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マツダ、ロードスター・パーティレースを支えるブリヂストン 佐々木雅弘選手とともにタイヤ講習

マツダ「ロードスター・パーティレース」のテストを岡山国際サーキットで開催

ロードスター・パーティレース

 4月4日、岡山国際サーキット(岡山県美作市)でマツダ「ロードスター・パーティレース」の西日本シリーズ合同テストが行なわれた。パーティレースは、マツダのオープンスポーツカー「ロードスター」を使ったワンメイクレースでレースが初めての人でも参加しやすいイベント。北日本シリーズ、東日本シリーズ、西日本シリーズが行なわれ、シーズン終盤には日本一を決める全日本戦が行なわれ、グラスルーツレースの代表格として、多くの人に広く愛されている。

 このパーティレースにコントロールタイヤとして採用されているのがブリヂストンの「ポテンザ アドレナリン RE004」になる。クルマのポテンシャルにおいて、地面と唯一接する場所となるタイヤは、そのポテンシャルがレース結果を大きく左右する。そのため、多くのレースでは1社のタイヤ(ワンメイクタイヤ)とすることで、激烈なタイヤ競争が起きるのを防いでいる。ブリヂストンが参戦していたF1も、激しいタイヤ戦争時代からコントロールタイヤへと移行した。

 逆に言うと、激しいタイヤ戦争によりすさまじい開発競争が行なわれているSUPER GTや86/BRZ Raceのプロクラスは世界的に見ても珍しく、それが国内で行なわれていることで、国内タイヤメーカーの技術力は世界的にもトップクラスにある。

 パーティレースはアマチュア向けに楽しいレースを行なう場所であるため、コントロールタイヤとして使えるのは「アドレナリン RE004」のみ。そこには激しいタイヤ開発競争はないが、先述したようにタイヤの性能はレースにおいて支配的。レースに使える車両はマツダのロードスター、そしてタイヤはアドレナリン RE004のみなので、起きているのは「クルマをいかにうまく使うか」「タイヤをいかにうまく使うか」という競争であるようだ。

ROADSTER Party Race Official Web Site

https://www.party-race.com/

西日本シリーズ合同テスト

パーティレースを運営する株式会社ビースポーツ 代表 三城伸之(ブレインズモータースポーツクラブ事務局長)氏

 今回、行なわれたのは西日本シリーズの合同テスト。シーズンが始まる前にいろいろなことを試せる機会であり、約20名がおのおののロードスターで参加した。パーティレースを運営するビースポーツ 代表 三城伸之(ブレインズモータースポーツクラブ事務局長)氏によると、パーティレースは参加しやすい手軽なレースであることもあって、2021年シーズンは初めての参加者も多いという。その中には、レースゲームやレーシングシミュレータを使って争われているeモータースポーツで腕を上げ、実際のクルマに乗れる年齢になったことから参加したという若者もいた。

 三城氏は、2021年シリーズの大きな変更点としてタイヤに関するものがあるという。2020年はアドレナリン RE003からアドレナリン RE004への移行期だったため、2種類のいずれの使用も可となっていたが、2021年は購入しやすいアドレナリン RE004のみ。そして、パーティレースではクルマで来て、レースをして帰る人もいるため、タイヤの主溝の深さが4mmとなった。以前から、「レース終了時にタイヤのスリップサインが出ていないこと」という規定はあったが、タイヤのブロックのよれを嫌って、タイヤのブロックを薄くして参加する人も多く、結果として溝の深さがないためにちょっとしたウェット路面になると、コース外に飛び出すなど望ましい状況ではなくなっていた。安全にレースを行なうという観点からルール変更を行なった。つまり、タイヤのブロック高が高くなったことから、よりタイヤをうまく使う必要が出てきたわけだ。

レーシングコースにおけるポイントを解説する株式会社TCR 加藤彰彬氏
参加者のサポートを行なっていくマツダ株式会社 カスタマーサービス本部 小早川隆浩
特別ゲストとして紹介され、タイヤの使い方について語る佐々木雅弘選手

 そのような背景もあり、ブリヂストンはアドレナリン RE004をうまく使ってもらおうということで合同テストにワークス(といっても2名)参加。ブリヂストンのスポーツタイヤ「ポテンザ」シリーズの開発ドライバーである佐々木雅弘選手を送り込み、タイム比較、タイヤの使い方講座などを実施した。

グラスルーツレースを盛り上げたいブリヂストン

グラスルーツレースを支えることで盛り上げていきたいという、株式会社ブリヂストン モータースポーツ推進部 武田洋平氏

 ブリヂストン モータースポーツ推進部 武田洋平氏によると、ブリヂストンとしてパーティレースに協力しているのは、グラスルーツレースを盛り上げたい、支えたいという思いがあるからとのこと。もちろんタイヤメーカーである以上、タイヤ販売を大きくしていくというのも1つの理由ではあると思うが、それ以上に「モータースポーツを盛り上げていきたい」「タイヤをもっと深く知ってほしい」という思いを感じた。

