【F1日本グランプリ開幕!】小林可夢偉選手、フェラーリ・浜島氏、ロータス・小松氏がトークショー FOTAファンミーティングリポート |
FOTA(Formula One Teams’Association)は、F1チームが集まって結成された団体で、F1チームの権利拡大やファンサービスなどを行っている。FOTAはF1人気を掘り起こすために、世界中でFOTAファンミーティングと呼ばれる、ドライバーやチーム代表、エンジニアなどが直接ファンと語り合うというイベントを開催しており、多くのファンから好評を得ている。
そのFOTAファンミーティングがついに日本でも開催される運びになり、F1日本グランプリが行われる三重県鈴鹿市にある鈴鹿市文化会館において、開幕前日となる10月4日に開催された。F1の関係者と言えば、ドライバーをはじめ、エンジニア、チーム代表など、英語が基本言語となっている。しかしながら、必ずしも英語がメジャーな言語とは言えない日本という事情に配慮してか、今回登場したのはF1で戦う日本人関係者だった。
ザウバーF1チームに所属する小林可夢偉選手、そして今年よりスクーデリア・フェラーリにエンジニアとして加入した浜島裕英氏、およびロータスF1チームの10号車(ロマン・グロージャン車)担当チーフエンジニアの小松礼雄氏が登場し、トークショーを行った。
このFOTAファンミーティングそのものがファンとの交流に重きが置かれているイベントになっているため、単なるトークショーというよりはファンからの質問に対してドライバーや関係者が応えるという形式で進行。その中で小林可夢偉選手は、鈴鹿に向けて大きな自信を見せ、エンジニアの2人には答えにくい質問が飛び出すなど和気あいあいとした雰囲気の中で行われた。
■地元自治体の末松鈴鹿市長が、F1開催を熱く応援
今回のFOTAファンミーティングは、メルセデス・ベンツ日本、グランツーリスモ、エアアジア・ジャパン、オニザキコーポレーション、F1速報、モータースポーツチャンネルの後援を受けて開催された。
司会進行は、モータースポーツ・アナウンサーとして知られるピエール北川氏で、放送でもおなじみの軽快な進行で行われた。始めに登場したのは、F1日本GPのホスト役である鈴鹿市を代表して鈴鹿市長の末松則子氏で、「鈴鹿市20万人の市民を代表して挨拶したい。鈴鹿市は、周辺の自治体や各種団体などとF1開催がスムーズに行われるように委員会を作って準備を続けてきた。今年は鈴鹿サーキットも50周年だが、鈴鹿市も市制70周年にあたり、2つあわせて120%でお客様をおもてなしできるようにしたいと努力してきた。2013年も日本GPを鈴鹿サーキットで開催することはすでに決まっているが、2014年以降も継続して開催できるように、地域地元の皆様にも、お客様にも盛り上げていただきたいと思っている」と述べ、近隣自治体、県や国など様々な機関と協力して日本GPを盛り上げていく。
その後、小林可夢偉選手が登場し、末松市長とのトークへと移っていった。実は小林選手は何度か末松市長とは会っているそうで、小林選手の地元自治体である尼崎市に一緒にプロモーションに行くこともあるのだと言う。末松市長が「小林選手が活躍すればさらに日本GPは盛り上がると思うのでぜひがんばってほしい」と激励すると、小林選手は「頑張ります」と応じ、会場は大いに盛り上がっていた。
モータースポーツ・アナウンサー ピエール北川氏 | 鈴鹿市 末松則子市長 | 途中から小林可夢偉選手も加わり3人でトークショーが行われた |
小林可夢偉選手 | 小林可夢偉選手と末松市長が握手し、日本GPでの健闘を誓った |
■ミハエル・シューマッハ選手の引退発表は可夢偉発言のせい?
