鈴鹿にWTCC(世界ツーリングカー選手権)がやってくる!! 世界レベルのガチンコ格闘戦。クラッシュ続出の動画も多数掲載 |
世界各地のサーキットを舞台に毎戦激しいバトルが繰り広げられるWTCC(世界ツーリングカー選手権) |
WTCC(World Touring Car Championship、世界ツーリングカー選手権)は、“ツーリングカー”つまり一般の乗用車を利用したレースの選手権で、ヨーロッパ、南米、東アジアなどを中心にレースが行われている。
WTCCの日本ラウンドは昨年までの3年間、岡山県にある「岡山国際サーキット」で開催されてきたが、今年から三重県にある日本を代表するサーキット「鈴鹿サーキット」に舞台を移し、10月22日、23日の2日間にわたって行われる。Car Watchでは、このWTCCをテーマにした「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」の開催をデジカメWatchと共同で予定しており、フォトコンテスト参加者には、大人5000円が4500円となる割引きの前売りチケットが用意される。詳細は、9月12日に発表予定だ。
このWTCCの魅力は、なんといっても実際に市販されている乗用車を改造したレーシングカーで、世界一流の箱車マイスター達が車体をぶつけ合いながら抜きつ抜かれつの競争を行っていることだ。そうしたWTCCの魅力と鈴鹿戦における見所などについて説明していく。
なお、記事の最後には、これまでに行われたWTCCラウンドのダイジェスト映像を掲載しておいたので、WTCCがいかに大迫力のレースであるか、記事とあわせて楽しんでほしい。
■乗用車を使って、本気でドンパチやってます
WTCCはFIA(世界自動車連盟)のタイトルがかかる4つの選手権(ほかの3つは、F1世界選手権、WRC[世界ラリー選手権]、FIA GT選手権)のうちの1つで、まさにツーリングカーによる“世界一速い男”を決定する選手権だ。現在のWTCCは、もともとETCC(ヨーロッパツーリングカー選手権)というヨーロッパのレースがベースになっており、2005年に世界選手権へと昇格して今に至っている。
WTCCの特徴は、なんといってもその激しいレースにあるだろう。日本のレースでは、車をぶつけ合ってのレースなどはあまり見かけないが、ヨーロッパのレースでは“ぶつけ合いの結果相手を飛ばして自分が利益を得ない限り”という条件付きだが、車をぶつけ合ってレースをするのを許容する考え方がある(蛇足だが、これはWTCCに限らない話で、F1やGP2、F3などのフォーミュラカーレースでも同じ考え方が貫かれている)。
そうした文化を背景にして、WTCCでは非常に激しいレースが繰り広げられており、ボディーとボディーをこすり合うような接近戦は日常茶飯事だし、そこかしこでオーバーテイクを見ることができる。と書くと乱暴なレースに聞こえるかもしれないが、各ドライバーがボディーをこすり合いながらレースができるということは、ドライバー同士がお互いをリスペクト(尊重)していない限り、絶対にできないことであるのは言うまでもない。自動車レースである以上、変な当たり方でもすれば、即、大事故につながり自らの命をも危険にさらすことになるからだ。それを分かっていながらそうしたレースが展開できるというのも、お互いの力量を認め合ったもの同士ならではと言えるのではないだろうか。
また、WTCCではF1などほかの世界選手権とは異なるレギュレーションが採用されている。その代表が“リバースグリッド”に関するレギュレーションだろう。一般的なリバースグリッドとは、1大会で2レースを行う選手権で採用されているもので、レース1の結果とは逆の順番でレース2のグリッドを決定する。速いクルマが遅いクルマの後ろに来るようにして、レース2をおもしろくするという方式だ。GP2で採用されているのはまさにこの方式だが、WTCCではさらに工夫を加えているのだ。
WTCCでもレース1、レース2があるのは同じなのだが、リバースグリッドの決め方は予選順位から決められるのだ。具体的には、予選はP1、P2の2回行われる。レース2のグリッドはP1の結果で決められるのだが、1~10位の逆順となる。P2にはP1で1~10位に入った10台だけで争われ、その結果がレース1のグリッドとなる。こう書くと、「P1でわざと力を抜いて10位になればよいと考える選手も出てくるのでは?」と思われるだろうが、実際には難しい。
1~10位 | 11位以下 | |
レース1 | P2の順位 | P1の11位以下の順位 |
レース2 | P1トップ10の逆順 | P1の11位以下の順位 |
