八王子市と東京工科大学、街路樹由来のバイオマスを液化燃料に
バイオマス燃料によるゴミ収集車の試走も実施

バイオマス燃料で走行したゴミ収集車の前に立つ黒須隆一八王子市長(左)と、軽部征夫東京工科大学学長

2011年5月24日発表



共同発表の行われた東京工科大学。八王子市内にあり、産学連携の研究なども行っている

 東京都八王子市と東京工科大学は5月24日、「バイオマス資源の液化と有効活用」に関する共同研究発表を東京工科大学のキャンパス内で行った。この研究は、八王子市と東京工科大学が共同で進めており、八王子市から出る街路樹などの剪定枝を、ゴミ処理の一環として自動車燃料に変換するというもの。研究の成果に一定の目処が立ったことから、共同発表の運びとなった。


 冒頭挨拶に立った、軽部征夫東京工科大学学長は、「このプロジェクトは5年前から始まった。八王子市では1日に約6tの剪定枝があり、それを可燃ゴミとして焼却している」「日本ではバイオ燃料というと、バイオマスをアルコールにするもの、メタンガスにするものとあるが、いずれも大量の廃棄物が出る」と言い、今回の方式のよいところは、剪定枝をいぶすことでガス化し、そのガスを液化燃料にできること。廃棄物に関しても炭が出るのみで、それをブロックにするなどして再利用できる。

 黒須隆一八王子市長は、「現代は、大気中のCO2を増加させない資源というのが注目を集めている。このバイオマス燃料であれば、1万tの剪定枝を130万Lの燃料にできる。市の課題としては可燃ゴミを減らすこと。市としてもバイオマス燃料を有効活用していきたい」と語り、このように行政と大学が共同研究できることは、市内に21の大学を持つ八王子市ならではのメリットであるとする。

軽部征夫東京工科大学学長黒須隆一八王子市長

東京工科大学 応用生物学部教授 齋木博氏

 詳細な研究内容については、応用生物学部教授 齋木博氏より語られた。齋木氏は「剪定枝を熱分解(蒸し焼き)するとH2(水素)とCO(一酸化炭素)の混じったガスが得られる。このガスを触媒を使って燃料にする」と言い、FT(フィッシャー・トロプシュ)合成を行っていると解説。エネルギー変換効率は50%ほどで、得られた燃料の性質はJIS規格の特1号軽油に相当する。

 通常、バイオマス燃料を得るには、バイオマスの収集費用などが問題なるが、この方法のよいところは「既存のゴミ回収ルートを使用でき、ガス化や液化のエネルギーもゴミの燃焼熱を利用できる」(齋木氏)と言い、ゴミ処理場と併設する形で液化プラントを作ることで、エネルギー生産型のゴミ処理施設を実現できる。八王子市では150台のゴミ収集車を運用しているが、八王子市で発生する剪定枝を原料にした場合、180台のゴミ収集車を年間運用できるだけの燃料を得ることができるとのことだ。

プロジェクト概要八王子市における燃料の変換プロセス八王子市では熱化学変換が有効と言う
メタンガスやアルコールへの変換では、廃棄物処理が必要となるゴミ収集作業で、バイオマスを収集できるため、収集コストも低い触媒反応を利用して、液化を行う
反応炉のブロック図合成した燃料の性質は、特1号軽油に相当する

 実験レベルでは、約300mlほどの反応炉を使っており、1週間反応させて100ccほどの燃料が得られると言う。今後は、より大規模な実証実験レベルへと向かいたいが、それには複数の企業の参画や政府の支援が必要になるだろうとの見通しを示した。

今後は実証研究へと進む得られた燃料(左)と、利用した触媒COが発生する可能性があるので、研究はキャンパスの片隅にあるプレハブ内で行っている
燃料を生成する研究炉。FT-300とは、300mlの容量を持つことを示す。1週間の反応で、最大100ccほどを得られると言う

実際の走行は「やや軽い感じで走る」
 研究発表とあわせて、キャンパス内での走行試験も行われた。試走に使われたのは八王子市で実際に使われているゴミ収集車。市が運用してるゴミ収集車の中でも最大サイズのものであると言う。

 通常の収集車からの変更点は、バイオマス燃料を入れる小さなタンクを増設したのみで、これは軽油タンクからでは少量の燃料を供給できないため。約3Lのバイオマス燃料を入れての試走を行った。

 エンジンの始動も通常どおりで、セルモーターを回すとあっけないほど簡単に始動。そのまま、キャンパス内を数周することができた。運転を担当した市の職員によると「まったく普通のクルマと変わりない。あえて言えば、やや軽い感じで走ることくらい」とのこと。特1号軽油と同様の性質を持つため、代替燃料として十分実用になるものだろう。

走行試験に使用されたゴミ収集車
キャビンの左後方にある白いポリタンクが、バイオマス燃料用のタンク
約3Lほどのバイオマス燃料が入っている。GTLはGas To Liquid(ガス液化)の略齋木教授がタンクに燃料を注いだ
試走の前に、軽油を取り除く作業が行われた通常のクルマと変わりなく走る
黒須八王子市長に運転した感想を報告する市の職員。やや軽い感じで走らすことができたと言う

 今後は、実証研究に5年、実用の施設を作るには10年ほどかかると言い、この燃料を使ったゴミ収集車が走り出すまでには、しばらく時間がかかりそうだ。黒須八王子市長は、「ゴミ処理場には、10年後くらいに寿命を迎えるものがある。その建て替えに間に合うとよいと思う」と言い、ゴミ処理とエネルギー生産を同時に行える施設の建設を目指したいとした。


(編集部:谷川 潔)
2011年 5月 24日