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ゆきぴゅーの「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018」に行って来ましたの
里山の現代アートを巡る最高に気持ちのいいクルマ旅。9月17日まで開催中
2018年9月4日 00:00
- 2018年7月29日~9月17日 開催
世界最大級の現代アートの祭典に行ってきました
Car Watch読者の皆さま、こんにちは。おかっぱのイラストライターゆきぴゅーです。新潟県十日町市と津南町を舞台に3年に1度開催されている「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018」をご存知ですか? 初開催は2000年、今年で7回目を数える世界最大級の現代アートの祭典です。
“トリエンナーレ”という言葉を耳にする度に気にはなっていたものの、大地の芸術祭に1度も訪れたことがなかった私ゆきぴゅーでしたが、今回はアートに詳しいお友達のさつき嬢を誘って行ってきましたの。
なんでも【夢の家】という古民家まるごとアートという宿泊施設に泊まることが9年越しの夢だったというさつき嬢。私は現代アートって正直よく分からないので、観る作品は全面的に彼女におまかせ。現地ではハンドルを握ってドライバー役に徹しました。
ちなみに里山に点在するアート作品数は357点。作品の場所は公式サイトで分かるので、だいたいのルートを決めて、いざ出発ですの~!
大地の芸術祭の展示エリアは十日町市と津南町にまたがる760km2と、とにかく広範囲なんですの(ちなみに東京23区が619km2)。そのため、セレクトバスツアーや2018年から用意されたオフィシャルツアー(2コース)があります。ただ、自分の鑑賞したいアート作品が決まっている人や、自分たちで好きなように巡りたいという人には、やっぱりマイカーやレンタカーがおすすめです。
のどかな里山をゆっくりドライブ
早朝に都内を出発した私たちは、関越自動車道をひたすら北上。六日町IC(インターチェンジ)で一般道に下りてまず最初に向かったのは、越後妻有里山現代美術館「キナーレ」です。ここの目玉はレアンドロ・エルリッヒの【Palimpsest:空の池】。レアンドロさんて誰? という人でも、金沢21世紀美術館の【スイミング・プール】のアーティストと言えばご存知の人もいらっしゃるかもしれませんわね。
この作品は建物の中にある池をまるまる使った壮大な作品で、2階のある場所から見ると、目の前の風景とまったく同じ逆さまの風景が池に! あれあれどうなってるの~!? というもの。実は映って見えるのは池の底に描かれた絵なのです。
思っていた数倍も見応えがあって楽しかったキナーレを後にして、次に向かったのは【うぶすなの家】。うぶすなとは“産土”と書いて、その土地に続く守り神という意味。ここは、地元のお母さんたちが周辺で採れた野菜で作る家庭料理が自慢の古民家です。
ちょうどお昼どきに着いてしまったため、1時間ほど待つことに。そこで棚田米を売っていたおじさんたちに勧められて、近くにある「慶地の棚田」を見に行ってみました。のどかな里山はそんな時間つぶしのドライブも楽しいのです。
2004年の中越地震で被災した築100年近い民家を、陶芸家たちが「やきもの」で再生した【うぶすなの家】は、いわばやきものミュージアム&古民家レストラン。1階にあるかまどや囲炉裏、お風呂、洗面台などは日本を代表する陶芸家さんの作品となっています。
ステキな器で出てくるお料理はどれも“おふくろの味”的で素朴なもの。シンプルな味付けで十分おいしいのは採れたて新鮮野菜だからでしょう。特にみずみずしい小茄子のお漬物のおいしさと美しさにはやられましたわ~。切り盛りする地元のお母さんたちとの会話も楽しめます。
