【インプレッション・リポート】
BMW「X3」

Text by 河村康彦


 「発売以来61万台以上をデリバリーした世界的ベストセラー」。2004年にリリースされた初代モデルを自らそう紹介するのが、「Sports Activity Vehicle」(SAV)なる新カテゴリーを謳う、BMW「X3」だ。

 今回、初のフルモデルチェンジを受けたこのモデルにまつわる1つのニュースは、これまではオーストリアだった生産国が、アメリカへ移動したこと。かつてのX3はその生産キャパシティの問題もあり、オーストリアにあるマグナ・シュタイアーの工場に“アウトソーシング”されてきた。

 が、この手のモデルの最大の需要地はやはりアメリカ。それを受けて、BMWではこれまでX5やX6を生産してきた同国サウスカロライナ州にあるスパータンバーグ工場に、約7億5000ドルを投じて大拡張。その生産能力をこれまでの年間20万台から24万台へと2割も引き上げたうえで、改めて新型X3の生産を開始したのだ。

 ちなみにこの工場は、そこで用いるエネルギーの50%を、16km離れたゴミ投棄場で発生する廃棄物を生分解することによるメタンガスで賄うことでも注目されているという。

左から3シリーズ(E30)、初代X3、新型X3

洗練されたルックス、拡大したサイズ
 そんな“アメリカ製”となった新しいX3は、一見して従来型よりも遥かにモダーンで洗練されて見える。

 率直なところこれまでのX3は、今や「1」から「6」にまで広がったBMWのXシリーズの中にあっても、どこか無骨な印象が抜けなかった。もちろんそれがこのモデルの個性であり、逞しさにもつながるという意見にも一理はあったと思うが、しかしそれはあくまでもいわゆる“SUV”としての価値観に基づいた印象。それゆえBMWが提唱する前出の“SAV”のイメージにはそぐわない感も抜けないものだった。

 ところが、新しいX3のルックスはそうした印象から一新。端的に言って「古臭い革を脱ぎ去った」という感が強い。もちろん、そこでは好みの問題も強く影響はしようが、大方の人にとっては「カッコよくなった!」と好意的に受けとられるのがこの新型ではないだろうか。

 一方で、全長で83mm、全幅で28mm、ホイールベースで15mmボディーサイズが拡大された結果は、BMWにとっては「もうX5なんか要らないんじゃないの?」と言われる危険性もはらんでいるように思う。

 いや、3列目シート用のスペースを確保すべく、2007年にモデルチェンジを受けた2代目X5はすでにそのサイズを大幅に“上方移行”済み。すなわち、X3の今回のサイズ拡大は、当然このあたりのマーケティング要件を見据えたうえでのものと考えられる。「今のX5では大き過ぎるよナ」と、そんな思いを抱く人をも吸収すべく生み出されたのが今度のX3ということだろう。

ボディーサイズは全長×全幅×全高は4648×1881×16611mm、ホイールベース2810mm、前後トレッドは1594/1610mm

 

“BMWクオリティ”のインテリア
 かくして若干大きくなりつつも、むしろより軽快感に富んでスポーティになったルックスの新しいX3。一方で、そのインテリアは従来型からのテイストをきっちりと受け継いでいる。

 ちなみに、各部全般の仕上がりに不満はなく、どこをとってもしっかりとした“BMWクオリティ”。初期のアメリカ工場製BMW車に、こうした点でいくばくかの不満の声が上がったのは事実。が、今や「このクルマはアメリカ工場で作られているから……」というネガティブな印象を受けることは全く無いと言ってよい。

 ダッシュ上面がスッキリとしたのは、従来はここにレイアウトされていた格納式モニターが、メータークラスター横にビルトインされることで姿を消したため。「さりげなくコスト低減が図られたナ」とも受け取れるそうしたリファインの一方で、バイワイヤ式のATセレクターとBMW得意の「iDrive」の新採用は、しっかりコストが掛けられているなと感心のできる部分。ちなみに、最新のiDriveはこの種のマルチメディア・コントローラーの中でも使い勝手が第一級だ。

 キャビン空間は、特に後席での居住性向上が著しい。頭上には有り余るスペースが残されるし、比較的アップライトな姿勢で座ることに加えて前席下への足入れ性に優れることもあり、レッグスペースも十分だ。ただし、ヒップポイントが高めのSUVスタンスの持ち主ということもあって、特に後席からの降車時の地面への“足付き性”はセダン並というわけにはいかない。

 550~1600Lという数字を謳うラゲッジスペースは、この種のモデルとしては特に広大な印象はないものの、十二分な容量。ちなみに、このモデルにもBMWらしくスペアタイヤ置き場は用意されていない。ベーシックな17インチ仕様はパンク・リペアキット。18インチ仕様以上はランフラット・タイヤでの対応だ。

バイワイヤ式になったシフトレバー。シフトパドルはオプション
リアシートは4:2:4の分割可倒式。最大容量は1600L

 

