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広島G7サミット、クリーン・エネルギー経済行動計画発表 特定のエネルギーに依存せず強靭・廉価・持続可能性を重視

広島を舞台に開催されているG7広島サミット

 5月19日~21日にわたってG7広島サミットが開催されている。このG7サミットでは、日本、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランスの7か国に加えEUの首脳が参加し、さまざまな課題が話し合われている。

 5月19日には、「G7 Clean Energy Economy Action Plan(G7クリーン・エネルギー経済行動計画)」が発表された。

 このクリーン・エネルギー経済行動計画によると、現状について「気候危機に対処し、遅くとも205年までにネット・ゼロ排出を達成するために、世界のクリーン・エネルギーへの移行を加速させるべく行動し、協力を深化させている」と認識。その上で、「パリ協定への揺るぎないコミットメントを再確認」している。

 これらの目標を達成するために投資を行ない、「貿易政策が世界貿易機関(WTO)を中核とする、ルールに基づく、公正で、公平な、かつ透明性のある多角的貿易体制を強化する」ことを認識。目標の達成のために、インセンティブ効果の最大化を図ること、貿易政策を通じた排出量削減を行なうこと、強靱なグローバル・サプライチェーンを確立すること、質の高い気候及びエネルギー安全保障投資に向けた公的および民間資金を引き出すためG7グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)を活用することなどに触れられている。

 今後のロードマップについては「COP28までに国際エネルギー機関(IEA)がクリーン・エネルギー・サプライチェーンに関する進捗を報告することを期待する」としており、2023年11月にUAEで開催されるCOP28を重視。「クリーン・エネルギーが安全で、強靭で、廉価でかつ、持続可能であることを確実にする形でクリーン・エネルギー・サプライチェーンを多角化することを重視する」と、特定のエネルギーに依存するのではなく、強靭・廉価・持続可能性を重視している。

 発表事項が多岐にわたるため、以下にG7クリーン・エネルギー経済行動計画(仮訳)を全文掲載する。

G7クリーン・エネルギー経済行動計画(仮訳)

 我々G7首脳は、気候危機に対処し、遅くとも2050年までにネット・ゼロ排出を達成するために、世界のクリーン・エネルギーへの移行を加速させるべく行動し、協力を深化させている。我々は、パリ協定への揺るぎないコミットメントを再確認する。我々は、これらの目標を達成するためには、国内外における将来の産業への公的及び民間の投資が必要であり、世界的なエネルギー移行のコストを下げ、クリーン・エネルギーへの移行のための投資ギャップを埋めるために、更なる協力が必要であることを認識する。我々は、我々の貿易政策が我々の共通の目標を達成する上で大きな役割を果たすこと、また、我々の貿易政策が世界貿易機関(WTO)を中核とする、ルールに基づく、公正で、公平な、かつ透明性のある多角的貿易体制を強化するという我々のコミットメントに基づくものでなければならないことを認識する。我々は、持続可能な開発及びクリーン・エネルギーへの移行を含む我々の時代の最も差し迫った課題に効果的に対応できるよう、多角的貿易体制の包括的な改革及び強化に取り組んでいる。我々は、将来のクリーン・エネルギー経済を推進する上で、互いの犠牲の上に行動しないという我々の共同のコミットメントを反映した協調的な方法で、開かれた、かつ透明性のある協力を行うことを強調する。我々は、持続可能な成長及び質の高い雇用を実現するクリーン・エネルギー経済への公正な移行の礎として、上記の考えを支持することにコミットする。この文脈で、我々は、過度な戦略的依存を減らし、世界中の現地の労働者及びコミュニティに利益をもたらす、安全、強靱、廉価で持続可能なクリーン・エネルギーのサプライチェーンと強い産業基盤を構築することの重要性を強調する。我々はまた、これらの目標の達成においてクリーン・エネルギー技術が果たす役割を認識し、この目的のために、この分野における研究及び更なる協力にコミットする。クリーン・エネルギー経済への移行を導くための我々の共同の取組は、パートナーが自国の経済の野心的かつクリーンな移行を達成するために効果的にインセンティブを与える政策に取り組み、労働者の地位を向上させ、疎外されたコミュニティを支援し、環境を保護し、ルールに基づく多角的体制を堅持し強化するための我々の共同のコミットメントに基づくものである。低・中所得国のクリーン・エネルギーへの願望及びそれらの国々がクリーン・エネルギーへの移行において果たす重要な役割を認識し、我々の行動計画は、未来のクリーン・エネルギー経済への移行が貧困を削減し、繁栄の共有を促進することを確実にするために、世界中のパートナーとの協力及び支援を深化させることを目指す。

