三洋電機のゴリラシリーズをレビュー<前編>
SSD 8GB搭載のスタンダードグレード「ゴリラ NV-SB541DT」

ジャイロ&加速度センサーを備えたゴリラシリーズのフルスペックモデル「ゴリラNV-SB541DT」

2010年10月8日発売
オープンプライス



 カーナビ界で最も元気いっぱいなのがPND(Portable Navigation Device)である。その中でリーダー的存在として君臨しているのが三洋電機コンシューマエレクトロニクスの「Gorilla(ゴリラ)」。3年前に国内メーカーとして初めてワンセグチューナー搭載PNDを発売し、その存在を知らしめたPNDのナンバーワンブランドだ。今回レビューをお届けする「ゴリラ NV-SB541DT」と「ゴリラLite NV-LB50DT」は、その三洋が2009年秋にリリースした同社製PNDの主力となるモデルである。

 この2モデル、位置づけとしてはNV-SB541DTがジャイロ&加速度センサーを備えた上位モデルで店頭実売価格が6万5000円前後、NV-LB50DTは測位をGPSだけに頼るエントリーモデルで店頭実売価格が3万8000円前後となる。ただ、両者は単にグレードの違いと思いきや、実は生い立ちをまったく異にする別物として誕生している。

 NV-SB541DTはOSにゴリラシリーズが伝統としてきた「ITRON(アイトロン)」を使うが、NV-LB50DTはOSに「Windows CE」を使用。ゴリラとしての高性能を重視したNV-SB541DTに対して、汎用OSを使うことで徹底した低コストを追求したのがNV-LB50DTなのだ。今回はその第1回として、まず上位モデルのNV-SB541DTを、ジャイロ&加速度センサー搭載の高性能PNDとして採り上げる。

 このNV-SB541DTは、春に発売されたNV-SB540DTと外観はほぼ同じだが、最大の変更点は車載スタンドに吸盤式を新採用したことだろう。これによって載せ替えも簡単になり、取り外してもその跡が残らない。PNDとして取り付け性を大幅に向上させたのだ。取り付け時は上から少し強めに押さえつけながらロックするのがコツ。一応、推奨する取り付け方法はダッシュボード上に付属のパネルを貼り、その上に吸盤で貼り付けるようになっているが、テストで行った限りでは直付けしてもかなりしっかりとしていた。吸盤の信頼性は十分高いと言ってよいだろう。

付属の吸盤式車載スタンドを使ってダッシュボード上にセッティング。右はNV-SB541DTを取り外した状態の車載スタンド

 NV-SB541DTのモニターは5.2V型でバッテリーを内蔵するPNDとしては大型の部類に入る。そのため視認性はとても高く、昼間時の輝度も十分だ。表示されるフォントはやや細身ではあるものの、地図との表示バランスがよいせいか、見にくさはほとんど感じない。市街地図は1157エリアを対象とし、日本全国の中核都市はほぼ全エリアを網羅。3D表示のゴリラシティマップに切り換えれば建物の立体表示にも対応する。さらに全国約600カ所の主要施設は立体アイコンで表示し、ランドマークを基点とした位置関係を地図上から把握できるようになってもいる。

 案内表示も実に多彩だ。なかでも特筆すべきなのが、分岐点に近づいて表示される拡大図である。画面の右2/3を使って分岐点周辺の状況をリアルに表示するもので、これは一般道/高速道のいずれの場合も表示する。一般道では周辺の建物や植栽などを克明に描き出し、そこには交差点名や車線ガイドまでを実際の状況に従って表示する。何かと分かりにくい都市高速の入口も同様の表示で進入路を克明に描き出していることも見逃せない。これら一連の案内は三洋が以前より採用していたもので、案内表示としてはトップクラスの分かりやすさと言ってよいだろう。

 さらに地図は必要に応じて2画面表示も可能だ。異なる縮尺を左右で同時表示したり、交差点ごとの情報をリストで表示したり、さらにエコドライブ情報を常時表示したりすることもできる。この機能を使いこなすことで、状況に応じた地図の表示が可能になり、ゴリラとしての魅力をいっそう引き出せるようになるというわけだ。