次いでピエール北川氏と、小林可夢偉選手のトーク形式で話が進められ、途中でファンからの質問を受け付けた。
「日本GPを前にした今の心境は?」と北川氏が質問すると、「普段と変わりない。金曜日には新しいパーツが入るので、まずそのテストをしっかりやる必要がある。そして土曜日からはしっかり戦っていきたい。特に今年は、西コースの舗装が新しくなっているので、全チームまずそのデータ取りから始めることになるので、若干いつものFP1とは違う感じのスタートになるだろう」(小林選手)と述べ、ホームレースとなる日本GPだが、いつものGPウィークエンドと同じように淡々と仕事を進めていくと応えていた。
北川氏に「今回は自信あるみたいじゃないですか?」と向けられると「今回の鈴鹿はスパの時と同じように自信があり、逆に駄目な理由がない。予選でできるだけ前の方にいきたい」(小林選手)と応え、鈴鹿に向けては大きな自信があると語ってくれた。北川氏が「いまさら2番は見たくないなぁ」と水を向けると小林選手は「そうですね~十分チャンスはあると思いますけど、金曜日の結果までもう少しまってください。でも調子はいいので応援よろしくお願いします」と述べ、ポール獲得宣言ともとれる発言をすると、詰めかけたファンからは大きな拍手の嵐で、小林選手の活躍にファンから大きな期待が集まっている様子が見て取れた。
次いで質問タイムに移ると、ファンからは「普段グッズを買うとかで応援しているんだけど、もっと何か別のことでできることはないか」という質問も飛びだし「いや本当お気持ちだけで十分嬉しい。とはいえ、2010年に自分でもなんとか日本の企業からサポートを受けられないかと動いていたが、現在の経済状況からすると非常に難しい。ただ、結果を出せば人気も出てそういう企業の方も現れると思っているので、地道に頑張っていきたいので、ぜひ応援してほしい」と答えた。
また、別のファンからはタイヤに関して、攻めているときとセーブしている時の使い方の違いについての質問があり「プッシュしているときには、タイヤが新しい時にはスライドするのではなく、前に進む。それに対してタイヤが駄目なときには横へのスライドになってしまって、タイムにつながらなくなる。ピレリのタイヤは本当に使い方が難しく、コース特性によってもフロントがつらいのか、リアがつらいのか異なっている。100%使ってしまうとだめなので、例えば95%で走るなら、残りの5%をコースのどこに配分していくのかを考えながら走っている」と述べ、ピレリタイヤを使いこなすことの難しさなどを説明していた。
この後、フェラーリの浜島氏、ロータスの小松氏が会場に到着し、3人での質問を受ける時間となったが、小林選手はチームとのミーティングがあるとのことで、ファンから1問だけ3人で質問を受けることになった。その質問とは、当日の17時に「ミハエル・シューマッハが2度目の引退を発表したが、シューマッハとの思い出は?」という微妙に答えにくそうなもので、小林選手は「何がすごいって、ドライバーズミーティングで細かいんです」と答えると、会場は大きな笑いに包まれた。
小林選手によれば「シューマッハ選手に限らずドイツ人選手は割と細かいことをトコトン詰めていく。チャーリー(筆者注:チャーリー・ホワイティング氏、FIAのF1レース部長)が時々困っているぐらい。でも彼らにしたらそこを突き詰めておかないと、後でペナルティ出されたら自分が損をするから聞いているのですけど。でも、よくしゃべりますよ」とのことで、シューマッハ選手の意外な(らしい?)一面を語ってくれた。また「FIAの記者会見で、シューマッハがザウバーに来てチームメイトになる噂がという質問が出て、そんなのナイナイって言ったんですけど、まさかそれ聞いて引退決めたわけじゃないですよね?」とジョークも飛び出し再び会場は大きな笑いに包まれた。
フェラーリの浜島氏は「2回目出てきた時には大丈夫かなと思っていたのですが、復帰後1度も勝たないで引退というのはちょっと寂しい……あ、でもまだ最終戦までありますからね……いえいえ、シーズンの終わりの方に勝たれるととっても困るので(笑)」とファンの笑いを誘ったほか、小松氏は「1度目の引退レースであるブラジルで後方から追い上げていた時、鬼気迫る走りで前を走る車が道を空けていたのが印象的だった」と語った。