 アドレナリン RE004は、先代のアドレナリン RE003に比べウェット性能を強化。ハンドリング性能なども伸ばしてあるという。そのため、独立したブロック部分が先代に比べて多くなり、単純にタイムを出すという面だけで見ると、よりテクニックが要求されるタイヤになっているという。

 今シーズンはアドレナリン RE004のみとなったために、とくにその使い方が成績を左右する要素になる。そのため、テストイベントでタイヤの使い方講座などを実施し、より安全に、より楽しく、そしてよいタイムをというのを目指していた。

驚異的な佐々木雅弘選手のアタック能力、そして講義で赤旗がゼロに

雨の中、走行へと向かう各車

 4月4日の岡山国際サーキットは雨。路面はヘビーウェットになっていた。この合同テストでは2本の走行枠が確保され、多くの参加者は1本の走行にチャレンジ。ヘビーウェットのためか、コース外に飛び出す人もいて赤旗中断などが起きていた。ブリヂストンは佐々木雅弘選手との乗り換えによるデータ比較というプログラムを用意していたが、その対象参加者も1コーナーで飛び出してしまい、佐々木選手の走行時間は4分に。しかしながら、佐々木選手はアウトラップ1周の間に状況をつかみ、わずか1周のアタックラップで全参加者中最速となる2分13秒839というタイムをたたき出した。

 実は佐々木選手との乗り換えデータ比較のための協力してくれた参加者は、eモータースポーツからリアルなクルマのレースに転身するために、今シーズンからパーティレースに参戦した岡田衛くん。それまで富士で走ったことがあるだけで、岡山は初めて、ウェットは初めてという状態で全参加者中で中位に位置するタイムを出していた。雨で、初めてのサーキットで、コースを飛び出すほど攻めることができる岡田くんもすごいが、わずか1周で全参加者のタイムを飛び越える佐々木選手もすごいと思えた1本目だった。

データロガーのデータを見せながらウェットブレーキについて解説する佐々木選手

 この1本目の後、佐々木選手によるタイヤの使い方講座が行なわれた。本来は、ドライによるアドレナリン RE004の走り方を想定していたが、ヘビーウェットでの走行になったためウェット走行講座へと変容、そこでは佐々木選手による驚くべきノウハウが語られた。

 佐々木選手は岡田くんと自身のデータをロガーで示し、ブレーキの踏み方に大きな差があると指摘する。佐々木選手はコーナーの手前から弱く踏んでいるのに対し、岡田くんはコーナーの直前で強く踏んでいる。そのため岡田くんの走行ではABSが効いてしまい、結果的にタイヤのグリップを失っているという。佐々木選手は、この手前から弱くブレーキするという操作を強調、ABSが効かないようなブレーキングを行なうことでタイヤを回し、タイヤを発熱させることでウェットにおけるタイヤのグリップを上げていけるとした。

 そのほか、雨の岡山国際で有効なライン取りの考え方、雨で有効なタイヤの空気圧設定など数々のノウハウを惜しげもなく披露。車載映像も公開し、雨のライン取りやステアリング操作の方法を講義していく。詳細な講義内容はブリヂストンの「モータースポーツ Web」で公開される予定とのことで、気になる方はチェックしてみてほしい。

ブリヂストンモータースポーツ

https://ms.bridgestone.co.jp/4/

 この講義の後、2本目の走行が始まった。驚くべきはこの2本目の走行で、岡田くんは1本目のタイムから2秒タイムを縮めることができているほか、「手前から弱くブレーキする」ということを参加者が行なっているためかコースから飛び出す人がいない。結果として1本目は数回出ていた赤旗中断が、2本目はゼロ回となった。

佐々木選手と岡田くん。岡田くんは、初の岡山、初のウェットで19台中11位のタイムを記録。eモータースポーツ出身の若者

 つまり、ヘビーウェットという厳しい状況でありながら、より安全に、より速くという走行が全参加者行なえていたことになる。この2本目で佐々木選手は広報車両(といってもワンメイクのため特別に速いわけではなく、ステッカーの貼り方見本のようなクルマ)でタイムアタック。1本目のタイムをさらに上回る2分12秒138というタイムを記録していた。2位のタイムが2分15秒028だったので、プロドライバーである佐々木選手の能力のすさまじさが分かる。

佐々木選手によって2分12秒138という最速タイムを記録した後のアドレナリン RE004。タイヤの表面もきれいで、佐々木選手がいかにうまくタイヤを使っているのかが分かる

 ただ、その速さより驚いたのは教え方のうまさ。実はこの合同テストにはマツダの開発者の人も参加していたのだが、佐々木選手は開発の現場で使っている言葉をうまく言語化している方だという。路面の話や荷重による姿勢の話などをすることで、参加者に雨のときのクルマの動きを理解してもらい、それが赤旗ゼロにつながる。

 佐々木選手の講義を聞いた後の参加者の雰囲気がアグレッシブに変わっていたので「もしかして赤旗一杯でちゃうかな」との記者の予測をよい意味で裏切ってくれた。そして、赤旗がゼロにもかかわらず、ほとんどの人が数秒のタイムアップを実現。佐々木選手のタイムもすごかったが、教え方もすごかった合同テストとなっていた。