グッドイヤー、ツーリング・エコタイヤ「イーグル LS EXE」試乗記
“エコ”性能だけではない、新時代のスポーティタイヤ


 今年の春向けのタイヤ商戦が始まっているが、日本グッドイヤーも新タイヤを投入した。「イーグル LS EXE(エルエス エグゼ)」だ。グッドイヤーには、コンフォートタイヤとして「イーグル LS2000HybridII(エルエスニセン ハイブリッドツー)」がこれまであったが、LS EXEはその後継製品。低燃費タイヤのラベリング制度に対応した「GT-Eco Stage(ジーティーエコステージ)」の上の価格帯に位置するものになると思われる。

 このLS EXEは、東京オートサロン2012でスポーティな走りのイメージを前面に出した展示で異彩を放っていた。低燃費性能は当然のものとして、さらにスポーティな性格のタイヤ開発を狙っており、ツーリングエコタイヤというコンセプトに、もう“エコ”だけではないと言う開発側の意思が込められている。

イーグル LS EXEと、そのトレッドパターン。両サイドの高剛性ブロックなどエコタイヤらしくないパターンがスポーティな性格を物語る。非対称パターンを採用し、右がアウト側

 ちなみに低燃費タイヤのラベリング制度に対応したグレードは、165/60 R14 75H~235/30 R20 88W XLの全63サイズ中62サイズで、転がり抵抗性能「A」、ウエット性能「b」を獲得しており(165/60 R14 75Hのみウエット性能が「c」)、なかなか気合いが入っている。

 扁平率は30%から65%まで、15インチから20インチまでをラインアップし、標準サイズからインチアップサイズまで対応する。インチアップはさまざまなメーカー、タイヤで行われていたが、久しくドレスアップユーザー向けのインチアップサイズの声を聞いていなかったので新鮮な思いがする。

 タイヤパターンは左右非対称で、アウト側がラージブロックとして(ランド比74%)操舵した時のグリップ力を確保し、イン側は溝数を増やし(ランド比69%)、排水性を向上させる手法を取っている。この考え方はよくあるもので、多くの非対称パターンの場合はこのような手法を取り、スポーツタイヤや荷重が大きく偏摩耗が起きやすいRVなどに使われるケースが多い。

 基本的にはセンターリブを中心に3本の太いストレートグルーブと1本のサブグルーブを配して排水性を確保。それぞれのブロックはパターンノイズ低減のため、ピッチバリエーションを使うのは当然として、横溝を細くすることでもノイズ低減を図っている。

 タイヤ内部の構造はスポーティタイヤらしく高剛性構造で、エッジの部分を補強し、サイド剛性もターンバックルを大きく立ち上げて、剛性を上げている。さらに、トレッド面にオーバーレイヤーを配して、高速でトレッド面が浮き上がらないように補強されている。

 またタイヤ内部には、発熱を抑えて、転がり抵抗を向上させるEXE専用の低発熱NVRラバーと呼ばれるゴムを使用する。NはNoise(雑音・騒音)、VはVibration(振動)、RはReduction(削減・低下)の略となっている。ゴムは燃費低減やウエット性能に大きく貢献するだけにLS EXEのポイントとなる技術だ。

 イーグル LS2000HybridIIと比べ、転がり抵抗を7%低減、ウエット制動は8%向上したと言う。

イン側69%、アウト側74%のランド比タイヤ構造も高剛性を狙ったもの。タイヤ内部には低発熱NVRラバーを持ち、回転時のタイヤの変形を抑えるとともに、乗り心地・静粛性の改善を狙っている全サイズで転がり抵抗性能「A」を達成する低燃費タイヤ。63サイズ中62サイズでウエットグリップ性能「b」を持つなど、高いグリップ性能を重視している

試乗は特設会場と、都内の一般公道&首都高
 テストドライブは都内の一般公道を中心に行い、一部ウエット円旋回と低ミュー路ブレーキでは専用コースが用意された。まずウエット路面をLS2000HybridIIと比較する。こちらの車両はホンダ フィットシャトルでタイヤサイズは185/60 R15。