道路の種別や太さをリアルに反映し、公園や河川なども色分けすることで情報の伝え方がしっかりとしている市街地図は全国1157エリアで表示でき、商業施設などは色分けして表示。歩道や分離帯の存在まで描くリアルさだ道路上にある方面案内標識を画面上でも表示。ルート案内時は進行方向を色塗りしてガイドする
方位アイコンにタッチすると、地図は2Dから2Dノースアップ(写真左)→3D表示(写真右)に切り替わる。「GG」アイコンはジャイロの動作状況を示す政令指定都市では1710カ所の交差点で3Dリアル交差点を使って進行方向を誘導。車線ガイドも兼ねる
通常の交差点拡大図。車線ガイドや交差点名、交差点周辺にあるランドマークの表示も行う高速道路での分岐点ガイド。左右それぞれの方面案内も表示し、道路上の車線ガイドもしっかりとサポートしている2画面表示の異なった縮尺の画面。左右それぞれで好みの縮尺が設定でき、2D/3Dの選択も自在に行える
2画面の右画面には「ルート情報」として交差点をリスト表示することが可能。高速道路走行時は「ハイウェイモード」が選べる(画像右)ルート案内中は、通過する交差点の車線ガイドを行いながら誘導。さらに次の交差点までもサポートしている

 メモリー容量が8GBということで、目的地の検索能力についても本機は圧倒的な強みを発揮する。電話番号検索は、職業別だけでなく個人宅の検索にも対応。合計で約4000万件ものデータを収録。個人宅を探す際は、電話番号をまず入力し、その後で姓を入力してデータが一致すればその位置がピンポイントで表示される。これはランダムに番号を入れて個人宅を特定できないようにするための配慮だ。住所検索はデータとして約3500万件を対象とし、「~丁目~番~号」での絞り込みだけでなく、「大字」エリアでもピンポイントで対象地を探し出す。

 名称を入力して対象施設を探し出す50音検索では、50音キーボードに名称を入力し、検索ボタンを押すと絞り込んだリストを表示。その速度はかなり速く、全国を対象に検索しても結果を出すまでの所要時間はごくわずかだ。ただ、惜しいのは50音検索での“あいまい検索”に対応していないこと。名称の一部を入力して、その文字列を含んだ名称をリスト表示することができないのだ。インダッシュに収めるHDDナビでは、ほとんどの機種がこれを搭載しているし、ゴリラシリーズの中でもHDDナビではこれを実現していた。それなのに8GBのメモリーを搭載したのにもかかわらず、あいまい検索に非対応となっているのは残念である。

 また、周辺検索はリストと地図を同時に表示できるようになり、現在地との位置関係も把握できるように配慮。コンビニやファミレスといった一般的な施設以外に、トイレとか、ビューポイントといったジャンルでの検索も可能で、これはジャンル検索でも同じデータを利用していることが功を奏している。ジャンル分けも分かりやすく、その使い勝手のよさはPND中、トップクラスにあると言ってよい。

 さらに、ゴリラが採用して好評を博しているのが「まっぷるコード」への対応だ。これは、観光ガイドブックや地図で有名な昭文社の「まっぷるマガジン」に記載されている8桁のコード番号を入力することで希望の位置情報が得られるというもの。カーナビを使っていても、施設のない景勝地などを目的地として設定することは意外と難しい。しかし、この機能を使えば具体的な施設名がなくても一発でその場所を特定できるのだ。

電話番号検索は職業別電話番号約1000万件に加え、個人宅電話番号約3000万件、計4000万件を収録住所地番検索は約3500万件を収録し、ピンポイント検索は「大字」地域を含むほぼ全エリアを対象にする出入口情報とのヒモ付けがされており、駅を目的地に設定するときは「○○口」を指定することができる
ジャンル別検索は約1400ジャンル、約450万件のデータから検索。周辺検索もこのデータが利用される周辺検索を行う時は選んだ項目の地図が右側に表示されるようになり、すぐに場所が確認できるようになった50音検索ではキーボードを使って入力するが、“あいまい検索”に非対応であるため、名称を頭から正確に入れていく必要がある
「まっぷるコード」の利用は8桁のコード番号を入力するだけ。検索施設がない景勝地などを探す時に便利だ

 ルート探索では、一旦、全ルートを探索したあとで「別ルート」を押すことで条件別に5ルート(自動・有料優先・一般優先・距離優先・道幅優先)を同時に探索できる。同時に表示するのではなく、条件別に1ルートずつ表示するタイプなので、1画面での比較はできないものの、即座に画面は切り替えられるので実用上の問題はないだろう。

