「オートカラーアウォード2010」リポート
グランプリは初代に敬意を表したフェアレディZロードスターに決定

文化女子大学で開かれた「オートカラーアウォード2010」

2009年12月15日開催
会場:文化女子大学



会場を俯瞰で見たところ

 スタイリングや技術・性能とともにユーザーの好みが反映されるのが、外装や内装の色合い。年々塗装技術が向上するとともに豊富な色分布が普及し、多様化するユーザーニーズに応える微妙な色合いが提案されるなど、モデルの性格や性能に応じた色の表現力がレベルアップしている。

 そして、その時代のカラーデザインにおいて一番を決める「オートカラーアウォード2010」の審査と発表が、12月15日に東京都新宿区の文化女子大学で開かれ、第1次審査の16台から選出された12台による第2次審査が行われた。その模様をお伝えする。

ユーザーの好みや競争激化で多様化するオートカラーの世界
 今回で12回となるオートカラーアウォードは、日本ファッション協会のJAFCA(流行色情報センター)主催で1999年より実施されている。自動車の色彩がもつ情感の豊かさを積極的に訴えかけていく中で、文化的な深みを備える製品が社会に普及することを目指し、優れた自動車のカラーデザインを顕彰する制度として行われているもの。

 オートカラーアウォードは2つの審査委員会からなる。1つはJAFCAの自動車色彩分科会メンバーで、自動車メーカーでカラーデザインにかかわる8名のデザイナーにより、プロの視点と判断で審査する「オートカラーデザイナーズセレクション賞」。もう1つは自動車以外の分野でカラーデザインに関係する、7名の委員が広い視野で審査する「グランプリ」および「ファッションカラー賞」の委員会。そして会場となった文化女子大学造形学部の23名の学生による「文化女子大学セレクション賞」が、第2次審査対象の12モデルの中から選ばれ授与された。

 ちなみに過去10年間のボディーカラーの変遷をJAFCAの資料で見てみると、街中で見かけるのと同じように、グレーやホワイト、ブルーなどが占めている。欧米よりも派手なシグナルカラーの比率は低く、国民性や気象環境などが影響しているようだ。今回の審査では午前中が曇りだった関係で、審査モデルの色合いや光の反射度合いなどでモデル間の差が出にくかったものの、太陽が顔を出した午後になると、各モデルの性格がはっきりと出たようだ。

 この2年間のグランプリ授賞車は、2007年(第10回)が日産「マーチ」のサクラ(外装色)&カカオ(内装色)。2008年(第11回)がホンダの燃料電池車「FCXクラリティ」のスターガーネットメタリック(外装色)とウォームグレー(内装色)だった。それぞれ1台ずつ見ると何か特別色のように見られるが、その年、その時代を映すカラーが表現されており、審査にも少なからず影響しているようだ。

オートカラーアウォード2010を主催する日本ファッション協会 JAFCAで理事長を務める馬場章氏を中心に、授賞関係者との集合写真審査委員長を務めた有元正存氏。自動車デザインの評論家でもある

授賞モデルのカラー
 「オートカラーアウォード2010」の審査の流れは、8月から10月までエントリーの16台を受け付け、11月11日の第1次審査では、以下の12台が第2次審査に選ばれた。

レクサス「IS250C」レクサス「HS250h」トヨタ「プリウス」
ホンダ「ステップワゴン」ホンダ「ストリームRST」ホンダ「アコードツアラー」
日産「フェアレディZロードスター」日産「フーガ」日産「スカイライン クロスオーバー」
スバル「レガシィーB4」ダイハツ「ミラ ココア」マツダ「アクセラ」

グランプリはフェアレディZロードスターに決定
 グランプリはフェアレディZロードスターが選ばれた。「エコカーの時代と言われる中で、スポーツカーであるフェアレディZがあえて選ばれたのは、人々の価値観やライフスタイルの多様化と、本物志向を目指すユーザーの気持ちを具現化した結果であろう」と、自動車デザイン評論家で審査委員長を務めた有元正存氏は評価する。また、「このフェアレディZ のカラーデザインは、初代のフェアレディZの色をモダナイズしたものであり、本物感のある色が現在に進化してきたものである。オーナーになる人にとっては、愛着のもちやすい、長く乗り続けられる色と言える。華やかさ、色気もあるが、長く続くような色気をもっている」と受賞理由を述べている。

