アルファロメオ「TZ3コルサ」現地リポート
伝説を継承する謎のコンペティツィオーネに迫る



TZ3コルサは4月のヴィラ・デステで披露された

アルファロメオのネーミングライツを獲得
 今年6月24~27日までイタリア・ミラノにて開催された、アルファロメオ創業100周年記念イベント「Alfaromeo 1910-2010」。そのメイン会場であるフィエラ・ミラノ・ローのホール内に設けられたアルファロメオ社の展示ブースでは、1つのサプライズが待ち受けていた。

 この3月にオフィシャルフォトと概要が発表されたのち、4月にコンコルソ・デレガンツァ(コンクール・デレガンス)・ヴィラ・デステのコンセプトカー部門に出品。見事金賞に輝いたカロッツェリア・ザガートの最新作「TZ3コルサ」が、この日晴れてアルファロメオ公認のプロトタイプとして正式展示されていたのだ。しかも、アルファロメオの正式なブランド名使用権を獲得、「アルファロメオ TZ3コルサ」としての展示であった。

 ザガートとは、1919年にアルファロメオと同じくミラノに創業したカロッツェリア(自動車ボディー製作工房)。創世期からアルファロメオのボディーを数多く架装し、1920~30年代には、ヴィンテージ/ポスト・ヴィンテージ期のイタリアンスポーツの最高峰とも称される「6C1750グランスポルト」や、「8C2300」などの素晴らしいアルミ製軽量ボディーで世界的な名声を獲得することになった。

 そして第2次大戦後も、アルファロメオ「ジュリエッタ」「ジュリア」のレーシングモデルとして、「SZ」や、後述する「TZ」などの伝説的なコンペティツィオーネの数々を製作。モータースポーツにおける輝かしい戦歴とともに、今なお崇拝されているカリスマ的存在なのである。

「Z」の伝承
 カロッツェリア・ザガート自ら「アルファロメオ創立100周年記念モデル」を標榜するTZ3コルサは、アルファロメオとザガート双方にとってのアイコンである「TZ」を現代に復活させたモデル。TZというネーミングは、アルファロメオとそのレース部門たるアウトデルタ、そしてザガートの共同開発で、1963~65年に107台が生産されたと言われるアルファロメオ「ジュリアTZ」に由来するもの。TZとは「トゥボラーレ」(チューブラーフレームの意)と「ザガート」(ZAGATO)”の頭文字を合わせたものである。

 ジュリアTZは1.6リッターの4気筒DOHCを、鋼管スペースフレーム+ザガート製アルミボディーで構成された660kgの車体に搭載。当時のFIA-GTカテゴリー1600ccクラスに所属し、1964年のル・マン24時間レースや1965年のタルガ・フローリオでもクラス優勝を達成するなど、アルファロメオに数々の栄光をもたらした傑作コンペティツィオーネである。

アルファロメオ ジュリアTZ

 また、ファーストモデルたるTZに加えて、1966年にはより先鋭化したFRP製ボディーを持つ「TZ2」も若干数が製作されているが、当時のFIAレギュレーションと宿敵ポルシェ「904GTS」に行く手を阻まれ、TZほどの戦果を上げることはできなかった。

 しかし、獰猛さと美しさを兼ね備えたベルリネッタ・ボディーの魅力も相まって、ジュリアTZとTZ2は、今なお世界中のアルフィスタにとって垂涎の存在として君臨している。そして今年春、TZの系譜を継承する純コンペティツィオーネとして、TZ3コルサが降臨するに至ったのである。

ヴィラ・デステでのTZ3コルサ

21世紀のTZ
 アルファロメオTZ3コルサの注目すべきポイントは、やはりそのスタイリングだろう。官能的な基本プロポーションはもちろん、ノーズの意匠や「コーダ・トロンカ」と呼ばれる、スパッと切り落としたテール形状に至るまで、歴代TZのエッセンスをそのまま現代車に投影したオマージュ的なデザインとなっているのだ。

 ボディーサイズは4345×1944×1200mm(全長×全幅×全高)と、アルファロメオ「8Cコンペティツィオーネ」にほど近いスペックを持つ。ホイールベースは2500mm。そして車両重量は、日本仕様の8Cコンペティツィオーネよりも700kg以上も軽い、850kgというデータが公表されている。TZ3がオマージュの対象とするジュリアTZは660kg、TZ2に至っては620kgとも言われる超軽量車だったが、TZ3コルサも現代の、しかも4リッター超級のクルマとしては驚異的な軽さと言えるだろう。