【うぶすなの家】を後にして、再びドライブスタートですの。途中の幹線道路沿いに「ぉおお!? あれは何ですの~!?」と思わずクルマを停めたのがこちら。
一瞬目を疑ったナゾの物体でしたが、こちらはれっきとしたアート作品で、その名も【カードリフターズ】。なんでもサウジアラビアなどでドリフト走行されるクルマのほとんどが日本車だということに着想を得たアーティストさんが、この場所に設置したとのこと。
次なる目的地は、さつき嬢が「ぜひ観たい!」と言ったフィンランドの女性アーティスト、マーリア・ヴィルッカラさんの作品【ブランコの家】ですの。結構な山の中にある古民家で、鑑賞者は家の空間全体を“体験”できるインスタレーション・アートとなっています。
薄暗い家の内部は幻想的に照明が当てられていて、ブランコが揺れていますの。天井を見上げるとたくさんのわらぞうり。“あの神棚はこの家にもともとあったリアルなものかしら?”などと考えながら鑑賞しました。さつき嬢は念願の作家さんの作品を観ることができて満足そう。よかった、よかった。
すぐ近くに【静寂あるいは喧騒の中で】という、これまた“古民家まるまるアート”があるということで行ってみました。
こちらはUFOみたいな赤い輪がある部屋や、青い枠が何本もぶら下がった部屋、グツグツと何かが沸騰して(?)霧が出ている円形の屏風の部屋など、ブランコの家以上のインパクト! まったくもって意味不明なのですが、ゆきぴゅー脳内ではなんとかアーティストの表現を理解しようと努力しながら鑑賞しています。
しかしながら、地元のお父さんが軽トラで畑に向かう途中の、ふとした民家の中がこんなことになっているという現実とのギャップがたまりませんの。このあたりから私、現代アートの自由な表現の奥深さにハマりつつあったような気がしますわ。
お次は私が観たいと思ってルートに組み込んだ【welcome】ですの。カメルーン出身のアーティストさんの作品で、駐車場から少し歩きますが、ここはオススメ! 緑の中に大小いくつものいすが並んでいる風景は、間違いなくインスタ映えスポットです。
黒滝と呼ばれる滝に続く森の中にひっそりと佇むこの作品は、“ようこそ! よく来たね”と言われているような気がしました。あぁ、だから【welcome】なのかと妙に納得ですの。だんだん分かってきました。
【夢の家】に泊まってみた
この日の宿泊は前述した通り、同行したさつき嬢の長年の夢だったという【夢の家】。夢だらけで何がなんだかよく分かりませんが、ここは今までの人生で泊まったどの宿泊施設よりも異空間な体験ができるすごいところでした。作家は旧ユーゴスラビア出身のマリーナ・アブラモヴィッチさんという女性アーティストです。まずは公式サイトの作品紹介文をどうぞ。
----“「夢を見る」ためにつくられた古民家の宿泊施設。昔の里山の生活に浸りながら赤、青、緑、紫の部屋で作家デザインのパジャマで眠り、翌朝見た夢を書き残す。”----
そして「夢を見るため」にゲストが眠りにつくのがこちらの4部屋で、真ん中に箱(どうみても棺桶)が置かれているだけなのです。ヒャー!
「さ、さつきさん、本当にここに泊まるのが夢だったんですの!?」
「そうです、すっごく面白そうじゃないですか! あっ、夢ノートがありますよ、ゆきぴゅーさん。明日これに書くのが楽しみですね♪」
この夢の家にはバスルームもありますが、あくまでも“お清め”のため。石鹸などを使わずにシャワーを浴びたら、水晶の枕のある銅製の浴槽に入って身を清め、寝る時にはポケットに磁石(なぜか12個も!)を入れた夢みるスーツに身を包んで、黒曜石の枕で寝る……と、独特な夢の家のルールがあります。それはすべて作家さんの決めたインストラクション。いかに寝心地をわるくして夢を見させるかを徹底的に考えられていることがスゴイ!
