ニュース

いすゞと東京大学が「トランスポートイノベーション研究センター」新開設 物流・交通分野の研究教育に特化

2025年1月8日 開催

東京大学本郷キャンパス 安田講堂前で握手を交わすいすゞ自動車株式会社 代表取締役 取締役会長 CEO 片山正則氏(左)、国立大学法人東京大学 総長 藤井輝夫氏(右)

上場企業からの寄付でエンダウメント型研究組織を設置するのは初

 いすゞ自動車は1月8日、物流・交通分野における研究活動を推進し、「運ぶ」のイノベーションを加速させるため東京大学の東京大学基金に10億円を寄付したと発表。これを受け、東京大学はエンダウメント(大学独自基金)型の基金を設置するとともに、大学院工学系研究科内に「トランスポートイノベーション研究センター」を開設した。東京大学が上場企業からの寄付でエンダウメント型研究組織を設置するのは初めてという。

 同日、いすゞと東大は東京大学本郷キャンパス 安田講堂で共同記者会見を開き、エンダウメント型研究組織について説明を行なった。会見には東京大学 総長 藤井輝夫氏、東京大学 大学院工学系研究科長・工学部長 加藤泰浩氏、東京大学 大学院工学系研究科附属総合研究機構プロジェクト部門 教授 高橋浩之氏、いすゞ自動車 代表取締役 取締役会長 CEO 片山正則氏、いすゞ自動車 取締役 専務執行役員 商品技術戦略部門EVP EVP CV協業推進部 藤森俊氏が出席した。

共同記者会見に出席して「トランスポートイノベーション研究センター」について説明した国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科長・工学部長 加藤泰浩氏
国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科附属総合研究機構プロジェクト部門 教授 高橋浩之氏

 いすゞと東京大学はかねてより、物流や交通を取り巻く社会課題を解決するにあたって大学の教育研究機能をフル活用し、イノベーションの創出を加速できないかと議論を重ねてきた。その中で、東京大学が自律的かつ持続的に事業を推進する新たな経営モデルとして「エンダウメント型財務経営」への変革を目指す中、両者はこの枠組みを活用し、物流・交通分野に特化したエンダウメント型研究組織を設置することに合意した。

 いすゞは東京大学創立150周年寄付募集キャンペーンである「UTokyo NEXT150」の趣旨に賛同。東京大学はエンダウメント型研究組織の制度を活用して、いすゞからの寄付金10億円を原資として運用し、そこで得られた運用益をトランスポートイノベーション研究センターの活動に充当する。同制度の活用による研究組織の設置は東京大学としては2例目で、上場企業からの寄付をベースとした設置はいすゞが初めての事例となる。

 トランスポートイノベーション研究センターは、物流・交通分野の研究・教育に特化した恒久組織として本郷キャンパス内に開設。研究センターでは社会基盤学・都市工学・機械工学・システム創成学などの学問領域を軸に、近年急速に進化を遂げる人工知能(AI)・自動化技術・センシング技術など工学の広い範囲をカバーしていく。さらに個別の技術の枠を超えて、社会制度設計や政策課題など公民学の領域にまたがる広域での物流・交流分野を取り扱うという。

 また、次世代交通の現場において、コネクテッドトランスポーテーション時代における新たな交通システムの社会実験、さまざまな研究分野が接続するネットワーク型交通の社会実験・研究の実践展開を図る。そして物流とそれに関わる物流サービスプラットフォーム、共創物流、物流センシングなど幅広い領域の未開拓・未解決課題に取り組み、社会経済活動の円滑化を目指した研究活動を推進していく。

今回のセンター設置に至った背景
トランスポートイノベーション研究センターについて
研究分野の構成
物流世界危機の深刻化と移動革命の3つの波
未来社会の実現に向けた物流における課題
物流システムのプラットフォーム
物流システムの最適化について
ヒト・モノ・都市の新たな流動の機構解明を目指して

センターの活動が社会へのインパクト、新たな知の創造へつながることに期待

国立大学法人東京大学 総長 藤井輝夫氏

 記者会見であいさつを行なった藤井総長はいすゞへの感謝を述べるとともに、「本学は1877年の創設以来、148年の歴史を刻む大学ですが、いすゞ自動車さまも株式会社東京石川島造船所、東京瓦斯電気工業株式会社、ダット自動車製造株式会社を源流とし、1937年に東京自動車工業株式会社として設立され、現存する国内自動車メーカーの中では最古の歴史を持つ企業です。両者はフィールドは違えども、ともに近代日本の発展に寄与してまいりました」。

「昨今、大学の経営力が問われる時代となっておりますが、欧米の有力大学に比べ、日本の大学は自立的な財務基盤の構築に取り組み始めたばかりという状況です。本学としても、2年後の2027年に創立150周年を迎えるにあたり、次の150年を見据え、財務体制の強化・拡充を図り、経営力の確立に向けて邁進しているところです」。

「このような中で、新たな発展をとげつつある分野において、社会からの要請に十分に応えられるよう、寄付金の運用益によって研究組織を運営する『エンダウメント型研究組織』という仕組みを新たに設けました。その第一号として2023年10月には、個人からのご寄付に基づき、応用資本市場研究センターを設置しております」。