I.一致団結して前進

 我々は、パリ協定の目標達成に向け、一致団結して前進する。我々は、各国のエネルギー事情、産業・社会構造及び地理的条件に応じた、多様な道筋があることを認識しつつ、気温上昇を摂氏1.5度に抑えることを射程に入れ続けるために、これらの道筋が遅くとも2050年までにネット・ゼロという共通目標に繋がるべきであることを強調する。この共通の目標を達成するために、私たちはゼロサム競争に対して取り組んでいる。我々は、政策を実施する際に起こり得る相違を、対話、協力及び協調を通じて解決することを目指す。我々は、我々の経済の脱炭素化に向けたグローバルな取組を支援するため、国際的なパートナーと協力し、開放的、協調的かつ包摂的な気候クラブにおいて引き続き活動するという我々のコミットメントを再確認する。我々は、気候クラブの創設メンバーとして、国際的なルールを遵守しつつ、時間をかけて、脱炭素化された産業生産を既定のビジネスケースとしていき、それにより、グリーン成長の支援に貢献し、特にカーボンリーケージ及び緩和の取組に対して起こり得るその他のリスクに対処することを期待する。我々は、すでに参加を表明している国々を歓迎する。

II.インセンティブの効果の最大化

 我々は、パリ協定の目標を達成するためには、有意義で新たなインセンティブ、産業政策、公的及び民間投資が緊急に必要であると認識する。我々は、クリーン・エネルギーへの移行には、世界的にエネルギー移行のコストを下げるために投資ギャップを埋めることが必要であることを認識する。我々は、我々の規制と投資が、全ての国にとってクリーン・エネルギー技術をより廉価にし、誰一人取り残さずに、労働者と地域社会のためのグローバルで公正なエネルギー移行を促進することを確実にするよう取り組む。我々は、我々のそれぞれの政策がクリーン・エネルギーの技術及び慣行の展開を最大化し、公正で自由な貿易を促進し、相互支援的であるとともに、我々の多角的貿易体制に対するコミットメントに整合的で、公平な競争条件を維持するよう、政策の透明性及び協調にコミットし、これらの取組を損なう措置を自制する。我々は共に、ゼロサム競争に対して取り組んでおり、また、我々のインセンティブが全てのパートナーのためにクリーン・エネルギーの展開及び雇用を最大化し、資本が低・中所得国に流入することを可能にするよう、グローバルな貿易及び投資を促進する政策及び慣行を策定している。

III.貿易政策を通じた排出量削減

 我々は、貿易及び貿易政策が気候変動に取り組むための重要なツールであり、持続可能な成長の原動力となり得ることを認識する。この認識に基づき、我々は、貿易財を生産する際に生じた排出量を明らかにするよう市場を促すことにより、脱炭素化及び排出削減を促進する貿易政策を追求し、不当に競争優位を得るために環境基準を引き下げるべきではないことを確認する。我々は、この分野におけるWTOの取組を歓迎する。我々は、共通の目標を持ちながら、我々の気候政策が、炭素価格付けメカニズム、規制及びインセンティブを含む異なるアプローチをとり得ることを認識する。我々はまた、そのような政策を実施するため、サプライチェーンを通じた生産時の排出量に関する情報など、必要なデータ及びツールを開発するための取組について集中的に連携する。我々は、気候政策に関する野心の相違が大きくなることにより、カーボンリーケージのリスクが増大する可能性があることを認識し、このリスクに対処するため、関連する国際機関を含め引き続き協力して取り組む。我々は、経済協力開発機構(OECD)に対し、製品やセクターの炭素集約度を産出するための方法論的アプローチを探求するための炭素緩和アプローチに関する包摂性フォーラム(IFCMA)の進捗状況を我々に報告するよう要請する。