 その外装色は深みのある“プレミアムディープマルーン”で、洗練された大人のために相応しい色合いや、初代フェアレディZに敬意を表する、高級感のあるカラーを表現した結果だ。そして内装色には“ボルドー”というワインの色をモチーフにした、ロードスター専用色が審査委員の評価を得た結果であった。

オートカラーアウォード2010のグランプリを受賞して挨拶する、フェアレディZロードスターのカラーデザイン担当の吉田直路デザイナー。アピールポイントは「洗練された大人に最も相応しい色として、ダークマルーン系を選択。ブラックローズの花びらのように、光を受けた面は華やかに、影になった面は深みと艶やかさを感じさせ、妖艶なイメージにした。インテリアのボルドーは上品で深みがあり、華やかさを併せ持つ」としているグランプリを受賞したフェアレディZロードスターと、日産のカラーデザイン関係者。右から牧野克己カラーデザイン部長、日本ファッション協会流行色情報センター理事長の馬場彰、吉田直路担当デザイナー、水谷美香担当アシスタントマネジャー

ファッションカラー賞はアコードツアラー
 時代の価値観やライフスタイルを先鋭に表現し、消費者のライフスタイルに影響力のあるカラーデザインを示す「ファッションカラー賞」には、ホンダ「アコードツアラー」が選出。コバルトブルー・パール(外装色。内装はブラック)のシンプルなカラーにあって深みのあるブルーの表現が、評価を得たようである。

 審査委員長は「トレンドカラーの背景には、社会の動きや価値観の変化があるが、現在の混沌とした世の中で、これから期待される色とは、分かりやすい色ではないか。アコードツアラーのブルーは、ブルーの中でも強いブルーである。あまり細工をしていない、新しいスタンダードとしての力強さを持っている」と述べた。

ファッションカラー賞を受賞した、アコードツアラーのカラーデザイン担当、井上美佐デザイナー。アピールポイントは「エクステリアのコンセプトは“Emotional-Tech Color”。存在感のある大人のブルーを目指し、陰影のコントラストを高くすることで深みを表現し、深みと派手さが共存した巧みな色になっている。インテリアのブラックは色みを感じさせることで、上質感と色気をあわせ持つ」

審査委員特別賞のライフスタイル賞はステップワゴン
 「審査委員特別賞」のライフスタイル賞には、原点回帰のミニバンとなったホンダ「ステップワゴン」が受賞。ファミリーが“日だまり”で楽しく過ごせる空間と、走りを実現したプレミアムヒダマリアイボリー・パール(外装色。内装はグレー)という名称が、審査委員の心をつかんだ。

 審査委員長からは「ステップワゴンは『人が主役』『サンルーフ越しに見える空が主役』というように、車としてメッセージがはっきりしていて、ユーザーに真摯に向かう姿勢がよく表れている。ライフスタイルを感じさせる車」と、受賞理由を挙げている。

審査委員特別賞「ライフスタイル賞」を受賞した、ステップワゴンのカラーデザイン担当の小林美絵デザイナー。アピールポイントは「コンセプトは“Friendry Max”。家族の生活に溶け込む道具として必要な、親しみやすさと使いやすさを表現する“自然の要素から抽出した”優しいカラーとマテリアル。エクステリアは日溜まりの中で家族と過ごす、暖かい記憶の色。インテリアは明るさと広がりのある空間を表現」したと言う

エクステリア部門賞はミラ ココアとフェアレディZロードスター
 自動車メーカーのデザイナーによる「オートカラーデザイナーズセレクション」では、まず「エクステリア部門賞」としてダイハツ「ミラ ココア」が選出。ココアベージュマイカメタリック(外装色。内装はグレイッシュベージュ)と、フェアレディZロードスターの2台が選ばれた。

 審査委員は受賞理由に「暖かさや遊び心、ほのぼの感のある色とネーミング。狙いがうまく表現されたカラーで、ココアのような質感(粉っぽさ、ぬくもり)がうまく伝わってくる。ゆっくりくつろぐ女性に共感を呼ぶ色。上品さ、温かさを訴求しながらも、モダンな感じは親しみを感じさせる」と述べている。

