ホンダ、125ccクラス・700ccクラスに新型低燃費エンジン投入 700ccエンジンは、第2世代DCTを搭載 |
本田技研工業は9月26日、燃費性能を向上させた125ccスクーター用エンジン「125ccグローバルスタンダード・エンジン」、新開発の第2世代6速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を搭載する「中型2輪車用700ccエンジン」の開発発表を、同社本社ビル内で開催した。
125ccグローバルスタンダード・エンジンは、従来の同クラス用エンジンに比べて約25%の燃費向上を、700ccエンジン+6速DCTは同クラスのスポーツ車と比べて40%以上の燃費向上を実現したと言う。
125ccグローバルスタンダード・エンジン。水冷単気筒エンジンであり、スクーター用のためベルト式の無段変速機構を持つ。アイドリングストップ機構も備える | 中型2輪車用700ccエンジンと6速DCT。水冷直列2気筒のレイアウトを採用。6速DCT以外に、6速MTも用意される |
発表会の冒頭、本田技研工業 専務執行役員 大山龍寛氏はスクーター用の125ccグローバルスタンダード・エンジンを、「コミューターとスポーツ。それぞれのシチュエーションで楽しく実用的で低燃費」と表現。グローバルスタンダード・エンジンと名付けられているように、今後のホンダのスクーター用エンジンの中核となり、新興国のスクーター向けに搭載している水冷単気筒108ccエンジン(年間200万台)、「PCX」に搭載している水冷単気筒125ccエンジン(年間10万台)、「SH」に搭載している水冷単気筒125ccエンジン(年間数万台)を置き換えていく(このほか同社では、ビジネスバイク向けに空冷単気筒108ccエンジンを年間数百万台生産している)。
ホンダで二輪部門を統括する本田技研工業 専務執行役員 大山龍寛氏 | 新型700ccエンジンを搭載する「INTEGRA ミラノショー出品予定車」 |
また、新型700ccエンジンは、「これまでハイパフォーマンスエンジンを開発してきたが、このエンジンは低中速から力強さを発揮する。低燃費性能を実現し、スポーツラインアップの拡充を図る」ためのユニットとなる。この新型エンジンを搭載した車種は、11月にイタリア・ミラノで開催される「EICMA2011」に、コンセプトの異なる3車種が出展される予定だ。
開発の狙いについては、ホンダ車の開発を担う本田技術研究所の常務執行役員 鈴木哲夫氏から説明が行われた。ホンダの最重点課題として「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現する「グローバル環境ビジョン」があり、全世界で販売する製品のCO2排出量を2020年までに30%削減することを目標に製品開発が行わている。
これらの製品もその一環として開発され、125ccグローバルスタンダード・エンジンは、次世代小型エンジンのベンチマークとして世界市場へ投入される。また、700ccエンジンは1980年代から約20年間続いた「ハイパフォーマンス重視の性能競争の時代」とは異なり、「ミドルクラスで、日常生活での扱いやすさや利便性を第一優先」するようなユーザーを対象に「常用回転域で扱いやすい、力強いトルク特性や心地よい鼓動感を味わえる」などの性能を「圧倒的な低炭素で実現する」こと目標に開発された。
ホンダのグローバル環境ビジョン | 2020年までにCO2排出量を30%削減 |
その回答が、車体レイアウト自由度の高い水冷直列2気筒700ccエンジンであり、進化した第2世代DCTになると言う。ホンダは世界で初めて量産2輪車「VFR1200F」にDCTを投入したが、MTとの割合は半分ほどになっており、ユーザーに受け入れられていると述べた。
新700ccエンジン。車体レイアウトの自由度の高さから直列2気筒を採用 | 第2世代の6速DCTを組み合わせる | 新700ccエンジン搭載車は、3車種を予定。ミラノショー、東京モーターショーで展示する |
■125ccグローバルスタンダード・エンジン
各エンジンの詳細については、開発担当者より技術説明が行われた。125ccグローバルスタンダード・エンジンを担当した本田技術研究所 二輪R&Dセンター 土屋粒二氏は、年間100万台以上の生産規模となることから「日常の使い勝手における低・中速域でのトルク向上、徹底的なフリクションロス低減による燃費向上」を図ったと言う。
本田技術研究所 二輪R&Dセンター 土屋粒二氏 | 125ccグローバルスタンダード・エンジン |