走りの魅力の半分はエンジンにあり
 今回、アメリカのアトランタでテストドライブしたのは、すでにBMW各モデルで搭載実績のある、直列6気筒3リッター直噴ターボエンジンを搭載した「xDrive35i」。組み合わされるトランスミッションはX5/X6同様のトルコン式8速ATだが、今回はそこにアイドリングストップが採用されたのが新しいトピック。また、ステアリングには「Xシリーズでは初めて」となる電動アシスト方式が採用されている。

 そんな新しいX3の直6エンジンに火を入れ、スタートを切ったところでまず印象深いのは、その走りが実に爽快で軽やかであることだ。アクセルワークに対する加速感は飛び切り軽快で、小気味のよい“直6サウンド”とともに滑らかに速度を増して行くシーンは何とも心地よいもの。

 一方で加速感の演出という意図もあるのか、ATの食いつき感は例外的にタイトで、時にかなり明確なシフトショックを伴う点は気になるという人もいるかも知れない。すなわち、そんなATのセッティングは「とことんMT風味」。これもまた、その存在感を重視してのこともあってか、やや大きめに耳に届くエンジン・サウンドとともに、評価が分かれる部分かも知れない。

xDrive35iの直列6気筒DOHC 3リッター直噴ツインスクロールターボガソリンエンジン。最高出力は225kW(306PS)/5800rpm、最大トルクは400Nm/1200~5000rpm

 そんなこのモデルの走りの軽快感は、BMW車の中では比較的“軽め”のセッティングが施されたステアリング・フィールによる部分も影響が大きそうだ。1、3シリーズが採用するパワーステアリングの、あのネットリと重いフィーリングとは正反対の味付けが、やはりこのモデルに特有の軽快感を与えていることは間違いない。

 ただし、軽やかさはヨシとして少々不満が残るのは、20km/h程度までの微低速域で手応えが薄く、一方でそこから上の領域へと移行する部分は突然重さを増すという妙な“カベ感”が伴うこと。試乗車に装着されていたオプションの「ダイナミック・ダンパー・コントロール」で「SPORT」もしくは「SPORT+」のモードを選択すると、操舵力全般が増すと同時にそんなカベ感もアップしてしまうのは少々不快ですらあった。高速走行中は全く不満のないパワーステアリングだが、この「BMW車らしくない」部分だけは早急に改善を図って貰いたい。

 ところで、前出のアイドリング・ストップシステムの作動だが、これは率直なところまだ一級品とは言い難い。「こんなものか」と慣れてしまえば、始動時の振動もそのレスポンスも不問に付してもよいとは思うレベルだが、それでも、同じBMW車でも4気筒モデルでの体験よりもスムーズさに欠けるという点には、まだリファインの余地があると思う。

 そうは言っても、フィーリング的にもパワー的にも何とも魅力的な存在がこの心臓。少なくとも、「このモデルの走りの魅力の半分はエンジンにある!」と、改めてそう思えたのは疑いようのない事実だ。

 

サスペンションはフロントがダブル・ジョイント・スプリング・ストラット・アクスル、リアが5リンク・アクスル

ひと回り成長したX3
 だがX3の走りの魅力は、もちろんエンジンだけにあるわけではない。例によって50:50の前後重量配分に拘ったといううえで、新開発が謳われるサスペンションがもたらすフットワークの軽快さも、新しいX3の走りの魅力を大いに引き上げる一因になっていた。

 ランフラット構造に加え、時節柄“転がり抵抗”の低減にも配慮したというシューズ(試乗車はピレリ製)を履くこのモデルだが、基本的に快適性は良好。唯一、古くひび割れた路面に差し掛かると、それによる振動が想像よりも強めに伝わる傾向に「そういえばランフラット・タイヤだったナ」と気付くという程度だ。

 前出「ダイナミック・ダンパー・コントロール」が、そのスイッチ操作によってもたらす乗り味の変化は比較的明確だが、「SPORT」「SPORT+」のモードでも乗り心地の悪化は殆ど感じない。というよりも、個人的にはダンピングがやや強めに効くこちらのモードの方が、平常時でも快適に思えたほど。ただしこれらのモードを選択すると、前述のように自動的にパワーステアリングの味付けも変わってしまうのは「余計なおせっかい」に思えたものだが。

 アメリカの一般道でのテストドライブということもあり、今回はハードな走りのシーンをチェックする機会はなかった。それもあり、ブレーキの効き味、信頼感に対する不満は一切感じることはナシ。

 多数の車線での川の流れのような動きが、都市部周辺になると頻繁に“伸縮”を繰り返すアメリカのフリーウェイでは、安全上からも特に前車追従モード付きのクルーズコントールが欲しいと思ったが、そんなシーンでも繋がり感を備えるATはなかなか速度コントロールがしやすいのは朗報。

 贅沢にもマルチカラー表示のヘッドアップ・ディスプレイは、個人的にはさほどの必要性は感じないアイテムだが、「このクラスでは唯一の設定」という謳い文句は、なるほどX5カテゴリーからの乗り換え需要なども考えると、なかなか上手いマーケティングの手法かも知れない。

 かくして、今度のX3はあらゆる領域で、「従来型よりもひと回り成長した」と表現ができそうな1台。日本への導入予定は「2011年の早い時期」と、どうやらこちらも秒読み段階にあるようだ。

2010年 11月 26日