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【連載】西川善司の「NISSAN GT-R」ライフ

第14回:スポーツリセッティングコンピュータを取り付けてみた(後編)

初期不良に当たり、3度目の来店へ

当日「こちらがスポーツリセッティングコンピュータです」と見せられたもの。左がエンジン制御コンピュータ(ECM)、右がトランスミッション制御コンピュータ(TCM)。しかし初期不良で動かず。数多くの取り付けをこなしてきたノルドリンクの担当の方いわく「こんなことは初めて」

 紆余曲折あったが(前編参照:http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20121227_580518.html)、ついにスポーツリセッティングコンピュータをノルドリンクで取り付ける日がやってきた。

 その日、筆者は満面の笑顔で意気揚々とノルドリンクに来店。しかし、それから数時間後、筆者は衝撃の事実を突きつけられてしまう。「すみません。動きませんでした」(ノルドリングのメカニック氏)。

 純正コンピュータを外し、NISMOコンピュータに差し替え試行錯誤したようなのだが、ノルドリンクのメカニック氏の判断で、どうやら初期不良と結論づけたようだ。ちなみに初期不良はノルドリンクでは初めてのケースだと言うから、筆者持ち前の運のわるさも相当なものである。

 結局、この日は無駄足に終わり、ノルドリンクで純正コンピュータを取り外し、またそれを付け直すという徒労を体験し、その日の朝には予想もしなかった「純正コンピュータによるドライブで帰還」となったのであった。トホホ。

 後日、良品が届いたとのことで、再びノルドリンクに赴くことに。「今度は大丈夫なはずです(笑)」というノルドリンクのメカニック氏の不安げな笑顔に励まされ、愛車を引き渡す。

 実際の取り付けには、基本調整なども含めて約3時間ほど掛かるので、多くのユーザーは代車を借りて近所のショッピング施設やレジャー施設に行き時間を潰すようだ。ノルドリンクの近隣には、レーシングカート場やカプコン直営の大型ゲームセンター、コストコ入間店、三井アウトレットパーク入間などがあるので時間つぶしには事欠かない。

 ただ、ノルドリンクはGT-R開発ドライバーの鈴木利男氏が主宰するショップであり、ショップ内にはR35 GT-Rゆかりの品などが展示されていたりするので、GT-Rファンならばノルドリンク店内でも結構な時間を潰せるかも知れない。鈴木利男氏はGT-Rの開発や、その関連イベントのために留守をすることも多いが、店舗におられるときはお話を伺うこともできる。

 幸い、筆者も鈴木氏在籍のタイミングで来店できたので、お話を伺うことができた。GT-R開発ドライバーならではのかなり重みのある言葉をたくさん頂戴したので、その内容は次回お届けすることにしたい。

店内に展示されているR35 GT-Rの開発試作車両を食い入るように見る!

 さて、ノルドリンクに入店した人は誰もが「ナニこれ」と、店舗内スペースに鎮座しているV35スカイラインクーペを指さすことだろう。実はこれ、R35 GT-Rの開発試作機なんだそうだ。

改造車風のV35スカイライン。実はR35 GT-Rの試作機
ボンネット上のツインNACAダクトはまさにR35 GT-Rのアイデンティティ
リアビュー。2×2の4本出しマフラーはただのV35スカイラインでないことを訴えている

 同車両はノルドリンクの所有物ではなく日産管理のものだが、日産に置いておくと倉庫の奥底に置いておかれてしまうだけなので、日産のGT-R開発チームの粋な計らいにより、GT-Rファンの目にとまるノルドリンクでの展示が実現しているのだ。なお、このV35ベースのテスト車両製作にあたってはノバエンジニアリングが陣頭指揮したとのこと。

 写真だとなかなか伝わらない部分も多いと思うが、試作機というだけあって外はV35スカイラインでも、中味はまったくR35 GT-Rそのものだったりする。タイヤはフロント、リアともに20インチ(フロント:255/40 R20)、リア:285/35 R20)で、GT-Rの純正状態そのままだ。

