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ソフトバンク、2018年3月期決算説明会。通信会社からAIなどを軸足に“群戦略”

「これからライドシェアは急成長していき、自動車産業のあり方を変えていく」と孫社長

2018年5月9日 開催

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長 兼 社長 孫正義氏

 ソフトバンクグループは都内ホテルで5月9日、2018年3月期の決算説明会を開催した。この中でソフトバンクグループ 代表取締役会長 兼 社長 孫正義氏は自身の人生と切り離すことができないソフトバンクグループの今後について「AI、IoT、スマートロボティックスが今一番興味がある」と述べ、これまで軸足としておいてきた通信事業から、Arm買収に象徴されるような、AI、IoT(Internet of Things)、スマートロボティックスといった新しいITの適用範囲に軸足を移していくと説明した。

 すでにソフトバンクグループは、数年前に買収した米国の業界第4位の通信キャリア”Sprint"を、同第3位の”T-Mobile"と経営統合し、経営権をT-Mobileの親会社のドイツテレコムに引き渡すことで合意しており、国内の通信キャリア事業会社ソフトバンク株式会社(以下SBKK)を上場させることなどを計画しており、通信事業にも引き続き関わっていくものの、従来の通信事業が中核というグループ体制から大きく変わっていくことになりそうだ。

ソフトバンクグループは「戦略的持ち株会社」へと変貌していく

 決算説明会の冒頭、2018年3月期の決算についての説明が行なわれた。売上高は9兆1587億円(3%増)、営業利益は1兆3038億円(27%増)、純利益は1兆390億円(27%減)。純利益の減少に関して孫氏は「前期は株の売却益が載った形になっており、さらに将来返ってくるアリババ株のデリバティブ損失という突発的にしか発生しないモノが入っており、それを除けば226%増になる」と述べ、所有株に関わる部分を除けば増えていると考えることができると述べた。

ソフトバンクグループの決算資料

 孫氏はソフトバンクグループの戦略について触れ、「昨年我々は“群戦略”という考え方を推進していくと発表した。それは何だと聞かれることが多いのだが、言い換えれば戦略的持ち株会社となる」と述べ、今後ソフトバンクグループは形を変えていくと説明した。孫氏によれば群戦略というのは、新しい会社のあり方で、子会社となる傘下の企業(必ずしも経営権をもっていなくてもいいそうだ)同士がつながっていき、それぞれにシナジーを出すことで、企業の価値を高めていくという形だということだ。

「多くの会社が創立30年で成長が止まってしまう。私はソフトバンクグループを情報革命という新しい時代の中で300年続く企業にしたいと考えて、この戦略をとることにした」と孫氏は述べ、今後もソフトバンクグループが成長していくのに必要な戦略だと述べた。

ソフトバンクグループの新しい戦略となる群戦略
群戦略の説明資料

 元々ソフトバンクグループは、事業会社のSBKKの持ち株会社という位置づけで、SBKKがよく知られている通信キャリアとしてのビジネスなどを展開するという形になっていた。

 しかし、その形は徐々に変わっており、SBKKは事業会社として上場を目指すことに決まり、「今後は独自のCEOをおいて、独立した会社として運営していく」(孫氏)と、グループの中核会社から、依然として中核会社の1つではあるが、グループ会社の1つという形に性格を変えていくことになる。今、ソフトバンクグループのもう1つの中核企業の1つとなっているYahoo! Japanと同じような位置づけの会社になっていく可能性が高い。

SBKKに関する説明
Yahoo! Japanに関する説明

長期的な視野でSprint/T-Mobileの経営権へのこだわりは捨てた

 そして、先日ソフトバンクグループは、SBKKだけでなくもう1つの傘下の通信キャリアを実質的に手放すことを数日前に発表している。ソフトバンクグループは、傘下の米国で第4位の携帯電話通信キャリア「Sprint」を、第3位の「T-Mobile」と合併し、その経営権をT-Mobileの親会社であるドイツテレコムに譲ると発表したのだ。この合併により、ソフトバンクグループは27.4%の株式を持ち続けるが、経営権は41.7%の株式を持つドイツテレコムに譲り、第2位の株主になる。引き続き役員などは派遣するが、主導権はドイツテレコム側が握ることになる。

Sprint/T-Mobileの合併会社の持ち株比率

 実はこの合併案は昨年も持ち上がり、一度は破談となっている。そのときはドイツテレコム側の条件が経営権の掌握で、わるくても対等か経営権の掌握が条件だったソフトバンクグループ側の条件と合わずに破談になったのだ。今回は成立したということは、つまりソフトバンクグループ側が譲った、ということだ。

