大阪府、EV充電器インフラネットワークを稼働、実証へ
橋下知事「大阪の軽自動車はすべてEVに」

セレモニーで挨拶する橋下知事

2010年3月26日開催
アジア太平洋トレードセンター
ヤマダ電機LABI1なんば



 大阪府は3月26日、電気自動車(EV)の充電インフラ「おおさか充電インフラネットワーク」を稼働させた。同日、咲洲のアジア太平洋トレードセンター(ATC)で開催された記念セレモニーは大阪府の橋下徹知事が出席、充電のデモを行った。また、急速充電器が設置されるヤマダ電機 LABI1なんば店でも、システムの点灯式が行われた。

充電器のネットワーク化がカギ
 おおさか充電インフラネットワークは大阪府が2009年6月から推進しているEV普及策「大阪EVアクションプログラム」の一環で整備されたもの。同プログラムでは「EVリーディング都市大阪」を目標に、大阪府内のEV充電インフラの整備を通じて、EVの普及とEV関連産業の育成を目指す。その第1段階として、2009年度内に20基の充電器を設置し、EVのタクシーやレンタカーの配備を進める。

 充電インフラネットワークは、アクションプログラムの核となるインフラ整備事業。充電器の設置を進めるだけでなく、メーカーの異なる充電器をネットワーク化し、一元管理や、共通のインターフェイスでのサービスを提供できるようにしているのが最大の特徴だ。こうした試みは世界で初めてと言う。このためのプラットフォームとして、日本ユニシスが「smart oasis」(スマート・オアシス)を開発した。

 実際、おおさか充電インフラネットワークでは6社の充電器が採用されており、急速、中速、普通の8機種が混在する。これらを通信アダプタを介してネットワーク化し、管理を容易にするとともに、ユーザーには充電器の位置やリアルタイムの空き情報、携帯電話による充電器の予約といったサービスを提供する。充電器予約サービスも世界初の試みだ。

 加えて、充電器の利用者認証に非接触ICカードを採用。オリックス自動車のカーシェアリング・カードや、関西の鉄道・バスカード「PiTaPa」といった既存のカードで利用できるようにして、EVと公共交通機関の連携も目指す。

セレモニーの会場となったのは、大型複合施設「ATC」の屋外駐車場に設けられた急速充電器の前
急速充電器の標識とともに設置されているのは高岳製作所の急速充電器
充電器の隣にあるのが、日本ユニシスが開発したネットワーク機器。非接触ICカードによるユーザー認証機能を備える。このシステムを利用するためには、事前にユーザー登録する必要がある
橋下知事による充電のデモ。まずネットワーク機器に非接触ICカードを当ててユーザー認証する充電プラグをEVに接続してから充電スタートスイッチを押す。充電器は自動的に絶縁試験などを行い、安全に充電できることを確認してから充電を開始する

 

充電中のi-MiEVのメーターパネルには、インジケーターが点っていた

 大阪府としては、これらの技術やスキームを「大阪発のEV運営モデル」として各地に拡げ、大阪のEV関連産業新興に役立てるのが狙い。ATCでのセレモニーに出席した経済産業省 近畿経済産業局の深野弘行局長は「近畿は電池の中心地。電池には大いに期待しているが、地球環境によく、エネルギーの安定供給にも貢献するEVにも期待している」と述べることで、EVのキーデバイスであるバッテリーのトップメーカーを抱える地の利を活かした経済発展に言及し、ヤマダ電機でのセレモニーでは大阪府の木村愼作副知事が「環境対策を産業振興につなげたい。大阪は中小企業の街だが、“メイド・イン・大阪”のEVを生み出してほしい」と述べている。


関係者によるテープカット近畿経済産業局の深野局長

 ネットワークの稼働セレモニーが行われたATCは、大阪南港地区の大型複合施設で、ショッピングモールのほか、各種公共施設を備える。急速充電器はATCの屋外駐車場に設置されており、セレモニーは強風の中、駐車場で行われた。

