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TOYOTA GAZOO Racing 高橋智也プレジデント、世界ラリーについての人材育成について会見 「ラリーを文化にしたい」というモリゾウさんの思いを具現化

TOYOTA GAZOO Racing 高橋智也プレジデント

 WRC(世界ラリー選手権)第13戦ラリージャパンが11月6日~9日の4日間にわたって愛知県や岐阜県を舞台に開催されている。2024年は最終戦として開催されたラリーチャレンジだが、今シーズンは最後に第14戦サウジアラビアが控えており、例年とは位置付けが変わっている。

 とはいえ、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(以下、TGR-WRT)は前半戦から好調で、すでに前戦の第12戦セントラル・ヨーロピアン・ラリーでマニュファクチャラーズタイトルを獲得。トヨタにとっては5年連続、9回目のマニュファクチャラーズタイトルになる。

トヨタのラリードライバー育成ステップ

 ドライバーランキング争いは続いており、TGR-WRTのエルフィン・エバンス選手、カッレ・ロバンペラ選手、セバスチャン・オジエ選手が競っている状態。勝田貴元選手は、地元日本で開かれる世界戦ということで好調な走りを見せていたが、3日目のSS11でトラブル。SS11終了時点でオジエ選手が1位、エバンス選手が2位と、トヨタ勢が優勝を争っている。

 TOYOTA GAZOO Racing 高橋智也プレジデントは、このWRCを通じた人材育成であるチャレンジプログラムについて会見。現在、チャレンジプログラムに参加している3期生 松下拓未選手、4期生 柳杭田貫太選手も同席して、トヨタの人材育成について、日本と韓国の報道陣に向けて語った。

マニュファクチャラーズタイトル獲得、「ラリーを文化にしたい」という思い

 高橋プレジデントは、冒頭「今年は無事にマニュファクチャラーズタイトルを獲得した上で、日本に帰ってくることができました」とあいさつ。昨年はヒョンデとトヨタがぎりぎりまで争う状態だったが、今年はすでにマニュファクチャラーズタイトル獲得をしており、獲れたことについて集まった日韓の報道陣にお礼を述べた。

 ただし、ドライバー争いは続いており、トヨタとしてはドライバーにイコールコンディションのクルマを用意しているとのこと。特別なチームオーダーは出ておらず、ガチンコ勝負を日本とサウジアラビアで行なっていく。

 人材育成については、TGR-WRTのチームオーナーでもあるトヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏の「ラリーを文化にしたい」という思いがあるという。モリゾウ選手としても知られる豊田会長だが、常々レースについては「3つのPがある」と語っており、「People(人材)」「Pipeline(システム)」「Product(商品)」が大切だとしている。

 人材育成については一つ目のPとなり、ラリーにおいてもサーキットにおいてもドライバー育成プログラムが存在する。ラリーではアマチュアでも参加可能なラリーチャレンジがあり、その上に全日本ラリーとともに開催されているモリゾウチャレンジカップがある。

 TGR-WRTとしては、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムを用意して、将来のラリードライバーを育てており、現在WRCのトップカテゴリーで活躍している勝田貴元選手は、その一期生になる。

 今回、高橋プレジデントが紹介した3期生の松下拓未選手はラリー3に参戦しており、4期生の柳杭田貫太選手はラリー4にチャレンジにしている。2人ともTGR-WRTの本拠地であるフィンランドに住んでおり、フィンランドの国内選手権や松下選手についてはWRCにも参戦。ステップアップを目指して戦っている。

 2人とも、世界のトップチームであるTGR-WRTの近くで参戦やトレーニングをすることがとても勉強になっているといい、ラリーでよい走りをすることや、ラリーで戦うために必要なペースノートの精度も高めるなど、練習を積んでいる。

 高橋プレジデントは、そうして参戦しつつトレーニングをしている彼らが上がっていくには、専任の講師の都度判断によるとし、専門家による見極めがステップアップのポイントだと語った。

チャレンジプログラムに参加している3期生 松下拓未選手(右)、4期生 柳杭田貫太選手(左)

 また、今回韓国のメディアも会見に参加していたため、このチャレンジプログラムの対象範囲についても確認してみたが、現在は日本国籍を有する24歳以下の若者になるが、「ドライバー・ラリーには国境はないと思う」(高橋プレジデント)と語り、「将来的にはそういう広げていくことも考えていかなければいけない」と、グローバル展開についても考慮しているとの見解を示した。

 このTGR-WRTの世界ラリー参戦は、トヨタが発売する市販車へのフィードバックもなされている。GRヤリスでは、サスペンションストロークの大切さから、サスペンションストロークを長く取れるようなディメンションを採用。また、ドライバーファーストの観点から年次改良でコクピットデザインにも手を入れた。

 気になるのは、現在ラリー1、ラリー2に車両を投入しているトヨタが、3期生や4期生が参戦しているラリー3、ラリー4に車両を投入していないこと。この辺りについてチャレンジプログラム参加の両選手に話を聞いてみたが、松下選手によると、乗っているクルマがトヨタではないことに関する質問が多いという。

 柳杭田選手はGRヤリスのようなよくできたクルマのラリー4がほしいと語り、松下選手はウォータースプラッシュに突っ込んでも下から水があまり出ないクルマ、ジャンプの着地でも壊れない信頼性のあるクルマなどがほしいとのこと。いずれもトヨタによる、ラリー3、ラリー4の登場を待ち望んでいた。

 高橋プレジデントは、2人の言葉に「作って」というプレッシャーを感じつつ、「僕らがやりたいモータースポーツ起点のクルマづくりは、過酷なラリー1、ラリー2みたいなところから技術を落とすということが、まずは優先かなと思っています。僕らは本業は市販車を作って、それを多くのお客さまにお届けして、笑顔を作っていくということなので。限られたリソースの中でどこにリソースを当てていくかという優先順位を考えると、今はラリー1、ラリー2にまずは専念したいなと思っています」と答えた。