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バッテリEVの水平分業、受託生産EV「モデルB」「モデルC」「モデルV」における鴻海(ホンハイ)の強み

鴻海精密工業(ホンハイ)のバッテリEV「モデルB」

ホンハイはバッテリEV「モデルB」「モデルC」「モデルV」を展示

 4月12日、台湾最大の自動車関連展示会「TAIPEI AMPA 2023」「AUTOTRONICS TAIPEI」「2035 E-Mobility Taiwan」が台北南港展示センター(TaiNEX)で開幕した。3つの展示会が複合的に開催されているが、AUTOTRONICS TAIPEIのコーナーにブースを構えたのが鴻海精密工業(ホンハイ)になる。

 ホンハイはスマートフォンなどの受託生産で知られ、現在は世界最大のEMS(Electronics Manufacturing Service)企業である。グループには日本のシャープも存在することから、日本でも知名度の高い台湾企業になる。PC好きにはFoxconn(フォックスコン)ブランドの製品でも知られている。

バッテリEV「モデルC」。セグメントは違うが、モデルBは、モデルCから作られたものになる

 そのホンハイがバッテリEVについて初公開したのが2021年10月。2022年10月には、BセグメントのSUV「モデルB」、CセグメントのSUV「モデルC」、ピックアップトラック「モデルV」を自社の技術イベント「Hon Hai Tech Day」で公開し、このAUTOTRONICS TAIPEIで一般公開となった。

 会場には3台の量産仕様車のほか、プラットフォームなどの技術展示も実施。ICTに優れる台湾メーカーの技術力を来場者にアピールしていた。

ホンハイの強みは水平分業

ピックアップトラックのバッテリEV「モデルV」

 このホンハイの製品の強みについてホンハイのJames Wu氏に聞いたところ、ほかの自動車メーカーと異なり、自社ブランドでの販売を行なわないことだという。ホンハイ自身はこれらのEVを直接ユーザーに販売せず、EVを販売したいブランドメーカーへ供給。それらのブランドメーカーが、自社ブランドの製品として販売していくことになる。

 これによりホンハイは、最終的な不特定多数の消費者へのブランド訴求などマーケティング的なことを行なわずに製品の開発に専念。会社のリソースを製品開発に注ぎ込み、さらに多数のブランドメーカーに販売することで数のメリットも追求できる。

 実際今回展示された3つのモデルに関しても、モデルCはHon Hai Tech Day 21で公開された試作モデルをベースに量産モデルとしたもの。モデルBは、そのモデルCから派生した量産EVとなっている。

 これらにはバッテリEV向けのハードウエア&ソフトウエアのオープンプラットフォームであるMIH(Mobility In Harmony)が採用されており、その上位レイヤーとなるミドルウェアにはHHEV.OSを搭載。このHHEV.OSはカーネル、コミュニケーション、ランタイム、フレームワークからなり、その上位にあるアプリケーションにリソースを提供していく。これらのバッテリEVはHHEV.OSでコントロールされており、低レイテンシ、低ジッターで制御されていくという。

バッテリEVのプラットフォーム

 これまでのクルマであれば、さまざまなECUがデバイスごとに用意されており、それらのECUがCANやLINといったバスを使ってつながっていた。ホンハイのEVでもCANは使用しているものの、より統合されたECU(ゾーンコントロールユニット)同士をイーサネットで接続し、高速通信を実現している。これによりブレーキレスポンスや、ADAS関連におけるカメラ情報の遅延を低くすることができ、高性能なクルマとなっていく。もちろんHHEV.OS、MIHプラットフォームや統合ECUにより、ソフトウェア面の開発コストも下がっていくだろう。

 確かにホンハイのEVには、オープンプラットフォームであるMIHなど水平分業という考え方が入っているのだが、ハードウェア面には台湾ならではの高度な技術が採り入れられている。

 その1つが、James Wu氏が語るSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体。従来のSi半導体より効率に優れるというSiC半導体を自社生産。会場内には6インチのSiCウエハーが展示されており、すでに2022年から8インチ製品の開発が始まっているという。実際の半導体チップはこのウエハーから切り出していくのだが、ウエハーが大きくなればなるほどコスト効率は高まっていくので、コストダウン余力も高まり、製品の競争力を高めることができる。

6インチSiC半導体ウエハー

 ホンハイは確かにバッテリEV「モデルB」「モデルC」「モデルV」を取りそろえて展示を行なったが、その本質は新しいクルマの作られ方にある。市場にはホンハイのブランドではない形で出てくるのだが、その際のコスト競争力は気になるところだ。

 かつて多くの日本メーカーがPCを自社生産していたが、富士通やNECのパソコン部門はいずれもレノボグループとなり、東芝やシャープはホンハイグループとなっている。PCがコモディティ化して価格競争力が重視された結果、低コストで量産する力が劣り、また高付加価値で売る力も弱かったこともあっての結果とも言えるが、それがクルマに起きない保証はどこにもない。

 バッテリEVとは何か? しっかり考え作り込まれていたホンハイの3モデルになる。