未来の東京を走るEVタクシーのデザイン・コンペ
第1回大学・専門学校対抗 日本カーデザイン・コンペ、慶應が優勝

2010年2月20日開催



 昨年8月から募集をスタートした「第1回大学・専門学校対抗 日本カーデザイン・コンペティション」表彰式が、この2月20日に東京 中目黒のニッサン・オフサイト・インターンシップ・スタジオにて開催された。

 このデザイン・コンペティションは、もともと首都大学東京システムデザイン学部の山下敏男教授が発案したものに加え、自動車デザイン専門誌「カースタイリング」が、大学対抗のカーデザイン・コンペティションを企画していたことが一致して、実現に至ったとの由。さらに東京旅客乗用自動車協会の後援を得たことから、テーマは「EV東京タクシー」となった。

 これは今から10年後、2020年に東京の街を走るEV(電気自動車)タクシーを想定して競われるもので、大学ないしは専門学校でデザインを専攻する学生と、工学系の学生がチームを組んで参加することが義務付けられている。そして単に内外装のデザインの優劣を競うのではなく、環境に優しいEVタクシーをどのような方法で運行するのか?というトータルコンセプトまで提案することを求める、非常に高度な内容のコンペティションとなったのである。

 このコンペティションにエントリーした大学・専門学校は合わせて41チームにのぼり、その内22チームが予選を通過したが、諸般の事情で2校が棄権したため、19校20チームが最終審査に臨むこととなった。

 審査員は、この大会の協賛に名を連ねた日本の全自動車メーカーのデザイナーに加え、東京旅客乗用自動車協会、さらにスポンサーとなった各企業から総勢21名が参加。B全判パネル1枚で、コンセプト説明からスケッチ、パッケージレイアウト、三面図を表現した最終作品を審査することになった。

 そして厳正なジャッジの結果、慶應大学総合政策学部チームが最優秀賞を獲得。優秀賞には法政大学デザイン工学部チームや産業技術大学院大学創造技術専攻チームなどが選出されたのである。

最優秀賞の慶應チーム。手に持っているのは、慶應チーム案のモックアップで、最優秀賞のみ制作され、プレゼントされた優秀賞のトロフィーを手にする法政大学の学生スピーチする日産の中村COO

将来への課題と希望
 日本と同じく輸出産業に依存している国、例えば韓国や台湾などでは、デザインプロダクトへのバックアップが国を挙げて行われている傍らで、現在の日本でデザイナーを志す若者たちは、かつてないほどに厳しい状況のもとで奮闘を強いられていると言う。

 例えば、今回も来賓として参加した日産・中村史郎CCO(デザイン担当執行役員)や、元ピニンファリーナのケン奥山氏、元オペルの児玉英雄氏など、超一流の日本人カーデザイナーたちを輩出してきた工業デザインの世界的教育機関、北米カリフォルニア州パサディナの「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」では、現在では日本人の受講生がほぼゼロに等しいとも言われている。そしてその結果、特に近年では韓国などのデザイン学生のレベルからは大幅な遅れを取っているという意見が支配的となっているのだ。

 これは、今の日本が置かれている経済状況からすればやむを得ないことかもしれないが、近い将来に韓国や台湾、さらには中国の自動車メーカーとの競合が本格化した時には、間違いなくマイナス方向に働くであろうと憂慮されている。

 しかし今回のコンペティションでは、“希望の萌芽”のようなものが間違いなく感じられた。現在の日本自動車業界が置かれている厳しい状況の中、学生たちが示してくれたコンセプトとデザインは非常に優秀かつ個性的なもので、将来に大きな期待を持たせてくれたのだ。

 首都大学東京およびカースタイリング出版では、今後も大学・専門学校対抗のカーデザイン・コンペティションを継続的に行っていきたいとのこと。今回は日本国内の大学・専門学校に限定していたが、次回以降は海外のデザインスクールに在籍する学生にも対象を拡大する可能性も示唆していた。現時点での実力差を考えると、あるいは海外勢に上位を独占されてしまう可能性も否定できないのだが、それでも日本のデザイン学生たちの奮起に心より期待したいものである。

慶應大学のモックアップ受賞案のパネルの前で、ディスカッションする学生たち
慶應大学の案法政大学の案

(武田公実)
2010年 2月 26日