 通学路など時間帯で通行できない道路や、右折などの時間規制といった交通規制に対しても考慮して対応。スマートICを使ったルート探索も可能で、これはあらかじめメニューで「スマートIC利用」を「する」と選択しておけばよい。ただ、迂回路についてはあらかじめエリアなどを設定しておけるタイプではなく、必要なときに迂回したい距離を選択するというもの。たとえば目の前で渋滞などが発生し、とにかくこの場を脱出したいと思う時に使う機能で、必ずしも渋滞が避けられるわけではない。渋滞がうまく避けられればOKという“イチかバチか”で使う機能とも言える。

目的地を検索したら「目的地に設定する」を押すと推奨ルートを高速で探索。複数ルートを探索する場合は、探索後に表示される「別ルート」を押す複数ルートは同時探索はできるものの、各探索条件を押して1ルートずつ表示するタイプを採用するデフォルトでは、スマートICを考慮したルート探索は行わない。メニューで「スマートIC利用」を“する”に指定しておくと自動対応できるようになる

 その他、便利な機能として挙げられるのが、登録地点のフォルダ管理機能だ。NV-SB541DTは登録地点を最大500件(自宅含む)まで登録できるが、さすがにこれを全部使い切ると希望の場所を探し出すのが大変になる。そこで、カテゴリー別に最大20フォルダまで分けて登録しておくことができる。友人の家、仕事で訪れる場所など、用途に応じた使い分けが可能になるのだ。その他、パソコンでWebサイト「いつもドライブ」で探した地点情報やルート情報を本機に反映できるのも見逃せない。

登録地点のフォルダ管理機能は、任意で設定したカテゴリー別に登録地点を登録しておける機能登録地点は、それぞれごとに全9種類のアラームをヒモ付けでき、動作する位置を案内距離や進入角度を考慮して設定できる
ゼンリンが運営するWebサイト「いつもドライブ」で得た情報を反映可能。新規スポットや季節情報を取得するのに便利だ

 NV-SB541DTで特筆すべきは、すべての動作において高速で処理されるということだ。これは三洋がゴリラシリーズに採用してきた「ゴリラエンジン」の採用が大きい。動作や描画を司る処理系CPUに高速処理チップを採用。同時に複数の処理を行えるようにしたり、グラフィックス処理の高速化を実現したことで、かつてない高速処理を可能にしているのだ。

 もちろんこの機能を陰で支えているものとして、HDDと比べデータのアクセススピードに有利なSSDの採用があったことは言うまでもない。この処理によって操作時のレスポンスを向上させただけでなく、地図のスクロールや縮尺の切り替えは驚くほど高速だ。ルート探索でもアッという間に結果を表示する。さすがに複数ルート検索を実行した時はやや時間を要するが、ルートを外れた時の再探索にしてもPNDとは思えないほどのスムーズな動作を見せる。この快適な操作感は多くの人が快適に感じるはずだ。

 ジャイロ&加速度センサーを備えたことで注目される測位精度。実は、春に登場したNV-SB540DTにもこのセンサーは搭載されていたが、新型では測位方法で大きな変更が実施されている。春モデルでは測位の基本をGPSで行い、GPS信号をロストした時にジャイロ&加速度センサーの力を利用していた。それがSB541DTでは測位をジャイロ&加速度センサーで行い、位置が大きくずれた時にGPSを利用する形へと変更されたのだ。ただ、このスタイルを採用するにはジャイロ&加速度センサーの精度に対する自信がなければ簡単には踏み切れないはず。とくに車速パルスを利用しないPNDならなおさらのことだ。実は、この測位に切り換えるにあたり、ジャイロセンサーでの測位回数を1秒間に5回にまでアップ。これによってセンサー測位時の精度を大幅に高めることができ、車速パルス利用に匹敵する高精度測位をもたらしたのだ。

 都内のビル街を走行してみると、その効果は明らかだった。SB540DTではビルの谷間に入ると幾分フラついた感じで自車位置を表示していたが、SB541DTはインダッシュ型ナビのようにピタッと安定して表示。交差点を曲がっても、クルマの動きに正確に反応するようになり、その安心感は大きく高まったと断言してよいだろう。

 また、トンネル内での分岐に対しても正確に追従する。GPS信号をロストした状態でルートを変更しても正確に再探索を行ったのだ。この信頼感はPNDとしてはトップクラス。ただ、弱点もある。それは道路の高低差までは現状で認識できていないことだ。PNDにこれを求めること自体、無茶なのかも知れないが、パナソニックの最新「ストラーダ・ポケット」ではこれを実現している。とくに都市部で使うことが多いユーザーにとってこの機能はかなり重要。次モデルでの対応は避けて通れないのではないだろうか。

