フォーミュラ・ニッポン最終戦もてぎでタイトル獲得を目指す中嶋一貴選手
「失うモノは何もない、常にチャレンジしてタイトルを目指す」


2011年シーズンは、フォーミュラ・ニッポンとSUPER GTに参戦している中嶋一貴選手

 日本のフォーミュラカーレースの最高峰となるフォーミュラ・ニッポンは、今週末(11月5日、6日)に栃木県茂木町にあるツインリンクもてぎで開催される第7戦が最終戦となり、シーズンファイナルを迎えることになる。

 例年熱い戦いが繰り広げられているフォーミュラ・ニッポンだが、今年も激しい戦いが続いており、最終戦を前にしてタイトル争いには、、アンドレ・ロッテラー選手、中嶋一貴選手、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手、塚越広大選手の4人のドライバーが残っている状況だ。

 そして、その4人の中で、今シーズン、デビューしたばかりのルーキーシーズンながら1勝をマークし、ランキング2位につけているのが中嶋一貴選手だ。よく知られているように、2008年~2009年にかけてウイリアムズF1チームからF1世界選手権にフル参戦した中嶋選手を、フォーミュラ・ニッポンでルーキーと呼ぶのは不思議な感じだが、初めて乗るフォーミュラ・ニッポンでしっかりと結果を出したことで、そのポジションを不動のモノとした。中嶋選手は、フォーミュラ・ニッポン開催初年度(1996年)のラルフ・シューマッハ以来となる、デビューイヤーチャンピオンを最終戦で目指すことになる。

 その中嶋選手がCar Watchの編集部を訪れ、最終戦ツインリンクもてぎに、そしてチャンピオン獲得に向けた意気込みを語ってくれた。

4人のドライバーによる激しいチャンピオン争い、今週末決着
 冒頭でも説明した通り、フォーミュラ・ニッポンのドライバー・チャンピオン争いは、実に熱いことになっている。ツインリンクもてぎのレースを前に、チャンピオンの可能性を残しているのは、以下の4人のドライバーだ。

順位ドライバー名(チーム名)ポイント
1位アンドレ・ロッテラー(ペトロナス チーム トムス)38点
2位中嶋一貴(ペトロナス チーム トムス)34点
3位ジョアオ・パオロ・オリベイラ(チーム インパル)25点
4位塚越広大(ドコモ チーム ダンディライアン)23点

 この点差を見て、アレ?と思った人も少なくないと思う。フォーミュラ・ニッポンでは優勝で10点、以下2位から8位まで8-6-5-4-3-2-1になるので、残り1戦であれば、すでにオリベイラ選手と塚越選手は脱落しているという計算になることに気がつくだろう。

 その2人が脱落していないのは、最終戦が昨年の最終戦と同じように2レース制で行われるためだ。それぞれのレースに与えられるポイントは、通常のレースの半分になるのだが、それぞれのレースの優勝者にはボーナスとして3点が与えられるため、優勝すれば8点になり、連勝すれば16点を獲得することができる。23点の塚越選手も16点を加算すると39点となり、1位のロッテラー選手を上回る可能性があるのだ。

 ただし、現実的に考えれば、塚越選手にせよ、3位のオリベイラ選手にしろ、連勝し、かつトムスの2人が両方のレースで無得点である必要があるので、かなり厳しい状況である。もちろんレースは水モノだから、そういうことが起こることは否定できないが、今シーズンのトムス2台の安定度(走ったレースは両ドライバーとも全戦3位以内)を考えれば、事実上トムスの2人の争いとなることは明らかだろう。

優れたタイヤマネジメントで、ランキング2位という好成績
 チームメイトのロッテラー選手から4ポイント差の2位につける中嶋一貴選手。2005年までは全日本F3選手権を走っていたのだが、2006年にはユーロF3、2007年にGP2、2008年と2009年はF1と、2006年以降はヨーロッパでキャリアを重ねてきた関係でフォーミュラ・ニッポンに参戦するのは今シーズンが初めてなのだ。

 F1からフォーミュラ・ニッポンに戻ってきたドライバーと言えば、現在はSUPER GT セルモチームの監督を務める高木虎之介氏が思い浮かぶ。高木氏は、F1から戻ってきた2000年に10戦中8勝を挙げて、圧倒的な強さを示した。実際、中嶋選手自身も「確かに虎之介さんと比較されるだろうなとは思っていた。でも虎之介さんとは置かれている状況も立場も違うのであまり気にしていなかった」と述べており、同じ“F1帰り”という立場だけに、結果を求められることは覚悟していたようだ。

 今シーズンの中嶋選手の“1勝でランキング2位”という結果は、確かに高木氏の2000年時の圧勝には匹敵しないかもしれないが、内容を見れば、予想を上回ると言ってよいのではないだろうか。というのも、高木氏の2000年のシーズンは、ナカジマレーシングのクルマが、他チームに比べてセッティングが決まっており、チームメイトもその年にフォーミュラ・ニッポンにデビューしたばかりの松田次生選手(デビューイヤーながら1勝)と、置かれている条件は中嶋選手よりも好条件だったからだ。