というのも、P1で10位以内に入らないとレース1もレース2も11位以下の順位でスタートするハメになるため、わざと10位を狙おうにも、万が一11位以下になったりすれば、その反動は想像以上に大きいためだ。11位以下になった場合、レース1もレース2も失う結果になりかねない。従って、P1もP2も、駆け引きはあるものの、ある程度は全力で戦わなければならないのだ。
シボレーチームは、チームメイト同士での頂上決戦 |
■WTCC版“セナプロ確執”か。強すぎるシボレーのハフ対ミューラーの熱い戦い
原稿執筆時点(8月下旬)ではドイツラウンド(第15戦、第16戦)までが終わっている状況だが、今年のWTCCはF1で言えば“ミハエルがいた頃のフェラーリ独走状態”あるいは“1980年代後半から1990年代初頭のマクラーレン・ホンダ状態”と言ってよいほど強いチームが1つある。それが、米GM(ゼネラル・モータース)のブランドであるシボレーチームで、他を寄せ付けない独走状態にあると言ってよい。
シボレーがこんなに強くなった背景には、BMWやセアトといったメーカーのワークスチームが事実上撤退してしまったということがある。BMWやセアトはメーカーチームとして登録されているチームが今年もあるのだが、それはレーシングチームに委託して走らせているという状況であり、メーカー自身が本気で開発を続けている訳ではないので、ワークスチーム体制で走らせているシボレーと大きな差がついてしまっているのが今年の現状だ。
なお、今年から新たなワークスチームとしてボルボ・カーズが参戦してきているが、今年は試験的な参戦ということで1台のみにとどまっており、シボレーと本格的な勝負をするというレベルまでに達してはいない。しかし、レースごとにレベルを上げてきており、本格的な参戦になると言われている来年以降(まだ決定していないが)にはシボレーと戦えるようになるかもしれない。
日本では販売されていない「クルーズ」で参戦しているシボレーは、昨年念願のチャンピオンをイヴァン・ミューラー(2008年にもチャンピオンになっている)と獲得し、今年も3台のクルーズを走らせ、他の追随を許さずほとんどのレースのレース1で勝っている。レース2に関しては、すでに述べたように、P1のリバースグリッドになるため、いくつかのレースを落としているが、それさえなければ全レース勝っても不思議でないぐらい強力なパフォーマンスを発揮している(逆に言えばWTCCのユニークなリバースグリッドが成功しているとも言えるが)。
今年シボレーは2008年と2010年のチャンピオンであるイヴァン・ミューラー、そして急成長を遂げている中堅のロバート・ハフ、そしてやはりベテランのアライン・メヌーの3人を走らせているのだが、率直に言ってメヌーは脇役で、熱い戦いを繰り広げているのがミューラー、ハフの2人だ。ドイツラウンド終了時にハフが289点、ミューラーが283点とわずか6点差になっており、この2人から60点以上離されてメヌーが220点で続く状況なので、事実上ドライバー選手権の方はハフ、ミューラーによる戦いに絞られたと言ってよいだろう。
強すぎるチーム内で序列が決まっていない状況(実際シボレーはチームオーダーを出していない)でお約束なのがお家騒動だが、今年のシボレーもその例外ではない。実際、ポルト(ポルトガル)のレース2(第12戦)でハフがミューラーに接触し、かつシケインをカットして抜いていったこと(実際には抜いた後でシケインカットにも見える微妙なところ)で、レース後にミューラーがコントロールタワーに苦情を言いに行くなど同じチームとは思えない対応を見せている。
シボレーチームの3人で表彰台を独占することも少なくないのだが、両者ともメヌーとは仲良く話しているものの、両者の間には張り詰めた空気が流れているのを容易に見て取ることができるほどだ。昨年のレッドブルF1の例を出すまでもなく、強すぎるチームにはありがちな事態だが、観客にとっては本気のレースを見せてくれるのだから大歓迎だ。
鈴鹿戦での見所は、この2人がレース1でどれだけバトルを繰り広げるかだろう。また、今年のWTCCは、鈴鹿サーキットの東コースで行われる。つまり、鈴鹿サーキットでオーバーテイクが発生しやすい、スプーン、裏ストレート、130R、シケインといった部分を通過しない(シケインは部分的に通過)ため、普通に考えると1コーナーがポイントになるだろう。
ただ、WTCCは先述したとおり肉弾戦が繰り広げられるレースのため、1コーナー以外でもオーバーテイクが多数発生するかもしれない。ほかの個所では、かなり無理しなければ抜けないということになるため、両者が本気のバトルを繰り広げ、本当の意味での“一触即発”なテンションの高いレースを見ることができるのではないだろうか。
■日本でおなじみだったあの人も、F1で表彰台取ったこの人もWTCCで戦ってます