とくに低フリクション化にはさまざまな技術が投入されており、「オフセットシリンダー」「ロッカーアームのカムシャフト接続部のローラーベアリング」「ローラーベアリングのシェル型ニードルベアリング」などを採用。また、シリンダースリーブにはスリーブ外側に細かな突起処理を施したスパイニースリーブを採用し、真円性を向上させピストンリング張力を低減することによるフリクション低減。水冷ラジエーターの放熱効率を1.5倍にし、放熱用のファンを小型化することでフリクションを低減させるなどさまざまな技術が搭載されている。
燃焼室形状はトルク特性を重視したものとしており、吸気ポート形状の改善なども行われている。そのほかアイドリングストップからの再始動を行うACGスターターも、制御の知能化が図られたと言う。
これらの結果として、同クラスの従来機種比で約25%の燃費向上と、クラスNo.1の動力性能を実現したとする。
125ccグローバルスタンダード・エンジンのヘッドまわり | オフセットシリンダー | |
ラジエーター部 | Vベルト部 | |
シェル型ニードルベアリング | スパイニースリーブ | スパイニースリーブ外面には、写真のような加工がなされている |
■新型700ccエンジン+6速DCT
新型700ccエンジンと6速DCTについては、本田技術研究所 二輪R&Dセンター 山本俊朗氏から解説が行われた。山本氏は、「新型エンジンを開発するにあたって、欧州での市場調査を行った」と言い、その結果「走行中の約8割は6000rpm以下、最高速は140km/h以下での使用が約9割」になっていると語る。また、開発メンバーと各国のミドルクラスの車種を乗り比べて方向性を絞ったと言い、その結果「最高回転数6400rpm、最高速160km/h、燃費性能40%以上アップ」「鼓動感/扱いきれる性能/味わい」を開発目標にしたとのこと。
本田技術研究所 二輪R&Dセンター 山本俊朗氏 | 新型700ccエンジン | 第2世代6速DCT |
その目標の実現のために水冷直列2気筒700ccを採用。水冷直列2気筒であれば車体レイアウトの自由度も高く、多数の車種展開を行っていく予定だ。
「鼓動感」「味わい」の表現のために、270度720度間隔での爆発を行う270度クランクを採用。 直列2気筒エンジンでは180度クランク、等間隔爆発を行う360度クランクなどが存在するが、あえて90度V型2気筒と同様の不等間隔爆発のクランクとしている。また、バランサーもあえて1次カップリング振動を残す1軸1次バランサーを採用。これにより「成熟した走りのテイスト」を実現していると言う。
このエンジンは「味わい深い走りのテイストの実現」にこだわって作られており、あえて隣り合う2気筒の吸気が微妙に干渉する「シリンダーヘッド内分岐吸気ポート」を採用し、各気筒に2つ備える吸気バルブのバルブタイミングをそれぞれ異なったものにするカムシャフトを採用している。
新世代のエンジンとして燃費性能にもこだわっており、ボア×ストローク73φ×80mmのロングストローク形状、理論空燃費での燃焼を実現するための燃焼実形状やバルブタイミング、二輪車初のローラー式アルミロッカーアーム、水ポンプ・オイルポンプの最適配置によるコンパクト化が図られている。
第2世代6速DCTに関しては、ハード面の進化、ソフト面の進化がなされており、ハード面ではソレノイドバルブ配置を変更して油圧回路長を40%短縮することで応答性を向上。ソフト面では、変速モードに学習機能を追加し、市街地や峠道の走行環境判定を行うことで最適な変速制御を行うとした。
これらにより新型700ccエンジン+6速DCTは、ミドルクラス最高の燃費性能27km/Lを達成したと言い、同クラスのスポーツモデルと比較して40%以上の向上を実現したことになる。
新型700ccエンジン | 各部で低フリクション化を図った。ピストンも低フリクションタイプ | 吸気ポートは、シリンダーヘッド内で分岐するタイプ。これが「味わい深いテイスト」を実現すると言う |
ローラー式アルミロッカーアーム | エンジン後方には6速DCTが収まる。6速MT仕様も用意される | 赤が奇数ギア、青が偶数ギアのクラッチ。各ギアも分かりやすく塗り分けられていた |
270度クランクの製造工程「ツイストクランク製法」が展示されていた。ムダのない形で鍛造した直後に、片方のクランクを90度ねじり、その後整形する | 90度ねじって、270度クランクとなる |
クランク部のアップ。水平だった割り型のラインが、斜めに走っている | 各部を整形して、270度クランクが完成する |
いずれのユニットも、多機種への搭載が考慮されており、同社の2輪車の代表的なエンジンになっていくだろう。とくに125ccグローバルスタンダード・エンジンは、今後800万台規模に伸びるという125ccクラスの市場で戦って行くことになる。
(編集部:谷川 潔)
2011年 9月 26日