。

 すぐ隣、最終コーナーを見下ろす所に計時室がある。階下の1階にはメディカルセンターがあり医療機器が設置されている。メディカルセンターのすぐ外にはヘリポートも用意され、緊急の際に迅速な対応が可能となった。

最新設備が設置されたコントロールルーム。ソニーブロードバンドソリューションによるシステムコントロールルームの隣の計時室メディカルセンターのすぐ外に設置されたヘリポート
メディカルセンター内部、コントロールルームのすぐ階下となる

 レースに参加するチームが使用するピットボックスも一新された。8耐など参加チームが多いレースでもF1など1チームの機材が多いレースでも対応できるように可動式の間仕切りとなっていて、1つのボックスは109m2から437m2と変更可能だ。

 ピットビルの2階は広大なホスピタリティラウンジだ。レース開催時だけでなく、イベントスペースとしても使用ができる。大型のエレベーターが用意され、ハマークラスの大型車も搬入可能とのこと。3階にもスペースが用意されホスピタリティテラスとなっている。

チームがマシンのメンテナンスを行うピットボックス。F1開催時は間仕切りとって広い空間を提供ピットロードから見たピットビルピットウォール部分。その先に新設されたリーダータワーも見える
ピットビルの裏側。左側の建物が各チームが使用するチームオフィスピットビルの2階はホスピタリティラウンジ

 ピットビルの裏側、パドックエリアで目を引くのが、新設されたセンターハウスだ。1階はレストランで、名称募集により「SUZUKA-ZE(すずかぜ)」と命名された。今回メニューの一部も公開された。随所に地元三重県の食材が使用され、価格もこの手のレストランとしてはリーズナブルだ。残念ながら試食はなかったので、その味は実際にサーキットで確認していただきたい。2階のスペースもイベントなどに利用できる。

新装されたセンターハウスセンターハウス1階はレストラン。名称はSUZUKA-ZEとなったSUZUKA-ZEには200席が用意される
メニューの一部。地元食材も使われている。価格も比較的リーズナブル

 報道陣が取材の際に使用するメディアセンターはピットビルの2階、コントロールルームとホスピタリティラウンジの間に設置され、400名分のワーキングスペースが用意された。100V、200V電源や有線LAN環境も提供される。また東コースのコース脇のイン側、アウト側にはサービスロードが設置され、レース中の撮影環境等が改善される。このサービスロードはリタイヤしたレーサーがピットに戻る際にも使用される。

センターハウス2階にもイベントスペースが用意された。現在はF1、8耐マシンとマーシャルカーを展示メディアセンター。400席が用意され、電源、ネットワーク環境も提供されるサービスロード(2コーナーイン側)
サービスロード(2コーナーアウト側Bスタンド方面)サービスロード(2コーナーアウト側S字方面)東コース全域にサービスロードが用意された

 この改修されたパドックへは広くなった地下道で行くことができる。グランドスタンド裏からセンターハウス横に通じる地下道は両端にエスカレーター、エレベーターも用意され、ベビーカーや車椅子を利用した方でも用意に移動が可能となった。

グランドスタンド裏からパドックへ向かう入口エスカレーター、エレベーターが用意され、車椅子でも移動可能

 NEW鈴鹿サーキットの最初のイベントが、週末の12日に行われる「“スタート鈴鹿”オープニングサンクスデー F1キックオフパーティー」だ。当日は1963年の第1回日本グランプリを再現するアトラクションや、F1ドライバーの中嶋一貴選手のトークショー、サイン会や鈴木亜久里、中嶋悟氏によるウィリアムズ・ホンダFW11、ホンダRA272のデモ走行が予定されている。ゆうえんち入園料で入場できるほか、鈴鹿サーキット公式ホームページや公式モバイルページで無料招待券や遊園地パスポートの優待券が配布されている。

 翌週末18日、19日には「ケーヒン 鈴鹿2&4レース オープニングスペシャル」が開催され、国内で最も人気の高い4輪レースであるSUPER GTと全日本ロードレースが行われる。より快適に観戦できるようになった鈴鹿へぜひ足を運んだいただきたい。

 

(奥川浩彦)
2009年 4月 10日