 このタイヤを収めるために、フェンダーはずいぶん張り出した感じにモディファイされている。

よく見るとギョっとするのがこの張り出したフェンダーライン
フロントタイヤまわり。ブレーキキャリパーは6ピストン。これはそのまま完成版R35 GT-Rに採用されている
リアは4ピストンキャリバーが奢られる。ここも最終R35 GT-Rと同じ
エンジンルーム。ほとんどR35 GT-Rの中味そのまんまという印象

 フロントマスクはV35スカイラインそのままだが、よく見るとボンネット上にはエンジンルーム冷却用のNACAダクトが2つ。これもR35 GT-Rの特徴的なアイコンだが、このV35ベースの開発車両にもちゃんと実装されている。

 ボンネットの中も拝見させていただいたが、エンジンルームはR35 GT-Rと同じ。バッテリーの位置などが違ったりするが、ほぼR35 GT-Rそのままという光景だ。

 ちなみに、実際にこのV35ベースの試作機には、GT-Rの特徴的なメカニズムであるアテーサET-Sベースの4輪駆動システムが搭載されているとのこと。当然リアにトランスミッションを配置しており、GT-Rのために開発された変速後の前輪駆動用プロペラシャフトが前に戻される構造も組み込まれているわけだ。

 リアビューも一見するとV35スカイラインそのままだが、大口径の左右2本出しマフラーに気がつくと、これがただ者でないということが分かる。リアコンビランプの輪郭をはみ出すようなリアフェンダーの“非”一体感は、「いかにも開発車両」という風情だ。

 運転席はV35スカイラインの面影が色濃いが、パドルシフトの存在やステアリングの造形、後部座席の中央にウーファーユニットのビルトインデザインなどからは、R35 GT-Rに繋がる部分を感じ取ることができる。このV35 スカイラインベースの開発車両をまじまじと見ているだけで、そこそこの時間は過ぎていくことだろう。

コクピットまわり。試作機は左ハンドルベースだったと言うことだ
いかにも開発試作機といった風情の文言が。開発当時の様子が思い描けそうだ
ステアリングまわり。内装はV35 スカイラインの面影が色濃い
リアシートまわり。2つのリアシートの仕切り部分にウーファーユニットを搭載するデザインは実際にR35 GT-Rに正式採用されている

取り付け完了!

取り付け作業の様子。エンジン制御コンピュータは助手席側に、トランスミッション制御コンピュータはトランク側にある

 外に遊びに行かずとも、このV35スカイラインベースの開発車両の説明を聞いたり、鈴木利男さんと話をしたり、あるいは技術スタッフの方達と話したりしていればあっという間に時間は過ぎるのであった。

 筆者の場合は12時に来店して、作業終了が15時だった。

 作業が終了すると担当メカニックを助手席に乗せての自走チェックを行う。

 自走チェックでは、動作に異常がないかをオーナーと一緒に確認するとともに、担当メカニックのアドバイスを受けながらATモード時のクリープの強さの設定と、シフト時のショックのカスタマイズを行って貰える。

 クリープを強めの設定にすると、アクセルを踏んでいないときもより力強く前に進もうとするが、進んだ際のエンジン回転の落ち込みが大きい。クリープを弱めの設定にするとアクセルを踏んでいないときの前に進んでいく強さは弱くなるが、その分、進んだ際のエンジン回転の落ち込みが少ない。

 シフト時のショック設定では、短くすればガツンとシフトが行われダイレクト感が増す。長くすればじわりと繋がってシフトショックが少ない、よりATっぽい乗り味になる。筆者は純正状態の基準設定で不満がなかったので、色々とオススメ案を試してみたが、結局両設定とも基準設定にして貰った。

 20分程度の自走による動作確認とカスタマイズを終え、ノルドリンクに戻ると今回の契約の最終事務手続きが行われた。まず、見せられたのは納車前の事前チェックで問題がなかったことを示す書類へのサインだ。

 そして、元々車両に搭載されていた純正コンピュータは箱詰めされ、NISMOに向けて発送されることが説明される。レンタル終了時にはこれが送られてきて、スポーツリセッティングコンピュータと交換して返却することになるわけだ。再レンタル手続きのために、24カ月後に再び来店する必要がある旨も説明された。