 この超ライトウェイトの秘訣は、シャシー/ボディーの構造を聞けば一目瞭然。TZ3コルサはモノシェル構造のカーボン製チューブラーシャシーに、同じくアルミ製のチューブラーフレームとボディーを組み合わせたとのことである。「チューブラー」をことさらに強調しているのは、「TZ」の名に正統性を持たせるためと思われる。

 一方、フロントミッドシップに搭載されるパワーユニットは、ドライサンプ潤滑システムを備える4.2リッターV型8気筒と発表されているが、詳細は明らかにされていない。この排気量から推測すると、マセラティ製の4.2リッターV8がベースとされていると見て間違いない。ザガート側に聞くと、現行型アルファロメオ8Cコンペティツィオーネの4.7リッターよりも高回転を確保しやすいと判断したとのことである。

 このマセラティ製V8は420PSの最高出力を発生。6速シーケンシャルトランスミッションとの組み合わせにより、0-100km/h加速3.5秒、最高速300km/hオーバーという非常に優れたパフォーマンスを発揮すると言う。

 また開発の初期段階から、ピレリやレース用パーツで有名なOMPもテクニカルパートナーとして関与しており、タイヤはフロント245/645 R18、リア285/645 R18サイズのピレリP-ZEROレーシングスリックが設定される。また、2シーターのキャビンには、OMPのWRCタイプバケットシート、フルハーネス式ベルト、カーボンファイバー製ステアリングホイールなどを装着。サスペンションは、オーリンズのプッシュロッド式が採用された。

 TZ3コルサは、ショー出品用のコンセプトカーではなく、「コルサ」(レース)の名のとおり、さるドイツ人の愛好家がFIA-GT選手権のレースに出場するためにオーダーした、ワン・オフであるとのこと。既にFIA-GT2クラスのホモロゲートを申請しており、カーボンのリアウイングやフロント&サイドスカートなどのレーシング用エアロパーツ類も製作済みとのことである。いずれは欧州を中心としたサーキットでも、その姿を見られるものと期待しておきたい。

カーボン剥き出しのコックピット。純粋なFIA-GT2レーシングカーのはずなのだが、現時点では2基のバケットシートを装着しているタイヤは技術的パートナーでもあるピレリの「P-ZERO」レーシングスリック。ブレーキはAPレーシングの大型キャリパーを持つ今回の100周年イベントでは、3月に公表された広報写真および4月のヴィラ・デステ出品時には見られなかったロールケージを装着していた
シーケンシャル式トランスミッションの詳細は明らかにされていないが、レバーにはスウェーデンのトラクティブAB製であることを示すロゴが入るプロジェクター式のヘッドライトとLEDポジションランプによって構成されるユニット。内容は8Cコンペティツィオーネに近いと思われる

ストラダーレ版も進行中
 TZ3コルサについて、最も注目すべきは今後の展望であろう。実はこの車は、2002年にアルファロメオ社内で行われた次期スーパーカー「スポルティーヴァ・エヴォルータ」のコンペに参加。アルファロメオ社内デザインの8Cコンペティツィオーネ案に敗退したザガート案から発展したものと推測されるのだ。

 そこでさらに推測されるのは、以前同じ「スポルティーヴァ・エヴォルータ」コンペに敗退しつつも、2002年のヴィラ・デステにて今回のTZ3と同じコンセプトカー部門金賞に輝いたことから、アルファロメオの正式な量産モデルに姿を変えて復活してすることになった、イタルデザイン‐ジウジアーロのアルファロメオ「ブレラ」の例が踏襲される。つまり、この春に同じくヴィラ・デステの栄冠を獲得したことからTZ3についても、少なくとも一定数のシリーズ生産が行われる可能性が出てきているのだ。

 今回、フィエラ・ミラノ・ローのアルファロメオブースでザガートの広報担当者、パオロ・ディ・タラント氏に伺ったところ、今回発表されたTZ3コルサのストラダーレ版のプロジェクトはかなり進行しているようで、既に10台前後の限定生産が見込まれているとのこと。現時点では何らの発表も行われていないが、やはりアルファロメオ創立100周年である今年中には何らかのアクションがあると見るのが当然と思われるのだ。

 まだまだ不透明な部分が多いアルファロメオTZ3コルサだが、その魅力は折り紙つき。それだけに、今後の成り行きに注目していきたいところである。

ザガート社広報担当のパオロ・ディ・タラント氏は、既にTZ3ストラダーレ版の計画が進行中であることを、包み隠さず語ってくれたサプライズ展示となったTZ3コルサは、フィエラ・ミラノ・ロー館内でも間違いなく一番人気。会場には、ひっきりなしに観衆が訪れていた

(武田公実)
2010年 9月 8日