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トムスとデロイト トーマツが進める包括的協業の共同記者発表会レポート
新しいモビリティサービス分野について双方の企業が持つ特徴を生かしていく
2021年4月1日 08:00
- 2021年3月30日 開催
グローバル人材育成とレースデータ分析分野からスタート
SUPER GTなどモータースポーツへの参戦やトヨタ車用の各種カーアイテムを製造、販売するトムスは、フィナルシャルアドバイザーサービスを手がけるデロイト トーマツ フィナンシャルアドバイザリー(以下、デロイト トーマツ)と協業を進めていく内容の契約を交わした。
今回契約を交わした協業では、新しいモビリティサービス分野について双方の企業が持つ特徴を生かしていく内容となっているが、第1弾として取り組むのがスーパーフォーミュラ・ライツに参戦するジュリアーノ・アレジ選手へのレーススポンサーを通じたグローバル人材育成、およびレースデータ分析分野となる。
そして4月より開始されるこの協業に関する記者発表会が、3月30日に東京にて開催されたので、本稿ではその内容を紹介していく。
最初に取り上げられたのはレースの中でのグローバル人材の育成とレースデータ分析について。トムスは以前からレーシングドライバーの育成に力を入れていて、多くの有力ドライバーがトムスより羽ばたいている。そこでこの協業でもドライバーの育成が重要な項目となっているが、その対象に選ばれたのが日本でも人気の高い元F1ドライバーのジャン・アレジ氏と女優の後藤久美子さんの子息であるジュリアーノ・アレジ選手だ。
アレジ選手は欧州でF4選手権やFIA-F2選手権というフォーミュラカーレースを戦ってきた経験を持っているので、日本ではステップアップしたレースへ参戦することを希望していたという。しかし、アレジ選手の日本進出の受け皿となったトムスの舘会長が提示したことはスーパーフォーミュラ・ライツ(元F3)への参戦。
この条件を提示したときの状況について舘会長は「もしかすると彼のプライドを傷つけたのではないだろうか、話をしたあとの彼の機嫌はあまりよくなかった覚えがある」と語った。ただ、日本のスーパーフォーミュラやSUPER GT(GT500クラス)は自動車メーカーがとても力を入れているジャンル。そうしたことを踏まえて舘会長はアレジ選手のこれらのレースへの参戦は、ドライバーとしてキャリアを積んでいくうえで時期が早いと判断したという。ただ、アレジ選手が日本でレースをすることの意義は感じていたので、どのような道が最適かを考えた結果、スーパーフォーミュラ・ライツへの参戦を提案したとのことだった。
一時は返答を保留したアレジ選手だったが、のちに電話で「スーパーフォーミュラ・ライツをやりたい」と返答してきたことから舘会長も「経歴やプライドにこだわるのではなく、前を向いている姿勢を感じたのでわれわれもそれに応えていこうと思いました。初年度からチャンピオンを取るのは難しいかもしれませんが、それでもチャンピオンを目指していきます」と説明をした。
さて、ジュリアーノ・アレジ選手のスーパーフォーミュラ・ライツ参戦に関してデロイト トーマツが期待していることに関してだが、これは単純にスポンサーという面もあるがレースにおける各種データの分析を行ないレースをフォロー。さらに、そこで得たデータを他の分野にきちんとビジネスとして展開していこうという考えがあるという。
この件についてトムスの谷本氏も「トムス側の視点からもご説明させていただきます。私が着任させていただいたのは3年前ですが、まず最初に感じたのが現代のレースから取れている絶対量に対して活用できている量、質とも非常に少ないことでした。そこで今後はレースで得た情報を活用するチームになっていこうと思い、ここ3年はデータ分析に力を入れてきました。とはいえ、それでも取れているデータの量は限られていました。ここには大きな問題が2つあると感じています。1つはハード、ソフトを含めた機材の問題です。もう1つは分析する人材がわれわれの業界内だけでは足りていないということです。こうした状況に対してデロイト トーマツさんとのお話があったということです。現在も多くのデータは取れていますので、それをデロイト トーマツさんが持たれている知見や人材を投入していただいて、成果に繋がっていくことを期待しているということです。F1の世界では相当多くのデータが活用されていると思いますが、国内レースではまったくと言っていいほど活用されていないので、そこをトムスがイニシアチブを持ってやっていき、業界全体にいい意味でデータ活用の潮流が作れるようにと考えています」と説明した。
レース活動だけでない協業の内容とは