納車前の最終点検表。機能に問題がなかったことをノルドリンクのメカニックとともに確認し、確認後はオーナーのサインを求められる
黒いNISMOの箱に入っているのが元々車両に搭載されていた純正コンピュータ。エンジン制御コンピュータ(ECM)、トランスミッション制御コンピュータ(TCM)の両方がNISMOに送られ、これらはレンタル終了までNISMO側で保管される

 そして前編記事でも触れたが、車両保証のうち、エンジンとトランスミッションに関しては保証責務がNISMOに移管されることの説明がなされる。これでスポーツリセッティングコンピュータ取り付けにまつわるノルドリングでのプロセスは、すべて終了となる。

車両の整備記録にスポーツリセッティングコンピュータが搭載されている旨が記載される
スポーツリセッティングコンピュータ自体の保証書

果たしてその乗り味は!?

スポーツリセッティングコンピュータの取り付け後は担当メカニックの方と実走しながら乗り味を詰めていく工程がある

 前編でも触れたように、2012年モデルのスポーツリセッティングコンピュータは各種リミッターの変更以外に、「過給圧特性の変更」が純正コンピュータに対するもっとも大きな変更点になる。

 最初実感できるかどうか不安だったのだが、実際には停止状態から発進した瞬間にその違いを体感することができた。納車されてから10カ月間乗ってきた普段のアクセルの踏み込み方で発進したので、その時の前への押し出し感が明らかにパワフルになっていることが分かったのだ。

 信号機が多い日本の道路交通は平均スピードは低いが、ゼロ発進(停止状態からの加速)頻度が高いと言われる。だからこそ、最高出力が低くてもトルクリッチなクルマが乗りやすいと言われる傾向がある。欧州はこの傾向が日本とは逆だと言われる。その意味では、この低中速でトルクフルな乗り味は、より日本国内での街乗りがしやすくなりそう、という実感を持った。

 高速域では5速や6速からのアクセル踏み込みに対するレスポンスがよくなっている。これは電子スロットルの調整によるものなのか、エンジン制御に手を入れたためなのかは判断できないが、前方車への追い越しが純正状態よりも楽になっている。

 なにしろ巡航状態からの加速が、シフトダウンしなくてもアクセルの踏み増しで軽やかに行えるのだ。もちろん、シフトダウンしてからアクセルを踏み増せば、純正状態よりも一段増したググンと鋭い加速感を味わえる。

 総じて言うならば、決して軽くはないR35 GT-Rだが、全体として何だか軽量化がなされたような乗り味になったというイメージだ。

 ただ、悲しいかな、筆者の脳はスポーツリセッティングされておらず(笑)、普段走る道路も道幅が拡張されるわけでもないので、今までのアクセルの踏み方で加速感が増すのであれば、自然と今までよりもアクセルの踏み込みを減らすように運転するようになってしまうのであった。極度のスピードジャンキーはここから過激な仕様を目指していくのかも知れないが、300PSそこそこのRX-7乗りだった自分からすれば、この状態で本当に満足できている。

 さて、「中低速域でのパワーアップ」というスポーツリセッティングコンピュータの特性から、燃費の低下が心配されるわけだが、前述したように筆者の場合はパワー感が増す分アクセルコントロールがジェントルになったため、結果的に実用燃費に今のところ大きな変化は出ていない。

 今回、トランスミッション制御コンピュータも変わっているわけだが、改めてクリープ設定やシフト設定を行ったためか、走り始めがスムーズになり、またやや大きかった1速→2速のシフトショックが改善された。これはスポーツリセッティングコンピュータの直接の恩恵ではないかも知れないが、使用前・後で変わった部分だったので一応特記しておきたい。

 まだ一般道と都市高速を走っただけなので、いずれ機会があればワインディングや高速テストコースなどで、そのポテンシャルを探ってみたいと思っている。

西川善司

テクニカルジャーナリスト。元電機メーカー系ソフトウェアエンジニア。最近ではグラフィックスプロセッサやゲームグラフィックス、映像機器などに関連した記事を執筆。スポーツクーペ好きで運転免許取得後、ドアが3枚以上の車を所有したことがない。以前の愛車は10年間乗った最終6型RX-7(GF-FD3S)。AV Watchでは「西川善司の大画面☆マニア」、GAME Watchでは「西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィック講座」を連載中。ブログはこちら(http://www.z-z-z.jp/BLOG/)。

(トライゼット西川善司)