 それに対して今年の中嶋選手は、チームメイトとしてベテランのロッテラー選手を相手に戦うという厳しい状況で、クルマも本人の言葉を借りれば「チーム インパルに比べればまだまだ負けている部分がある、作戦とかでなんとか勝っている」(中嶋選手)という状況であり、そうした中で1勝し、現在ランキング2位という結果を残しているのだから、高い評価が与えられてしかるべきだと筆者は考えている。

 特に今年の中嶋選手の戦いで光っているのは、予選で失敗し、下位に沈んだレースでも、タイヤ交換を早めに行うなどして高度なタイヤマネジメントを実施。ハイペースのラップを刻むなど作戦面で他車を圧倒していることだ。全戦で3位以内に入るという結果を残していることは、彼のドライバーとしての幅の広さを示していると言えるだろう。

チャレンジャーとして追いかける側の有利さを活かす
 そうした中嶋選手だが、最終戦に向けては「チャレンジャーとしてやっていきたい、失うモノは何もないので」と、挑戦者として、まずは勝利を狙っていきたいと語ってくれた。

 最終戦での戦い方だが、「まずは1回目の予選できっちり結果を出していくことが大事」と説明してくれた。というのも、最終戦のスターティンググリッドはやや変則的なルールで決まるからだ。通常のフォーミュラ・ニッポンのレースでは、予選はF1と同じようにQ1、Q2、Q3の順で行われ、上位の車両(Q1は12位まで、Q2は8位まで)だけが次のセッションに進めるルールになっている。

 最終戦は、前述のとおりレースは2回行われ、レース1のグリッドはQ1の結果順で決まり、レース2の結果はQ2、Q3の結果が反映される。つまり、Q1で13位以下になってしまった場合、レース1でもレース2でも13位以下のグリッドが確定し、かなり不利になってしまう。また通常ならQ1は12位以内になればよいので、上位の車両は12位以内であれば順位を気にしない。

 しかし、今回はレース1のグリッドがQ1の結果になるので、Q1でも真剣にトップタイムを狙っていかなければならない。よりハイレベルな予選が期待できると言ってよいだろう。中嶋選手も「今回はQ1がストレスフルになる。Q1でコースアウトでもしようものならレースが終わってしまう。とにかく予選でよい結果を残すことが大事だ」と述べ、Q1が週末のレースの鍵になると指摘した。

 中嶋選手は、「今回はこうした変則的なルールになっているため追いかける側としては大きなチャンスがあると考えている。逆に追いかけられる側にはプレッシャーとなるはずで、そこにチャレンジャーとして望むことで、結果につなげていきたい」と述べ、チームメイトのロッテラー選手を追いかける側の立場としてチャレンジすることで、レース1でもレース2でも結果を残していきたいと語ってくれた。

 なお、気が早いが来年の事について聞いてみると、今のところどのカテゴリーで走ることになるかなどまだ何も決まっておらず、まずはこのフォーミュラ・ニッポン最終戦とその翌週に控えているJAF GP 富士スプリントカップでよい結果を残していきたいとのこと。トヨタがル・マン24時間レースにハイブリッドカーで挑戦することがすでに発表されているが、「そのドライバーとしての可能性はどうなんでしょう?」という質問をしてみると「まだ何も聞いていないが、もちろんドライバーとして興味はある。大事なことはチャンスが巡ってきたときは実力が発揮できるように、それまでしっかりやっていきたい」(中嶋選手)と語り、トヨタからのオファーがあれば、挑戦してみたいという姿勢を明らかにした。

 なお、トヨタのル・マン24時間レースへの挑戦は、中嶋選手が昨年まで所属していた、TMG(欧州におけるトヨタのモータースポーツ拠点)がオペレーションすることになっている。日本も欧州もどちらもよく知っている中嶋選手であれば充分に活躍できると思われるだけに、その実現を期待したいところだ。

土曜日の予選は1人500円で観戦可能
 今回のフォーミュラ・ニッポン最終戦だが、入場料は通常の5000円から引き下げられた3900円という割引料金となっている。さらに、土曜日の予選日は、ツインリンクもてぎのWebサイトからクーポンを印刷して持って行くと、ツインリンクもてぎの入場・駐車料金が無料になる(予選観戦には別料金500円が必要になる)。

 今回のレースでは予選も大きな鍵となるため、真剣勝負がQ1~Q3にわたって繰り広げられる予選だけ見に行ってツインリンクもてぎで遊び、決勝はCS放送で見るという楽しみ方も充分ありだろう。

 このほかにも特定チームを応援する「チームサポーターズシート」「ファミリー向けチケット」「宿泊プラン付き観戦券」などが用意されている。詳しくはツインリンクもてぎのWebサイトを参照していただきたい。

(笠原一輝)
2011年 11月 1日