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SUPER GT参戦タイヤメーカーに聞く 横浜ゴム清水倫生氏と白石貴之氏は新構造タイヤをベースにファインチューニングで戦うと

横浜ゴム株式会社 理事 タイヤ製品開発本部 副本部長 MST開発部 部長 清水倫生氏(左)、同 MST開発部 技術開発1グループ グループリーダー 白石貴之氏(右)

日本のモータースポーツ、SUPER GTを足下から支える横浜ゴム ADVANブランドを訴求

 SUPER GT参戦タイヤメーカーインタビューとして、横浜ゴム 理事 タイヤ製品開発本部 副本部長 MST開発部 部長 清水倫生氏、同 MST開発部 技術開発1グループ グループリーダー 白石貴之氏に話をうかがった。

 横浜ゴムは1917年(大正6年)創業と老舗のタイヤメーカーで、グローバルにタイヤビジネスなどを展開している。そうした横浜ゴムは、モータースポーツとは切っても切れない関係にある。

 1970年代後半から同社のスポーツタイヤブランドとして「ADVAN(アドバン)」が導入され、当時の全日本F2選手権や、JSPC(全日本スポーツプロトタイプカー選手権)などのシリーズに、黒と赤のADVANカラーで参戦し、JSPCで高橋国光選手(当時、現在はTEAM KUNIMITSUの総監督を務めている)が連続チャンピオンに輝くなどしてまさに「ADVAN旋風」を巻き起こしたことは当時を知るオールドファンであれば懐かしい記憶ではないだろうか。

 その後も横浜ゴムはADVANブランドでSUPER GTなどのトップカテゴリーに参戦しているほか、全日本ラリー選手権や全日本ダートラ選手権などのグラベル競技にも積極的にタイヤを供給。グラスルーツ(草の根)と呼ばれる全日本格式ではないようなモータースポーツにも積極的にタイヤの販売を行なうなど、日本のモータースポーツを足下から支える存在だ。

 そうした横浜ゴムのモータースポーツ活動の大きな柱は全日本スーパーフォーミュラ選手権へのタイヤの供給だろう。日本のトップフォーミュラとなるスーパーフォーミュラはその前身や前々身などを計算に入れると、実に50年近い歴史を誇る選手権になっている。横浜ゴムは2016年からこのスーパーフォーミュラにワンメイク供給を開始しており、今シーズンで6シーズン目に突入している。

 その直下のカテゴリーと位置づけられている全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権に対してもワンメイクタイヤ供給を実施。前身となる全日本F3選手権の頃(2011年~)から数えると、すでに11シーズン目に突入している。日本の若手ドライバーの多くはF3/スーパーフォーミュラ・ライツを経由してスーパーフォーミュラやSUPER GTなどにステップアップしていくので、現在両選手権で活躍している若手ドライバーの多くはそうした横浜ゴムのタイヤで成長し、上のカテゴリーにステップアップしていったことになる。

 そして、今回の主題であるSUPER GTでも、横浜ゴムがなければ選手権が成り立たないと言ってよい存在だ。GT500では19号車 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/宮田莉朋組)、24号車 リアライズコーポレーション ADVAN GT-R(高星明誠/佐々木大樹組)という2台に供給しているだけでなく、GT300ではシーズンにフル参戦している29台のうち、横浜ゴムのユーザーチームだけで19台もある。実に約65%の車両が横浜ゴムのタイヤを履いている計算になる。仮に横浜ゴムがGT300のタイヤ供給を止めた場合、シリーズが成り立たなくなるのは想像に難しくない。

第4戦もてぎでは速さと強さを見せた19号車 WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/宮田莉朋組)

GT500では構造とコンパウンドの両方を見直して一発だけでなくロングランのペースを改善している

──2020年シーズンのSUPER GT活動を振り返ってどうだったか?

白石氏:昨シーズンはコロナ禍の影響が大きくあり、前半戦のうちに予定していたテストができないという難しい状況の中で、7月にシーズンが過密スケジュールでスタートした。1つのレースが終わればすぐに次のレースの準備をするような時間に追われる状況の中で、やりたいと思っていたことができないというもどかしいシーズンになってしまった。

 しかし、そんな中でもGT500ではレース前の練習走行の時間を使ってチーム側にいくつかの新しいトライをしていただき、後半戦ではそれが少しずつ数字として表われるようになっていった。

 GT300に関しては、2019年の後半からトライしてきたことを中盤以降に実戦に投入して結果につなげることができた。最終的には56号車 リアライズ日産自動車大学校 GT-Rがシリーズチャンピオンを獲得することができた。

──その新しいトライとは具体的にはなんだったのか?