 アクションプランの推進役である橋下知事は挨拶の中で「充電器の設置は各都道府県でいろいろやっているが、ITでネットワーク化するのは大阪が初めて」と強調。報道関係者の囲み取材では「大阪の軽自動車はすべてEVに」という壮大な展望も披露した。

「大阪の軽をすべてEVに。そのためにトヨタや日産にがんばってもらわなければ」。どこまでEV構想や自動車業界のことが分かっているのか判然としないところも。知事職にあるため現在はクルマを運転できないと言う。「EVは任期が終わってから買います」

 

ヤマダ電機LABI1なんばでのセレモニー。スピーチしているのは同社の一宮社長

家電の延長としてのクルマ
 充電インフラネットワークの実証事業には、システムを開発した日本ユニシスのほか、充電器メーカー6社、そして充電器の設置場所を提供する15の企業・団体が参画している。設置される場所は自治体の施設のほか、ショッピングモール、自動車ディーラー、コンビニエンスストア、カフェなどで、その中の1つが、システムの点灯式を行ったヤマダ電機 LABI1 なんば店だ。

 LABI1 なんば店はターミナル駅の難波近くにある大型店舗で、太陽電池パネルによる太陽光発電を行っている。同社は太陽光発電装置を多数の店舗で取り扱っており、「太陽光発電とオール電化」をセットで訴求している。LABI1なんば店での点灯式に出席した同社の一宮忠男 代表取締役社長兼代表執行役員COOは「(太陽光発電装置を)ヤマダ電機が日本で一番売っているのではないか」と言う。


繁華街難波に近い都市型大型店舗のLABI1なんば急速充電器は、同店舗の駐車場の脇に設置されている
急速充電器はハセテック製。日本ユニシスのネットワーク機器はATCのものと同じだが、こちらは利用者の手順を表す番号が振られるなど、使いやすさに配慮された様子が伺える

 ヤマダ電機は寝屋川の店舗にも充電器を設置するべく、準備を進めている。同社が大阪のEV実証事業に協力するのは、充電器を集客の材料にしようという程度の考えからではない。

 同社はすでに自動車販売を手がけている。3年前から関東地方を中心に行われている自動車販売は、まだ規模は“実験的”というレベル。しかし一宮社長は「家電がボーダーレスになったように、将来的にはクルマの中に家電的、デジタル的、モバイル的な要素が加わって、クルマもボーダーレスな製品になる。そういった中で、家電の延長としてのクルマを提案していくのは、我々の社会的責任」と断言する。ヤマダ電機の自動車販売事業は同社の「スマートグリッド推進室 ECOカー販売部」が担当しており、スマートグリッド構想の一環としてのEVを、将来の重要な商材として考えているのだ。将来は、既存の自動車ディーラーと協力することも考えているようだ。

 一方で、EVが家電量販店の商材になるまでには、さまざまなインフラ整備や社会的な投資が必要であることも認識している。大阪の店舗に充電器を設置したのはつまり、大阪がEV産業振興構想を持ち、実行しているから。他地域への展開は、自治体や他社との協力が可能ならば、と言う。

ヤマダ電機のセレモニーには大阪府の木村愼作副知事が登場急速充電器の電源を入れる
急速充電器の上には太陽光発電パネルがあるが、これは充電器でなく蓄電池に接続され、店舗全体でその電力を使う「クルマと家電がボーダーレスに」と語る一宮社長
大阪府全域に20基の充電器が設置されているが、これはその1つ、枚方市のローソン枚方南中振2丁目店に設けられた急速充電器。この店舗は「おおさか道の案内所」という役目を負っていることでも注目される。おおさか道の案内所は、いわば「都市型道の駅」。通常のコンビニエンスストアに、バリアフリートイレや休憩所、大阪の特産品コーナーや情報発信コーナーを設け、大阪府がハードウェアを整備せずに、ドライバーのための設備を運営する事業だ

(編集部:田中真一郎)
2010年 3月 26日