自動車事故対策機構、オフセット前面衝突試験などを公開
各種衝突試験映像を掲載

前面衝突試験をはじめさまざまな試験が行われた

2010年1月20日開催



会場となった日本自動車研究所

 自動車事故対策機構(NASVA:National Agency for Automotive Safety & Victims' Aid)は1月20日、茨城県つくば市にある日本自動車研究所にて自動車アセスメント(JNCAP:Japan New Car Assessment Program)の試験を報道関係者に公開した。自動車アセスメントとは自動車の安全性能比較評価を自動車ユーザーに公表するもので、国土交通省とNASVAが「チャイルドシートアセスメント」とともに、より安全な自動車やチャイルドシートの普及とメーカーによる研究開発を促進することを目的としている。2009年度は、自動車メーカーからの委託試験5車種を含む17車種と、チャイルドシート6機種の試験を順次行っている。

オフセット前面衝突試験
 今回公開された試験は、オフセット前面衝突試験、側面衝突試験、後面衝突頚(ケイ)部保護性能評価試験。そのうち後面衝突頚部保護性能評価試験(むち打ち損傷試験)は、2009年度から新たに導入された試験である。

 最初に公開されたのはオフセット前面衝突試験。これは運転席と後部座席にダミー人形を乗せた試験車を、64km/hでデフォーマブル・バリア(障害物)に前面衝突させるもの。試験車の車幅の40%がバリアに衝突するように、オフセットさせて行われる。

屋内の試験場。衝突する場所には照明が当たり、報道陣は離れた場所から撮影を行う自動車に見立てたアルミ製障害物に衝突させる。オフセット衝突を再現するため、車幅の40%が衝突するようにセットされる

 バリアはアルミ製ハニカム構造で、衝撃を吸収しながらつぶれるようになっている。ダミー人形の頭部、頚部、胸部、腹部(後部座席)、下肢部に受けた衝撃や室内の変形を元に、乗員保護性能の度合いを評価するために2000年度から導入された。後部座席のダミー人形は成人女性のダミー人形だが、昨年度までは成人男子のダミー人形を助手席に乗せて試験をしていたとのこと。後席シートベルト着用義務化に伴って、本年度より試験方法が見直された点だ。

 試験車輌はトヨタ「マークX」。グレードは「250G リラックスセレクション」で、エアバッグ(運転席・助手席エアバッグ+運転席・助手席サイドエアバッグ+運転者ニーエアバッグ+前後席カーテンシールドエアバッグ)が標準装備されている。試験車輌のグレードは、試験車種の中でもっとも販売台数が多いものを選択しているのだと言う。

 いよいよ試験開始がアナウンスされる。高速度撮影のため多くの照明が点灯する。シュイーンというモーター音が鳴り響き、秒読みが始まった。カウントがゼロになると同時に試験車が現れ、アルミハニカムに衝突した。

衝突の瞬間。衝撃音と共にエアバッグが作動する爆発音が試験場に鳴り響く衝突の直後。飛散した破片とエアバッグ作動による煙が衝突のすさまじさを物語る
衝突の瞬間を通常のビデオカメラで撮影したもの(写真をクリックすると動画を別画面で再生します。4.15MB)高速度カメラで撮影した映像(写真をクリックすると動画を別画面で再生します。5,86MB)

 約1.5tの試験車が衝撃で弾み、大きく横にそれて止まった。すると、迅速に調査員が試験車に歩み寄り、フロントや下まわりの様子を確認する。その後、細かい調査や写真撮影などの記録が行われた。ダミー人形や試験車各部に装着されたセンサーの計測値はトランクルームに設置された機器類に集約されているようで、今後さらに細かく調査すると言う。作業がひととおり終了すると、報道陣も近くで撮影することを許可された。

衝突後、即座にエンジンまわりの様子を確認する大きくつぶれたフロント部分トランクルームには各種の機器類が設置されている
車内やダミー人形の様子を記録する調査員衝突後の車内の様子。よく見ると、内装のあちこちに接合部を示すマーキングがされている試験車が走ってきたカタパルト。ここで64km/hまで加速させる
衝突の瞬間を記録する高速度カメラ高速度カメラの映像は、モニターに映し出されていた