 ウエットの円旋回では、15Rぐらいコースで徐々に速度を上げていくと限界を超えたあたりの速度がEXEのほうが2㎞/hほど高いのが確認できた。たかが2㎞/hと思ってはいけない。グリップ限界が高いのでそれだけ運転に余裕ができ、ウエットではその僅かな違いが事故につながる可能性もある。円旋回時のハンドルの保舵感に違いあり、もちろんEXEのほうがしっかりしている。

フィットシャトルで、LS EXEとLS2000HybridIIを比較したスラロームと低μ路からなるAコースウエット旋回などを含むBコース
LS2000HybridII
LS EXE。スポーツ性能をうたうだけあり、上のLS2000HybridIIと比べるとサイド部のブロックを大型化。ストレートグルーブも1本増やし、剛性、排水性、操縦安定性の向上を狙っているのが分かる

 この後ドライ路面でのスパンの短いパイロンスラロームを行ったが、速度を一定にして走行すると、ハンドル応答性とハンドルを切り返した時の収束性が明らかにEXEが優れており、快適にスラロームを通過することができた。また低い突起のある凹凸路走行では、ゴムでの細かい振動の収束が向上しているようだ。

 この後、195/65 R15を履くプリウスでの低ミュー路ブレーキを行ったが、EXEはABSの効きが僅かに遅かったように思う。いずれにしてもウエットでの違いとスラロームでの操舵性が確認できた特設コースのテストだった。

低μ路でのブレーキチェックスラロームで運動性能を確認

 一般公道ではメルセデスのEクラスと、トヨタ マークXでの試乗を行った。首都高速を含めた市街地テストである。Eクラスは標準サイズの245/45 R17を履いていて、市街地の荒れた舗装路面では多少、タイヤゲージの為かゴツゴツした感じはあるものの、Eクラスのサスペンションとボディーはその振動をよく受け止めている。

 ハンドルの操舵力はやや重くなっているが、それ以外は自然なフィーリングだ。首都高速では流れに乗って走るが、直進性は安定感があり、メルセデス特有のドッシリとした走りは変わらない。レーンチェンジでの応答性とそれに伴う収束性もややハンドルが自然に直進に戻るセルフ・アライニング・トルク(SAT)が小さいように感じたが違和感はない。

 ロードノイズに関しては、パターンノイズ、とく高周波音はよく抑えられており、Eクラスの遮音性の高さと相まって静粛性はよい。245/45 R17サイズではピュアなスポーツタイヤのようながっちりしたグリップ感はないが、適度にスポーティでグリップ感のあるタイヤで、タイヤによるクルマの個性を妨げるような性格ではなかった。相性はわるくない。

 一方、215/60 R16のマークXでは市街地を中心に走行した。このサイズではEXEのスポーティなコンセプトを実感できた。乗心地は大きめな段差でゴツゴツした小さな突き上げ感を感じるが、スポーツタイヤのレベルで、低速から中速までその感触は変わらない。

 コンフォートタイヤとして捉えると、ややごつごつした感触となるが妥当なところだと思う。またクルマ自体の遮音性の違いかあることから、ロードノイズもマークXでは大きめで、特にリアから入ってくるノイズが目立つ。これもスポーティタイヤとして考えるとこんなところか。

 ハンドリングは操舵応答性がよく、とっさにステアリングを切った場合やレーンチェンジなどでは安定性が高く、ドライバーに安心感をもたらす。さらにリアの追従性もよくて、すっきりとしたハンドリングだ。Eクラスで感じたSATの弱さはマークXサイズでも感じるが、違和感というほどのものではない。プロファイルの構成で、標準装着のタイヤに比べ、接地幅が広くなっているように感じたが、それがグリップ感の向上などにつながっているようだ。

 イーグル LS EXEは、転がり抵抗性能「A」を実現した低燃費タイヤにもかかわらず、インチアップも視野に入れたリプレースタイヤで、スポーティな性格を前面に押し出しているところがちょっとうれしい。

 グッドイヤーに限らず、“エコ”だけではないタイヤがこれからも登場することが予想されて楽しみだ。

(日下部保雄)
2012年 2月 3日