ブリヂストンのF1参戦終了特別展「Bridgestone 14 years in F1」見学記 ブリヂストンTODAYで開催中 |
タイヤメーカーのブリヂストンは、2010年を持って1997年から14年間にわたるF1参戦に終止符を打った。そのF1参戦の歴史は、ブリヂストンのWebサイト上に掲載されている「F1活動14年の軌跡」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20101119_408130.html)て確認できるが、実物のF1タイヤを見たいというユーザーも少なくないのではないだろうか。
そうしたユーザーにお勧めしたいのが、ブリヂストンの技術センター(東京都小平市)内に設置されているショールーム「ブリヂストンTODAY」内で現在行われている特別展「Bridgestone 14 years in F1」だ。昨年末から始まっており、2月下旬までの開催を予定している。入場料は無料。
■初優勝のタイヤや、ベッテル初戴冠のタイヤなど展示
この特別展では、同社が14年間のF1フル参戦期間中に提供したタイヤ、スタッフが利用したツールなどが展示されている。取材時には、1995年の「リジェJS41・無限ホンダ」をベースとしたF1タイヤ開発テスト車両、フェラーリの2003年シーズン用F1マシンである「フェラーリ F2003(ただし塗装は2010年バージョン)」を間近で見ることができる。
特別展では、各種タイヤを中心に、F1マシンなども展示 | リジェJS41・無限ホンダがベースになっている1996年に利用されたテストカー | 2010年カラーリングのフェラーリF2003 |
2台のマシンも置かれていたが、展示の中心は実戦で利用された同社製F1タイヤ。取材時に展示されていたタイヤは以下の写真のとおり。
F1ファンがとくに気になるタイヤは、同社の初参戦、初優勝獲得、初チャンピオン獲得の3つのタイヤと、2010年の最終戦用タイヤだろう。
初参戦タイヤとして展示されていたのは、1997年第1戦オーストラリアGPでオリビエ・パニス選手が装着していたタイヤだ(ブリヂストンは、1970年代に開催されたF1 in Japanにスポット参戦しているので、本格参戦を開始したときの初参戦タイヤ)。このレースでプロスト・無限ホンダのパニス選手は、決勝レースで見事に5位入賞を勝ち取ったのだ。当時のF1での入賞は6位までだったし、プロストチームは決して上位チームとは言い難かったので、これは快挙と言ってよかった。
その後パニス選手は、続くブラジルGPで3位表彰台(ブリヂストンの初表彰台)、スペインGPで2位表彰台に上る大活躍を見せた。ただ、パニス選手はその次のカナダGPで、クラッシュによる両足骨折の怪我を追ってしまい、シーズン後半を棒に振ってしまった。それがなければ、初参戦シーズンに初優勝という快挙も夢ではない活躍だったのだが……。
その初優勝の夢を実現したのが、翌1998年のオーストラリアGPで、マクラーレン・メルセデスのミカ・ハッキネン選手の手によるもの。前年のプロストチームでの活躍や、ハンガリーGPでアローズ・ヤマハのデーモン・ヒル選手が優勝一歩手前までいったことなどが評価され、1998年はマクラーレン・メルセデスというトップチームとの契約に成功した。その成果がいきなり初戦で出たのだ。
このレースではブリヂストンタイヤを履いたハッキネン選手と、チームメイトのデビット・クルサード選手が予選、レースともぶっちぎって優勝し、同社に初優勝をプレゼントしたのだ。
そして同じ年の日本GPで、初チャンピオンを獲得した。日本GPで、ハッキネン選手はフェラーリのミハエル・シューマッハ選手を破り、自身にとっても、ブリヂストンにとっても初めてとなるタイトルを獲得したのだ。
昨年の最終戦アブダビGPは、まだ記憶に新しいところだが、ブリヂストンとして最後となるこのレースで、優勝し、かつ史上最年少でチャンピオンとなったセバスチャン・ベッテル選手が履いていたタイヤも飾られている。