シボレーの3人に加えて、優勝が争えるドライバーとして挙げておきたい選手が4人いる。1人目はBMWのセミワークスチームとも言えるROAL MotorsportでBMW 320 TCを走らせるトム・コロネルだ。コロネルはオランダ出身のドライバーだが、全日本F3選手権、フォーミュラ・ニッポンでチャンピオンを取るなど日本育ちのドライバーで、日本のレースファンにもおなじみの名前だろう。これまではインディペンデントクラス(ヨコハマトロフィー、後述)と呼ばれるプライベートチーム向けのクラスを走っており、2008年の日本戦では第2レースで優勝するなどの活躍を見せていた。今年は念願のWTCCチャンピオンクラスへと昇格したが、BMWがワークス活動から撤退してしまったこともあり、やや苦戦している。しかし、彼は鈴鹿を走り慣れており、その点では他のドライバーに比べてアドバンテージがあると言えるだろう。
また、往年のF1ファンならスペインの自動車メーカーであるセアトのドライバーラインアップに、ガブリエル・タルキーニとティアゴ・モンテイロの名前に気がつくだろう。ガブリエル・タルキーニは1980年代後半から1990年代にF1を走っていたドライバーで、その名前に聞き覚えがある人も少なくないだろう。残念ながらF1ではオゼッラ、コローニ、AGS、フォンダメタルなどの下位チームでしか走れなかったため目立った成績を残していないが、ここWTCCでは2009年に見事ドライバーチャンピオンに輝いている。なお、この2009年のチャンピオンを取ったときには47歳で、ファン・マニュエル・ファンジオの持つ、FIAタイトルのかかったドライバーチャンピオンの最高齢記録を更新している。現在49歳であるのに、ゾルダーのレース2(第4戦)で見事に優勝するなど、いまだいぶし銀の走りを見せている。
ティアゴ・モンテイロは、ポルトガルの元F1ドライバーだが、名前を聞いて思い出せない人でも、2005年のF1アメリカGPでミシュランタイヤ勢がフォーメーションラップで全車ピットに入りレースをボイコットした時に3位に入ったドライバーと言えば思い出すのではないだろうか。彼は、翌年の2006年まで当時のミッドランドF1(現在のフォースインディア)に在籍してF1を戦ったものの、そのアメリカGPでの表彰台獲得以外には目立った成績を残すことができず、WTCCへと活躍の場を移したのだ。
最後の1人はスウェーデンのロバート・ダールグレンだ。日本では知名度はほとんどないが、大事なことは彼が乗っている車はボルボ・カーズのワークスカーであることだろう。ボルボ・カーズはもともとスウェーデンの自動車メーカーで、昨年までフォードの傘下だったのだが、中国の自動車メーカーである吉利汽車の親会社に売却され、現在は中国資本の企業となっている(なお、ボルボ本体とは今は別会社で、そちらはルノー・ニッサングループ)。ボルボ・カーズは今年よりWTCCに本格参戦しており、徐々に力を付けて来つつある。現時点では来年以降の計画に関して詳細な発表はされていないが、おそらく来年以降には本格的なワークスチームを組んで参戦という形になるのではないだろうか。それに向けて開発は進んでいるようで、最近ではレースをするたびに戦闘力が上がってきている。そういうボルボを操るダールグレンも注目選手の一人と言っていいだろう。
日本から参戦しているのは谷口行規選手。谷口選手が参戦しているのはインディペンデントクラスと通称される“ヨコハマトロフィー”というクラスで、プライベーターのチーム向けのクラスになる。ヨコハマトロフィーにはWTCCとは別の選手権がかけられており、世界中からプライベートチームが参戦して競っている。将来的にはWTCCのメインシリーズへの昇格を目指す育成クラスという位置づけも持っている。谷口選手は、2010年に岡山国際サーキットで行われた日本戦のレース1で優勝するなど実績も残しており、今年WTCCのヨコハマトロフィーにレギュラー参戦しているのだ。
トム・コロネル選手 | ガブリエル・タルキーニ選手 | 谷口行規選手 |
オレンジオイルテクノロジーを使用した横浜ゴムの市販低燃費タイヤ「BluEarth AE-01」 |
■WTCCの足下をずっと支える横浜ゴムのオレンジオイル入りタイヤ
このように熱いレースになりそうなWTCC 日本ラウンドだが、それを足下から支えているのが、日本のタイヤメーカーである横浜ゴムだ。横浜ゴムは2006年からWTCCにタイヤをワンメイク供給しており、すでに2012年までワンメイク供給することが発表ずみとなっている。ちなみに、現時点でFIAの冠がついた世界選手権に参戦している日本のタイヤメーカーは横浜ゴムだけだ。