オートカラーデザイナーズセレクションで企画・外装・内装の3部門を受賞した、ダイハツ・ミラ ココアのカラーデザイン担当の藤川淳子デザイナーオートカラーデザイナーズセレクションを受賞した、ダイハツのカラーデザイン関係者。中央の写真右から上山喜代治カラー開発グループリーダー、藤川デザイナー、新井敦皓担当デザイナー。ミラ ココアを「ターゲットは肩肘を張らない、おしゃれ感度の高い20代女性。ゆったりした雰囲気のカフェで楽しむココアからのイメージ。可愛らしさを抑えたピンクのようなベージュのような色。時を超えて愛され続ける、温かさの中にもモダンさを感じる色」とアピールした

インテリア部門賞はミラ ココア、技術部門賞はフーガ
 「インテリア部門賞」には、エクステリア部門賞も受賞したミラ ココアが選出され、軽自動車ならではの愛らしさとココアをイメージしたカラー構成が評価を得た。さらに「企画部門賞」の「ホッとスルー(through)でしょ(賞)」でもミラ ココアが受賞。この珍しいネーミングの賞の名前について、審査委員から「見た目とおりのほっとするような、ほのぼの感への共感と、エクステリアからインテリア、イメージ、ネーミングまでが一貫してまとまっていることから、“する”をthrough(スルー)とした」との説明がされている。トータルバランスでのスタイルや装備、カラーデザインの一貫性が評価された。

 そして「技術部門賞」には、日本の伝統工芸に用いられるような本物志向が盛り込まれた、高級セダンの日産「フーガ」が受賞。審査委員は「提案性の高い意欲作。クラフトマンシップへのこだわりが、モノで伝わる迫力がある。特に“銀粉本木目”は非常に興味深いアプローチとテクニックで、プロダクトとして実現できていることがすごい。世界観はみごとに表現されており、こだわりも伝わった。自然美も含め、“美”に対する考え方、表現は素晴らしい」と評価。

オートカラーデザイナーズセレクションの技術部門賞を受賞した、フーガと松本群太担当デザイナー。アピールポイントは「陶芸の考え方と質感をソースとし“陶磁器”のトロっとした質感と、夕暮れのミステリアスで美しい空の色みを表現。ハイライト部分では太陽、シェイドでは夜との中間を再現。インテリアでも工芸品のような“銀粉本木目フィニッシャー”などの手の込んだ表現をしている」と述べる

文化女子大学セレクションはIS250Cが受賞
 唯一学生が選ぶ「文化女子大学セレクション」には、レクサス「IS250C」が受賞。高級オープンカーを表現するカトレアマイカメタリック(外装色)と、艶やかなメローホワイト&シルバリーパール(内装色)に、若い学生の心が動いたようだ。

 審査委員からは「華やかで美しい。深く透明感を合わせ持つ表現技法が評価できる。明るいインテリアカラーも洗練されており、インテリア、エクステリアのコーディネーションもよい。カトレアの美しさと凜とした女性の美しさがぴったりと合ってイメージできる」と評価。

文化女子大学セレクションを受賞した、IS250Cのカラーデザイン担当の伊藤淳子デザイナー。「クローズからオープンへ移ろう美しい姿を、カトレアの花の“つぼみから開花まで”のイメージに重ね合わせ、優雅かつスポーティに演出。エクステリアはカトレアの優雅な佇まいをイメージしたバイオレット、インテリアはほのかにバイオレットを感じるシルバーパールを加えている」とアピールポイントを紹介

 このように各賞が決まったものの、受賞に漏れた各社のモデルもひけを取らないカラーデザインが施されていたのは確かで、願わくばすべてのモデルが受賞してもおかしくない接戦であった。その点で、実車のカラー展開も去ることながら、カラーの名称にも一工夫あるモデルが受賞する傾向にもあった。スタイルや性能も大事だが、我々が着飾るファッションと同様に、自動車のボディーカラーや内装色もユーザーやライフスタイルに関係することを注目したい。

(浜田拓郎)
2009年 12月 18日