いずれのタイヤもF1の歴史の中では重要なタイヤであると言えるが、実際に特別展に行った際に注意して見てほしいのが、タイヤの表面。いずれのタイヤにも、マーブルと呼ばれるタイヤカスがついたままになっている。F1ではレース終了後に重量や車高の計測があるため、ドライバーはわざとゴミがある路面を通り、こうしたゴミをタイヤに付着させて、最低重量や車高違反のリスクを回避してからパルクフェルメと呼ばれる車両保管所に停車する。そのマーブルが付着したままで展示されているのだ。
ブリヂストン ブランド推進部企画CI課 水野雄太氏 |
さらに、一部のタイヤは、マーブルが綺麗に取られているものがある。この特別展を企画したブリヂストン ブランド推進部企画CI課 水野雄太氏によれば「この部分は弊社のエンジニアが車両保管後にタイヤを計測するために、工業用ヒーター(ドライヤーの強力なもの)を使ってマーブルを柔らかくし、スクレイパーと呼ばれる冶具で剥ぎ取った部分です」とのことで、レース後に摩耗量やゴムの表面状況などを確認しているのだと言う。さらに、外した後には、よく見ると、摩耗計測用の穴とは別に、小さな穴が残っていたのだがこれは「温度計を挿した後です」(水野氏)とのこと。こうしたレース後の確認作業が次のタイヤ開発につながっていくのだろう。
単に黒くて丸いタイヤではあるが、細部をじっくり見ていくと、F1というスポーツを戦った用具としての痕跡が沢山残っているのだ。これだけでも、マニアなら見に行かないという理由はないと思う。
タイヤカスを取った跡。表面をチェックするためにこのような処置が行われるのだと言う | チョークで書かれた記録(メモ?)。こうしたレース後の生々しい記録も確認することができる |
■開催期間は2月末まで。タイヤだけでなく各種の写真やエンジニアツールなども展示
今回の「Bridgestone 14 years in F1」では、F1タイヤやF1マシン以外にも、いくつか興味深い展示があった。
たとえば、F1の現場でブリヂストンのエンジニアが実際に使っていたラップタイムボード。そして、タイヤに緑のラインをひくためのマーカー。F1では、ソフトタイヤを装着していることが外からも分かるようにサイドウォールに緑のラインがひかれているが、あのラインはエンジニアの手によって引かれている。緑のマーカーは、そのためのものだ。
なお、このマーカーは市販品はなく、マジックのメーカーに特注して作ったものだと言う。また、F1カーの設計にはスケールモデルによる風洞実験が欠かせないが、その風洞実験用にF1チームに提供している風洞モデルのタイヤ(1/2スケール)なども合わせて展示されていた。
このほかにも、ブリヂストンのF1参戦の軌跡を説明するパネル(昨年の日本GPで展示されていたものと同等)、ブリヂストンのF1参戦の歴史を彩る各種の写真などが展示されており、14年間のF1の歴史に想いをはせることも可能だ。
なお、特別展の開催概要は以下のとおり。
展示名:Bridgestone 14 years in F1
展示個所:ブリヂストンTODAY
展示期間:2月下旬まで(日曜日、祝日は休館)
開館時間:10時~16時(入館は15時30分まで)
入館料:無料
住所:東京都小平市小川東町3-1-1
アクセス:西武国分寺線 小川駅東口より徒歩5分(駐車場あり)
URL:http://www.bridgestone.co.jp/corporate/today/
TEL:042-342-6363
※10名以上での見学、並びに展示解説を希望の場合は、事前連絡のこと
特に入場料は必要ないし、開館時間内であれば誰でも閲覧することができる。歴史的なF1タイヤをこの目で見てみたいと思うのであれば、ぜひ期間中に訪れるのをお勧めする。なお、一部の展示物は取材時と変更される可能性があるそうなので、その点はご容赦願いたい。
(笠原一輝)
2011年 1月 27日