IV.強靱なグローバル・サプライチェーンの確立

 新型コロナウイルスのパンデミック及びエネルギー危機は、国境の内外で重大な影響を与え、我々のサプライチェーンの脆弱性を露呈した。我々は、クリーン・エネルギー製造サプライチェーンへの総投資額を増加させ、関連技術の開発及び展開を加速させるという目標を共有している。我々は、COP28までに国際エネルギー機関(IEA)がクリーン・エネルギー・サプライチェーンに関する進捗を報告することを期待する。さらに、我々は、ストレステストを含め、サプライチェーンの脆弱性を分析することの重要性を認識する。我々は、クリーン・エネルギー技術の製造・設置への投資の規模を世界的に拡大すること、また、地理的に集中したクリーン・エネルギー・サプライチェーンから生じる過度の依存を低減・回避することに務めつつ、クリーン・エネルギーが安全で、強靭で、廉価でかつ、持続可能であることを確実にする形でクリーン・エネルギー・サプライチェーンを多角化することを重視する。この文脈で、我々は、加工及び精錬を含む重要鉱物資源のサプライチェーンを強固で強靱で、責任ある、かつ、透明性のあるものにするという我々の多角的貿易体制へのコミットメントに基づき、これらのサプライチェーンにおける現地での価値創造を支援する。また、これらのサプライチェーンが、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」、ILO「三者宣言」、OECD「多国籍企業行動指針」など、責任ある企業活動に関する国際的に認められたスタンダードに合致するよう協力することも必要である。我々は、地域及び世界のエネルギー移行のために、安全で、強靱で、廉価で、かつ、持続可能なクリーン・エネルギー・サプライチェーンを構築する上で重要な役割を果たす低・中所得国との新しいパートナーシップを確立することにコミットする。我々は、低・中所得国がサプライチェーンの多様化の恩恵を十分に受け、高リスクの依存を低減し、自らのクリーン・エネルギーへの移行目標を達成することを支援する質の高い気候及びエネルギー安全保障投資に向けた公的及び民間資金を引き出すため、G7グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)を活用する。PGIIの一環として、これらの優先事項に向けて追加の民間資本を引き出す新しいインセンティブ及び方法を特定することにより、パートナーのクリーン・エネルギーへの移行を支援・加速し、低・中所得国における長期的な経済成長に貢献するため、我々はパートナーと協力し、融資可能なプロジェクトの候補を開発することを目指す。並行して、我々は、財務大臣が、関心あるパートナー及び国際機関、特に世界銀行グループと協力して、遅くとも本年末までの立ち上げを目指して、「RISE(強靭で包摂的なサプライチェーンの強化)に向けたパートナーシップ」を策定することにより、「脱炭素時代における強靭なサプライチェーン構築に向けた財政・公的金融手段に係るハイレベル政策ガイダンス」を具体的な行動に移すことを要請する。我々は、重要鉱物資源のサプライチェーンを強化し、採掘及び加工、並びにリサイクルにおける責任ある持続可能な投資を促進し、高い環境、社会、ガバナンス(ESG)の基準を推進するため、鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)を通じた協力を継続する。我々は、地域社会への利益を確保し、社会対話、社会・環境保護並びに労働及び雇用における権利に根ざした公正なエネルギー移行を進める、高いESG基準に沿ったサプライチェーンを促進する。我々はまた、責任ある企業行動を高めるために、OECD
「多国籍企業行動指針」及びOECD「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」に沿ったデューディリジェンス要件の民間企業による採用を促進する。この取組を支援するため、我々は、IEAによるサミットへの新しい報告を歓迎し、2023年にハイレベルの国際ワークショップにつながるクリーン・エネルギー製造ロードマップを作成するようIEAに要請する。

