WTCC日本ラウンド、今年も熾烈な“水中戦”に |
10月30日~11月1日、岡山県の岡山国際サーキットで「FIA WTCC(世界ツーリングカー選手権)」第20戦、第21戦が開催された。
WTCCは、F1、WRC(世界ラリー選手権)と並ぶ、FIAに3つしかない世界選手権の1つ。その名のとおり市販車をベースとした車両で戦われる。日本では2008年も同じく岡山でWTCCが開催されており、今回で2度目。
■ツーリングカーが繰り広げるスプリント&肉弾戦
WTCCの特徴は、1イベントで、14周のレースを2戦、しかも1日のうちに開催すること。レースディスタンスはたったの50kmだ。スプリントレースのため、ペースカーが入るとその分、延長される。
また2戦のうち1戦目はローリングスタートで、2戦目はスタンディングスタートで行われる。これは、スタンディングスタートが後輪駆動車に有利なために採られている措置。
さらに、1戦目のグリッドは予選で決まるが、2戦目のグリッドは、1戦目のリザルトの上位8台が、リバースグリッドで並ぶ。リバースグリッドとは、1戦目の8位入賞車がポールポジションに着き、以下7位、6位……と並ぶこと。
■ガソリンとディーゼルが混走、ワークスとプライベートでクラス分け
車両規定にクラス分けはないが、「スーパー2000」と「スーパー2000D」の2種類が混走する。スーパー2000は12カ月で2500台以上を生産したクルマで、ウェットサンプの2リッター自然吸気エンジン+5速Hパターンまたは6速シーケンシャルトランスミッションを搭載する2輪駆動車。前述のように、前輪駆動でも後輪駆動でもかまわない。スーパー2000Dはエンジンが2リッターのディーゼルターボになり、トランスミッションがHパターンも6速となる。なおタイヤは、横浜ゴムのワンメイクだ。
2009年の参戦車は、セアト・レオン 2.0 TDI/TFSI、BMW 320si、シボレー・クルーズLT、ラーダ・プリオラの5種。うち、レオン TDIのみがディーゼルターボエンジンを搭載する。また、320siは後輪駆動だ。
なおWTCCでは重量ハンデ制が採られているが、SUPER GTのように“勝つと重くなる”という単純なものではなく、過去3大会の予選・決勝のタイムから、ある計算式で算出したウエイトが、チームごとではなく、車種ごとに決められるというもの。岡山では320siとレオン TDIが+40kg、クルーズLTが+30kg、レオン TFSIが0kg、プリオラと320siのシーケンシャルギアボックス搭載車が-20kgとなっている。
このように、ルックスもメカニズムもバラエティに富んだマシンが揃うにもかかわらず、イコールコンディションに近づけ、観戦しやすく、楽しめる仕組みを多数用意しているのがWTCCと言える。
■接戦のチャンピオンシップ
4社ともワークスチームが参戦しているが、320siとレオン TFSIはプライベーターからも参戦している。WTCCにはプライベーターだけで争う「YOKOHAMAインディペンデントトロフィー」も用意されている。
ワークスのドライバーズタイトルは、レオン TDIに乗る元F1ドライバーのガブリエレ・タルクィーニがトップ、7ポイント差でやはりレオン TDIのイヴァン・ミューラーが続き、さらに11ポイント差で320siのアウグスト・ファルファスが追う展開。この3人がチャンピオン争いにとどまっている。
メイクスはセアトがBMWを21ポイントリードしているが、前述の重量ハンデもあってチャンピオンの行方は不透明だ。
ガブリエレ・タルクィーニ | イヴァン・ミューラー | アウグスト・ファルファス |
インディペンデントトロフィーは、トム・コロネルがフェリックス・ポルテイロ(320si)に29ポイントもの差を付けているが、こちらも逆転の可能性はゼロではない。
なお、岡山ラウンドには荒聖治、谷口信輝、加納政樹、ジャン・パオロ・オリベイラの各選手がプライベーターからスポット参戦。オリベイラはレオン TFSI、残りの3人は320siに乗る。
トム・コロネル | フェリックス・ポルテイロ | 荒聖治 |
谷口信輝 | 加納政樹 | ジャン・パオロ・オリベイラ |
■雨の決勝
予選は31日夕方に行われた。WTCCの予選は2回行われ、Q1の上位10台だけがQ2に進めるノックダウン方式だ。結果、レオン TDIのタルクィーニがポール。BMWのプリオールとヨルグ・ミュラーがこれに続いた。タルクィーニとチャンピオンを争うファルファスは5位、ミューラーは8位につけた。
第20戦、第21戦とも、決勝は11月1日。午前中のル・マンシリーズの終わり頃から雨粒が落ち始めていたが、WTCC第20戦スタートの13時55分には本降りとなり、コースはヘビーウェットに。
第20戦はローリングスタートだが、雨のため、最初の2周はセイフティーカーが先導、3周目にグリーンフラッグが振られ、ここから14周のレースが始まった。しかし、水煙で視界がなく、グリップもない状態で混戦となった。
タルクィーニはトップのまま1コーナーに飛び込んだが、2コーナーでコースアウト、プリオールが首位に立った。プリオールはこのままゴールし、これにヨルグ・ミュラー、シボレーのロバート・ハフが続いた。チャンピオン争いのメンバーはタルクィーニが5位、イヴァン・ミューラーが4位、ファルファスが8位。いずれもトップ8に入り、ファルファスは第21戦でポール・ポジションからスタートすることになった。
プライベーター勢では10位のトム・コロネルがトップでゴールし、第21戦のインディペンデント・トロフィーを獲得した。
日本勢は荒の17位が最上位で、谷口20位、加納21位、オリベイラ23位と続いた。初めて乗るマシンで雨のデータもない中では致し方ない結果と言ったところか。
■タイトル争いはさらに混迷
第20戦終了後に小康状態となった雨は、第21戦の始まりとともにまた本降りに。結局、岡山ラウンドは雨に終始することになった。
スタート後の1コーナーで多くのマシンがコースアウトしたが、後輪駆動に有利なスタンディングスタートを生かし、ファルファスは巻き込まれずに済んだ。これにやはりこの混乱をすり抜けたプリオール、イヴァン・ミューラー、シボレーのアラン・メニュが続く。
結局、この順位のままゴールとなった。タルクィーニは7位。21戦を終え、タルクィーニ115ポイント、イヴァン・ミューラー113ポイント、ファルファス102ポイントと差が詰まった。さらに、メイクスポイントはセアト289ポイント、BMW286ポイントと、BMWが急追。チャンピオンの決定は最終戦マカオにゆだねられた。
インディペンデントトロフィーはステファノ・ダステ(320si)が10位、ポルテイロが11位、コロネルが13位。コロネルとポルテイロの差は30ポイントのままで、チャンピオンはほぼコロネルの手中に収まったと言える。
日本勢はオリベイラの14位が最上位、次いでアレックス・ザナルディらとバトルを繰り広げた荒が19位、加納20位。谷口は3周でリタイアとなった。
リバースグリッドでポールスタートとなったファルファス。終始トップでプリオールを従えてゴールし、チャンピオンシップの結末を最終戦に持ち込んだ | ||
コースアウトにクラッシュ。まさにカオスとなったWTCC岡山ラウンドだが、そんな中でも先頭から最後尾まできっちりバトルを続けた |
(編集部:田中真一郎)
2009年 11月 2日