ボッシュ、ガソリンエンジンシステムや安全技術の技術講演会 横浜事業所で開催 |
2010年6月15日開催
ボッシュは6月15日、拡張工事が完了した横浜市都筑区の横浜事業所において、技術講演会を開催した。同事業所の関わる製品分野から、ガソリンシステムやシャシーコントロールなどについて、担当者から最新の動向が語られた。
ガソリンシステム事業部の新井健司執行役員 |
■低価格車への対応、効率化やCO2削減が重要
ガソリンエンジンシステムの紹介として、ガソリンシステム事業部 執行役員 ガソリンシステム技術担当の新井健司氏が市場動向やボッシュの対応などを語った。
新井氏は事業部の活動を「ボッシュは、ガソリンエンジンは部品以外の、パワートレインと言われる部分で、トランスミッションの制御など非常に大きな範囲に携わっている。オプション的なものとして、コントロールユニットと、それをつなぐセンサーも事業領域」と説明した。
近年の傾向として、部品の販売から自動車というシステム全体の検討が活動の中で重要な位置を占めているとし「横浜では、クルマやエンジンを預かって、所定の性能に持っていくというサービス的な仕事もある」と話した。
今後のパワートレインの移り変わりについては「最終的には電気自動車になるが、その時期の予想は避けている。技術革新の中で、電池などの技術の進歩が、年代的に予測できないから」と説明。「ガソリンの事業部はハイブリッドや電気自動車も大事だが、内燃機関の改良がこれからも大きな柱になる」とした。
また、ボッシュが現在力を入れている分野であるLPV(低価格車)カテゴリーについては「これからは、インドのタタの『ナノ』のように、2輪からのボトムアップの要求を埋めるようなものが出てくる」と予測した。ボッシュはナノにもガソリンエンジンコントロールユニットを納入しており、コストダウンの秘訣は、品質を落とすのではななく機能を限定することとし、ハイエンドの車両とマイクロプロセッサーの系統を合わせ、オプション機能の追加を可能な設計にしていることにあると言う。
一方、ガソリンエンジンの効率化とCO2削減という課題については「各コンポーネントの改良ではなく、総合的な連携が要求されると思っている。昔のようにある部品を付けたら燃費がよくなったというのではなく、1個1個積み上げて、車両全体でCO2削減をしていく。そういう時代になっている」と現状を話した。
市場でのボッシュのシェアと予測。CVTのシェア低下はDCTの発達で相対的に低下すると言う | パワートレイン別のシェア | LPVの位置付けは、2輪車からのボトムアップ |
LPV向けに機能制限したエンジンECU | ボッシュのLPV向けのエンジンECU | ガソリンエンジンのCO2削減の方策と効果 |
「現在、考えられているパワートレイン全体の燃費改善方法は、一番重要なのがDI(直噴)」という新井氏は、PFI(ポート噴射)の2リッターエンジンでは、PFIのままでも可変バルブリフト・タイミングやアイドリングストップで12%のCO2削減ができるが、それをDI(直噴)とダーボ、ダウンサイジングを組み合わせて22%まで高めることができると説明した。今後はさらなるダウンサイジング化と、低回転域でも気筒内により空気を取り込むこともできる「スカベンジング」により、減少率を29%まで高めることもできるとした。
また、電気自動車へ移行していくシナリオとして「プラグインハイブリッドが市場に出てきて、その次にエンジンエクステンダーというシステムがあり得るのではないかと思っている」と話した。エンジンエクステンダーとは、バッテリーを使いモーターで走行するが、バッテリー残量が少なくなるとエンジンで発電機を回し、モーターで走行する方式。完全な電気自動車へと移行する前に、こういったクルマが登場すると予想した。
ボッシュのCVT発展の可能性 | パワートレインの電動化へのシナリオ | 各システム別のパワートレイン構成 |
シャシーシステム・コントロール事業部の田上雅弘執行役員 |
■アクティブセーフティシステムのパイオニアとしてリードしてきた
続いて「車両安全への取り組み」と題して、シャシーシステム・コントロール事業部 執行役員 開発・製造担当の田上雅弘氏が、ボッシュが取り組むアクティブセーフティ技術などを解説した。
「ボッシュのシャシーシステムは、まさしくアクティブセーフティの歴史とともに歩んできていると言える」と自信を見せた同社のアクティブセーフティ技術は、最初にABSが登場、次にTCS(トラクションコントロール)が登場、それらを統合してESC(横滑り防止装置:エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)が生まれた。
そして、ESCをはじめとしたアクティブセーフティや、ドライバーアシスタンス、パッシブセーフティを統合したCAPS(先端安全統合システム)の提供へと発展してきた。CAPSでは事故情報を詳細に分析して開発に活用しているが、今後は事故直前の情報を集めることが課題とし、一部データレコーダーの活用を検討していると言う。