スクーデリア・フェラーリ 浜島裕英氏 | ロータスF1チームの小松礼雄氏 | 3人で会場の質問に答えていった |
■イタリア人の作るスーパーソフトタイヤは“発想が豊か”と浜島氏
ここで小林可夢偉選手は退席。司会の北川氏、フェラーリの浜島氏、ロータスの小松氏の三人で進められることになった。
2人にはそれぞれのチームにおける役割が聞かれ、浜島氏は「仕事は2つ。1つはタイヤを製造していた側の人間としてチームのエンジニアにタイヤの情報をアドバイスする。もう1つは現場でピレリのエンジニアと情報がお互いに一致しているかを確認する」と述べた。北川氏に「今年のピレリタイヤは使い方が難しいみたいですね」と振られると「なかなか思った通りにならない。分かったと思っているとひどい目にあったりする。こういうタイヤはどうやって作るんでしょうね、と思います(笑)」と、絶妙なトークで会場を沸かせた。
これに対して小松氏は「自分はレースエンジニアという役職をしている。10号車のすべてを見て、10号車担当のエンジニアを統括している。2003年~2005年はBARホンダで、2006年から当時のルノーF1チームに移って、昨年よりレースエンジニアを務めている。非常にやりがいがある仕事で、すぐ結果が出るし浮き沈みも激しい厳しい世界ではあるけど、結果がよいとやはり嬉しい」と述べた。
次いで会場からは浜島氏に対して「フェラーリの車がダメなところはどこですか?」と質問が出ると「隣の小松さんがいるので答えにくい」と答えた上で「みんな知っていることだからはっきり言うと、うちの車は低速コーナーが遅い。そこをよくしてほしいとドライバーも言っている」と述べた。また、イタリアでの生活について聞かれると「ブリヂストンにいたときには、仕事終わりには毎日呑みに言って、血糖値もろもろいろいろな数値が上がってしまっていたが、イタリアに行ってからは自炊するなど健康的な暮らしをしていて体重が8kgも減るなどいろいろなものが順調に下がっている(笑)。また、会社員やってると、いろいろやらなければならないことがあるんです。つまらない計画立てたり、人事評価したりとか(笑)」とやはり会場を笑わせた。
また、塾の講師だという男性からは「小松さんは日本ではあまり勉強しなかったそうですが、イギリスに行ってからすごく勉強されたそうですが、日本の教育についてはどう思いますか?」という質問がぶつけられ「単純に日本の詰め込み教育があまり楽しくなくて、合わなかったということだと思う。私は目標が明確だと邁進できる性格なので、イギリスにいってしゃべらないといけない環境に身を置けば英語も勉強が進んだ」と述べた。
女性ファンから「BS/CS放送の解説者である川井一仁氏がピレリタイヤの皮むきが必要ないと言ってましたが、どうなんですか?」という質問がぶつけられると、浜島氏が「一般論としては、ピレリに限らず、タイヤは釜から出てくるときにはシリコンの膜がついているので、それは落としてやる必要がある。例えば鈴鹿のような路面が荒いコースであれば、すぐに表面が削られるので問題ないが、ではモンテカルロのようなコースでそれができるかと言えばそうではない」と述べると、小松氏は「浜島さんを前にタイヤについて語るのは難しいが、ピレリはとにかく温度管理が難しい。作動温度領域に入れてあげれば性能が出るのだが、そこに持って行くのが難しい。特にスーパーソフトは難しい」と述べた。
それを受け浜島氏が「今年はドライだけで4種類のタイヤがあるが、それぞれ性格が違う。1つのコンパウンドで分かったつもりでそれを別の種類のタイヤに展開するとひどい目に会う。確かにスーパーソフトは難しいですね、イタリア人のスーパーソフトの発想は豊かなのかもしれませんね(笑)」と冗談とも、半分本気の批判とも取られかねない際どい言い方をし、会場は大いに盛り上がっていた。
■アロンソ、シューマッハ、ライコネンクラスのドライバーと組む難しさ