「このたび、全世界に影響を及ぼした新型コロナウイルス感染症の流行を含め、自動走行への期待と需要を契機に急速に発展しつつある物流・交通の分野において、いすゞ自動車株式会社さまからのご支援をいただき、東証プライム上場企業からのご寄付によるものとしては初の『エンダウメント型研究組織』である『トランスポートイノベーション研究センター』を設立することになりました」。

「自動走行については、自動運転技術の成熟と、いわゆる『2024年問題』を背景に、本格的な導入が見込まれるところです。本センターでは交通と物流、そしてそれらを取り巻く情報や金融・投資といった諸分野の課題に対し、学内のさまざまな知を結集して大きく貢献したいと考えております。新東名高速道路において自動走行実験を主導している、本学大学院工学系研究科・社会基学専攻の羽藤英二教授をはじめ、AIや法制度の専門家を有する本学の幅広い知を活用して、社会実験も積極的に実施しながら具体的なインパクトを生み出していきたいと考えております」。

「本学では、目指す理念と基本方針を『UTokyo Compass』として示しておりますが、そこでは本学が活動していく際の3つの視点の1つに『場をつくる』を掲げています。創造的な対話によって、本学自らが起点となり、多様な人々や組織との間に信頼の架け橋を創り、キャンパスの中だけにとどまらず、アカデミアとしての活動の場を広げていく、そうしたさまざまな場の創出を通じて、大学の存在意義やアカデミアとしての役割に対する頼と支持・支援の好循環を形成することを目指しております」。

「今回、いすゞ自動車株式会社さまとともに新たにつくる『トランスポートイノベーション研究センター』という場においても、これからの社会からのニーズに応えるべく、本学の有する知を存分に投入し、研究・教育・社会実装に貢献できればと考えております。ともに活動、ご支援いただける企業および官公庁のみなさまをはじめ、広く学外の皆さまのご協力も得ながら、このセンターの活動が社会へのインパクト、そして新たな知の創造へつながることを大いに期待しております」と述べた。

いすゞ自動車株式会社 代表取締役 取締役会長 CEO 片山正則氏

 いすゞの片山会長は今回の共同発表の日を迎えることができ大変うれしく思うと述べるとともに、片山会長の母校である東京大学の安田講堂で話す機会をいただき大変感慨深いとコメント。

 また、「今回、私からは東京大学さまと当社が連携に至った背景や、新たに設立される研究センターへの期待についてお話しします。私自身、『運ぶとは何か?』ということを自問自答した際、もはや『運ぶ』という概念そのものが劇的に変わりつつあると感じています。当社が2023年に示した新経営理念体系“ISUZU ID”ではパーパスを「地球の『運ぶ』を創造する」とし、社会全体でイノベーションを起こそうという想いがあります。そして、『運ぶ』のイノベーションを持続的に起こしていくには、いすゞだけの取り組みではなく、より幅広い分野、多面的な視点を取り入れていかなければならないという想いを強く抱くようになりました」。

「外部パートナーとの共創を検討し始めたころ、いくつかの産学連携の取り組みの1つとして、AIに関する共同研究等を行なっていた東京大学さまから『社会的インパクトのある取り組みを一緒にできないか』とお声がけいただき、オープンでみんなが活用できる仕組みをビジョンにしつつ、新しい研究の取り組みができないか協議してまいりました」。

「その取り組みが本日の『トランスポートイノベーション研究センター』設立です。そして当社がこの研究センターにかける期待は3つあります。1つ目は、持続可能な形で物流の効率化や人手不足などの課題をアカデミアの観点から解決する糸口を見つける研究が行なわれることです。物流、交通分野における社会課題を解決し、夢のある社会を実現していくためには、持続可能な形で運営されなければなりません。そのために今回、当社からの寄付金の運用益で運営するという形態に賛同いたしました」。

「2つ目は未来の『運ぶ』をカタチづくる研究が行なわれることです。研究センターの構想では、人流物流、物流金融システムから法制度まで幅広い研究が計画されています。まだ見ぬ将来の物流・交通の姿をより見える形にしていただきたい。当社は商用車のリーディングカンパニーとして、新しい価値を技術と合わせて創造していかなければならない使命があり、東京大学さまと共に挑戦していきたいと考えています」。

「最後、3つ目は『人財育成』です。 研究活動には、いすゞの技術者も参加します。当社は2030年に目指す姿を『商用モビリティソリューションカンパニー』と定めていますが、世界を進化させるイノベーションリーダーの育成が急務です。さまざまな研究室に民間からの研究者を受け入れ、新たな知の地平が開拓され続けている東京大学さまとの研究によって、大きな化学反応が起きることを期待しています」。

「私は、自社のマネジメントとして従事するにあたり、『企業は社会の公器である』という考え方で、社員に対し社内・社外の境界にとらわれずに、同じ目的に向かう仲間づくりの重要性を訴え続けてきました。新たなイノベーションを通して、日本の物流問題の変革をけん引し、人々の豊かな暮らしの根底にある『運ぶ』のイノベーションを創造し続け、企業価値の向上につなげていきたいと考えております。ぜひ、東京大学さまと共に推進する世界最先端の研究活動にご期待ください」と語っている。

登壇者の面々