電気自動車プラットフォーム開発会社「シムドライブ」設立発表会 2013年には、効率2倍のインホイールモーター型電気自動車を150万円で |
電気自動車プラットフォーム開発会社「シムドライブ(SIM-Drive)」。シムドライブ取締役会長福武總一郎氏(中央右)、同社長清水浩氏(中央左)、同取締役羽鳥兼市氏(右)、同取締役藤原洋氏(左) |
2009年8月24日開催
電気自動車のプラットフォームを開発する会社「シムドライブ(SIM-Drive)」の設立発表会が、8月24日に開催された。
シムドライブは、インホイールモーター型の電気自動車の開発を行っている慶應義塾大学清水浩氏が中心になって設立された会社で、清水氏が社長に就任。会長には、教育事業で知られるベネッセコーポレーション代表取締役会長福武總一郎氏が就任する。
シムドライブの会長に就任する、ベネッセコーポレーション代表取締役会長福武總一郎氏。「子供たちのために、これからの社会は電気自動車の普及が必要だと考えた」と言う。ベネッセが自動車事業を手がけるわけではないと強調 |
会社設立の理由を、福武会長は「昨今、環境問題が問題になっており、CO2の削減には全世界的に取り組んでいかなければならない。CO2の発生原因の20%が、そして原油消費量の50%が自動車と言われている。そのような観点から、電気自動車の普及は地球温暖化防止の切り札とも考えられている。(内燃機関を用いる)自動車も120年ほどの歴史を持っているが、列車は蒸気機関が電気になり、飛行機はレシプロエンジンがジェットエンジンになっている。自動車も時代の大きな転換期になっている。電気自動車の普及期にあたる現在、30年間電気自動車の研究をしてきた清水氏のインホイールモーター型の電気自動車の普及にはベストのタイミングだと考えている」と言い、シムドライブ設立の目的は、清水氏が長年研究してきたインホイールモーター型自動車の普及にあるとした。
インホイールモーター型の電気自動車とは、通常の電気自動車がエンジンの代わりにモーターを1つ用いて自動車を動かすのに対して、車輪それぞれにモーターを持つ自動車。たとえば2WDでは2つのモーターを、4WDでは4つのモーターを用いて車輪を回す。通常の電気自動車と異なり、モーターが車輪の部分にそれぞれついているため、エネルギー効率がよいと清水社長は言う。その効率はおよそ2倍で、同じ電池を使用するのであれば、2倍の性能となり、同じ電池、同じ動力性能であれば、2倍の航続距離になる。
実際、シムドライブの会社名も、Shimizu In wheel Motor-Drive:SIM-Driveから名付けられており、インホイールモーターを搭載した電気自動車が全世界へ普及することを目指している。
設立発表会の冒頭に流されたビデオ。新会社の社長に就任する清水教授が開発してきた電気自動車の数々 |
清水浩氏。インホイールモーター型の電気自動車の開発では、世界のトップランナー。シムドライブの設立によって、通常の電気自動車の2倍の効率を持つと言う電気自動車の量産・普及を目指す |
■研究・開発会社としてのシムドライブ
シムドライブは、自らが電気自動車を製造・販売する自動車会社ではなく、インホイールモーター搭載電気自動車の開発・販売を行う自動車会社や部品会社と連携して、研究・開発を行っていく会社。電気自動車技術の普及を、パソコンソフトの開発などで用いられている“オープンソース”の発想で行っていくと言う。
具体的な部分について清水社長は「シムドライブは慶応大学アントンプレナー支援資金を受けて発足し、ベネッセコーポレーション、ガリバーインターナショナル、ナノオプトニクスエナジーなどの出資によって設立した。シムドライブが提供する電気自動車技術として、インホイールモーターのみの『by SIM-Drive』。それに加えインバーターや電池、シャシーまでも含めて共同で研究開発を行う『Platform by SIM-DRIVE』を用意する。フェーズ1では、普及モデルの検討を、フェーズ2では標準化および先行事業開発を行い、フェーズ3で製造サポート事業まで持っていき、2013年に電池を除いた価格で150万円以下の電気自動車の販売を実現する」と言い、シムドライブと一緒に研究を行い、電気自動車を開発・製造・販売する企業をこれから探していく。
現状考えているのは、フェーズ1の研究段階では共同開発する会社から1社あたり2000万円ほどを、量産段階では2億円~3億円ほどの金額で技術をオープンにし、量産へ向けての共同開発を行っていくということ。現段階で、共同開発をする自動車会社や部品会社は決まっておらず、すべてはこれからだと言う。
なお、150万円という価格は車両本体のみでバッテリーは含まない。シムドライブでは、高価な電気自動車用バッテリーはレンタルやリース方式での利用を想定しており、この形態を取ることによって、現在400万円以上する電気自動車の価格を大幅に引き下げる。
清水社長が説明に用いたスライド。モーターを車輪内に取り付けるタイプの電気自動車のため、さまざまな自動車を作ることができる |
シムドライブの技術顧問に就任する、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授の高野正氏 |
