アバルト、100%オリジナル車の登場は「皆さんの予想より少し早く」 「695トリビュートフェラーリ」国内導入を発表 |
イベント開催日である10月15日のわずか数日前、編集部に突然1通のインビテーション・メールが舞い込んだ。その名も「スコルピオーネ・ナイト」と、まるで秘密パーティのごとく意味ありげなネーミングが銘打たれたプレゼンテーションイベントで、イタリアのアバルト本社およびフィアット グループ オートモビルズ ジャパン、そして東日本のアバルトの販売を一手に引き受けるアバルト東京との協力体制のもとに開催されるものであった。
ちなみに「スコルピオーネ」とは、アバルトのエンブレムに掲げられるサソリを意味するイタリア語。イタリアでスコルピオーネと言えば、星座のさそり座の次にアバルトが連想されるというほどに、ポピュラーな表現となっている。
果たして、このスコルピオーネ・ナイトは、報道関係者とアバルト愛好家を東京 南千束のアバルト東京に招いた、楽しいパーティであった。その最大の目的は、つい先日、国内発売がアナウンスされたばかりのアバルト「プント・エヴォ」と、アバルト「500C」をお披露目すること。そのためにイタリアのアバルト本社から4名の幹部社員が参加したのだが、中でも最高位に位置するアバルト事業本部長アントニオ・アバーテ氏が、実に興味深いスピーチを聞かせてくれることになったのだ。
アバーテ氏は、1986年にフィアット・アウト(FIAT AUTO)に入社した46歳。車両製造工場の経理マネージャーからスタートし、長らく同社の経理や財務・投資部門を担当したほか、ブランド管理も手掛けてきた人物。アバルトが独立ブランドとして復活準備を始めて間もない2007年5月から、現職に就いている。
スコルピオーネ・ナイトは東京 南千束のアバルト東京にアバルト愛好家と報道関係者を招いて開かれた | アバルト東京のファクトリーには多数のエッセエッセキットのケースが置かれていた |
■トリビュートフェラーリのサプライズ発表
この夜のパーティでは、フィアット・グループ・オートモビルズ・ジャパン代表取締役社長兼CEOのポンタス・ヘグストロム氏から、日本市場に於けるアバルト・ブランドの成功を強調するスピーチがあったのち、主役であるアバーテ氏が壇上に立つことになった。
アバーテ氏は、2008年のブランド復活以来、アバルトは本物志向を最重要視し、「ソウル(魂)のあるカスタマーにソウルのある車を作ってきた」とアピール。生産が本格化した2009年には1万1500台を生産し、2013年には2万1300台の販売を目標としていると述べた。
また、現時点では生産総数の40%がイタリア国内向けで、残り60%が海外に輸出。全世界で141カ所のショールームと、140カ所のアバルト専業チューニングファクトリー、300カ所のアバルトサービス(アフターセールス拠点)、そして6カ所のアバルトレーシング ワークショップのネットワークを構築。さらに今年2010年中には5大陸すべてへの進出を果たすという。
そんな中にあって、日本は最もパフォーマンスの高い海外市場として最重要視しているとのこと。今回の訪日も日本市場への感謝と期待感の表れということであった。
20103年に2万台超えを目指す | アバルトは生産量の40%がイタリア向け、残りが輸出向け |
アバルトのネットワーク | 2010年中に5大陸すべてに進出 |
ところで前述したように、この夜の目的はアバーテ氏が自ら「2つの宝石」と呼ぶ、アバルト・プント・エヴォとアバルト500Cのプレゼンテーションだったのだが、もう1つ大きな“サプライズ”が控えていた。昨年秋のフランクフルト・ショーにて世界初公開されたアバルト「695トリビュートフェラーリ」の日本市場導入が、ここで初めて正式に公表されたのだ。
695トリビュートフェラーリは、アバルトとフェラーリという、イタリアを代表する伝説的ブランドがコラボレート。180PSまでチューンされたエンジンに、500Cと同じ「アバルト・コンペティツィオーネ」パドル式2ペダルMTを組み合わせて、225km/hの最高速と、0-100km/hが7秒以下という加速性能を獲得。「アバルト史上最速の500」を標榜する。さらには、内外装にもフェラーリ430スクーデリアを思わせるドレスアップが施され、世界で1700台のみ限定生産されるモデルである。
日本では11月からオーダー受付がスタート。今回の「スコルピオーネ・ナイト」会場では、販売価格や日本市場向けの割り当て台数などについては未定とされたが、近日中にアナウンスされるとのことである。
695トリビュートフェラーリ。ルックスやディテールだけでなく、性能も「アバルト史上最速の500」を誇る |
質問に答えるアバーテ氏 |
■近未来の展望
イタリアのアバルト本社から上級幹部が来日し、しかもわれわれ報道関係者と親しく話す機会は、決して多くは無いことである。せっかくなので、このチャンスを生かして近い将来のアバルトの展望についても伺ってみることにした。アバーテ氏は優秀なビジネスマンであると同時に、アバルト社内用語でいうところの「サソリに刺された」人物、つまりアバルトの魅力に傾倒してしまったエンスージアストでもあるようで、アバルトの将来に関する少々スクープ狙い的な質問にも、実に楽しげに答えてくれた。
まず最初に質問したのは、アバルトが今後ハイブリッドや電気自動車(EV)などの次世代カーに進む意向はあるのか? ということについて。この問いかけに対する答えは、「Perche no?(=Why not?)」。翻ってイタリア語では、「もちろんイエス!」というニュアンスで使われる言葉であった。
つまり、アバルトでもハイブリッドやEVに関する研究・開発は進んでいるということ。具体的には電気モーターを補助的に使用するハイブリッド車の開発を進めているようだ。ただしアバーテ氏は「アバルトは、既にスポーツカーとしては世界一エコなことをお忘れなく」という言葉もしっかり付け加えてきた。
第2の質問は、既にヨーロッパではフィアット500に搭載して発表済みの「ツインエア」2気筒900ccターボユニットのアバルト版はあり得るのか? この質問に対しては、「それはよいアイデアですね。」と茶化されてしまったものの、なぜか意味ありげなウインクを加えていたのが非常に印象的だった。
アバルトの創設者、カルロ・アバルトとその作品たち。チューニングモデルだけでなく、シャシー、エンジンまでアバルト・オリジナルのマシンもあった | アバルト本社、グループ オートモビルズ ジャパン、アバルト東京のスタッフ | サソリのエンブレムの前で |
そして最後の質問は、フィアット量産車ベースだけでなく、ボディやシャシーまでアバルトで自製するオリジナルスポーツカーの可能性について。この質問への回答は、驚くほど意欲的なものとなった。アバーテ氏曰く「創業当初から、アバルト100%オリジナルの車を創るのが私たちの悲願でした。まだ詳細はお教えできませんが、皆さんが予想しているよりも少しだけ早く、お見せできることになると思いますよ」という予想外の返答が返ってきたのだ。
2008年に復活を遂げて以来、アバルトは創業当初から掲げていた「2万2000台の生産車、5000セットのチューニングキット(注:エッセエッセキットのこと)、500台の限定モデル、150台のコンペティションカー」という目標をすべて達成してきたという。そして、アバーテ氏の応えてくれたようなニューカマーたちが続々と誕生しようとしている今、アバルトが往年の成功以上の栄光をつかむのは、決して夢ではないと思わせるような一夜だったのである。
(武田公実)
2010年 10月 18日