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NTT、車載カメラの撮影画像からインフラ設備の位置特定技術を確立

2025年11月11日 発表
車載カメラで撮影した画像から、画像内のインフラ設備の位置を特定する技術の全体像

 NTTは11月11日、タクシーやバスなどに搭載されているドライブレコーダーを用いて、車載カメラで撮影した画像から、画像内のインフラ設備の位置を特定する技術を確立したと発表した。

 今後は国内道路シーンなどでの検証を進め、NTTグループで展開を進めるドライブレコーダーを用いた「点検・デジタル台帳作成ソリューション」などでの実用化を目指すとしている。

 また、街全体を3D管理することで、官公庁が推進する3D都市モデルなどと連携した都市計画や防災対策のほか、自動運転やドローン航路設計などで必要な高精度3D地図の整備にも貢献できるという。

 NTT アクセスサービスシステム研究所 シビルシステムプロジェクト 主任研究員の石井梓氏は、「交通標識やガードレール、電柱、街路樹といった道路周辺のインフラ設備の点検DXとして開発したものであり、まずはNTTグループでの利用を想定している。将来は、安心安全でスマートなまちづくりの実現にも貢献できる」と位置づけた。

NTT株式会社 アクセスサービスシステム研究所 シビルシステムプロジェクト 主任研究員 石井梓氏

 NTTによると、道路周辺のインフラは、全国で数1000万規模になり、これらの点検のために作業員が現地に赴いたり、紙の台帳で管理したりといった状況にあるため、管理者である自治体にとっては大きな負担となっていた。また、今後の労働力不足への対応という点でも課題の1つになっている。

 また一部では、ドライブレコーダーを用いた点検デジタル台帳の作成が導入されている例もあるが、ドライブレコーダーから得られるGPSなどの情報は、1~10mの誤差があり、点検のたびに位置情報がずれるといった課題があった。

 そこでNTTが開発した技術は、ドライブレコーダーの画像から、独自の3次元再構成技術を用いて3Dデータを生成し、画像内のあらゆる地物に関して、高精度に位置を特定できるのが特徴。

 点検画像は複数の画像をもとに3Dデータとして生成。従来の1枚の点検画像を用いて比較するよりも、広い範囲の風景特徴を手掛かりとして判断できるため、風景特徴に乏しい場所でも高精度な位置特定を可能にしたという。

 石井氏は、「位置推定の手法には、“点検画像”と、既知の位置情報である“参照画像”の特徴マッチングが用いられています。風景に特徴が多い画像の場合には、自己位置を推定し、インフラ設備位置を特定しやすいですが、風景の特徴が乏しい画像の場合には、誤マッチングが生じてしまい、自己位置を推定できずインフラ設備位置を特定できないことが多かったです。しかも、こうしたシーンは数多く存在することが想定されるため、その点でも位置の特定には課題がありました」とこれまでの難しさを説明。

画像同士の特徴マッチング概要

 NTTでは、3次元再構成技術を用いて、高精度な位置情報を有する「参照3Dデータ」をあらかじめ作成。ここには、MMS(Mobile Mapping System)画像のような高精度な位置情報を持つデータを用いるほか、3D形状や画像特徴量、色に関するデータも持たせられるという。

 また、点検画像を含む一連のドライブレコーダー画像にも同様に3次元再構成技術を活用することで、「点検3Dデータ」を作成。数10m以上におよぶ画像データを使用することで、広範囲の風景特徴を3D化。そして高精度な位置情報を持つ「参照3Dデータ」に、「点検3Dデータ」を重ね合わせることで、点検3Dデータの自己位置や、画像内のインフラ設備位置を特定できるという。

インフラ設備の位置特定までのプロセス

「3Dデータを高い精度で重ね合わせるのはとても難しいですが、画像特徴量および3D形状情報を併用する独自のアルゴリズムを構築したことで、高精度での3Dデータの重ね合わせを実現できました」と石井氏。

 技術検証では、地物がまばらな風景特徴の乏しい道路環境を想定し、米ミシガン大学ノースキャンパスで、四季や時間帯をまたいで記録されたマルチセンサーデータセットである「NCLT公開データセット」を活用。点検時に得られるGPSなどの位置情報の誤差を想定し、高精度な位置情報を持つ「参照3Dデータ」に、「点検3Dデータ」の重ね合わせに行い、点検3Dデータの初期位置に、位置で0~10m、回転でマイナス50度~プラス50度のノイズを与え、参照3Dデータに重ね合わせられるかを100回繰り返して実験したという。

 その結果、位置誤差の中央値は0.11m、姿勢誤差の中央値は1.28度となり、小さな誤差で参照マップに重ね合わせられることを確認。点検3Dデータ全体に、参照3Dデータが持つ高精度の位置情報を紐づけられ、一連の点検画像内の地物位置特定が可能になると判断した。

位置誤差の中央値は0.11m、姿勢誤差の中央値は1.28度まで追い込めたという

 NTTは今後、国内道路を使用した検証を進め、点検業務の効率化や高精度なデジタル台帳の作成を実現する考えであり、石井氏は「処理の高速化などにも取り組んでいく。また、IOWN APNを利用して、街中で収集するドライブレコーダーの画像をタイムリーに集約するなど、大規模データの取り扱いを高速化したい。社会インフラの共通課題である維持管理のDXを進め、コスト削減にも貢献できる」と述べた。

 また将来的には、3D都市モデルや自動運転などに活用する高精度3D地図の高度化にも貢献できるとしていて、「3D都市モデルを作成の際には、建物などの情報は地図などから得られますが、標識や樹木、街灯などの情報は、どうしても位置座標が必要になります。そこにこの技術を活用でき、よりリアルな3D都市モデルを構築できるようになるほか、高精度3D地図では、風景が変化したときの更新が課題となっていますが、ドライブレコーダーの画像から街中の変化した場所だけを認識して、地図情報をアップデートするといったことが可能になります」と石井氏は説明を締めくくった。