V.クリーン・エネルギー技術の推進

 我々は、国際的な活動を通じて、クリーン技術及び持続可能な解決策、特に再生可能エネルギー技術及びエネルギー効率化対策が、世界的に最も廉価でアクセスしやすくかつ魅力的な選択肢となるよう、また、持続可能なサプライチェーンを促進するために公共調達を通じて模範となるよう、引き続き協働する。我々は、クリーン・エネルギー技術・製品の研究、普及及び輸出入を促進する。我々は、開放的で透明性の高い競争力のあるエネルギー市場の促進という観点からこれを行い、国際標準化機構(ISO)を通じて重要鉱物市場に関する技術的な国際標準の開発に取り組む。我々はまた、ネット・ゼロに向けたイノベーション及び技術に貢献するスタートアップ企業及び中小企業の重要な役割を強調し、G7が意欲的なスタートアップ企業と世界的に協力することに期待する。我々は、低・中所得国におけるクリーン・エネルギーへの移行を加速するための重要な手段として、クリーン技術の研究、開発及び普及を引き続き支援する。その第一歩として、我々は、IEAに対し、公的部門、金融、企業、研究及びスタートアップ企業の関係者を集めた国際的な注目度の高いフォーラムを開催するよう要請する。

VI.クリーン・エネルギーの物品及びサービスの貿易・投資の促進

 我々は、脆弱なサプライチェーンに起因する経済的及び安全保障上のリスクを防止しつつ、気候目標の達成に資する温室効果ガスの削減を促進する重要鉱物資源を含む物品及びサービスの貿易及び投資を促進すること、及びクリーン・エネルギー技術への追加的な資本を動員することにコミットしている。我々は、特に、WTO等の国際機関において、気候変動の緩和及び適応に貢献し、製品のライフサイクル全体にわたってクリーン・エネルギー移行を促進するようなサービス及び物品の貿易を更に促進するために協働する。具体的には、気候変動対策に有意義な環境的な物品、サービス及び技術を特定し、これらのサプライチェーンにおける生産と貿易を促進するためにG7諸国間の取組を調整する。この取組の一環として、我々はWTOにおいて、クリーン・エネルギーの物品及びサービスのための循環型経済を促進するための作業を進める。加えて、我々は、WTOと整合的な方法で、貿易ルール及び貿易政策にこれらの取組を取り入れ、クリーン・エネルギーの物品及びサービスの生産時の排出量の削減について、更にインセンティブを与える方法を検討する。

VII.グローバル・パートナーへの支援

 我々は、貧困と闘い、包摂的で持続可能な成長、完全で生産的な雇用、全ての人々にディーセント・ワークを実現するために経済を転換する世界中の国々を支援することにコミットしている。我々は、これらの長年にわたる開発の優先事項が、野心的な気候目標の達成を含むグローバルな課題と深く絡み合っていることを認識する。そのため、我々は、PGIIとの相乗効果を活用し、公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)の成功裡の進捗を確保することを含め、クリーンで公正なエネルギー移行の面で各国を支援する我々の強いコミットメントを再確認する。我々は、低・中所得国に対する気候資金の提供のための取組を強化する。我々は、貧困削減及び繁栄の共有に不可欠な要素として、世界銀行を始めとする国際開発金融機関を、よりグローバルな課題に対応できるように進化させるための措置を講じている。この進化は、クリーン・エネルギーよりも広範であるが、G7を超える経済圏が将来のクリーン・エネルギー経済への移行の恩恵を十分に実現できる立場にあることを確保するために、我々の戦略にとって不可欠な要素である。我々は、脆弱な国の強靱性を高め、開発途上国及び新興経済国のグリーンな移行を促進するために、フランスが6月にパリで開発資金のための首脳会合を開催することを歓迎するとともに、全体として2030アジェンダの実現に向けた我々の取組を強化する。このクリーン・エネルギー経済行動計画を通じて、我々は、我々の経済を脱炭素化する貿易政策を策定し、強靱なクリーン・エネルギー・サプライチェーンの開発を加速させ、クリーン・エネルギーの物品及びサービスの共通の市場を成長させ、我々の低・中所得国のパートナーのために公的及び民間部門の気候及びエネルギー安全保障への多額の投資を動員するために協働する。我々が共有するエネルギー及び気候の課題を克服し、より安定的で繁栄した未来を確保するために、世界中のパートナー国とこの作業に取り組んでいく。