■モーターは3種類を定義
電気自動車のキーコンポーネントは、モーターとバッテリー。そのモーターについては、シムドライブの技術顧問に就任する高野正慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授から説明が行われた。シムドライブではすでに技術開発を行っており、モーターは3種類のサイズを想定していると言う。トルク50NmのS、200NmのM、700NmのLの3種類となっており、たとえば50Nmのモーターを4輪に取り付けた場合、200Nmのトルクを持つ電気自動車になる。これは排気量2000ccの自然吸気ガソリンエンジンと同等の値で、さらにトルクが必要な車を作る場合は、モーターの外径を大きくするのではなく軸方向に延長することで対応すると言う。
この自由度もインホイールモーター型電気自動車の特徴で、2WDはもちろん4WDも8WDも作ることができる。シムドライブではモーターの技術だけを提供するby SIM-Driveと、プラットフォームまで含むすべての技術を提供するPlatform by SIM-DRIVEの2つの技術提供形態を考えているが、Platform by SIM-DRIVEのほうがエネルギー効率がよく、こちらであれば今の電気自動車のエネルギー効率の2倍となるとした。
清水社長は、バッテリーについても、モーターと同様に標準化を目指したいと言う。ただ、バッテリーの技術は急速に進歩している最中なので、たとえば乾電池などと同じく、外径サイズの標準化を提言したいと語った。
また、Platform by SIM-DRIVEでは、電気自動車のプラットフォームとしてシャシーまでもが一体となって開発できるので、たとえば旧車の外装だけを使って電気自動車化できると言う提案もなされた。
電気自動車こそ究極のエコカーであり、究極のクルマであるとする東京大学の村沢義久特任教授 |
■電気自動車こそ究極のエコカー
シムドライブの会社概要説明の後、東京大学のサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)特任教授の村沢義久氏など、多くの来賓から新会社に対する期待が述べられた。
村沢義久教授は、「『燃やさない文明』と電気自動車の役割」と題したプレゼンを行い、電気自動車こそ究極のエコカーと紹介。村沢氏は、「先進国全体で、CO2排出量の削減に取り組んでいるが、2050年までにCO2排出量の80%削減を達成するには発想の転換が必要」と切り出し、ハイブリッドカーなどではなく、CO2をほとんど発生しない電気自動車こそが究極であるとし、発電も太陽光(ソーラー)発電が必要だと語った。
また、現在トヨタ自動車がハイブリッドカーを、三菱自動車工業やスバル(富士重工業)が電気自動車を発売し、電気自動車の時代が到来していることを紹介しながら、今後は従来の大手自動車メーカーではなく、小さな規模の電気自動車メーカーや、中国など新興国の自動車メーカーが台頭してくるだろうと言い、シムドライブの提案する仕組みが、電気自動車化の流れを加速するだろうと語った。
発電についても、さまざまな形態での発電を適宜配分するスマートグリッドが普及し、電気自動車の普及を後押しすると予測し、“燃やさない文明”の実現には電気自動車が不可欠であるとした。
村沢義久教授によるプレゼン内容。電気自動車こそ究極のエコカーであり、究極のクルマであると結論づけた |
電気自動車用バッテリービジネスを手がけるベタープレイス・ジャパンの藤井清孝代表取締役社長は、コンピューター業界で起きた大型コンピューターからパソコンへのシフトを例に挙げ、モーター分散型モデルとも言えるインホイールモーター型の電気自動車の登場を歓迎するとした。ベタープレイス・ジャパンがシムドライブに参画するかとの質問に対しては、「ベタープレイス・ジャパンは、賛同する立場であり、シムドライブに参画するかどうかは今後のこと」と語りつつも、シムドライブが提案することを表明している、電気自動車用バッテリーの標準化に関しては、興味があると言う。
また、清水社長とは慶応大学での同僚教授にあたる竹中平蔵慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所所長は、「人間には2種類ある。批判ばっかりして何もしない人と、リスクを取って未来にチャレンジする人だ。もちろん清水教授は後者であり世の中を進めていってほしい」と語った。そのほか、クオンタムリープの出井伸之代表取締役からの挨拶、日本科学未来館の毛利衛館長や慶應義塾大学環境情報学部の村井純教授からのビデオメッセージ上映などが行われた。
最後に清水社長は、電気自動車の登場を、カメラがデジタルカメラに変わったことになぞらえ、「デジタルカメラはソニーが最初に発売し、カシオのQV-10の登場によって大きく変わった。今ではカメラメーカーだけでなく、そのほかの分野のメーカーが参入し市場の規模も拡大した」と言い、さまざまなメーカーとインホイールモーター型の電気自動車を開発し、量産まで持っていくことで、電気自動車の急速な普及を目指すとした。
(編集部:谷川 潔)
2009年 8月 24日