R&Dスポーツ、SUPER GT第6戦でレガシィB4決勝進出ならず
新開発の駆動系にトラブル、予選の途中で出火

R&DスポーツのレガシィB4とドライバーの密山祥吾選手(左)、山野哲也選手(右)

2009年8月23日



 R&Dスポーツは、8月23日、24日に開催されたSUPER GT第6戦に、スバルレガシィB4を緊急参戦させたが、予選走行で駆動系にトラブルが発生。一時は車両から炎が上がる事態となり、密山祥吾選手の予選通過タイムをマークすることができなかった。スタッフは夜通しでトラブルの克服に奔走したが、トラブルの根本的な原因究明には至らず、決勝進出のための最後のチャンスとなる決勝当日のフリー走行も断念。無念の予選落ちとなった。

予選でのレガシィB4の走行シーン。終始ペースは上がらず山野選手から密山選手にバトンタッチしたところでトラブルが発生
決勝前に行われるフリー走行で密山選手がタイムを出すことが、決勝進出の最後に残されたチャンス。フリー走行に向けて懸命に作業が続けられた

 火災はギアケースからのオイル漏れに引火したものだった。このレガシィB4が搭載するのは2.0リッターのターボエンジン。これはスバルテクニカインターナショナル(STI)から供給されるもので、その仕様はWRC参戦車や昨シーズンまでのクスコインプレッサに搭載されていたものとほぼ同様。レギュレーションの変更にあわせてリストリクター(吸気制限装置)の径が変更されている程度のため、信頼性には問題ない。一方のトランスミッションやデフといった駆動系に関してもSTIの供給になるが、こちらはトランスアクスルを採用していたクスコインプレッサとはまったく異なる新規の設計。今回はこの新開発の部分がトラブルの原因となったようだ。

 チームから公式に決勝断念の一報が伝えられたのは、スバルファンシートで行われたトークイベントでの席だった。レガシィB4緊急参戦にあわせ、急遽用意されたスバルファンシートは、当初予定分がすぐに売り切れ、追加販売するも即完売という盛況ぶり。昨年までインプレッサで出走していたクスコが今シーズンは撤退しており、スバルの青い旗がSUPER GTで振られるのはおよそ半期ぶり。ファンにとってもその期待は小さくなかったはずだ。

 ファンシートでのトークイベントは、スバルテクニカインターナショナル渉外部の日浅英之氏の進行で進められた。最初に紹介されたのは、R&Dスポーツの本島伸次チーム監督だ。

 昨日のトラブルの件もあり、ファンシートの外側には他チームのTシャツを着た観客も集まって、監督の発言に注目していた。監督の口から「非常に残念な報告をしなければならない」と発せられた時点で、多くの人がその意図を汲み取ったようだった。本島監督は「非常に重要な部分に問題が出て、部品の調達、対策を含めて、今日皆さんの前でレガシィB4の走りをとにかく見せようと、チーム一丸となってやってきた。ただ残念だがどうしても解決しない部分があり、先ほども大会主催者側に何とかファンの前を1周でもよいから走らせてほしいと嘆願したのだが、できなかった」と続けた。「私はレガシィB4の持つ潜在的な能力、ドライバー2人の力があれば勝てると確信しています。皆さんの声援で今後上位を狙える車にしていきますので応援よろしくお願いします」とその意気込みを語った。

 続いて昨シーズンまでクスコインプレッサで出走していたドライバーの山野哲也選手は、落胆の色を隠せないファンに向かい「テンション上げ気味でいきましょう。みなさんただいま!!」と元気よく声を上げた。山野選手は「今回レガシィという、まだ出たばかり新車で、それをGTマシンに改造してSUPER GTに出るという、世界的に大ニュースになるようなチャンスを与えてくれたことに非常に感謝してます」と自身の喜びを語り、また、18日のシェイクダウンと予選の走行でマシンの秘めたポテンシャルを実感していると述べ「これから将来にむかって、車が本当によくなる確信を持っているし、ベースで非常によいものを持っている。特にシャシー関係、サスペンション関係はものすごくよく、今のレーシングカーの最高峰を行っているので、今足りていない部分が解決されて、セットアップされれば、勝てる日が来るのはそんなに遠くないと思う」とその意気込みを述べた。

