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経団連、第1回モビリティ委員会を実施 モビリティ産業になることで2030年のプラス影響は約36兆円

第1回モビリティ委員会が行なわれた経団連会館

第1回モビリティ委員会

 9月22日、経団連(日本経済団体連合会)に新たに設けられたモビリティ委員会の第1回会合が行なわれた。モビリティ委員会は、モビリティ産業の国際競争力強化を図るために設けられたもので、カーボンニュートラル(CN)の実現、自動運転等のデジタル化といった課題への対応などを視野に入れている。自工会(日本自動車工業会)など自動車業界関係団体とも連携して取り組んでいくと発表されていた。

 このモビリティ委員会には、3人の委員長を設置。経団連会長でもある十倉雅和委員長(住友化学会長)、自工会会長でもある豊田章男委員長(トヨタ自動車社長)、部工会(日本自動車部品工業会)会長でもある有馬浩二委員長(デンソー社長)の3人と委員会加盟約200社でモビリティ産業の競争力強化を検討していく。

 第1回の会合終了後、豊田章男委員長、有馬浩二委員長、久保田政一経団連副会長兼事務総長が取材に応じた。

 久保田副会長によれば経団連にモビリティ委員会が作られた背景として、経団連の「競争力強化」というビジョンと自動車関連団体の見ている方向が一致したことが大きいという。実際、豊田委員長によれば経団連会長でもある十倉委員長、有馬委員長と臨んだ第1回会合においても、方向性を同じくできた感はあるという。

 第1回会合では、日本における自動車産業のこれまでの実績、日本におけるモビリティ産業のこれからの発展、成長の実現に向けて必要なことが確認されたほか、今後のカーボンニュートラル達成へ向けての方向性のアンケートなども実施。モビリティ委員会加盟各社の認識などが共有された。

 自動車産業の日本経済・社会への貢献度は、試算によると規模は60兆円(GDPの約1割)、雇用は約550万人(全産業の1割)、輸出・外貨獲得は約15兆円(資源輸入16兆円をまかなう)、納税は約15兆円(税収の15%)、経済波及効果は約2.5倍(全産業トップ)になる。日本経済が輸出に支えられているのは多くの人が実感として持っているところで、電気製品や半導体輸出などが地盤沈下した現状、自動車産業の比重も必然的に高まっている。

 特に乗用車などコンシューマ産業でもあり、商業車などプロシューマ産業でもある自動車産業は面的な広がりも大きく、経済への波及効果が大きいのも特徴となる。

 豊田委員長はその点を強調。自工会会長としてこれまで発言してきたことでもあるが、自身が水素カローラのモータースポーツ参戦などでカーボンニュートラルの可能性に率先して取り組んだことで、仲間が増えたのが直接的ではないものの、経団連におけるモビリティ委員会の設立にもつながっているという。

 スーパー耐久の参戦を通じて、川崎重工業と水素活用について仲間作りができ、発電プラントなどを建設する大林組などの顔も見えた。また、カーボンニュートラルにおいてはエネルギー産業も大きな要素となるが、スーパー耐久シリーズのスポンサーにはエネオスが加わったりもしている。

 カーボンニュートラルは国際公約である以上、グローバルに全産業が取り組んでいく課題である。カーボンニュートラル化の過程で自動車産業をモビリティ産業へと変貌させていくことで、2030年には経済へのプラス影響を約36兆円、雇用波及効果を約150万人、税収を約15兆円増となる試算を示し、競争力強化を図っていく。

モビリティ産業の発展のために

 このような成長を成し遂げるためにも大切になるのが税収の活用方法だと豊田委員長は言う。これまで自動車関連団体としても「世界一高い自動車関連諸税」についての改善を申し入れてきたが、それではどうしても省庁間の税収の取り合い、そして地方税との対立軸で取り上げられてしまうことが多く、大局的な視点での税制の改革につながっていかなかった。それを経団連のモビリティ委員会という多様なメンバーとともに話し合うことで、日本全体の経済発展・財政健全化の視点での要望にしていく。

 税金をどう使うかは、まさに政治や産業デザインの問題で、日本には成功例もあれば失敗例もある。成功例としては官民合同かつ競合会社も一緒になって進められた1970年代の超LSI技術研究組合で、この研究により各社の技術レベルと産業の裾野が広がり、1980年代の半導体王国時代を迎えた。その後、超LSI技術研究組合を参考にした米国におけるSEMATECの巻き返しなどで厳しい時代を迎えてしまったが、産業史におけるトピックとして記録されている。

 一方、長期的にあまりうまくいかなったものとしてはエコポイント制度があるだろう。2009年から始まったこの政策は、液晶テレビなどの需要を一時的に爆発させたものの、インセンティブの終了後は需要を先食いしたためメーカーは在庫調整に苦しんだ。その結果、液晶工場やプラズマ工場など日本のものづくりがどうなったのかはご存じのとおりになる。

 実は似たようなことは自動車業界でも起こっており、消費税の値上げにともなって需要の先食いが起こり、値上げ後は需要が消えて平均販売レベル(年間需要)も下がるという結果になっている。税制はそれほど産業に影響を与えるもので、単なる購入インセンティブではない未来を見据えた税制の構築を期待したい。

 今後のモビリティ委員会のマイルストーンとしては、久保田氏によると経済団体によるB7サミットがあるとのこと。カーボンニュートラルにおいては、最終的にグローバルでのルール作りが欠かせないが、日本でのカーボンニュートラルのあり方をB7サミットで提言を行なっていくことになるのだろう。