 孫氏は「確かに経営権を維持するべきと言ってきたのにそれを手放したということは一時的な恥ではある。しかし、大きな意味での価値が取れるなら恥ではないと判断した」と述べ、長期的な観点に立って、SprintとT-Mobileの合併会社の経営権を手放す決断をしたと述べた。

2つの会社が合併するメリット

 昨年破談したときと今回経営権を譲っても合併することを決めたのとどんな心境の変化があったのかと問われた孫氏は「一言で言うと群戦略、ビジョン・ファンドが素晴らしい立ち上がりを始めたことで群戦略が鮮明になり、関心が群戦略に移っていった。SprintとT-Mobileが合併することにより得られるシナジーが大きく、大きな成果を間にして小さな妥協はあってもいいと飲み込んだ」と述べ、孫氏自身の関心が通信事業から、より大きな群戦略という新しい会社のあり方に移っており、それがSprintの経営権を失っても、合併を認めた最大の理由だと説明した。

SprintとT-Mobileの合併を説明するスライド

Arm、Uberなど新しい形の事業会社に投資

 群戦略を進めていく中で、通信事業に代わって孫氏が今最も興味がある3つは「AI、IoT、スマートロボティックスが今一番興味がある」と述べ、今後はそうした事業を持つ事業者などへの投資を通じて、引き続き情報革命に関与していくと、孫氏は説明した。

Arm、20%増の213億ユニットを出荷

 新しい企業はいくつか紹介されたが、その中でもトップバッターとして登場したのがArmだ。Armは、ソフトバンクグループが2016年に買収した半導体の設計データを半導体メーカーに提供する企業だ。Armが提供しているCPUやGPUといったデザインやIP(知的所有権)は、多くの半導体メーカーが採用している。スマートフォンも、ほとんどはArmのデザイン/IPに基づいたものだ。

 孫氏は「皆さんのポケットに入っているスマートフォンのようななくてはならないものの、ほぼ100%がArmベースになっている。ほかに生活必需品でほぼ100%などという製品があるだろうか……17年度の出荷数では20%増の213億ユニットとなり、世界の人口が70億だから、世界の人が一人で3つ買っていただいた計算になる。そんな企業がソフトバンクグループの傘下だ」と述べ、Armがソフトバンクにとって重要なビジネスになりつつあると強調した。

Arm事業について

 孫氏は「今後ArmのSoCに内蔵するSIMとなるiSIMなども実装されていく。それによりすでにIoTで8割から9割のシェアを持つArmチップの中にSIMが内蔵されて、IoTが通信できるようになる。さらに、Armが始めたProject Trilliumにより、IoTデバイスにマシンラーニングの機能を実装可能にして、今後IoTが自動的にどんどん賢くなっていく」と述べ、IoT時代に向けてArmは多大な投資を行っており、今後もそれを続けていく、Armのエコシステムをさらに発展させていくと述べた。

Armの今後

 そのほか、ソフトバンクグループがUberなどのライドシェアに投資していることについて説明し、「これからライドシェアは急成長していき、自動車産業のあり方を変えていく。その多くの会社、Uber、DiDiなどにソフトバンクは投資しており、すでに1日あたりの乗車回数が3500万回を超えるなど、半公共的な交通機関に成長している」と述べ、Uberなどのライドシェアに投資していることが、近い将来にソフトバンクグループの強みになると説明した。

そのほかの孫氏のスライド

「群戦略」はソフトバンクグループの新しい発明、評価は歴史が下すと孫氏

 最後に孫氏は「群戦略というのは同士的統合グループ。ブランドを統一せず、51%の持ち株比率にこだわらず、世界でナンバーワンの会社だけを集めている。それにより各社がシナジーを出し合っていく。こういうことを意図的に組織論としてやっているのは世界的に見てもソフトバンクグループだで、まさに我々が発明したと言ってもよい。これが正しいか、そうでないかを証明できるのは歴史だけで、私はこのモデルが正しいと思って推進していく」と述べ、孫氏の強いリーダーシップにより、新しい形のソフトバンクグループに作り替えていくとという強い決意を表明した。

最後は群戦略でまとめ

 自動車業界にとっては、自動運転に不可欠のArmベースの半導体、そしてUberのようなライドシェアの企業という意味で、ソフトバンクグループは無視できない存在になりつつある。そのソフトバンクグループは、まさに日米だけのドメスティックなビジネスの通信事業の会社から、ArmやUberなどに象徴されるようなグローバルな複合企業体へと変貌を遂げようとしている。それが成功するかしないかは孫氏の手腕次第だが、自動車産業にとっても無視できない存在になっていくことは間違いないのではないだろうか。