白石氏:GT500に関しては構造(コンストラクション)とコンパウンドの両面で取り組んだ。それに対してGT300では主に構造の方を取り組んだ。

 GT500に関しては他社に対して追いついていない部分が沢山あるという認識の元両方をやっていく必要があると考えていたからだ。それに対して、GT300では一部部分的によい結果が出ているところもあり、それを活かしたまま構造の方を改良していくことで強みを出していきたいと考えた。

 GT300では予選一発よりも後半に追い上げていけるタイヤであることが強みであると認識しており、そういうタイヤの中でベストに近づけるように開発をしている。GT300のチームともそういう強みを活かしたセッティングを重視していただくようにお願いしている。一発のタイムも狙うと、スティントの後半にガクッと落ちるようなことになっているので、無理して二兎は追わずにレース重視のタイヤ作りを目指している。

──横浜ゴムはGT300で19台という最多数を占めている。しかし、逆に言えば、それだけの台数、車種をカバーしなければいけない難しさもあると思うが……。

白石氏:それはそのとおりだが、現在では開発に協力していただけるチームに、タイヤメーカーテストなどでテストをしていただき、そこでよいモノが見つかればほかの車両へ展開していくという形を採っている。ご存じのとおり、我々のユーザーチームはFIA-GT3もあればJAF-GTもあり、そしてマザーシャシーもあるとバラエティに富んでおり、駆動方式もFRもMRもあるので、そうしたさまざまな車両に合わせ込んでいくことが重要だ。

 そして19台もあると、単純にタイヤの数だけでも大変だ。ほかのタイヤメーカーさんは供給数を絞られておられるのでターゲットを絞りやすいと思うが、横浜ゴムとしては長年SUPER GTに協力させていただいているということもあるし、技術を向上させている部分とGT300全体をできるだけ盛り上げていくというバランスを取ることが重要だと考えている。

──今シーズン序盤の2戦を終えた感想は?

白石氏:第2戦 富士に関して言えば、19号車 WedsSport ADVAN GR Supraがポールポジションを獲得して、できすぎかと思っている。シーズンオフからいろいろ取り組んできたことが成功しており、少しずつだが成果が出てきている。

 今シーズンに導入した新しい構造が功を奏してきており、一発のタイムでは大きな改善が確認できた。今後もそれをベースにしてファインチューニングをしていく。決勝レースに関しては、最終的に7位になったので落ちたように見えたかもしれないが、実は第3スティントの後半はトップに近いタイムで走れていた。一発だけでなくロングランも両立できるという手応えを感じたレースになった。

 GT300に関しては開幕戦で56号車 リアライズ日産自動車大学校 GT-Rが昨年からの調子を引き継いで優勝することができた。

2021年シーズンは新しい構造を採り入れたと語る白石貴之氏

──今シーズンの開発方針に関して教えてほしい。

白石氏:昨年からの課題として、GT300のミッドシップ車両などの前後でサイズが違うような車両でのフロントタイヤの性能強化という課題の克服に取り組んできた。GT300、特にFIA-GT3では車両側のスペックでタイヤサイズが決まっている。GT-Rなどでは前後とも同じサイズだが、ミッドシップの車両などでは前後で幅などのサイズが違うタイヤを使っている。そうした車両でのパフォーマンスに課題があることを認識しており、その改善を昨年から段階的に行なってきたが、6月のテストでそうしたフロントのサイズが狭い車両でもよいものが見つかりつつある。

 今回のもてぎ戦の練習走行でミッドシップ車両である88号車 JLOC ランボルギーニ GT3がトップタイムをマークしたのもそうした取り組みが上手く行きつつあるからだと認識しており、今後もそこを改善していきたい。

──横浜ゴムがモータースポーツに参戦するのはなぜか?

清水氏:横浜ゴムではモータースポーツに重きを置いて活動している。国内ではこのSUPER GTやスーパーフォーミュラなどのトップカテゴリーはもちろん、ラリーやダートラ、そしてグラスルーツなども含めてレーシングタイヤの供給を行なっており、そうした活動をしているのは何よりモータースポーツファンのみなさまのご期待に応えるためだ。

 その昔にADVANブランドを立ち上げたことが大きく影響しており、そこに熱心なコアのファンの方がついてくださっており、そうしたファンのみなさまとのコミュニケーションツールとしてモータースポーツは欠かせない存在。社内でもそうしたコンセンサスができあがっている。

横浜ゴムとってモータースポーツは、欠かせない存在だと語る清水氏

──市販タイヤへのフィードバック技術などはあるのか?

白石氏:具体的にこれというものがある訳ではないが、市販タイヤやOEM用のタイヤに対してモータースポーツ活動から技術をフィードバックしている。耐久性や操縦安定性とかの技術がモータースポーツから市販タイヤに対してフィードバックされている。

──今シーズンの目標は?

白石氏:GT300に関してはシリーズチャンピオンを狙っていく。GT500に関しては昨年表彰台が1回だけという結果だったので、それを増やしていきたい。

第4戦ツインリンクもてぎのレースではGT500の19号車 GR Supraがロングランペースを証明して2位に

 このインタビューが行なわれた後に実施された第4戦ツインリンクもてぎの予選では19号車 WedsSport ADVAN GR Supraが予選2位となり、第2戦富士に続いて一発の速さを証明してみせた。そして、その翌日に行なわれた決勝レースでは、19号車はレースの初めから終わりまで優勝した1号車と激しい首位争いを展開し、惜しくも2位となった。白石氏が言っていた、決勝のロングランペースも大きく改善されていることがレースペースから証明されたと言っていいだろう。

 GT300ではポイントリーダーだった56号車 リアライズ日産自動車大学校 GT-Rがノーポイントに終わったため、ポイントリーダーの座から陥落してしまったが、それでもランキング3位で、かつ首位とのポイント差は1点に過ぎず、まだまだ十分にチャンピオンが狙えるポジションに位置している。

 今後も着実にポイントを獲っていくことが重要になるし、白石氏が言うとおりタイヤ開発が進展することでGT-R以外の横浜ゴム勢の巻き返しがあれば、残り5戦でさらなる勝ち星などが期待できるのではないだろうか。