側面衝突試験
 自動車の衝突事故における乗員障害のうち、前面衝突に続いて障害程度が大きくなるのが側面衝突だと言う。この側面衝突試験では、運転席にダミー人形を乗せた静止状態の試験車に、950kgの台車を55km/hで運転席側に衝突させる。

側面衝突試験では、ステップワゴンが試験車として設置された衝突してくる台車の重量は950kg。このあと、加速するためにカタパルトの奥まで移動した

 この台車の衝突部分には先ほどのバリアと同様、自動車の前面に見立てたアルミ製ハニカム構造の衝撃吸収材が設けてある。側面衝突時の車室変形等による運転者への加害性を評価するこの側面衝突試験は、1999年度から導入された。また、2008年度からサイドカーテンエアバッグが装備された車輌については、その展開状況や展開範囲についても評価している。

 側面衝突試験の試験車輌はホンダ「ステップワゴン」。グレードは「スパーダS」で、運転席用エアバッグ&助手席用エアバッグを装備している。先ほどと同じようにカウントダウンが始まり試験開始。台車が左手奥のカタパルトから来た台車が試験車に衝突。その衝撃で試験車は横転した。

衝突の瞬間。ボディー側面が大きくへこむ衝撃で試験車が横転する
衝突の瞬間。衝撃を受けて大きく飛ばされる試験車。通常のビデオカメラで撮影(写真をクリックすると動画を別画面で再生します。4.64MB)高速度カメラで、車内の様子を撮影したもの(写真をクリックすると動画を別画面で再生します。7.64MB)

 横転した試験車を起こし、調査が開始される。側面衝突試験では、衝突によるダミー人形の頭部、胸部、腹部、腰部への衝撃をもとに乗員保護性能を評価するもので、横転そのものは評価していないとのことだ。

衝撃を受けたドアの開閉状況などについても調査していた台車のアルミハニカムも、大きく変形している写真では分かりにくいが、室内も大きくゆがんでいる

後面衝突頚部保護性能評価試験
 最後に公開されたのが、本年度から導入された後面衝突頚部保護性能評価試験。分かりやすくいうと、後ろから衝突された際、むち打ち損傷になるのをどれだけ保護するかという試験だ。自動車の衝突事故における乗員障害のうち、実は後方からの衝突が事故形態の中で最も多く、その障害のほとんどがむち打ち損傷だと言う。

 この後面衝突頚部保護性能評価試験は実車ではなく、スレッド(台車)試験機を用いる。後面から衝突された際に発生する衝撃(速度変化、波形など)をダミー人形が乗った運転席、または助手席のシートに与え、頚部(首)への衝撃を元に頚部保護性能の度合いを評価する。試験速度は17.6km/hだが、これは同一質量の自動車が、停止中の自動車に約32km/hで衝突した際の衝撃を再現したもの。先ほどの側面衝突試験と同じステップワゴンの座席を試験機にセットして、試験が行われた。

スレッド試験機上に座席が取り付けられるダミー人形頭部にレーザーを当て(写真では本来耳がある場所に当てている)、位置を正確に確認していた
一瞬のことで、肉眼では何が起きたのか分からないほど(写真をクリックすると動画を別画面で再生します。2.70MB)高速度カメラの映像。むち打ち損傷が起こるメカニズムがよく分かる(写真をクリックすると動画を別画面で再生します。7.42MB)

 試験方法の見直しや新しい試験の導入など、時代にあわせて自動車の安全性の評価は厳しくなっている。自動車アセスメント開始以降、自動車の安全性能は着実に向上し、安全な車の開発・普及に大きく貢献しているとのことだ。

 自動車アセスメントの結果は、NASVAのWebサイトや国土交通省のサイト「自動車総合安全情報」、「自動車アセスメントパンフレット」(運輸支局、市町村関係部署、道の駅、自動写真売店、子供用品販売店などで頒布される)でも知ることができる。自動車購入の際の検討材料としても、有益なものだろう。

(政木 桂)
2010年 1月 22日