これまで、ボッシュではESCを搭載したクルマの試乗会やエンドユーザーへのプロモーションなどを行い、ユーザーに重要性を訴えてきた。各国でESCの義務化などの法制化が進んでおり、田上氏は「日本でも近々発表されるのではないかと期待されている」と見通しを示した。
また、アクティブセーフティを実現するコンポーネントとして、第3世代長距離レーダーを紹介した。2009年5月に量産を開始したこのレーダーは77GHz帯を使い、低コストな長距離レーダーとして、最大30度の視野角、0.5mから250mまでの長い検出距離を実現。200km/hのクルーズコントロールに対応できるレーダーとなる。
一方、パッシブセーフティ技術では、エアバッグ用や歩行者保護システムのECU、自己診断機能を組み合わせたセーフティコンセプト、エアバッグ用ECUにほかのシステムのセンサーを統合するなどの開発が行われている。エアバッグ用のECUでは、当初は機械センサーだったが、現在は半導体技術を使ったセンサーに進化していると言う。
ボッシュのアクティブセーフティへの取り組み | アクティブセーフティの市場展開の歴史 | ESCをベースとした車両安全への取り組み |
事故分析を製品開発に役立てている | 第3世代のミリ波レーダー。最新アウディなどに搭載 | パッシブセーフティへの取り組み |
そのほか、シャシーシステム・コントロール事業部では、ESCとほかのアクティブセーフティシステムを統合制御して安全性や機敏性を高めるシステムであるVDM(ビークル・ダイナミック・マネジメント)や、2輪車向けのABSの開発を行っている。
横浜事業所で開発を行っている2輪車用ABSは、小型軽量化が進み、今年1月にドイツ自動車連盟から「革新と環境」部門で賞を受けた。現在、世界の2輪車のABS装備率は、250cc以下は1%未満、250cc以上は16%。田上氏はABSの装備率を高めることで「死亡事故の25%以上の減少が期待できる」と必要性を訴えた。
ボッシュのVDMの実装例 | 2輪車のABS装備による効果と利点 | 2輪車のABS装備率 |
アフターマーケット事業部の寺田浩康執行役員 |
■アフターマーケット事業部では診断と修理を
ボッシュの横浜事業所には、ガソリンシステムやシャシーコントロール以外の部署も入っている。今回の講演会では、アフターマーケット事業、カーマルチメディア事業などからも、現在取り組んでいる技術の紹介が行われた。
「ボッシュには、トータルのライフサイクルをサポートするというコンセプトがあり、購入した後の整備メンテナンスを、アフターマーケット事業部が支援をしている」と話すオートモーティブアフターマーケット事業の執行役員、寺田浩康氏は、診断機器をはじめ、整備メンテナンスを支援する製品やサービスについて語った。
「新車同様にクルマを乗り続けるためには、診断制御し、どう維持管理するかが課題になってくる」と現状を説明。「今までの経験と勘で修理ができる時代は終焉を迎える。整備工場が生き残っていくためには、診断と修理の融合という(ボッシュの)Parts&Bytesコンセプトを理解していただいて、修理することが必要になっていくと考えている」と話し、診断機器の必要性を訴えた。
ボッシュが掲げる診断と修理の融合というParts&Bytesコンセプト | 整備工場を支える診断システム | 診断システムを構成する製品群 |
カーマルチメディア事業の水野敬マネージャー |
カーマルチメディア事業からはマネージャーの水野敬氏がカーナビやカーオーディオなどの製品について説明した。カーマルチメディアの分野では、車載機器を統合して制御することで、ドライバーの運転中のストレスを低減させることや、カーメーカーを代行して、車載システム全体へのシステムインテグレーションを行っていると説明した。
ボッシュの特徴としては「車載搭載基準を遵守して統合する。なんでもかんでも電子機器がクルマの中で使えるのは安全性に欠ける」とし、車載機器としての安全性を追求していることも強調した。
ボッシュが提供するカーマルチメディア製品とサービス | ボッシュは車載機器としての安全性を重視して操作性を追求する | 車両情報システムと相互通信も行っている |
スターター&ジェネレーター担当の森本孝宏マネージャー |
スターター&ジェネレーターを担当するセクションマネージャーの森本孝宏氏は、アイドリングストップ機能を実現するために、始動回数が25万回まで耐えられるスターター・モーターや、より効率が上がったジェネレーター(オルタネーター)を紹介した。
高効率ラインのジェネレーターは最大効率が77%と高効率化、デジタル制御によって最適な発電コントロールが可能になっている。森本氏は「一部のカーメーカーは、スターターとジェネレーターで燃費向上が十分に行えることに気付いていない。これを広めていくのが我々のミッション」と話した。
また、最近のワイパー製品の特徴も紹介され、最新製品では反転モーターによってワイパーの往復運動を実現して小型化に成功したことや、一部車種では2本のワイパーを別々のモーターで駆動して片方のワイパーがトラブルに遭っても、もう片方が動くシステムを搭載していることが紹介された。
スターターとジェネレーターでCO2削減できる例 | 高効率なボッシュのジェネレーター | ボッシュのワイパーシステム |
(正田拓也)
2010年 6月 17日