炊飯器動作デモを実施した改良型「i-MiEV」
価格重視のM、性能重視のGの2グレード展開に

一部改良されたi-MiEV。クルマから電力を取り出し、炊飯器を動作させていた

2011年7月6日開催



 三菱自動車工業は7月6日、電気自動車(EV)「i-MiEV(アイ・ミーブ)」を改良したと発表した。エントリーグレードの「M」と上級グレードの「G」を設定し、前者を7月25日に、後者を8月中旬に発売する。

 価格はMが260万円、Gが380万円だが、クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金の対象モデルであることから、2011年度はMグレードで72万円(オプション設定の急速充電機能を装着した場合は74万円)、Gグレードで96万円を上限として補助金を受けることができるため、実質的にMグレードは188万円、Gグレードは284万円となる。改良点の詳細については関連記事を参照していただきたい。

 改良発表に伴い、本社内において報道陣向けに説明会を開催し、i-MiEVからの給電で炊飯器を動作させるデモを実施した。

世界初の量産EVメーカーだからこそ
 今回の商品改良について、益子修社長は「お客様の声に応えたもの」と言い、世界で初めて量産EVを市場に投入したメーカーだからこそ、いち早くユーザーの要望に応えることができたと言う。

 i-MiEVは、2009年7月の発売以来、国内累計で4000台を出荷しており、輸出やPSAプジョー・シトロエン向けを含めると1万台以上を出荷している。2011年度には2万5000台、2012年度には5万台の出荷を見込み、生産ラインも当初の商用車ラインから軽4輪ラインに移管し、その達成を目指していく。

奥から、商品戦略本部 A&B商品開発プロジェクト担当部長 貴志誠氏、益子修社長、先行技術企画室 上級エキスパート 百瀬信夫氏EVの生産実績・生産計画

 一部改良の詳細については、商品戦略本部 A&B商品開発プロジェクト担当部長 貴志誠氏から説明が行われた。貴志部長はi-MiEVの購入ユーザーから寄せられた満足点に関する声を紹介した後、「航続距離の延長」「価格が高い(航続距離が短くてもよいので価格を下げてほしい)」「仕様の充実」という要望を紹介。これらの要望に応えた結果、一充電での走行距離が120kmながら、補助金込みで200万円以下を実現したエントリーグレードの「M」と、一充電の走行距離を約2割拡大して180kmとし、カーナビやシートヒーターを標準装備した上級グレードの「G」の2つを用意するに至ったと言う。

 上級グレードのGでは、インテリアを上質にしたほか、メーカーオプションとして「MiEVリモートシステム」を用意。10月から発売予定のこのオプションでは、電気料金の安い夜間電力を手軽に使える「タイマー充電」、乗車前にリモコンで冷房や暖房を作動可能な「プレ空調」、i-MiEV駆動用のバッテリー残量表示ができ、電気を効率的に使えるようになる。

ユーザーの要望に応える形で改良を行ったその結果、価格、航続距離の異なる2つのグレードを設定エントリーグレードのM
上級グレードのGGは室内も上質なものとなるGグレードのみに設定されるMiEVリモートシステム
リモコン本体でバッテリー残量表示も行えるMiEVリモートシステムのリモコン部分リモコンには5つのボタンが付く

 夜間電力を効率よく利用できるため、価格メリットを重視するMグレードユーザーからの装着希望もあると思われるが、これに関しては「6万3000円とそれなりに高価なオプションであるため、要望が多かったら(Mグレードへの設定を)検討したい」(貴志氏)とのことだ。

ブレーキペダル連動回生ブレーキを装備したASC(アクティブスタビリティコントロール)を全車に標準装備Mグレードでは補助金込みで190万以下

EVから家電製品への給電を
 商品改良説明会では、i-MiEVから家電製品への給電についても先行技術企画室 上級エキスパート 百瀬信夫氏より説明が行われた。百瀬氏は、現在同社が行っているスマートグリッドへの取り組みを紹介。この取り組みの中で課題となるのがEVからの放電機能だと言う。

 EVへの充電機能に関しては、すでにCHAdeMO(チャデモ)協議会によって規格化されている。EVから放電を行うためには、車載電池の直流(DC)を家庭用の交流(AC)に変換する装置が必要になるとともに、その放電機能の規格化が必要になると言う。

スマートグリッドにおけるEVの活用例電欠になったEVに対して電気を補充する助っ人EV放電機能の実証実験例
シャープと協同で取り組んでいる、放電機能の実証実験同社の岡崎工場でも、EVを利用した工場内電力の安定化実験を行うEVの放電機能の開発課題

 小容量の放電に関しては、DC12V(シガーソケット)から100W(AC100V)の電力を出力可能な「ACパワーサプライEZ」をディーラーオプションとして設定。この機器では1Aの出力となるため、パソコンやLED照明などには給電できるものの、大規模災害で必要とされる炊飯器などへの給電はできない。

 そのため、現在1500Wの給電が可能な機器を開発しており、その試作品が展示された。この機器はDC入力に急速充電口を使用し、そこから取り出したDC330VをAC100V(1500W)で出力する。この機器はクルマに内蔵するのではなく、外付け式での製品化を予定している。これは、大容量機器であり、それなりに高価となることが想定されるためだ。そのため、どのようなEVからでも給電できる仕様が理想的で、CHAdeMOでの放電機能の標準化が望ましいことになる。

 1500Wの給電機器が出力するAC100Vの周波数は「検討中」(百瀬氏)と言い、出力波形については「矩形波だと動作しない家電機器もあることから、正弦波(サイン波)が望ましい」と語った。いずれにしろ、詳細はこれから詰めていくことになる。

非常時における給電機能の必要性DC12V(シガーソケット)を使った給電例現在開発を進めている1500Wの給電例。急速充電口を利用する
三菱電機製の炊飯器とともに展示されたi-MiEV手前に見えるオレンジ色のボックスが1500WのDC/ACコンバーター。急速充電口からケーブルが伸びる
ボックス横には排熱ファンが付いていた。このケースは試作品とのこと排熱ファンの反対側には、AC100Vのコンセントが取り付けられていた

 この放電機能は改良前のi-MiEVでも一部部品を変更することで実装可能と言い、放電機能が実用化された際には、改良前のi-MiEVユーザーに対しても「何らかの形で変更対応をしていきたい」(百瀬氏)と語った。

(編集部:谷川 潔)
2011年 7月 6日