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ブリヂストン、「鳥取宇宙産業創出シンポジウム(宙取祭)」で月面探査車用タイヤの鳥取砂丘実証実験を報告

ブリヂストンが鳥取砂丘で実証実験を行なっている月面探査車用金属タイヤの模型

月面用タイヤの開発は、新ビジネス創設と持続可能なモビリティ実現

 ブリヂストンは7月30日、鳥取県鳥取市で行なわれた「鳥取宇宙産業創出シンポジウム(宙取祭)」に参加し、同社がJAXAやトヨタ自動車などと協力して開発している月面探査車用タイヤの、鳥取砂丘での実証実験に関して説明を行なった。

 ブリヂストン 次世代技術開発第2部 今誓志氏は「月では空気がないのと、摂氏マイナス170℃にも耐えないといけないため、ゴム製のタイヤは難しい。そこで金属製のタイヤを試作した」と述べ、スプリング構造を持つ金属製タイヤを試作し、鳥取砂丘で実証実験を行なっている段階と説明した。

月面探査車用金属タイヤの模型を持つ、株式会社ブリヂストン 次世代技術開発第2部 弾性接地体開発課長 片山昌宏氏(左)と同 弾性接地体開発課 今誓志氏(右)
鳥取宇宙産業創出シンポジウムの参加者。司会は地元高校の高校生が務めた

 鳥取宇宙産業創出シンポジウムは、amulapo主催で行なわれているイベントで、鳥取砂丘が月の表面に似ているという特徴を活かして、宇宙産業を鳥取に創造していこうということをテーマにしている。新鳥取駅前地区商店街のエリアではシンポジウム併催の縁日が行なわれるなど、地元の人に宇宙産業創造の取り組みを伝えていた。

 シンポジウムではブリヂストンをはじめとして、鳥取砂丘で宇宙関連のビジネス創造に取り組む企業によるプレゼンテーションを実施。第一部ではミサワホームが、第二部ではブリヂストンの関係者が登壇した。

プレゼンテーションを行なう、株式会社ブリヂストン 次世代技術開発第2部 弾性接地体開発課 今誓志氏

 ブリヂストン 次世代技術開発第2部 今誓志氏は冒頭でブリヂストンの会社概要を説明。ブリヂストンはグローバルに160拠点を持ち、14万人の従業員を雇用している企業で、連結売上収益は3兆2461億円になる。今氏は「創業者が定めた“最高の品質で社会に貢献する”という使命のもと、人々の安心な移動や生活を足元から支えるビジネスを行なっている」と述べた。

会社概要
使命
宇宙・月への挑戦

 今氏は「宇宙や月に挑戦するのは2つの理由がある。1つは極限環境に挑戦することで技術が磨かれ新しいビジネスにつながっていくこと。そしてもう1つは技術のレベルアップによりそれを地球上の社会課題の解決に利用し、持続可能な社会を実現していくことだ」と、宇宙や月への挑戦を語った。

スプリング構造の金属製タイヤを試作

月面ローバー用タイヤ開発

 月面ローバー(月面探査車)用タイヤ開発に関しては、「月面用のタイヤはまだ完成していない、コンセプト検証の状態だ。今後、コンセプト立案、タイヤ試作、検証の3つのステップを経て開発していく」と述べ、試作したタイヤを鳥取砂丘などで検証していきたいと説明した。

月には空気がない

 今氏は、月面は空気がほとんどないので空気を使わないタイヤを作らないといけないと説明した。一般的なタイヤは、中空構造のゴムに空気を入れて支える仕組みになっており、大きなタイヤになればなるほど多くの空気で支えているという。しかし、月面は空気がないので、空気を入れることが難しく、空気を使わないタイヤが必要になるとした。

摂氏マイナス170℃ではゴムは簡単に割れてしまう
金属製だが、柔らかい必要がある

 月面は大気がないため、昼は摂氏120℃、夜は摂氏マイナス170℃になり、宇宙放射線も降り注ぐ環境だという。今氏は「マイナス170℃だとゴムとか樹脂がガラスのようになってしまいすぐ壊れてしまう。そのため、ゴムや樹脂は使えない。オール金属のタイヤを作るしかない。かつ月面は砂で覆われている部分が多いので金属製なのに柔らかいタイヤを作る必要がある」と述べ、柔らかさを持つ金属製タイヤを作る必要があると指摘した。

コンセプトタイヤ

 そこでブリヂストンが作成した月面ローバー用のタイヤが、空気を使わないオール金属なのに柔らかいコンセプトタイヤ。具体的にはスプリングで構成した骨格で、柔らかい金属素材で覆われており、そこに社外の協力などを得て作成した。

コンセプト検証試験
登坂試験
旋回試験

 月面探査車用タイヤを装着した車両は東京アールアンドデーが試作した一人乗り車両を改造したバギーで、動力はモーターのバッテリEVになっている。4WDになっているそうだが、砂丘のような砂地を走ることを前提にしているため、トラクションを1輪にだけかけるような機能も用意されており、砂地でスタックしても走れるように工夫が施されている。

 この車両などを利用して、オフロードコースや海岸などで実証実験をすでに何度か行なっている。これらのテストでは通常のタイヤだと埋まってしまう砂地などで狙いどおり走らせることができ、砂地の登坂試験、砂地での旋回試験を行なってきたという。今氏は「できるだけ月面に近いと思われる環境で試験を行なうことが重要だ」と述べ、広くて平坦な砂地やクレーターを模したような長い傾斜の砂地がある試験場をずっと探してきたと説明した。

鳥取県と共同の取り組み
鳥取大学乾燥地研究センターとも共同の取り組み
まとめ

 今氏は「鳥取砂丘でテストとかできたらいいよねと社内で冗談を言っていた。鳥取県で砂丘を月面検証として募集していることを知り、資料をもって鳥取県に来たらご協力していただけることになり、5月24日、25日の2日間にわたり試験を行なうことができた。すでに鳥取県には月面の実証実験を行なう下地が整っており、われわれだけでなく他社にもそれを利用する可能性があると考えている。ぜひとも多くの企業などにもこの取り組みに参加して一緒に取り組んで行きたい」と述べ、鳥取砂丘を利用した実証実験が進むことに期待感を表明した。

今氏の講演後にはパネルディスカッションも行なわれた