日産、VQエンジンのふるさと福島県いわき工場の震災対策
復旧費用以外に30億円を投資し、マザー工場としての品質・競争力を向上

いわき工場の従業員と掛け合いコールを行うカルロス・ゴーンCEO

2012年3月26日



 日産は3月26日、主にVQエンジンを生産する「いわき工場」(福島県いわき市)の震災対策などについて報道陣向けに公開した。また、同社カルロス・ゴーンCEOがいわき工場を訪問、工場幹部から震災対策や工場の現状について報告を受けるとともに、復興・復旧に尽力した従業員に対しお礼を述べ、今後のいわき工場の果たすべき役割について語った。

いわき工場で生産されるVQ型エンジン

 いわき工場は、1994年1月に稼働を開始したエンジン生産工場で、生産能力は56万基/年。フーガやエルグランド、フェアレディZに搭載される日産の主力V型エンジンであるVQ型エンジンを生産しており、現在はその半分以上のエンジンがインフィニティブランドの車種に搭載されている。

 3月11日の東日本大震災発生により、いわき地区は震度6強の揺れが発生。建屋に被害はなかったものの、床面には最大9cm段差や地割れによるひび割れができた。いわき工場のスタッフによると、この地盤の問題のほか、天井から落下物、そして鋳造工程のアルミが固まってしまったことが問題になったと言う。

 工場内にいた306名は無事に避難したものの、休暇を取っていた1名が亡くなり、家族が被災するなどの被害はあり、余震が続くため当日の操業は停止に追い込まれた。鋳造工程のアルミは電気炉で溶融しており、操業を停止したことでプレッシャーダイキャストマシンに流れていたアルミが固着。再稼働への障がいとなった。

 震災発生の翌日には、管理職が集まり被災状況を確認。13日21時には、静岡のジヤトコや横浜のエンジン工場のスタッフが支援に駆けつけ、14日には設備を直す保全のメンバーなど、250人ほどの支援体制となった。

いわき工場の被災状況復旧活動の初動

 しかしながら、福島第一原発の爆発で3月15日にはいわき市でも放射線量が上昇し、いわき市役所から不要不急の外出は控えるようアナウンスがあり、工場では復旧作業ができない状況に追い込まれた。

 そのため、社宅の集会場などで復旧プランを相談。復旧作業ができなくなったため、支援メンバーにも一旦帰ってもらった。その状況が変わったのが3月21日で、志賀俊之COOがいわき市に訪れ、いわき市長と、当時福島県から出た放射能被害に関するガイドラインに沿う形で、日産自動車としての復旧工事再開を決定。これは、いわき工場の復旧は日産についても必要だが、地元の復旧にもつながるとの判断とのこと。

 そこからは、地元業者が約250名、日産の他工場などの支援メンバーが約250名、工場スタッフが約300名の体制で、工場の復旧作業を実施。4月18日に一部稼働再開の目処をつけたものの、4月11日、12日と再び地震が襲い、今度は工場内に最大15cmの段差ができてしまった。

 いわき工場ではとくに精密な仕上げが要求されるエンジンを生産しており、床面の段差は製品の誤差に直結する。そのため、再びレベル合わせが必要となったものの、なんとか4月18日に一部稼働再開。5月17日には全面再開にこぎつけた。

復旧手順復旧と同時に苦労した点4月11日の被害状況

 とくに復旧のポイントとして挙げられていたのが、他工場から支援があったことと、カルロス・ゴーンCEOや志賀COOなどトップマネジメントの決断があったことだと言う。これにより、いわき工場の復旧作業だけでなく、食料やガソリン、水などを本社から送ってもらい、地元に支援することができたとのこと。

 そのほかの支援としては、ガソリンが枯渇していたため、いわき市へ電気自動車「リーフ」を4台提供したことや、神奈川県・厚木市の日産テクニカルセンタースタッフのボランティア活動などもあったと言う。

カルロス・ゴーンCEOがいわき工場を視察
 いわき工場は2011年5月17日に全面復旧。VQエンジンの生産を再開し、月産3万台ペースでの製造を行っている。それと同時に、工場の各部を本格的に直していくための震災対策を実施。段差のできたエリアから、クランクシャフトの精密加工ラインを移設し、杭を打つなどして床面を補強・補修。エンジンの作りだめをすることで、生産に影響が出ないよう、震災対策のための工場のレイアウト変更を行っている。

クランクシャフトの精密加工ラインがあった個所。現在は別の場所に移設し、床面を直すための準備に入っている床面にできている段差
左と右で大きな段差が発生している先ほどの個所を別の角度から。床面の下に、大きな空間ができている
205本の杭を打つことで、工場の床面を直していく

 カルロス・ゴーンCEOは、いわき工場スタッフから、それら震災対策の説明を聞いた後、報道陣からの質問に答えた。

 ゴーンCEOは、いわき工場は震災からの復旧で、すでに30万機のエンジンを生産。これは、震災の影響を考えるとめざましい成果であると言い、高い品質をさらに高くする取り組みを行いながら、コストを削減する取り組みも行っており、「日産の社員1人1人が誇りに思える働きをしてくれた」と語る。

いわき工場に到着したカルロス・ゴーンCEO(中央)工場スタッフから、被災状況や震災対策についての説明を受けるゴーンCEO
ゴーンCEOが見ていたパネル。被災後再建中再建後
被災後再建後

 また、いわき工場に対しては復旧費用とは別に30億円を投資。これは主に震災対策に使われており、「今後もいわき工場でエンジンの生産を続け、単に工場を維持するだけでなく、近代化も図っていく」など、いわき工場がVQエンジンのマザー工場として大切なものであるとの認識を示した。

 昨年の5月17日以来となる従業員との全体ミーティングでは、ゴーンCEOと従業員一同で休暇中に震災でなくなった1名の従業員、および従業員の家族らに対する1分間の黙祷を捧げ、ゴーンCEOは復興・復旧に尽力した従業員に対しお礼を述べるとともに、従業員を支えてくれた家族に対して感謝の言葉を述べた。いわき工場については、「いわき工場は世界中の日産の工場の模範となった。いわき工場はこれまでも今後も日産の家族の一員です」「日産は国内で100万台以上生産することを約束し、いわき工場を強化していくことを約束した。雇用を確保し、工場を強化することで地域社会に貢献できたと思う」と語り、従業員からの質問に答える形で、いわき工場が日産にとって大切な工場であり、日産が今後世界展開して行く上でのマザー工場であることを約束した。

 最後に、従業員とともに“がんばっぺ いわき”と掛け合いコールを実施。いわき工場では2012年度も30万基以上のエンジン生産を予定しており、インフィニティ用のエンジンを生産する工場として、品質向上とともに、コスト競争力の改善に取り組んでいく。

従業員との全体ミーティングに登場したゴーンCEO「いわき工場は世界中の日産の工場の模範となった」と言う
ミーティング後、復興過程を収めたDVDが工場長からゴーンCEOに手渡された
全面復旧となった、2011年5月17日に生産されたクランクシャフトにゴーンCEOがサイン最後に、従業員と一緒にがんばっぺ いわき”と掛け合いコールを行った

(編集部:谷川 潔)
2012年 3月 27日