とにかく【夢の家】のひと晩を書き出したら、記事が1本できちゃうくらい長くなりそうなので先に進みますが、一生忘れそうにない宿泊体験だったことは間違いありません。夢!? おかげさまで最高に寝心地わるい環境だったため、朝方にミョ~な夢を見ました。そして忘れないうちに棺桶に入ったままで夢ノートに書いてきましたわ。
清津峡渓谷トンネルの絶景
へんてこりんな夢で清々しい朝を迎えた2日目は、【夢の家】をチェックアウト後、そこから6kmほどの場所にある【最後の教室】へ。ここは1997年に廃校となった松之山町立東川小学校の校舎をそっくり使ったインスタレーション。さつき嬢推薦のフランス出身のアーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーさんの作品です。
最初に入る空間は、おそらく体育館だった場所。いきなり暗い場所に行くので、そのときは全容がよく見えません。スタッフの方が教えてくれた通り、壁づたいに歩いていくと廊下に突き当たって、その廊下を進んで2階へ。「職員室」や「音楽室」などのプレートがそのままになっている校舎の中を進んでいきます。その廊下や階段は薄暗いライトで照らされていてかなり異様な雰囲気。はっきり言って1人じゃ歩けませんわ~。
3階の「音楽室」から響いてくる音がこれまた不気味で、さつき嬢曰く「これってたぶん心臓の音を表現しているんですよね」。たしかにドクンドクンといった鼓動に聞こえますわ~! ますます怖くなってアート鑑賞というよりは肝試しな感覚ですの。
最初の広い空間に戻ってくると、入った時には何があるのか分からなかった体育館の全体が、暗さに目が慣れてよく見えるようになっていました。そこにはたくさんの扇風機と吊るされたオレンジ色のライト。足下は藁が敷き詰められていて、なんとも言えない喪失感が漂っていました。
再びドライブです。松之山エリアから津南町に入った353号沿いを走っている途中に、巨大な建造物が見えてきました。「あれもアート作品ですの!?」と思わず駐車場にクルマを停めてしまったそれは、「トヤ沢砂防えん堤」。平成23年の長野県北部地震で崩落して起きた土石流の対策として造られたものなのだとか。
2015年の大地の芸術祭では、この周辺に土石流が広がった痕跡を黄色いポールで表現した【土石流のモニュメント】が公開されました。
このトヤ沢砂防えん堤のすぐ横に、2018年の新作【サイフォン導水のモニュメント】があるということで行ってみました。アーティストは【土石流のモニュメント】と同じ磯辺行久さん。公式サイトの作品紹介では、“水力発電用の暗渠のなかを流れる水の動きと音を可視化した”との説明されています。
今回私たちが訪れた最後の作品が清津峡渓谷トンネルですの。2018年4月にリニューアルオープンした、トリエンナーレの中でも人気の施設です。駐車場(無料)にクルマを停めて、温泉街を抜けたところに足湯やショップを備えたエントランス施設。その先から続くトンネル入坑口から終点のパノラマステーション(本記事のトップ画像【ライトケーブ】)までは全長750mあります。
途中に3か所ほど見晴所があって、なかでも第ニ見晴所は峡谷の風景を眺めることができるトイレ。縁がオレンジ色に光るUFOのようなものが壁に付けられた第三見晴所は、近未来的で不思議な空間になっています。この清津峡渓谷トンネルは駐車場から往復1時間みたほうがいい場所。大人気の作品のため、駐車場に入るまでが混雑しているようなので、朝早く行くとか時間をずらすなどして調整してみてくださいませね。
ついに終点のパノラマステーションに到着ですの。数々の雑誌やWeb媒体のメイン画像を飾っている作品【ライトケーブ】が目の前に広がって感激もひとしおですわ! そしてここ、向こうの人物はシルエットになるので誰でもカッコいい写真が撮れるのです。本当に見たままの景色がこれなんですの。
清津峡トンネルから関越道 塩沢石打ICまでは約12km。こうして初の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018」の旅は終了したのでした。
“現代アートって抽象的すぎてよく分からな~い”と、食わず嫌いしていたらもったいない。今回、私は1泊2日でまわってみて、アートって“鑑賞”するだけではなく、食べて感じたり、泊まって感じたり、里山の風や空や空気を感じたり、そこにあるすべてのモノと一緒に“体験”することなんだとあらためて思いました。
越後妻有地域をドライブしていると、まったく関係ない農家さんの物置や朽ちかけた空家までもがアート作品に見えてくる瞬間があります。それってきっと感性が普段より敏感になっている証拠。そんな自分自身の変化も楽しめます。そして、カーナビやガイドマップを頼りに、まるで宝探しをしている感覚でアート作品に出会えるというのがクルマでまわる醍醐味だと感じました。
ぜひ皆さまも、9月17日まで開催している「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018」に、お友達やご家族を誘ってお出かけしてみてはいかがでしょうか。私は大自然の中でアートに身近にふれあえる越後妻有が大好きになりました。また行きたい!
なお、クルマでまわるなら「十日町ナビ」というアプリがオススメ。食事処やカフェ、宿泊施設、ガソリンスタンドなどの表示とともに、大地の芸術祭のアート作品の場所がひと目で分かりますわよ~!