話題は今週末の日本GPでのそれぞれのチームのハイライトはどのあたりになるかという点に移り、小松氏が「ロータスの車は高速コーナーが速いので、S字とかがあるセクター1が見せ場になると思う。タイヤが上手く使えれば速いと思う」と述べると、浜島氏は「先ほども述べたとおりで、弱点の低速コーナー、例えばシケインとかが上手くいけば優勝できると思う」と答えた。さらに、鈴鹿サーキットの西コースの舗装が新しくなった影響について聞かれると「凸凹がなくなっている。このため、路面の凹凸に対してあまり強くない車、例えばザウバーなんかはいいんじゃないですか」と浜島氏は説明した。
次いでドライバーのタイヤに関する感触のフィードバックに関する質問では「ドライバーはすごい能力を持っているので、ここより先は行ってはいけないと分かって運転している。しかし、そこからさらに削っていかないといけないので、そこに踏み込むにはここを直さないとダメだということをフィードバックしてくれると」と小松氏が述べると、「ドライバーからのフィードバックは本当に重要。誰とは言いませんが某CS放送の某解説者の人が“なんでここで入れるのかな~”とかよく言ってますけど、鵜呑みにしちゃだめです(笑)。ドライバーやチームは状況を総合的に判断して決めている」と浜島氏が仲がよいと思われる川井氏の解説をチクッと皮肉ると、またも会場からは大きな笑いが起きた。
2人に「絡みにくいドライバーはいますか?例えばキミ・ライコネン選手はモゴモゴいって何言っているかよくわからないとかあるんですか?」という質問が出されたが、小松氏は「キミは確かに多くは語らないけど、必要なことは的確に言ってくれる。フィードバックは非常に冷静である」と述べ、浜島氏は「キミはモゴモゴ言ってるように聞こえるかもしれないが、勝つために実にいいことを指摘してくれる。彼のようなレベルのドライバーになると、どうしたら車がよくなるとか、それしか考えていない」と述べ、ライコネン選手のフィードバックは、関係者の間ではかなり評価が高いことなどを明らかにした。
さらに小松氏は「逆にそういうことができていなかったのが、ニック・ハイドフェルド。そんなに重要ではないことを細かく言ってくるけど、それを変えても結果が出なかった。キミはそういうことは言わず、言ったことをやれば必ず結果につなげてくる、フェルナンドもそうだった」と述べ、チャンピオンクラスのドライバーとそうでないドライバーの違いを具体例で説明してくれた。
最後にファンから「今シーズン元気のよすぎるグロージャン選手と、ちょっと元気のないマッサ選手、それぞれどうなのか教えてください」と、2人にとって最も答えにくい質問がされた。小松氏は「本当に元気すぎて、日本人のファンの人は怒ってますよね……すみません」と謝ると、会場からは大きな笑いが起きた。小松氏はロマン・グロージャン選手については「2009年にルノーからF1にデビューしたときと、今のロマンは別人だと言ってもいいほど。2009年は本当にすごいドライバーであるフェルナンドのチームメイトという難しい立場で、つぶされかけた。フェルナンドクラスのドライバーだと、車がちょっとぐらいダメでも結果を出しちゃうんです。その状況で車をこうしてほしいと言っても聞いてもらえない。マッサの今の状況はまさにそれと同じだと思うんです、それだけにハミルトンはすごいと思う。そのどん底の状況から下位のカテゴリーで活躍し、GP2のチャンピオンを獲って這い上がってきたことは、すごいことだと考えている。残りのレースは全戦完走してもらって、来年は人にぶつからないで走って欲しい」と述べた。
それを受けて浜島氏も「小松さんがほとんど言ってくれましたので、もう言うことはないです、そこで広報の人も聞いてますし(笑)。フェルナンド、マイケル、キミクラスのドライバーだと、ドライビングの引き出しが沢山あって、多少車に難があってもリカバリーできてしまう。もう誰とは言いませんが、彼だって車が決まれば速いと思うんです。実際マイケルと組んでいた時には速かった時がありましたよね、それが実態だと思います」と述べた。
なお、トークショー終了後には、スポンサーから提供されたF1関連グッズの抽選会が行われ、詰めかけたファンに小林可夢偉選手やミハエル・シューマッハ選手のサイン入り写真や雑誌などがプレゼントされた。
(笠原一輝)
2012年 10月 5日