なお、横浜ゴムのモータースポーツ活動は実に多岐にわたっており、SUPER GTへのタイヤ供給や全日本F3選手権へのワンメイク供給といった日本での活動のほか、WTCC最終戦と併設して行われる、世界のF3選手権を走る若手選手達の世界一決定戦であるマカオGPへもタイヤを供給するなどしており、モータースポーツへの取り組みが積極的な会社である。
横浜ゴムが供給しているタイヤはもちろんWTCC専用に開発されたタイヤだが、量産向けのタイヤにも利用されている技術であるオレンジオイルがゴムに配合されている。オレンジオイルとは、オレンジの皮から抽出される成分を利用して製造するオイルで、ゴムを柔らかくしたり、発熱をコントロールしたりする効果があり、それを利用することでタイヤのグリップを高めることができる。
量産車では主に低燃費タイヤ向けの横浜ゴムの特許技術として、グリップ性能を高めることなどに利用されており、WTCC向けのタイヤでも同様にグリップ性能を高める技術として採り入れられている。この技術には日本のレースにも採用されており、その代表がスーパー耐久レースになる。日本のレースに対する同社の取り組みは、筆者がSUPER GT第2戦富士の際に行ったインタビュー記事「タイヤメーカーの戦いに注目の集まるSUPER GT」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20110607_449652.html)も参考にしていただければと思う。
●天然ゴム+オレンジオイルで低燃費とグリップを両立
http://www.yrc.co.jp/csr/environment/commodity_3.html
■ハフ対ミューラーの本気バトルなど見所満載のWTCC日本戦
以上のように、今年のWTCCは、実に見所満載であることが分かっていただけたと思う。特に、ロバート・ハフとイヴァン・ミューラーのチームメイト同士の本気バトルは絶対に見逃せない熱い戦いになることは間違いないだろう。その2人に、シボレーのチームメートであるメヌー、BMWのコロネル、セアトのタルキーニ&モンテイロの元F1ドライバーコンビ、さらにはボルボなどがどこまで絡めるかが注目点と言えるだろう。予選から見に行くならば、P1での10位を巡る各チームの駆け引きにも要注目だ。
日本人選手に関しては現時点ではレギュラー参戦の谷口行規選手のみとなるが、例年日本戦だけにスポット参戦するドライバーも多く、そちらの展開にも期待したいところだ。
また、レースをより楽しむためにも、iPhoneユーザーはぜひFIAの公式アプリ「WTCC」をダウンロードしておこう。レース開催時にはすべてのセッションでライブタイミングをチェックすることができるうえ、今シーズンのこれまでのランキングやレース写真、動画まで見ることができる。動画は迫力のシーンも満載でかなり見応えがある。App Storeで無料でダウンロード可能だ(http://itunes.apple.com/jp/app/id358795125?mt=8&ign-mpt=uo%3D4)。
FIA公式のiPhone用アプリ。英語だがWTCC関連の最新ニュースもチェックできる | 今シーズンの獲得ポイントや参加ドライバーなどの情報も見られる | 各レースの写真や動画も見られる。大迫力の動画は必見! |
なお、鈴鹿のレースはWTCCだけでなく、スーパー耐久(S耐)も同時に併催される。S耐の方は、東コースでなくフルコースでの開催となる。S耐のほうはWTCCに比べて改造範囲も限られているが、同じ箱車という意味では、かなり近いレースになるだけに、箱車好きのファンなら一緒に楽しめるだろう。
WTCCは鈴鹿サーキットの東コースを使っての開催 | S字コーナーからグランドスタンド方面を望む |
チケットは鈴鹿サーキットのWebサイトや各種プレイガイドなどを通じて販売が開始されており、観戦券は大人5000円、中高生1600円という価格設定になっている(指定席やパドックパスなどは別売り)。F1ドライバー達も世界一と賞賛する鈴鹿サーキットで、世界最高の箱車使い達の共演を見るチャンスだと考えれば、“行かないと後悔すること間違いなし”と考えるのは筆者だけではないだろう。なお、冒頭で記したように、フォトコンテストの開催が予定されており、その参加者向けに割引きチケットが用意される。モータースポーツ撮影好きなら、このフォトコン参加者用チケットにするというのも1つの選択肢だろう。
最後に、これまで開催された各国のラウンドのレースダイジェストを掲載しておく。どれだけ激しい戦いが繰り広げられているのか、見ていただければありがたい。
WTCC各ラウンドのダイジェスト映像 |
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(笠原一輝)
2011年 9月 5日