トムスとデロイト トーマツとの協業はレースに限ったことでない。冒頭でも紹介したとおり7つの項目があって、そのうち5つはレースとは別のものである。そこでここからは残る5つの概要を紹介していこう。最初はオートパーツメーカーへの事業承継支援についてだ。
現在オートパーツメーカーにおいて、経営者の高齢化からくる事業承継の問題が多く発生しているという。トムス自体も舘会長の代から事業をどう承継していくかの問題があったとのことだ。こうした悩みを持つ企業がこの業界には多くあるので、そこに対してデロイト トーマツが持つノウハウやネットワークを活かすことで事業承継の問題の解決に取り組んでいくというものだ。
次は「EV技術等の開発、EVカート場の設置」について。トムスではここ2年ほどEV技術へ強く注目しているとのこと。世界的に見てもEV化の流れは大きく、人々が乗るクルマとして各種の電動車が増えていくのは間違いのないことだ。それだけにトムスとしてもなんらかの技術を送り込みたいし、社会貢献もしていきたいことから基礎研究を続けていて、その中の1つに「EVカート」を作るためのプロジェクトチームを社内に立ち上げているという。
ここでは多くの人が運転を楽しめるライトなEVカートを作っていくことをまずは実行していき、EVカートを楽しめるカート場の設立、および確保を含めて近年のうちに実現していきたいとのことだった。
そして、その延長にEVレーシングマシンの開発も考えていて、その際にはレース分析から得たデータを活かしたAIを用いてレーシングカーの自動運転などの実験もやっていきたいということだった。なお、トムス側だけでなくデロイト トーマツの2人もクルマ好きとのことで、このEVカートに関してはとても話が盛り上がっていた。
E-Sportsとは今回の取り組みではE-MotorSportsのこと。そしてこのE-MotorSportsが他のE-Sportsと比べて決定的に違うのは、リアルとバーチャルの境がかなり近いところだという。そこでモータースポーツファンの裾野を広げる意味でE-MotorSportsを活用していくという。
また、モータースポーツへの参加についてもリアルが入口であるより、E-MotorSportsからのほうが手軽に始めることができるので、その面でもE-MotorSportsは有効であるという考えているそうだ。
なお、JAFが新たに設定した「デジタルモータースポーツ部会」では、初代の部会長にトムスの谷本氏が就任。そのためJAFの立場からもE-MotorSportsを普及させる取り組みをしていくという。
デロイト トーマツはサッカーのJリーグなどですでにこうした点の普及活動や支援を手がけているとのことだが、リアルとバーチャルの結びつきが強いE-MotorSportsには大きな興味を持っていて、さらに運転シミュレーターとしての発展も期待しているという。運転免許取得のためだけでなく高齢者の運転技能検定などにも生かしていけるとのことだった。
総務省が進めるスーパーシティ構想でもある地方創成、地方復興のような話に対してもこの協業では取り組んでいくという。内容としてはEV車を多くの人になじんでほしいということが挙げられ、トムスが開発しているEV技術やEVカートが活用されるという。
また、これから多くの場所に建設されていくスマートシティ内でEV技術が使われたり、EVカートを走らせるためのコースを運営したりも考えているとのこと。なお、この点は掘り下げていくと非常に深い部分まであることなので、今後はよりよい活用法を議論していくという。とにかく多くの都市と協業が持つ力が結びつく運営が進むよう取り組んでいくとのことだった。
今回のトムス、デロイト トーマツの協業は個別の目標、目的はあるが、大きい括りでは「グローバル社会でのインフラにどう貢献できるか」というテーマになっている。その中で大きな課題としているのが、オートメーカー全般のESG(Environment/環境、Social/社会、Governance/ガバナンス)戦略について。自動車は社会の重要なインフラであるが、対して乗る人のバイタルデータ、そしてクルマからのメカニカルデータはどのような貢献ができるのかという視点も含めた企業のESG戦略を提案していきたいという。
以上がトムスとデロイト トーマツとの包括的協業の共同記者発表会の内容。これまでのモータースポーツ系スポンサーシップの発表会とはかなり違った内容であるが、ひと言で言うと、今後の進み方が非常に興味深いものだった。モータースポーツファンはもちろん、これまでモータースポーツにあまり興味のなかった方も、この2社の取り組みの進捗を見ていたら、それぞれに感性、考え方に合う新しい面白さが発見できるかもしれない。ジュリアーノ・アレジ選手のスーパーフォーミュラ・ライツ参戦とあわせてこの協業に注目してはいかがだろうか。