 もう1人のドライバーを務める密山祥吾選手は「今回は残念な結果になってしまったが、このレガシィB4は、すごくポテンシャルの高いマシンですので、最終戦までに山野さんと力を合わせて表彰台を狙えるような車にお仕上げていきます」と述べた。

 レガシィB4のSUPER GT参戦を応援するため、会場にはPWRC参戦中の新井敏弘選手や、今年のニュルブルクリンク24時間レースにインプレッサで出走した吉田寿博選手も駆けつけていた。

 予選でレガシィB4の走りを見たという新井選手は、「車の動きもすごくよくて期待できるかなと感じていた。よく3カ月でR&Dスポーツはこの車を作ったなとすごく感心していた」と述べた。自身も昨シーズンより現行モデルのインプレッサにマシンを変更し、苦戦を強いられたことを挙げて「1年間かかって壊れなくなって、(今シーズンは)やっとトップ争いできるようになってきて、その生みの苦しみというのはとてもよくわかる。R&Dスポーツさんにはぜひ一生懸命がんばってもらって、今シーズン表彰台に上ってもらいたい」と述べた。

 吉田選手は「R&Dスポーツさんがすごくがんばって、時間のない中で仕上げて、(昨日)走っている姿を見てすごくうれしかった。ちょっと早く生まれすぎちゃったのかなぁという部分があって、まだまだ完成し切れていない部分があるんですけど、これからR&Dスポーツさんとドライバー2人ががんばってちゃんと優勝できる車に仕上げると思うので、みなさん見捨てないで応援していただければ」とエールを送った。

スバルファンシートで行われたトークイベントR&Dスポーツの本島伸次チーム監督山野哲也選手
密山祥吾選手PWRCにインプレッサで参戦中の新井敏弘選手インプレッサでニュルブルクリンク24時間レースに出走した吉田寿博選手
ファンシートの外に集まっていた他チームのファンからもスバルコールがわき起こったファンシートではサイン会も行われ、ファンシート参加者に配られた帽子などにサインをしてもらっていた

 次戦の第7戦は富士スピードウェイで9月12日、13日に開催される。それまでに残された時間はわずか3週間。その間にどこまでウィークポイントを洗い出せるか? まだまだ生まれたばかりのレガシィB4にとって、戦いの火ぶたは切って落とされたばかりだ。

ピットウォークで、R&Dスポーツのピットの前に黒山の人だかりができていた大きくせり出したフェンダーがアグレッシブな雰囲気のレガシィB4
ボンネットよりフェンダーが大きくせり上がっているリアバンパー下部には巨大なディフューザーが装着されるグリルはふさがれていて、開口部はバンパー部分だけになる
大きく空いたボンネットダクトからは水平にマウントされたインタークーラーが見える前後ともに大きく張り出したフェンダー
カーボン製のドアを開けるとダッシュボードが大きく後退しているのが分かるメーターはステアリングに装着され、意外とすっきりとしたコクピット低く、そして後方にマウントされたシート。乗り降りは大変そうだ
ボンネットを外した状態。アルミのカバーの下にはインタークーラーがあるカウルを外したところ。排気は左タイヤの前辺りから出るレイアウトインテークマニホールドとエンジンの間をドライブシャフトが抜け、エンジンの前方、斜め上にフロントデフが配置される
タービンはエンジン前方に配置されるエンジンは水平対向2リッターエンジンをベースにしたものエンジンはフロントミッドに搭載される。写真右が進行方向
リアウイングはトランクを貫通してフレームに直結後部には巨大なオイルクーラーが付く

【お詫びと訂正】記事初出時、密山祥吾選手のお名前を誤って表記しておりました。お詫びして訂正させていただきます。

 

(瀬戸 学)
2009年 8月 25日