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ジョンディア、自動運転トラクターやAIによる農業効率化を「CES2023」で基調講演

ジョンディアが展示した自動運転トラクター、とにかく巨大

基調講演で自動運転トラクターなどをプレゼンテーションしたジョンディア

 アメリカの農機具メーカーであるジョンディア(John Deere、正式企業名はDeere & Company)は1月5日(現地時間)、「CES2023」の初日基調講演に登壇。同社が提供するトラクターやローダーなどの自動運転農機、電動ショベルカー、マシンラーニング/データアナリティクス/デジタルツインなどの最新IT技術を駆使した効率化などについて発表を行なった。

 ジョンディア 会長 兼 CEO ジョン・メイ氏は「2050年までには地球の人口は100億人を突破すると考えられている。そのためには食料の生産量を50%増やさなければならない。従来の農機はより強力な馬力、より大きなサイズを目指してきた。しかし、そうした時代はもう終わった。これからは効率を重視し、データを活用してより少ない労力で、より大きな生産量を目指していかなければならない。われわれが提供する農業のソリューションは、われわれの顧客だけでなく、地球人類全体にとってメリットがある」と述べ、増え続ける地球人口とそれに対する食という課題を解決するためにも、新しい農機や、新しい農業のやり方を導入していく必要があると語った。

ジョンディア 会長 兼 CEO ジョン・メイ氏

2050年までに地球人口は80億人に、そのためには食料生産量を50%増やさなければならない

 ジョンディアは、日本では江戸時代末期の1837年に創業された企業で、2021年の総売上高が44億200万ドルという世界最大の農業機器メーカー。そのコーポレートカラーであるグリーンをまとったトラクターやローダーなどの農業機器は、アメリカだけでなく世界中の農業の現場で使われている。

 そのジョンディアは、コロナ禍の特殊な環境下を除いて、ここ数年のCESに継続して参加しており、2023年は自動車産業が集中しているウエストホールに巨大なブースを構え、巨大なトラクター展示で注目を集めている。

地球の人口は2050年までに100億人に達する見通し
現在よりも食料生産を50%増やす必要がある

 CESの主催者であるCTA CEO ゲイリー・シャピロ氏に紹介され登壇したメイ氏は、2050年までには100億人を突破するだろうという予測を紹介し、全人口を食べさせるためには食料生産量を現在よりも50%増やす必要があると指摘した。

 メイ氏によればそれは簡単ではないという。農家や農業を行なう企業はさまざまな課題を抱えており、それを解決しない限り、農家や農業企業の生産性を向上させることは難しいからだという。例えばアメリカの農家では、コロナ禍からの復興で労働力不足という課題に直面しているし、天候不順などのリスクに直面しながら農業を行なっている。そのような課題を解決してより少ない労力で、より高い生産性を目指していく必要があると述べた。

コンピュータビジョンを活用した新しい農機具を導入していくことで、農業の効率を上げていく

ジョンディア 製品・高精度農業生産システム担当副社長 ディアンナ・コーヴァル氏

 ジョンディアが導入しているのがマシンラーニングやデータアナリティクスといった最新のIT技術。ジョンディア 製品・高精度農業生産システム担当副社長 ディアンナ・コーヴァル氏は、同社の高精度農業生産システムに関しての説明を行なった。

マシンラーニングやデータアナリティクスといった手法を農業に応用

 コーヴァル氏は「われわれは2000年からGPSを農機具に搭載し、すでに100か国以上で活用し、さまざまなデータとして収集してきている。2010年からはクラウドのITシステムを導入し、顧客が活用できるようにしてきた」と述べ、マシンラーニング(機械学習)を利用したAIやデータアナリティクスの手法などを活用して、より高精度な農作業の計画、収穫量の予測といったことを可能にしていると説明した。クラウドにあるデータと、農機具に付けられたカメラからのデータを活用して、デジタルツインで作業計画を立てることもすでに可能だとコーヴァル氏は説明した。

イグザクトショットの動き、種をまきながら肥料をまくことを超高速に行なう。従来よりも60~70%高速化している
イグザクトショット
種まき部分

「こうしたセンサーを利用することで、どうすればより効率よく種をまき、肥料を置いていくかなどを計算し、それに基づいてマシンが従来よりも正確に、かつ高速に種まきや肥料噴射を行なうことで、効率を上げていく」と述べ、ITを活用することで、労働力を増やさなくても生産量を増やすことができると説明した。イグザクトショット(ExactShot)という製品名で今回発表され、従来よりも60~70%高速に種まきが行なえるという。

ジョンディア 先端技術開発ディレクター ジュリアン・サンチェス氏。左手に持っているのが同社の自動運転トラクターに搭載されているカメラ
自動運転トラクター、左右に長いアームが伸びており、そこにカメラやECUなどが搭載されている
自動運転トラクターのアーム部、カメラとECUを見ることができる
カメラ
ECUにはNVIDIAのGPUが搭載されており、画像認識などを行なう

 ジョンディア 先端技術開発ディレクター ジュリアン・サンチェス氏は、同社が2022年発表した自動運転トラクターに搭載されたカメラやECUなどを紹介し、そうしたデータが常時クラウドにアップロードされることで、より効率の良い農園運営が可能になると紹介した。

 サンチェス氏は、同社のECUにはNVIDIAのカスタムデザインのGPUが内蔵されており、それを利用して4GB/sでデータを高速に処理して画像認識を行なうことで自動運転などが可能になるのだと説明した。

馬力を上げていく農機具の時代は終わった、ITを活用して高効率を目指していく

ジョンディア CTO ジェイミー・ヒンドマン氏

 ジョンディア CTO ジェイミー・ヒンドマン氏は、新製品としてエレクトリック・エスカベータ(Electric Excavator)という電子ショベルカーを紹介した。

電動ショベルカー
クレイセルエレクトリックのクレイ型リチウムイオンバッテリを採用
液浸冷却のバッテリで安定性と充電時間の短縮を実現

 エレクトリック・エスカベータはジョンディアが大部分の株式を取得したクレイセルエレクトリック社のクレイ型リチウムイオンバッテリを採用した電子ショベルカーで、液浸冷却方式を採用することで従来よりも長時間安定してバッテリ駆動できるという。また、充電時間も従来型のリチウムイオンバッテリよりも短くすることが可能で、稼働効率を上げることができると説明している。

 講演の最後に同社 CEOのメイ氏は「従来の農機はより強力な馬力、より大きなサイズを目指してきた。しかし、そうした時代はもう終わった。これからは効率を重視し、データを活用してより少ない労力で、より大きな生産量を目指すという効率を重視していかなければならない。われわれが提供する農業の新ソリューションは、われわれの顧客だけでなく、地球人類全体にとってメリットがある」と述べ、最新のIT技術の活用を行ない、かつ自動運転やコンピュータビジョンといった新技術で効率を上げ、増え続ける地球人口という喫緊の課題に対処していくことが重要だと講演をまとめた。