トンネル内で推奨ルートを外れても自車位置はリニアに追従。すぐに再探索の動作に入って、新ルートでの案内を開始した。認識までの時間はごくわずかで、「外れたかな……」と感じた瞬間に新しい案内を行う感じだ
複雑な形状が多い都市高速の入口案内では、その進入路を詳細に表示。先の方まで描き出しているのは見事徒歩モードは従来から採用していたものに準ずる。車載スタンドから取り外すとGPS測位に切り替わり、目的地までは直線距離で示すようになる
バッテリーは交換可能となっているため、スペアのバッテリーを使えるようにしたので屋外で長時間使うのに役立つVICSはFM多重にのみ対応。地図上で交通状況が分かるほか、通行止めなどの交通規制には対応する。ただし、渋滞考慮は行わない

表示可能な全スケール

12m25m50m
100m200m500m
1km2.5km5km
10km25km100km
250km

 PNDであってもAV機能の充実は欠かせない。とくに地デジ関連機能は今や搭載するのが当たり前になり、NV-SB541DTもワンセグチューナーを搭載して対応する。注目なのは番組録画機能を搭載していることだ。録画機能は、たとえば映像が見られない走行中に気になる番組を見つけたときに役に立つ。しかも本機には録画予約機能まで備えているので、気になる番組をセットしておけばうっかり録画を忘れてしまうこともない。録画した番組はSDカードに保存され、このデータはワンセグ再生が可能な携帯電話でも再生ができるようになっている。

 録画機能で惜しいと思えるのが、せっかく電子番組表が表示できるのにそこからダイレクトに予約設定ができないことだ。録画予約はチャンネルや時刻などを細かく入力しないといけない。その理由は、ワンセグでは番組表を最大10番組しか表示できず、数日先の予約は番組表からはできないから。とはいえ、家庭用HDDレコーダーで番組表からダイレクトにできることに慣れた身からすると少々煩わしさを感じてしまう。

 SDカードはMPEG-4動画や静止画、MP3/WMAで記録した音楽ファイルの再生にも対応している。ただし、動画はQVGA(320×240ドット)で最大512MBまでのファイルサイズが動作条件となるので注意が必要だ。この条件だと映画のような長めの動画の再生は難しく、その場合はファイルを複数に分割して録画しておく必要がある。

地デジはワンセグに対応。エリア設定をすることで自動的に受信チャンネルは設定される。「録画」ボタンでリアルタイムの録画が可能ワンセグのデータ放送にも対応。番組情報をはじめ、ニュースや天気予報といったさまざまな情報が同時に見られる録画予約設定画面。現在時刻も認識しないので、すべて最初から入力しないといけないのは煩わしい
MPEG-4にフォーマット変換すれば、自分で撮影した映像も動画で再生可能になる。ただ、サイズ制限があるので注意静止画はJPEG画像に対応。画像のタテ/ヨコは自動判断しないがワンタッチで切り替えられる音声ファイルは、一般的なMP3/WMAに対応。FMトランスミッターを経由すればカーオーディオでの再生も可能だ
SDカードスロットは向かって左側面に用意されている。上からヘッドホン/VICS/パーキングセンサー/電源の各用端子車載から取り外して使う時に便利な簡易スタンドが本体背面に用意。角度調整にも一応対応している

 8GBもの大容量メモリーを搭載し、ゴリラエンジンがもたらす高い処理能力、さらにジャイロ&加速度センサーを備えたことによる安定測位は、もはやPNDとは思えないほどの高いスペックを持つ。一方で、目的地検索で“あいまい検索”に非対応であったり、道路の高低差を認識できないといった点で、インダッシュ型ナビと比べて不満に思う点があるのも確かだ。とはいえ、徹底した高性能を求めるならインダッシュ型ナビに見劣りする面もあろうが、PNDらしい簡単取り付けで、しかも価格面でもお買い得さを併せ持ちながらここまでの実力を発揮するのは立派と言える。数あるPNDの中でもトップクラスの実力を備えたモデルと断言して間違いない。

安全を配慮してゴリラはパーキングセンサーの取り付けを必須としていたが、NV-SB540DTからはマグネット式を新たに採用。取り付け性は大幅に向上したエコドライブ情報機能を標準で搭載し、GPS受信をもとに走行状態をチェック。長時間のアイドリングや急加減速を行うと音声とメッセージ表示で警告する走行後は、エコドライブの成績として「A」~「E」までのランキングで評価される。何がわるかったのかコメントも表示できる

(会田 肇 /Photo:安田 剛)
2010年 1月 27日