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日産、燃費を約25%改善する直列3気筒1.5リッターターボの次世代「e-POWER」エンジン 熱効率50%と約10%アップ

2021年2月26日 発表

日産が明らかにした熱効率50%へのロードマップ

燃費を約25%改善する、熱効率50%の直列3気筒1.5リッターターボ

 日産自動車は2月26日、次世代「e-POWER」向け発電専用エンジンで世界最高レベルの熱効率50%を実現する技術を発表。同日、技術説明会をオンラインで開催した。専務執行役員 平井俊弘氏(パワートレイン&EV技術開発本部 担当)が次世代e-POWERエンジンを含めた日産の電動化戦略を、主管 鶴島理史氏が次世代e-POWERエンジンの技術について語った。

 この次世代e-POWERは、直列3気筒 1.5リッターターボの仕様で現在時点の熱効率は46%を実機検証しており、廃熱回収により48%となり、さらにバッテリ技術の進化で完全定点運転することにより50%を達成するとしている。これは、現在のe-POWER用エンジンの熱効率約40%から10%ほど優れた値となり、燃費的にも約25%改善する見込みと語った。

日産自動車株式会社 専務執行役員 平井俊弘氏

e-POWERとEV、電動化の2つの柱

カーボンニュートラルの実現へ向けて

 平井氏は日産が1月27日に発表した「2050年カーボンニュートラル」の目標設定を紹介。その中で、2030年代早期に主要市場の新型車をすべて電動化車両へすることを目指すとしたことに触れ、その2つの柱が「リーフ」に代表されるEV(電気自動車)と、「ノート」などに用いられているe-POWERだという。

 EVはBEVともいわれ、バッテリでモーターを駆動して走る純粋な電動車両。ガソリン車に比べると製造段階から比較しても圧倒的にCO2排出量が小さく環境に優しいクルマとして普及が進んでいる。難点は価格や充電、バッテリのライフサイクルコスト、航続距離などが挙げられているが、これらは急速に改善が進んでおり、量産EVにおいては日産が世界でも先頭を走っている。

 その日産がすでに市場に投入しているもう1つの電動化技術がe-POWER。エンジンで発電し、その発電した電気でモーターを駆動して走る、いわゆるシリーズハイブリッド車だ。こちらもすでにノートやセレナなどベストセラーカーで導入されており、この分野でも日産は先頭を走っている。EVと比べると内燃機関を使用するため当然ながらCO2排出量が多くなる。とはいえ、通常のガソリン車などと比べるとCO2排出量は少なく、電動化車両の1つに位置付けられる。将来的に、内燃機関のみのクルマでは売ることが難しくなるなか、期待されている分野でもある。

パワートレーン戦略
CO2削減アプローチ
EVの進化
バッテリ循環社会

 今回、日産が発表したのは、そのe-POWERに用いる内燃機関の性能向上。内燃機関では燃料から発生するエネルギー(熱エネルギー)をどれだけ運動エネルギーとして取り出せるかが性能指標となり、それを熱効率と表現している。たとえば、今の一般的なガソリンエンジンでは、燃料を燃やしても冷却水で冷却したり、摩擦に使われたりで、熱効率は30%~40%というものが多い。日産の新技術ではそれを世界最高レベルの50%へと引き上げる。

 この50%という目標について平井氏は、「切りがいいから50%というのもありますし、チャレンジングな目標としての50%」と語り、10年以上前から取り組んできたという。また、この熱効率50%となることで、LCA(ライフサイクルアセスメント)としてのCO2発生量が、現在のバッテリ技術を用いて現在の日本の発電から充電するリーフと同等になってくるとする。現在のバッテリは製造時にCO2が排出され、しかもリサイクルの割合も低く、ある程度のCO2がカウントされる。また、発電に関しても日本の発電所は火力発電所の割合が高く、発電時にCO2排出量がカウントされ、そのミックス電力で充電するリーフは走行時にCO2の排出量はゼロだが、充電時にCO2がカウントされてしまう。もちろんこれらの問題は、将来的にバッテリのリサイクルが確立され、発電の際に再生可能エネルギーが多く使われることによって改善されていくのだが、熱効率50%の発電エンジンを持つe-POWERであれば、単純計算でそのような想定もできると紹介した。

e-POWERとは?
e-POWERの魅力
e-POWERの進化
進化の意義

 いずれにしろ、内燃機関だけのクルマと比べるとCO2排出量は少なく、日産はこの2つの電動化技術でのクルマ作りを行ない、モーターで駆動するクルマ、つまりxEVと呼ばれる電動化車両をラインアップしていき、効率改善を進めていくという。

直列3気筒1.5リッターターボの次世代「e-POWER」エンジン

日産自動車株式会社 主管 鶴島理史氏

 熱効率50%を実現する直列3気筒1.5リッターターボの次世代e-POWERエンジンに注ぎ込まれた技術については、鶴島氏が説明。熱効率を上げるための手段としては、「高圧縮比化」「比熱比を上げる」というものがあるという。そのうちの1つである、比熱比を上げるために高希釈燃焼・高EGR燃焼を用いているとのこと。その際の問題点としては、燃料が少なめの混合気となるためプラグの火花が着火しにくく、燃焼が燃え広がりにくくなる。これに対して、新燃焼コンセプト「STARC」(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel:スターク)を開発。燃焼室内で上下方向の混合気流、つまりタンブル流を作り、ピストン上昇時(圧縮行程)でもタンブル流を維持。鶴島氏によると、「タンブル流の中心を維持」しつつ「1秒間に20回、風を吹かせる」ことで着火炎を制御。「適度に伸長した放電チャネルを安定して形成する」ことで、必要な燃焼を実現している。

 これにより、EGR 30%の燃焼で熱効率43%を達成。空燃比30で熱効率46%を達成したという。EGRは燃え残りの燃焼ガスなので、一般的に酸素の少ない不活性ガスと位置付けられており、30%もEGRをかけた状態でも燃焼。さらに、空燃比については14.7が理想的な割合(ストイキオメトリ、ストイキと略す場合が多い)とされており、空燃比30ということはλが2を超える領域で燃えていることになる。少ない燃料で燃焼を行なうことに成功しているわけだ。

 鶴島氏は電動化の時代でもこうした燃焼技術の開発は必要なものであるとし、エンジニアの信念と情熱の大切さを紹介した。

熱効率50%
e-POWERでなぜ燃費をよくできるのか?
エンジンの使われ方
キー技術
高希釈燃焼
高希釈燃焼の技術課題
STARC燃焼
STARC燃焼の可視化
STARC燃焼の実機検証

気になる発売時期は?

 現在のe-POWERエンジンよりも熱効率を約10%改善する熱効率50%の次世代e-POWERエンジンの発売時期だか、平井氏によると「将来の製品計画については……」と未定。ただ、平井氏の発言の中で、e-POWERエンジンのCO2排出量について「2025年に同等にできればと考えている」というのがあったこと、「2030年代早期に主要市場の新型車をすべて電動化車両」と企業公約していることから、2025年~2030年にかけて何らかの新型車に搭載されていくと思われる。

 日産としては、EV、e-POWER、この2つの電動化車両の効率を改善していくとともに、モーター駆動ならではの乗り味を高めていくことで、世界的に環境対応を図っていく。

エンジニアの情熱